第438堀:話し合い始まる
第438堀:話し合い始まる
Side:タイゾウ
私は悩んでいた。
深く深く悩んでいた。
この度、私は、国の安全をかけた話し合いに臨もうとしていたのだ。
いや、私自体は囮だが、囮の役を最後まで全うし、命を懸け、ユキ君たちの手助けを全力でするつもりでいたのだが……。
「ぶひゃひゃひゃ……!! ひー、おなか痛い!!」
バンバン!!
そんな風に笑い転げながら、床を叩いているのは私の妻ヒフィーの親友であるコメット殿だ。
「師匠。そんなに笑わないでください。変人だと思われますから。あと、見張りがいたら警戒されますよ?」
「だって、ぷっ!! 仕方ないじゃん!! お、おもしろすぎる!! なに、ユキ君が絡むと、ギャグにしかならないのかい? ぷくく……」
ポープリ殿の言葉で一応笑いを押さえようとしているみたいだが、こらえきれず笑いが洩れている。
それも仕方のないことだと思う、何せ……。
「コメットさん。笑っているのも結構ですけど、お城の見取り図はちゃんと確認しておいてくださいね」
「わかってるって」
エリス君にそういわれて、コメット殿はコール画面を開いて城の見取り図を確認する。
ほかのみんなも城の見取り図を確認して、城の様子をうかがっている。
「えーと、リーア、ジェシカ。このマークがノノアだっけ?」
「あー、えーと、そうだっけ?」
「はぁ、そうですよ。このひと際大きく赤い点が目標のノノアで、ほかの小さい赤い点が兵士、こっちの青い方が魔術師、そして灰色がメイドとか力のない使用人です。ちゃんと説明は聞いてください」
すでに、魔術国の都の掌握が終わっていて、敵の数や動きが手に取るようにわかるのである。
簡単に言えば、もう交渉をする意味もない。
我が方の圧勝であり、戦争の終わりは近い。
……どこの大本営発表だ。しかも真実ときたもんだ。
こんな状況で、私はノノア殿と一体何を話せばいいのだ?
もう、問答無用の捕縛でよくないか? と思っているぐらいだ。
昨日、スティーブ君が手に入れてきた情報から察するに、こちらのことを完全に下に見ている。
まともな話し合いは望めないだろう。
説得しておとなしくしてもらうというのは、実質不可能だ。
やっぱり、実力を見せつけるということも含めて、一気に捕縛した方が話し合いに応じるのではないか?
そんなことが頭の中を堂々巡りしているとユキ君から連絡がくる。
『もしもーし。そろそろ、ノノアと面会の時間だけど、用意はできてますか?』
「あ、ああ」
『あれ? なんか調子が悪いですか? タイゾウさん?』
「いや、体調は良好だ。だが……」
『だが?』
「こんな状況で、ノノア殿と何を話すのが正しいのかわからない」
『あー、すみません。昨日は単に報告だけして、魔術国のダンジョン化に忙しかったから、そっちの話をしていませんでしたね』
「いや、そっちが忙しいのは理解している。しかし、ユキ君。どうしたものだと思う? 向こうがおとなしく話を聞いてくれるとは思えないのだが……」
『そこは一旦、ノノアの話を聞いておきましょう。昨日聞いた話とちゃんと合っているのか確認を取りたいです。幸い、ダンジョン化で逃げるのにはさほど苦労しませんし、向こうの調子にあわせて目的を聞き出してください。それが終わったあとは捕縛すればいいだけです』
「なるほど。私は難しく考えていただけか。当初の予定通りにやっていれば問題ないわけか」
『はい。まあ、思っていた予定が前後して、ダンジョンを作った今、タイゾウさんの交渉の意味合いは薄れてはいますけど、直接ノノアと話して情報を得られるのはタイゾウさんだけですし、その聞き出した内容によっては作戦の変更もあり得ます』
「わかった。任せてくれ」
「私もいるから、うまくまとまってくれるといいんだがな」
「そうですね。そう願います」
勝手にもう予定は終わったとばかりおもっていたが、ユキ君の言う通り、ノノア殿との直接交渉はなしにしていい内容では無い。
完全包囲が成功して、変に気が抜けていたのだろう。
ファイデ殿もいるのだし、大事なのは穏便に済ませられるなら済ませることだ。
いかんいかん、私のやるべきことをなさなければ。
『で、そこで笑い転げている死体。ちゃんと仕事をしないと、あとでひどいですよ』
なぜかユキ君の後ろから、ヒフィーさんが出てきた。
いや、私のことを心配していたのだから、いても不思議ではないか。
まあ、口調が少々あらいが。
「わかってるって。ちゃんと援護できるように、外で待機しているからさ。任せときなって」
『本当にしっかりしてくださいよ? コメットはタイゾウさんのスキル範囲内ではただの死体になってしまいますから、後方配置になっていますが、さぼっていいわけではありませんよ?』
「大丈夫。流石にそんなことしたら、君に殺されそうだからね」
『……わかりました。信じましょう。タイゾウさん。どうかご無事で』
「ええ。大丈夫ですよ。必ず戻ります」
そんな話をしていると、ドアがノックされる。
「タイゾウ殿。ジェシカです。ノノア殿の案内が来られました」
ついに、時間が来たようだ。
「これから、移動を開始する。ユキ君、あとは頼む」
『了解。護衛目標動くぞ、予定通りの配置につけ!!』
そんな声とともに通信が切れる。
さて、私も行くとするか。
ジェシカ君の案内で宿の玄関にいくと、兵士というより魔術師といった格好の人が立っている。
私たちの姿を確認したのか、ちゃんと敬礼をしてこちらに話しかける。
「失礼ですが、貴方様がウィードの王配であるユキ殿で間違いないでしょうか」
「はい。この度はセラリア女王陛下の名代として魔術国に来た次第です」
いや、違うんだが、この世界は写真もないものだから、こういう替え玉がすんなりいくのはありがたい。
とりあえず証拠の親書を渡す。
この親書は偽物ではない。セラリア君がちゃんと書いたものだ。
「確認いたしました。では、これから城の方へ来ていただきたいのですが、申し訳ありませんが、入城の際は武器を預けてもらうことになります。もちろん護衛の方々もです。安全のためですのでご理解ください」
まあ、当然だな。
「わかりました。護衛の数などの制限はありますか?」
「いえ、全員で8名と伺っていますので、この人数であれば、全員入城していただけます。会合の際は連れていける護衛は制限されると思いますが」
「そうですか。ならよかった。準備はできていますので今すぐ出発しましょう」
「はっ、ではこちらへ」
そのあとは特に問題もなく、武器を預けて城の中へ入った。
もちろん預けた武器は囮だ。
ナールジア殿の趣味満載の武器は、たちまちとられるか、入城自体を拒否される可能性があるレベルの品だ。
そういうのはアイテムボックスの中に放り込んでいる。
「では、こちらで少々お待ちください。案内の者が参りますので」
「わかりました」
しかし、城の中は特に変わりがないように見える。
まあ、極端に違うような場所は逆に警戒心をあおるから、こういうのが普通なのだろう。
「さて、タイゾウさん。会合について行くのは、予定通りでいいのかな?」
「そうですね。コメット殿は私のアレの範囲内では行動ができませんし、ついて行ける護衛はおそらく多くて3名、少なくて2名といったところでしょう。予定通りでかまわないでしょう」
3名の場合はジェシカ君、リエル君、ポープリ君。
2名の場合はジェシカ君、リエル君。
このように予定している。
ポープリ君は残念ながら魔術師なので、私のスキル内では十二分に生かせないという枷があり、2名の時には外すようになっている。
コメット殿は言わずもがな、私のスキル範囲では生命の危機に陥るので、最初からついてこない。後方からの支援が魔術師としてコメット殿に合っているからな。
リーア君も勇者ではあるが、護衛としては経験不足なので、その圧倒的な火力と防御を生かした後方かく乱ということになっている。
護衛に残る2名だが、ジェシカ君はもともと騎士であり、こういうことに慣れていること、リエル君は猫人族としての聴覚や冒険者時代を生かした索敵に優れているので残っている。
私とエリス君、そしてファイデ殿は守りを護衛のみんなに任せて、ノノア殿と交渉というわけだ。
「でもさー、僕は笑いをこらえられるか心配だよ」
「あっはっはっは。私は無理だね。きっとそのノノアの顔を見たら噴き出す自信があるね。後方待機でよかったよ。リエル君はがんばりたまえ」
「コメット、ずるいなー」
そんな会話をしていると、案内が来た。
いよいよか。
「失礼いたします。護衛は3名まで、残りの方はこちらで待機となりますが、よろしいでしょうか?」
3名か、近くの護衛が多いのはありがたいな。
「はい。大丈夫です。では、ここを頼む」
「「はっ」」
演技だけは一応しておく。
彼女たちが案内の兵士に護衛だと認識させておくのだ。
それを済ませて、案内の兵士についていき……。
「こちらです。ウィードの使者の方をお連れしました!!」
『入りなさい』
「はっ!! 失礼いたします!!」
ドアを開けて、中に招き入れられると、まあ変わり映えのしない応接室のような場所に、女性が一人たたずんでいた。
いや、部屋の隅には護衛らしき人も立っているが、おそらくは中央にいる彼女が……。
「ようこそ、魔術国へ。私が、この国を治める、ノノア・ウィザード・シャインです。ウィードからご足労感謝いたしますわ。そしてファイデご苦労様」
彼女はそういって微笑みながら、こちらをねぎらう。
おそらくは、彼女は美人という部類なのだろうが、生憎と、そういう事柄に興味がないのか、それともヒフィーさんという伴侶ができたからなのか、特にこれと言って心が動くようなことがない事実に、私は人としておかしいのだろうかと少し考えてしまった。
と、いけない。挨拶を返さなくては。
「これはご丁寧に。私はウィードで参謀をやらせてもらっているユキというものです。こちらは、エリス。ウィードでは交渉事や財政管理などを受けている才女であります」
「そうですか。で、ほかの3名は?」
「ほかの3名は護衛ですので、お気になさらず」
「そうですか。では、立ち話もなんですので、お座りになってください」
そういわれて、私とエリス君はソファーに座る。
「しかし、驚きましたわ。まさか、ユキ殿ご本人がお越しになるとは」
「いえ、あくまでも女王陛下の名代ですので。しかし、この度は急な訪問を受けてくださり感謝いたします」
「いえ。私にとっても大事なことでしたから」
ふむ。
この期に及んで、まだ落ち着き払っているな。
こちらにも未だ丁寧ということは、自分が圧倒的優位というのを疑っていないのか、それとも私たちを一網打尽にする策があるかだが、後者は可能性が低いな。
コメット君たちやスティーブ君たちからの報告も飛んでこない。
ここまでの認識のズレをどう話したものかな……。
「そちらも大事と認識しているのであれば、さっそく本題に入りたいと思うのですがよろしいでしょうか?」
「ええ。かまいません。私としても、下手な探り合いで時間を浪費するのは避けたいので。ファイデから事情を聞いてこちらにきているのでしょう?」
「はい。その通りです。では、本題にと言いたい所ですが、そちらの護衛の方々には?」
「大丈夫です。彼らは私が選んだ勇者もいますので、裏の事情は存じておりますから」
……なるほど。神による勇者認定した人物がこの護衛の4人の中にいるのか。
「では、率直に申し上げます」
「はい」
「ファイデ殿を通じての、リリーシュ殿への接触、その経由で話は伺いました」
「ご自分たちの立場が理解できたと思いますわ。このままではすべてが敵に回ります」
……本当に自分が絶対優位であると疑っていない表情だな。
「それらを踏まえて、私たちウィードが下した決断ですが……」
「決断は?」
彼女は促すように言っているが、きっと望むような回答ではないと思う。
「いろいろと認識の齟齬がありすぎて、下手にことを動かすのは問題しかありません。今一度、しっかり話し合いの席を設けられればと思います」
「……どういうことかしら? あなたたちは自分たちが愚かなことをしているという自覚が出て、私にとりなしを頼みに来たのではないのかしら?」
一気に部屋の温度が下がる。
微笑みを浮かべていたノノア殿も無表情になってこちらをにらんでいる。
「あなたたちは、今、自分たちがどういう状況にあるかわかっているのかしら?」
「ええ。そちらが勝手に我が国を敵と認識して、いろいろ動いているというのは理解しています」
「それは違うわ。そちらがルナ様の力に縋るだけの愚か者だからという原因がわかっていないのかしら?」
「そこです。そこの認識が違うのです」
「そこ?」
「とりあえず。怒るにしろ、私たちの話を聞いてからでも遅くはありません。ここはあなたの居城なのですから。違いませんか?」
「私からも頼む」
「……いいわ。言い訳ぐらいは聞いてあげましょう。少しでもましな話をしてくれることを願うわ。そうしないと、貴方たち全員どうなるかわからないわよ?」
……とりあえず、会話には持っていけそうでよかった。
これから、力技になるか、話し合いで済むかは私のやり方一つということだな。




