第421堀:農耕神と女王陛下
農耕神と女王陛下
Side:セラリア
……今更ながら、なんというか頭が痛い。
私たちがあがめていた神様たちも結局のところ、あまり変わりないというのを知ってしまったから。
いえ、たぶん知っていたけど、夫にいわれるまで、納得してないというか、理解するのを嫌がったんだと思う。
そもそも、私たちも夫に諭されなければ、夫を王にして世界一の国を作ろうとかのたまっていたのだから。
そんなことでは、前に進めないのに、私たちこそが、なんて思っていた。
「……バカすぎるわ」
「……仕方がありませんわ。神々とはいえど、結局、もともとはただの人であって、その時の教育の問題ですから」
「……上に立つものとして、ものすごーく、申し訳ない気持ちでいっぱいよ」
「……私もですわ。馬鹿共を量産するのに一役買っているのですから」
「「はぁー……」」
私とサマンサで廊下を歩きながらため息をつく。
今は、ファイデがそろそろアイスを食べる頃なので、移動をしているのだ。
しかし、先ほどの夫の話を聞いて、気が重い。
直接私たちに原因があるとは言えないが、根本的にこの世界の技術や文明レベルの低さが問題となっているからだ。
「勇者召喚、夫というダンジョンマスター、私たちの世界にとっては前進する出来事でしょうが……」
「自己嫌悪で嫌になりますわね。人を攫って使役してですからね。これが、まだこの世界の中でなら納得できますが」
「よそ様のところから引っ張り出してだから、もう恥ずかしくて仕方ないわ……」
「万が一、地球と外交窓口ができたら、外交勝負で勝てる気がしませんわ」
「夫も言っていたわね。勝てるどころか、適当な口実つけて攻めてくるって。私でもそうするわ。自国民が勝手に攫われて、こき使われているとか、どこの国でも立派な開戦理由よ」
「しかも、最新兵器を惜しみなく使ってくるでしょうから、私はさっさと白旗をあげますわ」
「私もよ。そっちの方がまだ未来があるもの。でも……」
「その戦況すら理解していないのが、神様たちですから……」
本当に頭が痛い。
本来であれば、私たちより先に夫に接触できたであろう神様たちは、私たちと同じように縄張り争いに夢中でなにも理解していないとか。
「せめて、敵対する理由がヒフィーやノーブルのようなまともな理由であってほしいわ」
「ですわね。何かの思いの果てにそうなってくれたのならば、まだマシですわね」
「これがただ単に、自分が一番になりたいとかだったら、同じ大陸に住むものとして、恥ずかしいこと極まりないわ」
「……そうでないことを祈りましょう」
「ともかく、今は夫のいうように、ファイデをこちら側に取り込みましょう。相手を知るにもこれ以上ないぐらいの人物だわ」
「アイスで納得してくれるとよいのですが」
「ファイデ自身は、真面目のようだし、アイスだけじゃなく、私たちの説得や態度とかも関係してくるでしょうね」
「責任重大ですわね」
「だから、こうやって、女王である私と、公爵令嬢のサマンサで来たのよ」
「はい。お任せください」
立場的に言えば、ルルアとかシェーラの方が上なんだけど、ルルアはリリーシュの部下みたいなものだし、シェーラは子供だと侮られかねないし、ガルツのお姫様でもあるから、圧迫交渉ととられかねない。
もちろん、エリスたち奴隷から代表になったメンバーもそういう先入観があるのでうかつに連れて行けない。
なので、貴族然として知識や礼儀も申し分なく、この大陸には影響のない新大陸の公爵令嬢であるサマンサを連れてきたわけ。
そもそも、サマンサはこちらに来て間もないし、ウィード以外では全然名前が知られていない。
エリスたちみたいにウィードの重鎮というわけでもないので、ファイデの警戒を解くにはいいと思ったのだ。
そんなことを話しているうちに、教会の方に着き、あとはリリーシュ様とファイデのアイスの試食が落ち着くまで待つことになる。
『おう。着いたみたいだな。今、アイスを冷蔵庫から取り出しているところだから、そこまで待たなくてもいいと思うぞ』
夫からそんな連絡が入る。
一応見計らっていたとはいえ、多少はずれると思っていたのだけど、幸先はよさそうね。
待機部屋でじっと待つとか、いやだもの。
とりあえず、待つことには変わりないので、サマンサと一緒にお茶を淹れていると、ヒフィーがこちらに顔を出してきた。
「あら? もう準備は整ったのかしら?」
「いえ、アイスを作りすぎたので、配っているところですよ」
「なるほど。そういう理由で、私たちに直接連絡しに来たわけね」
ただの嫌がらせでファイデに重労働をさせて、自分たちは楽してアイスを作っていたわけではないのね。
「それだけではないんですけどね。言っての通り、配っているんですよ。子供たちにも」
「……ああ。なるほど。いやらしいわね」
「ファイデ様に作ってもらったということにして、子供たちにお礼を言わせるおつもりですね?」
「ええ。いくら私たちが理論的に、合理的に、証拠を突き付けて説明しても、心が納得することはそう簡単なことではありません。ですから……」
「子供というわけね」
「はい」
リリーシュ様も考えたわね。
いや、これって夫の案かしら?
もともとアイスの件は夫なのだから、ありえそうな話よね。
「と、そこはいいとして、今ファイデ殿はできたアイスを食べていることでしょう。驚きも終わったことでしょうし、案内しますよ。偶然来られたのですから」
「ええ。偶然ね。たまたま近くを通りかかったから、同盟国の教会に挨拶に伺ったわ」
そうわざとらしく話しながら、ファイデがいる部屋の前まで歩いていく。
「本当にすごいな。これほどのものが簡単に作れるとはな……」
「簡単じゃないですよー。人の叡智の結晶です。ルナ様の奇跡、お力と言いたい気もわからないでもありませんが、これを作り上げた人々に対して、ファイデの発言は失礼極まりないものだというのはわかりましたかー?」
「それは、すまなかった」
ふむ。
どうやら、思いのほかファイデはあっさりとアイスのことを受け入れて、ルナの力によらないものだと納得しているようだ。
やはりファイデは敵としてではなく、仲介役としてきたみたいね。
あとは、私次第ね。
私がヒフィーに目配せすると、ヒフィーは頷いて、ドアをノックする。
「リリーシュ。女王陛下が見えられています。どうされますか?」
「あらー。ファイデはどうしますー?」
「女王陛下ということは、ユキの……」
「はい、奥さんですねー」
「こちらとしても都合がいい。私も女王陛下に面会できるように取り計らえるか?」
「だそうよー」
リリーシュは入ってこいと言わんばかりにこちらに声をかけてくるので、遠慮なくドアを開けて入る。
「どうも。農耕神ファイデ様。私がウィードの女王セラリアです」
ポカーンと口を開けたままで固まるファイデ。
「あらー。挨拶もできないほど礼儀知らずになりましたかー? それともボケましたか?」
リリーシュの毒舌で我に返ったのか、すかさず頭を下げて挨拶をする。
「これはご丁寧に。おっしゃる通り、農耕神のファイデと申します。しかし、私のことは誰から……、などと聞くまでもないですな。リリーシュ、お前……」
「あらー? 話してはいけないなんていわれていませんよー? むしろ、ユキさんの奥さんですしー、喜んで協力するべきですよねー? ルナ様のご命令に逆らうのですかー?」
「……それは、しっかり話してからだ」
リリーシュ様が相変わらず毒を入れるが、それを無視して、私を見てそう口を開く。
こちらを見極めようとしている目だ。
この人物なら、真摯に話せば悪いことにはならないと私ははっきりそう思った。
しかし、これを画面越しに感じ取ったアスリンとフィーリアはすごいわね。
子供だから成せる技といったところかしら?
「そうですね。しっかりお話しいたしましょう。わかっているとは思いますが……」
「女王陛下がユキの代わりということで間違いないか?」
「はい。そういう認識でかまいません。ユキ本人が出てこないのは無礼ととられるかもしれませんが、先ほどのお話の内容から迂闊に、愛する我が夫であり、世界の希望でもあるダンジョンマスターを危険にさらすわけにはいけませんのでご容赦を」
「いや、そこまでかしこまらないでくれ。ほかの神共はしらないが、俺は国を持っているわけでもなく、畑をいじるだけの、神だからな」
「そうですか。では、お言葉に甘えて。正直に言って、わざわざ神が乗り込んでくるとは思わなかったから、夫も含めて大慌てよ。しかも、正式訪問ではなく、一般の旅人としてなんて」
私がそういうと、ファイデは目を点にしたあと、笑い始めた。
「はっはっは。すごいな。俺から頼んだとはいえ、ここまで簡単に砕けた話し方をするとは思わなかったぞ」
「夫のおかげね。神だから偉いという認識がないのよ。そこのヒフィーだって私たちが下して協力体制を取り付けたんだから」
「は!? 本当なのか? ヒフィー殿?」
「……お恥ずかしながら、敵対いたしまして、ユキ殿に完膚なきまでにやられました」
「ほぉ。ヒフィー殿の力はこちらも感じ取れる。神なのは疑っていない。それを蹴散らしたのも驚きだが、本当にユキという人物は存在するのだな?」
ああ、まずはそこからね。
「ええ、存在するわ。それは私、リリーシュ様、ヒフィー、そして、新大陸で一国の公爵令嬢であるこのサマンサが保証するわ」
「申し遅れました。私は新大陸の一国、ローデイという国の公爵家の次女でサマンサと申します。今では、ユキ様の妻でもあります。農耕神ファイデ様、よろしくお願いいたします」
「……ああ、よろしく頼む。俺は女王陛下やサマンサ嬢の話を信じよう。だが、なぜユキはここまで情報がないんだ? なぜ、表に出てこない? 彼かどうかはわからないが、本人がしっかりとやっていれば、ほかの神々も……」
「協力していたとか抜かさないでしょうねー? 今までの行動を振り返って口を開きなさいよー? こっちに来た時に明後日の方向の発言して私を説得していたのを忘れましたかー?」
「……すまん。そういうことだったな。あまりにも、知識や技術、そもそもなやり方が違いすぎて、説得どころではなかったということか」
あら、思ったよりも頭の回転も速いわね。
畑いじりだけが得意ってわけでもなさそうでよかったわ。
「そのとおりね。何も実績がない、ただのダンジョンマスターの夫から協力を申し出てこられても、夫の方針を取り入れるわけにはいかないでしょう?」
「その通りだ。むしろ部下として、都合のいいように使おうとしていただろうな。俺も含めて、こんな風に驕っているからな。だから、独力でここまで来たというわけか」
「で、遅まきに、いえ、今更のこのこ顔をだしたと思ったら、協力どころか文句を言ってきたのがファイデ。あなただったのよ」
私がそういうと、ファイデは両手で顔面を覆って、小さな声で一言呟く。
「……本当にすまん」
とりあえず、誤解は解けたみたいだし、公開していい情報はお勉強してもらおうかしら?
さーて、頭がパンクしないといいんだけれど……。
ファイデは結構素直な人でした。
楽に終わればいいねー。




