第460堀:最終ブリーフィング
最終ブリーフィング
Side:タイゾウ
世の中、準備万端で迎えられることはないという。
それは当然だ。
完璧などという言葉は存在しても、現実にはあり得ない。
「だが、これは今まで一番完璧に近いのではないだろうか?」
私は一人、会議室の中呟いていた。
いや、慢心にはならないように注意はしているし、するつもりもない。
情報がどれだけ正しいか、戦力は十分なのか、などは実際やってみなければわからない。
敵の戦力評価も私たちの評価なだけであって、実際の強さを知っているわけでもない。
しかし、しかしだ。あの戦争に比べれば、我が陣営の充実ぶりは涙が出るほどうれしいのだ。
潤沢な物資、練度の高い人員、兵站の確保と、これだけ恵まれていて、完璧と思わずにはいられないだろう。
あの時の海軍将校たちは油の一滴ですら無駄にできないと言って、陸軍は薬莢を回収してくるようにしていたのだから。
「むう。いかんな。この余裕がある状況で心に油断ができつつある。戒めねば」
事実、あの当時、すぐに決着が付くだろうと高をくくっていた米国の海軍は、我が国の聯合艦隊によって甚大な被害をうけた。
同数戦力であれば、我が国の完勝と言ってもいいぐらいの戦果をたたき出した。
そう、米国が自国の充実ぶりに油断していたが故に。
まあ、そのあと物量に押し切られたわけだが。国力が圧倒的に違い、生産が追い付くわけがないのだから。
今回は私の立場は米国に近いものがある。
だからこそ、相手が出してくる、虎の子、奇策などの力を見誤ってはいけない。
「だからこその、最終会議だ」
そう、ユキ君は最終ブリーフィングと呼んでいるが、これが最後の会議だ。
既にノゴーシュとビッツは刀を下げて、あと3日というところまで来ている。
それを確実に仕留めるために、作戦を説明して穴がないかを確認し、動き出すのだ。
確実に、そう絶対、島津一文字は返してもらおう。
お前のような棒振りには、西洋剣がお似合いだ。
「タイゾウさん。準備はいいですか?」
会議室の中を伺うようにユキ君が入ってきた。
「ああ、大丈夫だ。皆さんの案内をお願いできるかい?」
「わかりました」
それから10分もしないうちに、今回の関係者が会議室に集まっている。
そのうちの4名が神様だというのだから、ある意味笑い話になるかもしれないな。
さらに言えばその中の一人が私の妻だというのだから。
……さて、そうこう考えている内にみんなが席に着いたみたいだな。
「コホン。では、これより、ノゴーシュ及びビッツの捕縛、刀剣の回収作戦についての最終会議を行います」
もうちょっと緊張するかと思ったがそうでもないらしい。
発明品の説明会とあまり変わりはないな。
いや、それよりも楽か。
新概念を説明して開発許可と資金の提供を頼むよりははるかに楽だ。
「では、まず今回の原因と事態の推移を説明いたします」
事の起こりというには些かしょうもない話ではあるが、簡単に言えば、ルナ殿曰く、最後のダンジョンマスターであるユキ君への嫉妬が原因である。
大体、大きな騒動の発端というものは案外小さなことだったりするのは、地球の歴史でもよくある話だ。
まあ、そこはいいとして、新入社員があまりにも短期間に大きな成果を上げ、瞬く間に大勢力を形成したことにより、昔からいる社員に恨まれていったというやつである。
そこに、我が遠縁のタイキ君が治めるランクスで暴政を行っていた元姫君、ビッツが原因は不明だがダンジョンマスターの力を得て、ノゴーシュと協力体制を取り付ける。
お互い、相手に対して不満や恨みがあるので、敵の敵は味方ということで、相互理解は早いものだったと思える。
その後、魔術の国で同じく不満に思っていたノノア殿を引き込み、今回のユキ君率いるウィード、3大国連合対ノゴーシュ、ノノア、ビッツ連合の水面下の戦いが始まった。
まずはノゴーシュ達により、ウィード、3大国連合へダメージを与えるために内部工作、離反や住民の不安をあおるなどのやり方をしていたことから、ウィードが敵対勢力を捜査、断定に至り、まずは近場であるノノア殿を押さえ、あるいは話し合いで解決できないかと思い動き出す。
結果、私の必死の説得により、ノノア殿の誤解が解け和解に成功。
及び、この時点でこの敵対勢力の盟主がノゴーシュであり、ビッツがダンジョンマスターであるという情報を得て、ランクスに危険ありということで、至急防衛部隊を派遣。
数日後、ビッツから送られたであろう、魔物侵攻部隊とミノちゃん将軍、ジョン将軍が接敵、迎撃に成功。
その部隊の指揮官と思われる、ランクスの元近衛副隊長であるレイの捕縛に成功した。
ここまでは順調だったのだが、ルナ殿からの情報提供により事態が一変する。
日本の天下五剣が一振り、童子切安綱をビッツがダンジョンマスターの能力によって取り寄せたことが判明。
曰く、大江山の酒呑童子という日本屈指の大妖怪の荒魂が封印されていて、下手な扱いをすればその封印がとけるという。
そうなれば、この世界では神をしのぐ強さとのことで、甚大な被害が見込まれる。
よって、大至急、封印が解ける前に、童子切安綱、及び我が主家の宝刀、島津一文字の回収が急務となった。
他の刀も数本とられていたが、まあ主家のモノでないし、現存しているか不明な刀もあるので割とどうでもいい。
その回収と、敵対しているノゴーシュとビッツをおびき寄せて倒すことを目的とした、レイ処刑を実行するための準備をしているというわけだ。
と、ノノア殿が混乱しないように私とユキ君のことはちゃんと入れ替えて説明している。
「以上が、今回の原因と事態の推移となります。何か質問はありませんか?」
私が会議室を見合わすと、一人だけ手を上げていた。
「セラリア殿。何か?」
「他の刀も数本相手が持っているなんて初耳なのだけれど? 言ってないってことは、特に厄介なものではないのよね?」
「そのはずです。数本と言っても3本で全部複製なのですが、まずは、備前長船長光。通称物干し竿と言われる野太刀で、かの宮本武蔵と戦った佐々木小次郎の所持刀として有名ですが、そもそも、佐々木小次郎という人物がいたのかも、巌流島の決闘も所説ありすぎてあやふやです。小説の創作であるという見方が強いぐらいです。無論、物干し竿も、話の内容から備前長船の作ではないか? と言われているだけで、現物は確認されておりませんな」
「なるほどね。もともとないものであり、使用者もよくわからないのね。だから、警戒のしようがないか。他の二本は?」
「二本目は徳川家を滅ぼしたといわれる妖刀村正なのですが、元々村正作の刀剣は当時は主流、というのは変ですが広く使われていたので、山ほど村正という名の刀は存在するのです。しかも徳川家だけに特効があるだけですので……」
「それは警戒する意味がなさそうね。最後の一本は?」
「最後の一本が多少の癖がありますな。国の重要文化財に指定されていて、ノーブル殿と同じ、我が日本では軍神と呼ばれてた人物が所持していたといわれる刀。姫鶴一文字です」
「それ大丈夫なのかしら?」
「もともとレプリカ、偽物ですし、私としては、かの越後の龍、上杉謙信と立ち会えるのならうれしいことですな。我ら示現流が天下一だと証明するのにいい相手でしょう。酒呑童子のように荒魂を封印されているというようなことはないですし、かの御仁は君主としても名君でありましたから」
「なるほど、話し合いの余地はあり、そして、腕試しにはいい相手ね。それなら私も会ってみたいわ」
セラリア殿はどうも血の気が多いようだ。
まあ、私もそういうのは嫌いではないが。
「はいはい。バトル思考はあとでな。次はノゴーシュとビッツ捕縛と刀剣回収の作戦概要を頼む」
ユキ君に止められて、刀談義をやめる。
仕方がないか。日本史を知っているのは、私とユキ君たちの奥さん数名と、タイキ君がうろ覚えぐらいだから、ほかの人が付いて来れない。
むう、こういうところで異世界というのは寂しいと思ってしまうな。
まあ、ユキ君の言う通り今は作戦の概要を説明しなければな。
「失礼しました。では、今回の作戦について説明いたします」
先ほど言っての通り、目的はノゴーシュ、ビッツの捕縛、及び刀剣の回収による今回の騒動の収束。
どちらも成功すればいいのですが、そんなうまいことはそうそうありませんので、優先順位をつけます。
第一目標、刀剣の奪還。これは伝説の大鬼の復活を阻止するため。下手をすると一番厄介。
第二目標、ノゴーシュ、ビッツの捕縛。これができればほぼ終わりですが、そう簡単にいかないでしょう。
これらを達成するために、用意したのが先日捕縛したレイを処刑するという罠です。
レイ処刑を宣告し、処刑場でノゴーシュにビッツ引き渡しを求め、その場で一網打尽にするという内容です。
場所は、剣の国側の国境ギリギリにある村を処刑場に改装、人員もすべてランクスの兵士に入れ替えており、さらにウィードの魔物軍が近代兵器で包囲、逃げ道を塞ぎます。
ビッツのダンジョンマスター能力での魔物の大部隊が出現する恐れについては、ウィードの魔物部隊を散開させて警備に当たらせており、素早い対応が可能であり、処刑場への乱入は上空からでも厳しいものと推察します。
そもそも、航空戦力があるのであればすでに使っているだろうから、あまり考慮をするべきではないが、ユキ君は万全の体制とのことで、空戦できるように飛竜隊もスクランブル待機予定であり、地上を逃げるのであれば、追撃は容易と想定しております。
懸念されることは、ビッツのダンジョンマスター能力による戦力増強、逃亡だが、戦力増強については、剣の国で起こっていた冒険者行方不明事件の犯人と思われる魔物を、モーブ殿たちが排除に成功。よって、強力な魔物や大規模な魔物の投入の可能性は少ないと予想される。
及び、逃走経路を押さえるため、スティーブ将軍と霧華将軍が敵ダンジョンに侵入し、ダンジョンの地図を作成することに成功。
いつでも、コアを奪取してダンジョン機能を停止に追い込めるとのこと。
これらを処刑当日に同時に展開する予定です。
なお、ノゴーシュやビッツが他国との連携を取っている可能性は現状限りなく低く、一番注意するべきルーメルの方は特に軍備を整えているという話はなく、ルーメル所属の勇者たちも現在おらず、横腹に食いつかれる心配はないでしょう。
「以上が今回の作戦内容になります。何か、ご心配な点や、変更するべき点などはありませんでしょうか?」
私はそういって、会議室を見回すが、だれも特に声を上げない。
「些細なことでも構いません。わずかな隙間も疑問も埋めましょう。そのための最終会議なのですから」
ユキ君たちはいいとして、神々や3大国の王たちはなぜ何も言わないのだろうと不思議なのだが……。
そう思っていると、ようやくロシュール王が口を開く。
「……その、言い辛いのだが、タイゾウ殿」
「はい。まったく気にしませんので、どうぞ陛下」
私の返答で意を決したのか、ほかの沈黙している神々や王たちに視線を合わせて頷きようやく言葉をつづける。
「これでは、どうやったら、ノゴーシュとビッツが逃れるすべがあるのかわからん」
……ああ、そっちですか。
いや、そうはいっても完璧など存在しないですし、もうちょっと何かありませんか?
と、口には出せない私がいた。
いよいよ、祭りがはじまるぜい!!
まあ、その前に最後の一人のお話がありますけどねー。




