第419堀:ザ・クッキング!! とあやふやな我が夫
ザ・クッキング!! とあやふやな我が夫
Side:セラリア
『まずはー、牛乳をよういしまーす』
『あとは、卵に、砂糖と、バニラエッセンスですね』
なぜか、コール画面の先では、簡単クッキングが行われている。
しかも、その料理をしているのは、女神様2人に、男の神様1人というわけのわからない状況。
「材料から察するに、アイスクリームね」
「正解。よくわかったな」
私の回答に正解と言ってくれるのは夫。
「わかるわよ。自分で作れないか調べてみたらあっさり出てきたんだから」
「そりゃそうか」
ちなみに、私を含めて奥さんたちは、DPで直接仕入れられるので、基本的に手作りはしない。
キルエとかはメイドさんな手前作ってるみたい。
ま、仕方がないのよ。どうあがいても、スーパー○ップとか、ハーゲン○ッツとかに勝てる味にならないんだもの。
自分で作ったからなおわかるの。
流石、地球のアイスクリームの名企業。
レベルが、積み重ねた歴史が違うと身に染みてわかった。
まあ、キルエの手作りも悪くないんだけど、……自分のは比べると悲しくなる。
「って、そこじゃないわよ。なんで、神様たちが料理してるのよ。確か、ユキのことを調べに来たとか言ってなかったかしら?」
うんうん。
と、集まってきているほかの奥さんたちも頷く。
この大陸の神がリリーシュ様に訪問してきて、夫のことを探っていると報告を受けて慌ててきてみたら、なぜかクッキングをしている。
意味不明よ。
「簡単に言えば、異文化交流かなー」
「異文化交流?」
「そ。リリーシュがさっきまで話をしていたんだが、もう、お互いの認識の齟齬が激しくて仕方ないから、とりあえず、言葉よりも、実演ってことで、安全な料理をすればいいと頼んだわけだ」
「認識の齟齬? どういうことかしら?」
私はそういいながら、夫と一緒に最初から現場をみていたジェシカに視線を向ける。
ジェシカは私の視線を受けて頷き、口を開く。
「文字通りなのですが、簡単に説明しますと、ユキが持つ技術についていけず、ルナ……様のお力でこのウィードが保たれていると思っているらしく……。そんな暴君の情報を集めて、引き摺り下ろそうという話でした」
「はぁ!? 前半の技術についていけないはともかく、後半は完全に明後日の方向じゃない!! 意味が分からないわ。集めた魔力をDPとして、それの代価で報酬を受け取っているだけじゃない」
「はい。私たちの認識ではその通りです。ですが、向こうでは、魔力はダンジョン内で殺した者たちからしか得られないという認識でした。だから、ルナ……様のお力に違いないと」
「……とりあえず。ルナのことは様をつけなくていいわよ。本人からOKも貰っているんだから。しかし、なるほど。その理屈だと私たちはルナに頼り切りという話になるわね。でも、なんでそんな話になっているのかしら?」
私は改めて夫に視線を向ける。
「さあ、どこが原因かはわからない。向こう側に協力しているダンジョンマスターが出し惜しみをしているのか、もしくは時間ごとに回収できるという事実をしらないのか。それとも、ファイデを差し向けた神様たちとダンジョンマスターがグルで何も伝えていないのか」
「……その情報封鎖になんの意味があるのかしら? ファイデの信頼をなくすだけだと思うけど?」
「うーん。それこそ俺が聞きたいんだが……。まあ、今までの話から察するに、大まかに分けて、証拠を出せという話になるから答えられないと高をくくっているか、時間回収ができることをまじめに知らないか、グルの場合はファイデが戻ってきたら適当に理由をつけてしょっ引くためかねー」
「……判断しづらいわね。そもそもは、ユキの情報を集めるためでしょう?」
「そう。だから神様方はリリーシュと俺がそこまで付き合いが深いと思っていなかったと考えることもできる。なんやかんやで、神様同士で小競り合いやっているみたいだし、リリーシュが俺に協力するふりをして、探っていたんじゃないかって見方もできないことはない」
「ああ、何も事実を知らなければ、ファイデの主張を鵜呑みにするしかないものね。……何も事実を知らなければ、ね」
「と、ここで話しても憶測の域を出ない。だから、まずはファイデの認識を変えるために、穏便でわかりやすい方法を行っているというわけだ」
「それが料理なわけね」
「そういうこと。武力制圧はリリーシュやヒフィーがいるので証明にならない。かと言って銃器とかの近代兵器は見せるべきではない。かと言って、魔力増減値を見せるのはこっちの財源を明かすようなものだから避けたいし、こっちがその場でごまかしているとか言われたらどうしようもない。ならば、ばれても痛くない技術を目の前で披露すればいいと思ったわけだ」
「なるほどね。バニラアイスは冷蔵技術とバニラが必須。この大陸にない技術と材料で誰でもできる作り方で作って見せれば、神の御業ではなく、ただの人の進歩と証明できるわけね?」
「そうそう。それでファイデがこちらのことを信じてくれれば、こっちに引き込める可能性も出てくるから、逆に情報を引き出せるかもしれない」
夫の言いたいことはわかった。
確かに、ファイデを説得するにはいい方法だと思うわ。
でも……、画面の先でせっせと料理をする神々を見ていると、ものすごく悲しい気持ちになるわ。
いや、リリーシュ様やヒフィーはお菓子作りとか好きなのは知っているけど、こう、神を説得するために料理とか何よ?
説明を聞いて理解はできたけど、納得はいかない。
本当に、夫といると飽きないわよねー。斜め上の方向で。
『さあ、かき混ぜてくださいねー』
『あ、ああ。こんな感じか?』
『駄目ですよー。しっかり混ぜて卵のとろみが全体にいきわたるようにしてくださいねー』
カシャカシャ……。
リリーシュ様に言われて、ファイデはせっせと泡だて器でボールに入った材料を必死にかき混ぜている。
あれ、つらいのよね。
「しっかし、リリーシュが嫌っているって、簡単に見ていたが、すごい嫌っているな」
「そうね。しれっと、横でハンドミキサー出しているし。使えとも言わないで、また別にボールを用意して自分で使っているわよ……」
リリーシュ様は一体過去に何があったのかしら?
これみよがしに、手動でかき混ぜているファイデを横にハンドミキサーで気分よさげにすごい勢いでかき混ぜている。
ここまで徹底していると、流石に……ね。
『おい!? そんな道具があるならさっさと出せよ!! というか、なんで俺に渡さずに、片付けようとしているんだ!?』
『あらー? 私たちが使っているのはルナ様のお力だーって疑っているじゃないですかー。だからー、ちゃんと一から十まで自分の手でやらないと納得できないでしょう? このハンドミキサーに変な細工があったからーとか言われたら証拠になりませんしー、できた時に食べ比べして、このハンドミキサーに変な仕掛けもなかったと証明できるでしょう?』
『ぐっ。あー、もう、わかった!! やればいいんだろう!!』
『はいー。男性なのですから、頑張ってくださいねー。こんな風になるまでですよー』
『うおぉぉぉぉぉ……!!』
うわぁ、リリーシュ様の言い分ももっともなのだが、それを利用してどう見てもファイデに嫌がらせをしている風にしか見えない。
「女ってこえー。俺、ファイデの味方したくなってきた……」
と、横で呟く夫。
「大丈夫よ。私たちは夫に無理なんて押し付けないから」
「おう。無理なんて押し付けられたら逃げるから」
即答する夫だが、この言葉には少々嘘がある。
夫が逃げるのは、逃げても問題がない場合だけだ。
本当にまずい問題がある場合は無理を押し通して働いてしまう。
この夫はそういう人なのだ。
だからこそ信頼がおけるのだけれど。
妻である私たちはそういうことで、常に夫の体調に気を使っているのだ。
と、そこで思い出した。
ファイデが動いているのは、この夫を探るためだ。
何も情報が得られないからという、不思議な理由で。
「ねえ。そういえば、あなたの得体がしれないっていうのは話したけど、特にユキのことは情報封鎖しているわけではないわよね?」
「ん? ああ、俺のことは外部から見ると理解不能な情報しか集まらないからな」
「理解不能なのは趣味ってことで収まるんじゃないかしら?」
私がそう聞くと、ユキは愉快そうに笑いながら口を開く。
「まあ、俺に関することを時系列順に言ってみればわかるんじゃないか?」
「えーと、ちょっとまって、その時系列っていうのは、あなたが表舞台に出た時からのことよね?」
「そうそう。俺の裏は調べようがないからなー。はい、ホワイトボードとペン」
とりあえず、思いつくことを口に出しながら書きとめていく。
えーっと、表向きに出ている情報だから……。
・ロシュールでの私とエルジュの救出
・私を含め3大国の有力者との婚姻
……あれ? これ以上書けることが存在しない。
ルルアのリテアの問題の解決は、表向きはルルアが治めて、ダンジョンとリテア軍の戦闘は私が叩き伏せたことになっている。
そこから得たお金を賠償金として、ガルツに送り、お返しにシェーラが来る。これも、私のダンジョンの独立のための手柄の一つとなっている。
タイキがいたランクスの戦争も、建前上、私の命令の元、迎撃、そして勇者タイキと最初から手を組んでいたという話になっているから、私とタイキの手柄。
それと同時に起こった、魔王大征伐は総大将であるエルジュ指揮の元、各国の勇将が率いて成功させたことになっている。
新大陸については、こちら側は知る由もないから、書くことなどない……。
「な、全然情報がないだろう? そこで、あと追加で書くことがあるとすればウィードでの評判ぐらいだけど……」
夫はそういって、ペンを走らせる。
・奴隷をたくさん囲っている。つまり女好きと思われている
・護衛少数でウィードをぶらぶら出歩いている。つまりただのお飾り?
・学校で校長をしている。名誉職?
・屋台で食べ物を出している。意味不明
……その通りなのだが、あらためて見ると、変すぎる。
一国の王配がする行動にしてはおかしすぎる。
趣味で収めるには流石に無理があるわ。
「こんな感じだけど、これをしっかり調べると……」
・女好き>いや、奥さんを大事にしている人
・ぶらぶらしている>困っていたら助けてくれる良い人
・学校で校長>しっかり授業も教えてくれる
・屋台で食べ物>ラーメンうめぇ
うん。
私たちは意味がわかるけど、外部の人がみればこの情報の意味なんて分からないだろう。
特に、女好きとか、正反対だし。
夫と関係を作るために、どれだけ苦労したことか……。
女としての自信を何度か砕かれたわね……。
外部からの変な女はもちろん私たちがガードしているし、夫がポッとでの女になびくなら私たちが苦労していない。
と、そこはいいわ。
すでに夫は私たちのものなのだから!!
「なるほどね。あなたの存在意義がわからないわけね」
「そうそう。俺個人を測ろうにもこれ以上情報がでてこないというか、理解できない。そんな得体がしれない、不確定要素を放って置くにはウィードがでかくなりすぎている。だから、ファイデが直々に来たってところかな。間者とかやっても得られる情報はこんなもんだし」
「……とりあえず、私がやっと引きずり出した表舞台からあなたが計画的に消えていたことはわかったわ。狙っていたわね?」
「そりゃもちろん。俺の存在はあやふやの方が動きやすいからな」
「はぁ、今更文句はないし、理解もしているわ。でも、私があなたと婚姻を結んで表舞台に引っ張り出したとおもっていたのに、ものの見事に消えていると負けた気がするわ」
「すごい旦那さんだろう」
「ええ、自慢の夫ね」
そうやって話し込んでいる間に、かき混ぜるのは終わっていたらしく……。
『こ、これで、ど、どうだ……』
『んー。まあ、合格点ですねー。あとは固まるのに数時間待ってくださいねー。あ、氷の魔術使えるでしょう? 出してから休んでくださいねー』
『お前は悪魔か!?』
『いえー。女神ですけどー?』
リリーシュ様はファイデを疲労困憊にして楽しんでいた。
……たぶん、怒らせてはいけないって人ね。
前にちょっと触りましたが、今回しっかりと、ユキのこの大陸での認識をまとめてみました。
私達はユキの裏側を知っていますが、他国から見ればこんな感じの実績しかないのです。
神様たちからすれば、理解不能というわけですね。
下手にルナから授かった力があるのになぜだ? となるわけです。
普通の王様の方が、裏側を知らない分、まあ、お飾りだろうと納得できるレベル。
最初からずーっと、こっそり、目立たず頑張ってきた布石がここで大きな成果を出しているというわけです。




