第442堀:動き出す冒険者たち
動き出す冒険者たち
Side:モーブ
『……というわけで、剣の国、ノゴーシュ側にダンジョンマスターがいる可能性が非常に高い。しかも、ランクスのビッチ姫の名前が挙がった』
「……なんだよそれ」
俺は突如もたらされた報告に頭を抱えていた。
さっきまで懐かしの居酒屋でワイワイやってたのに、一気に酔いが冷めたわ。
なに? 俺の足元にあの我儘王女が作ったダンジョンが広がっている可能性があるって?
怖すぎるわ!!
「どうした?」
「なにかありましたか? 飲みすぎたにしてはまだ全然ですけど?」
気が付けば、俺を追ってきたのか、ライヤとカースが立っていた。
「あ、すまん。支払いとかは?」
「もう済ませた。お前が出て行ったからな」
「主役のモーブさんが出て行ったから宴会はお開きですよ」
「そうか」
俺の帰還を祝ってくれた故郷のみんなには悪いことをしたが、正直言って、酒をのんびり飲んでいる暇もなさそうだ。
問題を片づけてあとでちゃんと飲みなおそう。
まずは、ライヤとカースに説明をしないとな。
「ユキから連絡が来た。宿で説明する」
「わかった」
「わかりました」
俺の顔がマジだったからすぐに返事をして宿へ向かう。
こういう時は長年コンビを組んでいると阿吽の呼吸だよな。
「あら、モーブさんたち。こんばんは」
「おう、霧華。こんばんは」
霧華はすでに宿の前にいて、こちらが戻ってくるのを待っていたらしい。
まあ建前上は、同じ宿にただ泊まっているだけの顔見知りなんだけどな。
「面白い話があったぞ」
「私もですよ。良ければ食堂で飲みませんか?」
「すまないな。すでに飲んできてもう寝るところなんだよ」
「あら、つれないですね。まあ、無理に飲んでも美味しくないですし、今度にしましょう」
そういって、霧華は先に宿に入って行って、宿の親父に一言挨拶をして、さっさと部屋に行ってしまう。
「おいおい。モーブ。あんな美人さんの誘いを断るこたねーだろう」
「いいんだよ。娘ほどってわけじゃないが、……まだ思い出すんでな」
「……すまん。考えなしだった」
便利だね。俺まだ過去を引きずってますって演技ってのは。
「気にしないでくれや。今日は飲みすぎたってのもあるからな。もう休ませてもらうぜ」
「おう。ゆっくりやすめよ」
そんな会話をして、宿の主人と別れて部屋に戻ると、そこには自分の部屋に戻ったはずの霧華がいた。
「お邪魔していますよ」
「おう」
ま、ただのお約束みたいなものだ。
演技をして、俺たちがわざわざ会っているなんていうことがばれないためだ。
俺としては、ここまで面倒なことをしなくてもいいと思うのだが、ユキがやれと言っているし、ライヤとカースも納得しているのでやっている。
と、思ったが、実際やってよかったと思う。
「モーブさんたちも戻ってきたということは、やはり、あの連絡がきましたか」
「ああ。でも、ライヤとカースにはまだみたいだ。そうだな?」
「ユキから、とりあえずモーブを連れて戻れと連絡が来ただけだ」
「私も同じですね」
「そうですか、では、そこら辺を……」
霧華がそう続けようとすると、コールから連絡が来る。
相手はユキか。
「はい。主様。すでに集合しております。はい、はい。わかりました。皆さん、事態がかなりまずいので、主様から直接再度説明するそうです」
『よ。調子はどうだといいたいところだが、今はそんな事言ってる場合じゃなくなった。まずノノアの魔術国の方は、タイゾウさんの尽力でかなりスムーズに事が進んだ。これはありがたいことだ』
そうだ。
それは、確かにありがたい。
流石、ユキの同郷の人間だけはある。
難しい話はさっぱりだけどな。
『非常に協力的で、そのおかげで、ちょっと現状の認識を大幅に改めることになった。簡潔に言うと、まだ確定とするには早いかもしれないが、剣の国、ノゴーシュの所にダンジョンマスターが潜伏している可能性が非常に高いと判断した』
「その情報の信憑性はどれほどのものだ」
「そうですね。ノノアがこちらをだましている。あるいは、王都内にダンジョンがなかっただけということもあり得ます」
おお、流石ライヤとカースだ。
その可能性もあるな。
だがなー、あの名前が挙がっているとなるとそうもいかないよな。
『その可能性も捨てきれはしないが、この可能性が非常に高いと判断した理由を説明する。ノノアの所にはまずダンジョンが存在していなかったこと、防衛もあってないようなものだった。ダンジョンマスターの協力者に対してこの扱いは雑すぎる。そして、ノノアのダンジョンの認識はファイデとまったく同じだったこと、意図的に情報をゆがめられて伝えられているという判断もできる。事実、こちらのダンジョンの認識を話すと、ノノアが協力的になった。となると、まだ調べを入れていないノゴーシュの所か、ゴータということになるが、ファイデやノノアの話からゴータは同盟には参加していないらしいので、まず関係性は低いと考えられる。残るは消去法で、ノゴーシュの所ということになるわけだ』
「理屈はわかった。現状から言ってその可能性が高いのも理解した」
「しかし、その程度では急を要するというほどではないのでは?」
『問題は、ノノアが教えてくれたダンジョンマスターの名前の方なんだ』
「名前?」
「協力者のダンジョンマスターの名前がわかったのですか?」
『ああ。なぜか、ビッツ・ランクスの名前が挙がった』
「「はっ!?」」
2人とも目が点になって、顔から血の気が引いている。
そりゃそうだ。
あの我儘姫がダンジョンマスターとか性質が悪いわ。
「ちょっとまて、そんなのはあり得ないだろう」
「そうです。彼女はルナ……様が作った名簿には名前がありませんでした。つまり、彼女がダンジョンマスターであるわけが……。いや、まさかっ!?」
『流石カース。察しがいいな。俺の嫁さんたちと同じようにダンジョンマスターの能力を一部譲渡されて、矢面に立っているか、それともダンジョンマスターを騙して適当にのっとったかだ』
「……なるほどな。しかし、あのお姫様が一部譲渡されて矢面に立つような性格ではなさそうだが」
「私も同意見ですね。もう元のダンジョンマスターは死んでいるんじゃないでしょうか。しかし、これでこの地が危険で緊急事態だという意味が分かりました。ここがガルツの管理範囲であり、ビッツ姫を追い落としたランクスがある。彼女にとって、恨みを晴らすにはこれ以上の場所はない。ウィードへの神々を巻き込んだ誤情報により敵視を向けさせるには理由も十分です。ユキがタイキ君と同様、異世界人と知ったのなら、一緒に追い落とそうとするはずです」
おお、なるほど。
カースの説明はわかりやすい。
我儘姫ならやりそうだなーぐらいの認識だったが、こうやってしっかり説明されると納得できる。
『理解ができたようで助かる。つまり、今そこにいるモーブ、ライヤ、カース、霧華は恨み全開の我儘姫の支配地にいる可能性があるわけだ』
「「「……」」」
おう、カースから改めて説明をうけて、ユキの宣告を受けると、なんか俺たちが断頭台に立っている気がしてきた。
背中が寒いぜ……。
『正直、安全面からは撤退してほしいんだが、そうもいかない。あのビッチ姫が正直どこまで、ダンジョンのことを知っているかしらないが、あからさまにダンジョンの町ができて呼び込みが行われているっていう情報はまったくない。つまり、秘密裏に動いているというのは簡単に予想が付く。しかし、それだと魔力がまともに集まるわけがない。ダンジョンの中に町を作るわけでもなく、冒険者の呼び込みをするわけでもない』
「ちょっとまてよ……。それだと、どうやって魔力を稼ぐんだよ」
『一応、ノノアが送ってきたコアに魔力を注いで、送り返すとかして自前でDPを得ていたようだが、そんなのじゃ、ウィードに対抗するのはほぼ不可能だ。ノノアでさえ、ポープリと互角程度の実力だからな。文字通りたかが知れている。となると、あとは……』
なんとなく想像がついた、でも、そんなことを普通やるか?
でも、俺はそんな悪夢を否定したくて、そこまで考えようとはしなかった。
『人を攫ってダンジョンに押し込めている。これはまだいい方だ。最悪、ダンジョンに連れ去って、殺害してDPに変えている可能性もある。今時、村の一つや二つがなくなるのは珍しくないからな。でだ、この話を聞いた、モーブはどうする? おとなしく引き下がるか?』
ユキは一応聞いてみたという感じだ。
俺を心配してくれるのはありがたいが、もう答えは決まっている。
「誰が引き下がるか。ここは俺の故郷だ。何が起こっているかわからないならともかく、俺にはお前がいて、正しい状況を認識している。俺はここから動くわけにはいかねえ。守れる可能性があるなら俺は引かねえ」
はっきりとそういう。
ユキもわかっていたのか、特に止める言葉もなく話を続ける。
『正直助かる。現在、タイキ君の方にも伝えて、ランクス一帯の村落の調査をしている。あの姫様の元領土だから、何かをやるにはこれ以上ない場所だからな。だから、一旦モーブたちも、剣の国に点在する村の確認を行ってくれ。王都の殴り込みはそのあとだ。まずは敵の戦力を把握しないといけないからな。短気は起こすなよ』
「わかってる」
『ライヤとカースはモーブに協力してもらえるなら、その補佐を頼む』
「今更聞くまでもない。俺たちは長い付き合いだからな」
「その通りです」
そういって、2人は俺についてくると言ってくれる。
ありがたい。本当にありがたい。
『あとは、霧華は……』
「主様。その気遣いは無用です。といっても、主様は気に病むのでしょうから、この騒動が終わったら、手料理の一つ二つでも所望いたします」
『わかった。じゃ、しっかり働いてもらうぞ』
「はっ」
『霧華は、王都に残って、引き続き、ノゴーシュとダンジョンの情報、さらにダンジョンマスターと思われる、ビッツ・ランクスの情報を集めてくれ。なお、すでに魔術国にはこちらのダンジョンを展開してるので、スティーブたちは必要な要員を残して撤収作業を開始している。それが終わり次第、そちらに移動させる。それまでは深入りはするな。危険だと思えば即時撤退しろ』
「了解いたしました」
霧華はすぐに、外へ出て行く。
情報を集めに行ったのだろう。
「しかし、俺たちは具体的にどうする? 村を一個一個調べるのは苦労するぞ?」
「そうだな……」
『いや、お前らはこういう時に冒険者としての名声を使えよ』
「「ああ」」
なるほど。
それが手っ取り早いな。
きっと、ギルドにそういう村の噂一つ二つぐらいあるだろう。
しかし、カースだけは難しい顔をしている。
「……やっぱり私たちに囮になれということですね」
「どういうことだ?」
「……なるほど。確かに、ギルドを頼れば情報は得られるだろうが、それは誰でも考えられるということか。敵もな」
ああ、そういうことか。
『絶対ではないけどな。冒険者ギルドに警戒を払っている可能性もあるだろうさ。下手するとギルドもグルの可能性も捨てきれない。そこらへんは注意しろ。一般人より、冒険者を餌にした方が、足が付きにくいからな』
やっかいだな。
だが、俺たちが囮になった方が、まだ危険性は低いか。
ならやるしかねえ。
本物の冒険者の実力、見せてやろうじゃねえか。




