第455堀:剣聖と日ノ本の誇りがため
剣聖と日ノ本の誇りがため
Side:ユキ
『主様。霧華です。本日は剣の国の公開試合を見学、監視していたところ、ノゴーシュが刀をもって登場し、ミノタウロスを一刀両断にするという演出を行いました。映像は送りましたので、ご確認していただければわかると思いますが、私としてはすでに刀に乗っ取られているような感じがします。モーブさんたちも同意見です。処刑開始を早めることを提案いたします』
そんな連絡が届いた。
昨日の今日で事態がいろいろ動きすぎ。
とりあえず、早急に確認しなければいけないことが増えたので、タイキ君の所に戻るとしよう。
「私も行くわよ」
セラリアもついてくるようだ。
まあ、酒呑童子の説明はセラリアに任せれば楽になるし、問題ないだろう。
「で、あなた。霧華の話はどう思うの?」
「ものを見てないから何とも言えない。とりあえず、まずはランクスに行って、タイキ君とタイゾウさんと一緒に映像の確認をしてから」
「まあ、それが妥当ね。で、希望としては?」
「そりゃもちろん、霧華の気のせいであってほしいな。昨日の今日で乗っ取られているとか、なんちゃって神様極まりないわ。意地を見せてほしいね」
「そうねー。それぐらいの気概があってほしいわね」
本当にな!!
このままだと、ルナの希望通りに大江山の鬼退治、異世界バージョン開演決定だよ!!
もうさ、あの世から源頼光と源四天王呼び戻せよ!!
まあ、呼び戻したところで勝てる気はしないんですがー。
そもそも、さっきの考察で、真っ向勝負が厳しく、当時いた安倍晴明が源の四天王を使ってきたことから、人であるなら、そういうレベルの術者である可能性もあるわけだ。
そんなチート野郎と真っ向から勝負なんてするかよ。
日本の呪術とかは昔から根暗なのが多いからな。
そんなことを考えている内に、ランクスの方に着いたので、タイキ君とタイゾウさん、あとはルースやキーノグを交えて、霧華が持ってきた映像を見ることにする。
結果は俺たちにとって喜ばしいものではなく、俺にも霧華と同じように侵食されているように見えた。
そもそも、公開試合などの場所で、本命の武器を使うことなんてありえないのだ。
武器なんてのは基本的に摩耗品であり、宝剣などと言われるのは、この世界では特殊な力、エンチャントなどを伴っているので、その力がばれることもあるし、破損の危険もある。
なので、人前で使うなんてのは、もう正常な判断ができなくなっている気がする。
「あれですかね? 今宵の虎徹は血に飢えているってやつ」
「有名な近藤勇殿の長曾根虎徹だな。しかし、製作者をたどると石田三成が生きていた時代の拝領地での生まれだ」
「あれ? そうなんですか? でも近藤勇って新選組の局長ですよね? ずいぶん年数が違いませんか?」
「それだけ、虎徹殿の刀はすごかったということだ。と、話はそれたが、近藤殿は討幕派などを威圧するために言ったのであって、あのようなバカ者とは違う」
「あ、はい」
タイゾウさんのお怒りの言葉でタイキ君はおとなしくなる。
それも仕方ないだろう。
ノゴーシュの映像を見たが、剣の使い方で振っている。
あれじゃー刀身にダメージが行くわなー。
もう、俺のストレスマッハですわ。
なに? わざとそんな使い方して俺を精神的に追い詰めているなら見事な策士だよ。あんた。
「ただ、力を試したいがために、命を絶つなど武士の風上にもおけぬし、国宝をあのように使うなど断じて許せん!! 即刻、処刑日を早めることを進言するぞ。私は」
いやー、ノゴーシュは武士じゃないしー。って軽口をいえないのが怖いわ。
「まあ、タイゾウさんの言う通り、処刑日を早めるのは問題ないですけど、村の人たちも協力的ですし、思ったよりも準備は早く進んでいますから。でも、早めたからといって、本人たちがきますかね?」
タイキ君の言う通り来るかどうかが問題だ。
最初から懸念されていることで、どうしたものかといろいろ話してはいるが、解決には至っていない。
来なかった場合はこちらから、相手のダンジョンに殴りこむ必要があるのだが、それはかなりリスキーだ。
忍び込んで、刀だけ奪う方向にシフトした方がいいかもしれない。
幸い、だれが持っているか確認はできたし、モーブたちや霧華の存在がばれた様子はないので、そういう警備はザルなのだろう。
だから、スティーブたちを送りこんでしまえばいけるんじゃないかと思う。
今までは様子見で、まだ送り込んでいなかったが、いつでもスティーブたちは動けるので、そこは心配ない。
だが、そうなると、ノゴーシュとビッツを逃がしてしまう可能性が出てくるので、それはそれで頭の痛い話だ。
相手のダンジョンなら脱出経路なんていくらでも作れるだろうから、ゲートと併用されたら、追いつけるとは思えん。
というか、こっちがトラップ系でやられかねないから、堂々と動くわけにはいかない。
あくまでも、剣の国で動く場合は、秘密裏にとなるわけだ。
で、そんなタイキ君の懸念がわかっている俺たちは、どうしたものかと考えているわけだが、答えが出るわけもなく、沈黙が続いていたのだが、それを一緒に来ていたセラリアが破る。
「この際、優先目標を変えた方がいいわ。ノゴーシュとビッツは一旦あきらめるとして、刀の奪還が最優先。こっちの世界で、あなたたちの世界で伝説の酒呑童子が暴れるのはやめてほしいわ。処刑場に堂々と来ればよし、こないのであれば、霧華やスティーブたちを使って秘密裏に奪還。これがいいと思うわ」
「それしかないよな」
「ですねー」
「……高望みはいかんか」
二兎追うものは一兎も得ずという奴だ。
タイゾウさん的には、断腸の思いだろうが。
「まあ、絶対ではないけど、誘き寄せる作戦もあるし」
「本当か?」
「あるんですか?」
「セラリア殿、是非教えていただきたい!!」
俺とタイキ君は普通だったが、タイゾウさんは迫る勢いでセラリアに聞いていて、少し引いていたが、すぐに落ち着いて頷く。
「え、ええ。タイゾウ殿の国宝を盗まれたという憤りはよくわかります。国の恥であり、国の誇りでもありますから。その犯人を捕まえて処罰したいと思うのは至極当然でしょう。そこで、作戦というのは、上泉信綱の名前も添えて、ノゴーシュの方に処刑のことを伝えるのです。昔、父の指導をして、そのあと剣の国でノゴーシュを叩きのめしたという話がありましたから、それがきっかけで刀を欲していたと思います。だから彼の名前を出せば来るでしょう」
「カミイズミノブツナ?」
タイキ君は首を傾げているが、タイゾウさんは知っていたのだろう。
口をパクパクさせて驚いている。
2人とも、レイの処刑時にルナから一応聞いていたはずだが、タイキ君は見ての通り知らないし、タイゾウさんは怒り心頭で聞いてなかったのだろう。
「セ、セラリア殿。今、なんと名前をいいましたか?」
「上泉信綱です」
セラリアは上泉信綱のすごさはすでに知っているので、タイゾウさんの驚きようも納得して、ちゃんともう一度名前を言ってあげている。
だが、タイキ君はそもそも、上泉信綱の名前を知らないので、こっそり俺に聞いてきた。
「上泉信綱って誰ですか? 名前から察するに、酒呑童子とかの関係者ですか?」
「あー、惜しい。戦国時代、新陰流っていう流派を作り、現代の剣術の始祖ともいわれ、竹刀を作り、その弟子は将軍家に仕えて柳生新陰流ともいわれた、あの柳生家。現代では敬意をこめて、剣聖と言われる人だ」
「……なにそれ。リアルチート?」
「間違ってないな。上泉信綱の弟子は誰もかれも剣豪として名を馳せているからな。教えるのも上手かったらしいぞ。無論、実力もだ。だって新陰流の奥義は誰も真似できないとか、見たことがない故とか言われているからな。門下の全員がそこまで引き出せなかったと言ってるぐらいだ。ああ、無論、兵法家としても有名だぞ。武田信玄と北条氏の連合相手に大奮戦して、信玄から士官の話もあったぐらいだしな。のちの甲陽軍艦っていう武田家が残した兵法書にも名前が出ているって話だな」
「やっぱ、リアルチートじゃん!?」
うん。その意見には全く同意。
世の中、そういう常識とかの外を歩いているのがいるわけよ。
俺がそんな説明をしていると、タイゾウさんが再起動した。
「そ、そうか!! 私やタイキ君、ユキ君も違う時代だ。遥か昔の人物が来ていてもおかしくない!! 本物なのですな!!」
「あ、いえ。本人の顔を見たことはありませんし、それが上泉信綱の顔なのかもわかりませんし、代わりにさっきも言った通り、剣の……ではありませんね。刀の腕前は剣の神を軽く超えているみたいですわ」
そらそうだろうよ。
セラリアの親父に聞いたら、剣術スキルは無限だったそうで。
刀一本でなんでもできる類の化け物だよきっと。
あれだよ、リアルアバン○トラッシュとかできるぐらいに、心技体がそろっていると思うよ。
それとか、こう飛天○剣流とかできそうだよな。
「なるほど。本人かはわからないが、そこまでの侍が日本からきているのですか!! で、その御仁は今どちらに!?」
タイゾウさんはすでに本題を忘れて、上泉信綱と会えるかもしれないということで頭が一杯らしい。
まあ、そりゃそうだろう。
俺たちにとって、タイゾウさんが、俺たちが尊敬するべき人の弟子で同じように歓喜したし、タイゾウさんにとって、上泉信綱というのは歴史上の偉人であって話せるかもしれないというのは、非常に貴重であり。刀を持つ者、その道を目指す人にとってはただの有名人などに会うより格別な喜びがあるだろう。
「タイゾウ。あなたの喜びや会ってみたいという気持ちは、同じ剣を持つ者としてよくわかるのだけれど、残念ながら、上泉信綱の足取りはノゴーシュの所から逃げたところで消えているの」
「……そう、ですか」
あ、がっくりした。
「まあ、剣の道を求め続けた人だから、一つ所に留まる人ではないか。しかし、これはいいことを聞いた。この世界のどこかに剣聖がいるかもしれない!! これは、魔力云々についてもあるが、別の意味で世界をめぐる理由ができました」
「そうね。そういう意味で世界をめぐるのも楽しいわよね」
「人はいろいろなことに手を出すべきですからな。さて、いない上泉殿の名前を使って、ノゴーシュを呼び出すのですな?」
興奮したけど覚えていたよ。
だがー、ビッツもいることだし、出てくるのか俺には疑問が残るんだけどな……。
「その通りです。過去の因縁というか、再挑戦をしてくるでしょう」
「その可能性は非常に高いですな。来なければ、致命的だ。ノゴーシュは逃げたと言われ、今後の求心力は落ちるでしょう。ついているビッツが来るかはわかりませんが、確実にノゴーシュの力は削げるでしょう」
まあ、その考えはおおむね正しいと思う。
正直な話、ビッツが守勢で構えていると追いかけようがないのだ。
ダンジョン構築能力ですぐ逃げ道を作られて逃げるからだ。
ここはタイゾウさんの言う通り、協力者であるノゴーシュの力を削ぐ方がいい。
「しかし、この作戦には問題があるわ。誰が上泉信綱の代わりを務めるのか……。確かにノゴーシュ達は早急に潰す必要性はあるけど、不意打ちやだまし討ちで倒すと、ウィードや連合に対して不信感を持つ国もでてくる。特にランクスの方は剣の国からの使者としてきたノゴーシュを斬るということは、かなり外聞が悪い。だから、表向きは決闘という形で取り押さえなければならないわ」
そう、ノゴーシュやビッツの所業は今のところ表向きは誰もしらないし何もないのだ。
いや、ビッツはランクスでの悪行があるし処罰は簡単か。
だが、ノゴーシュは問題で、こっそり仕留めるならともかく、今回のように呼び出して、不意打ちで倒すのは大問題だ。
流石に、剣の神と真向勝負というか、童子切をもっているやつと勝負はしたくないなーってのがある。
だが、そんなことは関係ないのが一人いた。
「ならば、私が上泉信綱殿の代わりを務めましょう」
「え? タ、タイゾウさん!?」
その答えで驚いたのは、奥さんのヒフィーのみ。
他の人は全然驚いていない。
だってなぁ……。
「いや、私が出なくてどうするというのです。主家の宝刀を取り戻すための戦いに出られるのは、この中で私のみ。刀を持てば勝てるなどと愚考と愚行を重ねた馬鹿者に剣聖や新陰流には及ばずとも、日ノ本の示現流、薩摩隼人を見せてやります」
そう。
これは、刀を持つ者には避け得ない戦いだ。
それが武士道というものである。
いや、よくしらんけど。
というかさ、主家の宝刀っていっちゃったよね?
国宝より島津一文字ですかー。いや、うん、まあやる気をだしてるからいいけどさ。
上泉信綱
まあ結構不思議な人。
本文の内容の通り、どこにもまともに仕えたようなことはないのだが、有名剣豪を何人も育てたり、有名大名たちに名が知られていたりと、そしてのちの剣術、剣道の始祖って言われる人。
そこら辺を利用して、出演させていただきました。まあ、本人がでるのはまだ当分先なのですが。
さて、そこはいいとしてGジェネジェネシス。
セイバーフィッシュで楽しんでおります。
ちゃんとポケモンはクリアしていますから悪しからず。




