落とし穴84堀:いつもの年越し
いつもの年越し
Side:ユキ
只今の時刻、22時。
既に、ウィードの街はお祭り騒ぎだ。
その中俺たちは、静かに自宅で過ごしている。
まあ、年末の過ごし方は人それぞれという奴だ。
お祭り騒ぎの街にくりだして、知り合いと飲んで騒ごうとする奴もいるし、俺みたいに家族がいる人は、こうやって家族と温かく過ごそうとする人もいるだろう。
「もうすぐ今年も終わりね」
横に座っているセラリアがそういう。
既に子供たちは寝ている時間だが、子供たちの様子を見ているサーサリ以外はこの場にそろっている。
サーサリには申し訳ないとおもったのだが、旦那様と奥様たちの今年最後のお話を邪魔するほど野暮じゃありませんよ。とのこと。
あとでちゃんとお礼をしておこう。
なんかウィードで面白い新人冒険者を見つけて調教……、じゃなく、指導しているみたいだし、そっち方面で何か支援がいいかな。
彼女もこっちでちゃんと楽しみを見つけているようで何よりだ。
しかし、セラリアの言う通り今年も終わりか。
「今年もいろいろあったなー」
「そうねー。本当にいろいろあったわね」
本当にいろいろあった。
確か年越しを迎えたのは、タイゾウさんたちと決闘勝負をした時だ。
いやー、実際はヒフィー神聖国相手なのだが、俺たちとしては、タイゾウさんが一番の難敵だったわけで、タイゾウさんが一番印象に残っていて出てくる。
そのあとは、ノーブル率いるエクス国の暗躍、コメットとは別のダンジョンマスターの存在。
エクス王都が生贄場になる可能性もあって、今までにない危険度を設定して臨んだ。
まあ、なんやかんやでノーブルの方とも和解が成立して、新大陸の方はお前らで管理しろよおらって感じで、ウィードに戻ってきたかと思えば、ウィードが独走態勢で発展していることをねたんでいる国の暗躍。
背景には、また神様連中。
さらに、その背景にランクスで取り逃がしたビッツ姫の存在があるなど、まあ元をただせば俺たちの詰めの甘さが原因とも言えなくはない。
「……本当にいろいろあったな」
「一気に疲れた顔になったわね」
「よくもまあ、次から次に問題が起こるもんだと思ってな」
「そうねー。でも、あなただから導けた結果よ。普通なら、もっと多くの血が流れていたでしょうね」
「そりゃな。根本的な考え方が違うからな。世界を支配なんてクソ面倒なだけだ」
「ふふっ。世界の覇者になるというのが面倒なんて回答は、一体どれだけの人に理解を得られるかしらね?」
「一般人にはかなり賛同を得られると思うぞ。国が争っていようが、そこに住む人々にとっては安全であればいいしな。今の生活が崩れることが一番怖いからな。そういう形で世界に名を残したいと思うのは、お偉いさんだけだろう。名誉や名声なんてのはそういった奴らしか必要ないからな」
「……的確すぎてものが言えないわね」
「まあ、国をまとめるにはそういう、世界の覇者となるって目標の方が、いろいろとやりやすいのは認めるけどな。わかりやすい目標であり、結果もシンプル。戦果を挙げればいいからな。富や名声が欲しい奴、昇進したい奴、英雄なんてのになりたい奴は戦場を提供してくれる世界の覇者を目指す人物にはついて行きたくなるだろう?」
「確かにね」
それで一旦会話が切れてお互いにお茶を飲む。
一息ついて、言葉をつづける。
「ま、そんな小難しいことは仕事の時間でいいだろうさ。今は年越しの準備だよ。さて、そろそろ年越し蕎麦の準備でもするかね」
「ええ。行ってらっしゃい」
「あいよー。キルエ、手伝い頼む」
「はい。お任せください」
そうして、キルエと一緒に年越し蕎麦の準備を始める。
「旦那様は今年も、凄いことをしたのに、お蕎麦を作るんですね」
ふいに、キルエが微笑みながらそんなことを言う。
「そりゃな。それとこれとは話が別だ。というより、俺にとっては毎年、蕎麦の出汁の方が難しいね」
「あら。そうなんですか?」
「今年最後の食べ物だ。それを不味い出来にはできないだろ」
「ふふっ。そうですね」
キルエも料理人を雇えばなんてのは言わない。
俺のライフワークだと知っているからな。
俺の蕎麦を楽しみにしてる家族の為に他人任せにするわけにはいかない。
これは、ある意味一番難易度が高いだろう。
さーて、無駄な仕事の事なんか忘れて、煮込んでいた出汁の確認と……。
「うん。いい出来だ。じゃ、さっさと盛り付けしますか」
「はい」
結局のところ、俺がどんなに頑張っていようが、世界が変わろうが、俺の日常は変わらなかった。
朝起きて、仕事に行って、帰って、残業して、休日出勤して、休みにはゆっくりして、家族とすごして、こうやって年末も日本にいた時と変わらず過ごしている。
まあ、今年も慌ただしく過ぎて行った。
それだけだな。
……くそー。
何度も思うが、結局人の生活サイクルは変わりようがないな。
完成されているといっていいだろう。
そんなどうでもいいことを考えつつ、年越し蕎麦を用意して戻る。
そこには、蕎麦を心待ちにしていた嫁さんたちが待ちに待ったという感じでこちらを見ていた。
なので、手早く年越し蕎麦を配り、俺の合図を待つばかりになる。
「長い話をしても、蕎麦が伸びてまずくなるだけだから、簡潔に、今年もありがとう。来年もよろしくな」
「「「はい」」」
「よし。じゃあ、いただきます」
「「「いただきます」」」
そういって、みんなで年越しそばを掻きこみ始める。
「これを食べると、今年も終わりかーって感じがするわね」
「そうですね」
「そうじゃな。もうユキの蕎麦は定番じゃからな」
そんな話をしているのは、セラリア、ルルア、デリーユのお姫様組。
受け入れられて何より。
「今年も最後の最後まで忙しかったわ……。ああ、おいしい」
「ミリーは、後継なんとか見つけられませんかねー」
「なかなか難しそうね。冒険者ギルドとしては、ミリー以上の代表はいないから。あそこだけはウィードの一存では決められないわ。うん。出汁がいい感じです」
仕事の愚痴を言いながら食べているのは、ミリー、ラッツ、エリスの内勤組だ。
まあ、年末は本当に忙しいからなー。
「うーん。みんな大丈夫かな?」
「トーリは心配しすぎだって。ポーニは上手くやってるよ。早く食べないと、お蕎麦伸びちゃうよ?」
「……トーリは過保護すぎる。食べないなら私が代わりに食べてあげる」
「カヤ!? 駄目!! 駄目だからね!!」
現在進行形で仕事の心配をしているのはトーリ、それをなだめたりからかっているのがリエルとカヤ。
警察組は文字通りリアルタイムで働いているからな。心配するのは当然だな。
いやー、年末も仕事の心配とかいやすぎる。
「お蕎麦美味しいね」
「美味しいのです」
「うん。ユキのお蕎麦ね」
「はい。いつものユキさんのお蕎麦です」
アスリン、フィーリア、ラビリス、シェーラは純粋にお蕎麦を楽しんでいる。
まあ、この子たちが今後のことを話しているとするとそれはそれで微妙だけどな。
それだけ、心配されているってことだから。
「あー、美味しい。と、そういえば、クリーナとサマンサは普通にお箸で食べてるね」
「そういえば、2人ともお箸の使い方は上手くなりましたね」
「ん。いつまでもフォークで食べるわけにはいかない。江戸っ子になる」
「なんで江戸っ子ですか。って蕎麦は江戸でしたっけ? そこはいいとして、お箸は慣れると便利ですから」
なんかいろいろ偏見がある気がするが、リーア、ジェシカがクリーナ、サマンサを見て驚くのはわかる。
2人は、まだウィードの年越しは二回目なのだ。
つまり、一年とちょっと、まあ一年もあれば箸ぐらいと思うだろうが、箸をゼロから覚えようとすると結構難しいというのはよく聞く。
「キルエ先輩。二度目ですけど、本当に旦那様のお蕎麦の出汁って美味しいですよねー。レシピとか知りませんか?」
「教えるわけがないでしょう。これは旦那様が私たちの為にだけに作ってくれたものです。他の人に公開するものではありませんよ」
「やっぱりだめかー。自分で研究かな」
いつの間にかこっちの様子を見に来たサーサリはあっさりと退けられる。
キルエの鋭い一言で、別に教えていいよとは言えなくなったのだが、まあサーサリが独自に出汁の研究をするのは美味い物が増えるきっかけになるからいいだろう。
ちなみに子供の面倒は蕎麦を食べるときだけ、アスリンのクロちゃんたちに任せている。
「変な食べ物ね。美味しいけど……」
「お兄様が用意するもので不味いものはないんですよ?」
「お兄の料理は美味しい。寮の食べ物とは違う」
ドレッサは初めてのお蕎麦だろうからな。
灰色の麺は変に見えるんだろう。クリーナとかサマンサも恐る恐るだったし、余所の国の食文化というのは往々にしてそういうものである。
あと、ヴィリアの言葉はうれしいが、合う合わないがあるからな。
ヒイロは比べる場所が間違っている。大量生産の学校寮とは使う材料も効率とかも違うからな。
そんな感じで各々楽しみながらお蕎麦を空にする頃には……。
「あら、もうすぐ0時ね」
セラリアの言葉に全員の視線が時計に集まる。
只今の時刻は23時58分。
今年もいよいよ終わりか……。
「10」
「9」
「8」
「7」
アスリンたちが前年と同じようにカウントダウンを開始して、俺たちはそれを静かに聞く。
ドレッサたちもカウントダウンに加わり、にぎやかさを増して、今年が……。
「3」
「2」
「1」
「「「0」」」
終わった。
皆はお互いに顔を見合わせて……。
「「「あけましておめでとうございます」」」
新しい年を迎えたのだ。
「「「今年もよろしくお願いいたします」」」
さーて、挨拶も終わったことだし、食器の片付けをして、寝ますかね。
今年は人がさらに多いって話があったし、わざわざ深夜から人ごみに突っ込む理由もない。
そう思っていたら、いきなりセラリアがポンポンと手を打って、みんなの視線を集めた。
「さて、これより福袋確保作戦へと移るわ。今年は例年より人が多いから、早めに並ばないと確保はできないとみるべきでしょう。リリーシュ様から頼まれた福袋もあるから、子供の面倒を見るメンバー以外は出撃するわよ!!」
「「「了解!!」」」
「はい?」
俺がその一言を言った瞬間、何言ってんだこいつという視線が俺に突き刺さる。
「そういえばユキは知らなかったみたいね。今年は、他国からの商店の参入も増えて、福袋の種類もかなり増えたの。だからみんなで協力して、全員分とはいかなくても、各店舗一袋は確保しようって話になっているのよ」
「お兄さん。ガルツの有名装飾店が福袋を出すって言っているのでそこは外せないんですよ。今から並ばないときっと間に合いません。そこを、頼みますね」
「えーと、セラリア? ラッツ? みなさん? 俺も手伝うの?」
「「「当然」」」
そして、外へ引きずられて行く俺。
くそー、変わらない年越しではあったが、新年3が日はさらに忙しくなりそうだ。
徹夜って禁止じゃないんですかーーー!!
来年は絶対徹夜は禁止する法案つくってやるわ!!
これが、俺の新年の抱負であった。
さて、今年一年ありがとうございました。
来年も変わらぬお付き合いをできればと思います。
よい年越しを。
次の更新は1月1日0時予定です。
ですが、アクセスが集中とかありそうなので、繋げない可能性を考慮してください。
ではでは、福袋で徹夜とかだめだぜー。




