第436堀:ピクニック
ピクニック
Side:コメット
「つまんない」
私の口から出てきたのはそんな言葉だった。
「師匠。そういう言い方は慎んでください」
横から、幼女ポープリがそんなことを言うが止まらない。
「つまんない」
だって仕方がないのだ。
初めて、この大陸ではウィード以外の国を見ることができると思えば、駆け足でロシュールは出て行って、特に町や村によることもなく、駆け足で進むばかり、風景は目新しいものはなく、植物などはあっちの大陸とそこまで変わりはないようだ。
「まあ、コメット殿そういわず。こうやってのんびり昼食を取れるというのは、このご時世なかなかあることではないですよ」
「まあねー。あ、リエル君、そのサンドイッチ頂戴」
「おっけー。コメット、どうぞ」
「ありがとう」
リエル君からもらったサンドイッチをパクッと頬張る。
うん、流石、ヒフィーの手作り美味いわー。
タイゾウさんの言う通り、この昼食を邪魔されるのはいやだから、この穏やかさは許してやるか。
「しかし、こちらの大陸は魔物が普通にでると聞いているのですが、まったく出くわしませんね。エリス殿、なぜでしょうか?」
「ポープリ。それは国と国をつなぐ主要な道に、ポンポン魔物が現れたら、物流が止まるでしょう?」
「ああ、なるほど、定期的に間引いているか、巡回がいるのですね」
「そういうことです。まあ、出てくるときは出てきますけど、ゴブリンとかスライムといった誰でも倒せるぐらいのが、一匹、二匹程度ですね。群れは見つかってすぐ排除されますから」
なるほどねー。
言われてみれば当然だ。
大事な場所の安全は確保しているってことか。
今回は国の王都に向かうわけだから、脇道にそれた先の魔物の巣窟ってところに行くわけでもないから、こんなのんびりとした旅路になっているのか。
はぁ、この分じゃ、魔術国が唯一の楽しみだね。
魔術の神様が作った国、一体どんなもんか。
「そういえば、リーア」
「ふぁに?」
「……食べてから返事してください」
「もぐもぐ……。んぐ。で、なに?」
「リーアは、魔術国のことを何か聞いたことはないのですか?」
「あー、私はウィードに来るまでは、村娘から奴隷だったし、ほかの国とかは全然しらないんだ。リエルとか、エリスの方が知ってるかも」
リーア君のその言葉で、みんなの視線が2人に集まる。
そういえば、このメンバーって半数近くが向こうの大陸からで、こっちの大陸事情は全然なんだよね。
「んー。僕は魔術国のイメージはあまりないかなー。あそこって魔術が第一って感じで、それを使えない人はあんまりって感じの話聞いたから、魔術を使えなかった冒険者時代はわざわざ寄るようなことはなかったな。エリスは?」
なるほど、それじゃリエルみたいな獣人たちは近寄らないだろうね。
元々、身体能力に魔力を回して、魔術に対する適性が低いんだから。
ということで、残るエリスに視線が集まる。
「そうですね。物見遊山、もとい見聞を広げる旅で寄ったことはあります。エルフですので魔術も多少なりと精通していますので、魔術の国というのは興味がありました」
「で、どうだったんだい?」
「どうと言われると、期待されているようで言いにくいですが、ウィードと比べると全然」
「「「ああー」」」
全員の納得の声が重なる。
そりゃそうだ。ウィードはものが違う。
基礎技術力が雲泥の差だ。
そうやって前置きをしたうえでエリス君は話を続ける。
「まあ、魔術の国と言うだけの事はあったと思います」
「それは?」
「ポープリと一緒で、魔術の学校を作っているんですよ。方々の国からも学びに来る人がいるぐらいで」
「あ、それは僕も聞いたことがある。でも入学試験も大変って聞くよ」
「ええ。でも、学費は入学できれば、そこまでかかりません。代わりに、国営の研究機関へ強制的に登録させられますし、研究して成果がでれば必ず報告する義務があります」
「まあ、当然といえば当然だね。私のところも報告義務はつけていたし。こちらの大陸の魔術学府といったとこかな」
「はい、正式名称はノノア魔術学院です。まあ、名前はやっぱり創始者の名前を付けるのが定番なんですね」
そりゃー、壮大な名前を付けると名前負けするし、かといって意味不明な名前を付けるものあれだし、自分の名前が周りも納得しやすいんだよねー。
私が、新しく作った武器とか、今では聖剣とか御大層な名前で呼ばれてるけど、正式名称は便利つえー剣で通称ベツ剣だったんだけどなー。
名前って難しいよね。
「私は、知り合いが魔術国の学院に勤めていまして、しばらく滞在させてもらいました」
「あれ? 結構重要な情報じゃない? 僕、初めて聞くんだけど?」
「ですね。私も初耳です。ユキには話しているのですか?」
「もちろんですよ。でも、私はただの客分だったので、大した情報はなかったんですよ。せいぜい、性能の高い杖に代わる指輪型の触媒が国民に配布されているとか、格安で火をつける魔道具が売っているとか、そのぐらいです」
「そっかー。その程度なら、ナールジアさんが遊び半分で量産してるし、火をつける魔道具なんてライターとかマッチでいいじゃんってなるもんね」
エリス君の情報が来てなかったのは当然だね。
ユキ君は限られた時間で情報の取捨選択する必要があったから、この情報は重要性が低いとみられたんだろう。
私も同じく、必要とは思えない。
深く何か知っていれば別だったんだろうけど、ただの客分じゃ、だれでも調べられることぐらいしかないね。
あるいは、このウィードの使者という手段がなければエリス君の伝手で潜入する予定だったんじゃないのかな?
「で、ノノアって人には?」
「残念ながら、会った記憶はありません」
「一国の長と顔を合わせる機会なんてそうそうないかー」
私はそう感想を言いながら残りのサンドイッチを平らげていく。
ファイデさんはジョン君からもらった野菜サンドをむさぼりつくしている。
いやー、男の手料理で喜ぶのはどうかねー?
ま、人の趣味だからいいか。
とそんなことを考えているうちに、隙を見計らっていたのか、タイゾウさんが私の代わりに質問をする。
「エリス君。そしてファイデ殿。私も聞きたいのだが、住人たちの生活ぶりなどはどうだったかとか覚えているかな?」
「そうですねー。ごく一般的な感じですね。大通りなどはにぎわっていますけど、一つ路地に入れば上下水道なんてありませんからひどい悪臭ですし、ごろつき、盗賊、人の死体が転がっているのは変わりませんでした。まあ、魔術国というだけあって、ほかのところよりは気持ち少なくは感じましたが」
「私からも特に言えることはないな。一般的に魔術が広く使われているぐらいで、他はそこまで変わりはない」
「そうか。為政者としてはあまり変わりない……か。まあ、そんなものか」
「なぜそのようなことを聞いたんですか?」
「いや、何か魔術を使って独特な支配体制などを行っていないか? とかを考えたんだが、そういうわけでもないのだなと。そういうことがあれば、私たちは交渉するだけでなく、相手のいいところを学ぶ機会もあるのではと思っていた」
「なるほど。でも、当時の私は単なる物見遊山でしたから、何か画期的なことがあっても、把握できなかったということもあるかもしれません」
「それもそうだな」
「エリスが魔術国にいたのは奴隷になる前の話でしょ? ならだいぶ前だし、今回はちゃんと見て行けばいいよ。ね、リーア」
「リエル、そうだね。面白いものがあるといいね」
リエル君の言う通り、今の話もしょせん昔の情報に過ぎない。
結局のところ自分の目で見て感じればいいだけだ。
「さて、昼食も問題なく終わりましたし、お話に出てきた魔術国を直に見に行きましょうか」
話を聞いているだけだったジェシカはすでに荷物をまとめて立っている。
私たちも同じように荷物をまとめて出発の準備を整える。
「よーし、予定では今日中に着く予定だったよね?」
私は荷物を背負いつつ、ポープリに確認を取る。
「はい。私たちの予定ではあと3時間ほどで到着するはずです」
「うへー、3時間って遠くない?」
ポープリの回答にげんなりする私。
リッチにランニングさせるなよー。腐るよ?
「我慢してください。これから先は魔術国から出てくる商人や旅人と出くわす可能性が高くなるから、歩くしかできないんです。何も事前知識なく私たちの全速力なんて見たら、あらぬ混乱がありますから。あ、箒や車もだめですよ」
「わかってるって。しかし、相手が同じダンジョンマスターだと本当に面倒だね」
「正体不明だからこそ、私たちの能力や技術、道具などを知られるわけにはいかないのです。コメット殿には申し訳ないですが」
「いやいや、タイゾウさんが悪いわけでもないし。ま、これからはのんびりとお話しでもしながら歩けばあっという間さ。で、さっそくだけど、タイゾウさんに聞きたいことがあるんだけど……」
「なんですかな?」
「ヒフィーとの子供はいつぐらいにできそうだい?」
「ぶっ!! な、なにを!?」
「いやー、ヒフィーに聞いたらはぐらかすばかりでさ。毎日ズコバコやっているようなセリフは聞いたんだけど、そうなると子供のことは気になるじゃないか。なあ?」
私はそういって、ほかのみんなに同意を求めると、ユキ君の奥さんたちがしっかり反応してくれた。
「うんうん。ちゃんと準備しておかないと、結構あせるよねー」
「ユキさんも大慌てでしたからね」
私が思っていたからかう内容でなく、結構ガチの返事だったが。
まあ、命の誕生はそれだけ大変なんだろう。
タイゾウさんもリエル君たちの返事を聞いて、恥ずかしいという顔から、そんなに大変なのか? という心配顔になり、そこからいろいろリアルな出産話になって、話を振った私と相手のいない幼女ポープリが蚊帳の外になった。
「師も相手がいないでしょうに。私だけが寂しいみたいにいわないでください」
「ふむ。なら、私とどうにかして子供でも作ってみるかい? 遺伝子工学というのが地球にはあってだね……」
「お断りします。出産から子供の世話まで私がする羽目になりそうなので」
なんて冗談を言いつつのんびり歩いていると、気が付けば魔術国に着いた。
日が沈む前に着いたのはいいが、思ったより門に人が並んでいた。
「ほー、結構人がいるねー」
「流石、魔術国なんて名乗っているだけはあるということですかね」
「そういえば、なんで事前に潜入しているのがいないのかな。霧華君とか最適だろうに」
「何を言っているんですか。こっちに主力を集めた分、霧華殿たちはノゴーシュとゴータのほうに分散してますよ。今回はどこが動くかさっぱりわからないんですから」
「ああ、そういえばそうだった。ユキ君の戦力はズバ抜けているとはいえ、動かせる戦力には限りがあったね」
「霧華殿たち、デュラハンアサシンたちは、新大陸、大陸にも分散して、今回の騒動でさらに分散してますからね。私たちの安全はスティーブ殿たちに任せておけばいいですし、霧華殿たちは彼女たちにしかできないことで動き回っていますよ」
「世の中、万事うまくはいかないねー」
私とポープリはその人の行列を見ながらそう呟いていると、タイゾウさんとジェシカ君が門の兵士と話をして、使者特権で先に入れるようにしてくれたみたいなので、並んでいる人には申し訳ないと思いつつも、先に都へと入る。
その際、門の兵士たちから……。
「ようこそ、魔術国へ!!」
ビシッと敬礼をしてくれたので、この対応を見るに歓迎はしてくれているみたいだねー。
しかし、残念ながら、門をくぐった先には特に目新しい変化はなく。
「……どこが魔術国なの?」
「さあ?」
私とポープリは内心期待していたのか、少し肩を落としていた。
それを見たエリスが……。
「だからいったじゃない。ウィードとは違うって」
わかっていたさ。
でも、でも、淡い期待を抱いたんだよ!!
夢を見たっていいじゃないか!! 女の子なんだもん!!
「いえ、師はすでにばば……」
「弟子よ。ここであの時の決着でもつけるか。ちなみにそういうなら、君もばば……」
「いいでしょう。あの時と同じように私が勝利を収めるだけです」
そうやってにらみ合っているのを、リエルとリーアに引きずられていった。
ついに5巻のキャラクターデザインが上がったから、活動報告に上げとく。
さて、新キャラデザは誰で、表紙は誰になるかわかるかなー?
表紙はまだ俺も決めてない。
それはそうと、ピクニックとか学校の行事ぐらいでしかしたことないわー。




