第414堀:冒険者ギルドの思惑
冒険者ギルドの思惑
Side:キナ ウィード冒険者ギルド 副マスター
あーもう。やっぱり、問題が起きた。
私は、ヴィリアたちを執務室へ連れていきつつ、頭を抱えたくなっていた。
まだまだ、冒険者たちの間には幼すぎる子供たちへの偏見はなくならないようだ。
いや、ウィードで長く過ごしている冒険者は違うのだけれど、ウィードは交易の関係上、いろんなところから、冒険者たちが入ってくるので、ウィードの常識というのを知らない冒険者たちの方が多いのだ。
そこら辺のことを予測して、子供たちのクエスト受付時間をお昼からと調整をしていたのだ。
調整というように、表向きに告知はしていない。
それを言うと、やっぱり子供として仕事を分けていると認めているようなものだから。
そうなると、さらに子供たちへの風当たりが強くなる可能性があるし、今後ウィードの学校からの冒険者というのは使えないというレッテルを貼られかねない。
なので、暗黙の了解みたいなものになっている。
でも、この暗黙の了解もいずれ、ウィードの子供たちがしっかり育てばなくなるという見通しもあったのだ。
だって、あのモーブさんたちのパーティーが指導しているんだよ?
流石に全員が全員とまでは言わないだろうけど、私から見ても学校で冒険者を目指している子供たちは、初心者冒険者とは比ぶべくもないぐらい色々な意味で育っている。
あと、ウィードの女王陛下や、今はほとんどが現役を退いたとはいえ、若さは十分で現在でも補佐としてバリバリ働いている元代表たちがたまに指導しているのだから、その実力は推して知るべしだ。
「……まあ、いずれのつもりだったんだけどなー」
私はそう呟いて、後ろについてきている3人を見る。
「なに?」
「?」
「どうかしましたか。キナさん?」
「いや、バカ共がついてきてないかなーと思ってね」
適当にごまかしつつ、先ほどの戦いぶりを思い出す。
ドレッサはミリーから元やんごとなき身分のお方と言われていたから、多少の実力はあると思ったけど、あそこまでとはねー。
ヒイロも相変わらずの常識外れの無詠唱魔術の威力だし、ヴィリアに至っては下手に戦闘させられないくらい実力があるんだよね。
この3人は別格なんだけど、さっきの戦闘を見て子供たちにいらない勧誘をするバカがふえるだろうなー。
釘はさしておいたけど、絶対勧誘するバカはいるよねー。
あー、仕事が増えるー。
副マスターになって給料増えてひゃっほい!!かと思っていたけど、ここまでの仕事量だといやになっちゃうね。
確かに給料は増えた。欲しいものも手に入れられるようになってきたし、ウィードでは普通にアパートで独り暮らしという好待遇。
だが、忙しすぎて、たまにしか買い物ができないし、男が寄ってこない。
いや、いるんだけど……。
『冒険者ギルドで副マスターをやっています』
『す、すみませんでした!!』
だよ?
ふざけてない?
私、ミリーみたいに暴力は振るうけど、優しいよ? 理不尽な暴力は振るわないよ?
とまあ、こんな感じで立場が上がって、恐れられるようになったのさ。
ユキさんと結婚しているミリーがうらやましい!!
だってさ、ミリーとの会話の大半は仕事かユキさんの話なんだよ。
あとは、ほかの奥さんたちと子供たちの話。
のろけを毎日聞く私の身になって。
ぐぎぎぎ……。憎しみで相手が転んだりすればいいのに。
あ、駄目だ。ミリーはおなかに赤ちゃんがいるから転んだりは駄目だね。
えーと、指とかを包丁で切るのもよくないだろうし……。
あ、イチゴのショートケーキでイチゴだけ誰かに食べられればいいんだ!!
あれはショックだよー。
と、そんなことを考えながら、執務室へ向かっていると、その扉が開かれて、ロックさんが出てきた。
「なに、ひどい殺気を放ってやがる」
「イチゴ返してください」
「いや、あれは何度も謝っただろう。イチゴのショートケーキがこうテーブルの上においてあって、だれもいなかったからイチゴをひょいと食べてしまっただけだ」
そう、何を隠そう、私のイチゴのショートケーキでイチゴだけを食べるという悪魔の所業をしたのはこのウィード冒険者ギルドのギルドマスターロックさんだったりする。
あの時はいざケーキを食べようとしたら、受付で問題が起こったと報告があったので、席を一時的に外していたのだ。
そして戻ってきてみれば無残な姿のケーキ。
私は言葉を失ったね。
「……ひどいわね」
「……悪魔も恐れるしょぎょう」
「あの……、流石にあんまりだと思います」
3人も同意してくれる。
わかるよね? ひどすぎるんだよ。
「いやいや。最後までちゃんと説明しないか。俺が悪いみたいだろう」
「いや、ロックさんが悪いですし」
「そうね」
「悪い」
「人のものを勝手に食べるのは、その……だめだと思います」
「だから、そのあと、お前の要望通り、ホールで買ってやっただろう!! ギルド職員全員から同じように睨まれた俺は十分に財布と精神的に罰を受けただろ!!」
そんなこともあったなー。
ま、イチゴのショートケーキからイチゴだけ食べるという所業はそれだけ罪が重いということだね。
「そんなことより、3人は例のクエストで来たんだろう?」
「あ、はい。下でいきなりトラブルでしたよ」
「あー。まあ、予想通りではある。ちゃんと3人で対応したんだろう?」
「私一人で十分だったわよ」
「そうか。ま、これからは朝の仕事も増えるからな。そういう手合いは今日のようにしていいぞ。無論、ギルド職員の立ち合いの下でな」
やっぱり、ロックさんは今日のトラブルは予想済みだったか。
ドレッサのトラブル率を考えるといつものことだけど。
「さて、さっきの出来事はこれで終わりだ。今からクエストの話に入るが、いいか?」
「いいわよ」
「おーけー」
「はい。大丈夫です」
3人の返事を聞いてから、ロックさんは一呼吸ついて話し始めた。
「一応仕事の内容は把握していると思うが、私からも言っておく。今回、3人に与えられる仕事は、冒険者区での情報収集だ。表向きは清掃活動ということにはなる。その表向きの活動のための腕章がこれだ。すぐにつけてくれ。キナ」
「はい」
私はロックさんからすぐに特別清掃員と書かれた腕章を受け取って、3人に渡す。
「左腕の上腕のところぐらいがいいだろう」
3人ともロックさんに言われた場所にささっとつける。
「ねえ。そういえば、清掃員なら作業服とかないのかしら?」
ああ、ドレッサは清掃員の仕事を受けていたんだっけ。
「残念ながら、清掃用の作業服はない。今回は、ウィード政府の清掃部へ冒険者ギルドが派遣するのではなく、冒険者ギルドが独自の清掃体制を構築するという建前になっている」
「?」
「えーっと、どういうことでしょうか?」
「いみわかんない」
3人とも難しい言い回しで首をかしげている。
「ロックさん。流石に難しいですよ」
「あー、簡単に言うと。ギルド独自に冒険者区をお掃除する仕事を作るってことだ。ドレッサは知っているだろうが、ウィードの清掃員は全然足りていない。なので、冒険者区は冒険者ギルドの管轄だから、自分たちで掃除しようという話になったわけだ」
「なるほどね」
「自分で自分のお部屋お掃除。納得」
「いや、ヒイロは部屋散らかってるからね?」
「と、建前はこんなところだ。本当の狙いとしては、知っての通り情報収集にある。最近ウィードで妙な話が出てきているのは知っていると思う。まだ、妙な噂で済むレベルではあるが、放っておくのもよくないということで、このお仕事を組んだわけだ。ギルド独自の清掃員という形をとっているのは、ウィードの政府関係者だと思われないため。それと、冒険者全体の意識改善と住人たちへ好印象を与えるためだ。最後に、君たちのウィード学校の学生冒険者たちがなじめるようにだ。まあ、これにはよそからやってくる冒険者たちの認識も変える必要があるんだが、君たちが顔を出すようになればおのずと改善されるだろう」
「……なんとかわかったわ」
「……よくわからない」
「はぁ、あとでちゃんと説明しておきます」
あはは、ヒイロには難しいかな?
「そこまで難しいことじゃないよ。ただ単に、清掃のお仕事をして、怪しい人や噂がないか調べて欲しいんだ。私たち大人の冒険者が掃除すると警戒されるし、ウィードの職員も同じだから」
「そうだな。キナの言う通りだ」
「わかった」
さーて、あとはこの袋と軍手、ゴミばさみを渡して……。
「これで準備は完璧ね」
「今日の清掃場所は、この大通りの近辺だな。路地に入ると結構ゴミが散乱している」
ロックさんが清掃場所の説明を始めると、ドレッサとヒイロが首をかしげている。
「建前じゃないの?」
「なにか、真剣にお掃除するってかんじ……」
「当然だ。建前とはいえ、仕事だ。ごみを回収していない清掃なんて意味がない。そして、実を言うと清掃もしっかりしてほしいのは本音だ。冒険者区にはまだまだウィードの常識がいきわたっていないからな。ごみが多く、衛生上よろしくない」
「あははー。未だに粗相を路地でしてるバカも多いんだよね」
「ちょ!? それも掃除するの!?」
「うん。まあ、これは特別報酬だすから。あと、用を足しているバカがいたら現行犯でしょっ引いていいからね」
「うへー……」
ヒイロ、ごめんねー。
私もこのクエストはどうかと思ったけど、粗相をそのままにしておくのも大概だからねー。
ウィードに来て衛生管理の重要性がよくわかったよ。
昔はよくあんな糞尿の香りの街を歩けたと思う。
「わかりました。では行ってきます」
ヴィリアは当然と思っていたのか特にいやな顔をせずに返事をして、すぐに仕事に出ようとするが、2人はその返事と行動に驚いていた。
「えっ!? ヴィリアは平気なの!?」
「……ばっちい」
「平気ではないですし、ばっちいのは嫌いです。でも、お兄様たちや私たちが暮らしているウィードを汚されて放っておいている方がもっと嫌です。なにより、情報収集という大事なお仕事を任せてくださったお兄様やラビリスたちに申し訳が立ちません。2人がしないのなら私1人でもやりますよ」
「むう。わかったわよ。」
「……がんばる」
2人もヴィリアの答えに納得したのか、一緒に扉に向かう。
「何かあったらちゃんと連絡してね」
「はい」
「ぎったんぎったんにしてあげるわ」
「悪者たおす」
ヴィリアはともかく、やっぱりドレッサとヒイロは何か心配だなー。
でも、ヴィリアがいるから大丈夫かな? なんて思いながら3人が部屋を出て行くのを見た後、ロックさんに向き直る。
「というか、なんでいきなり本命の場所の清掃なんてさせるんですか?」
そう、指定した清掃場所には私たちがマークしていた人物がいると思われるのだ。
いきなりそんな場所に3人をやって大丈夫なのかな?
「逆だ。清掃活動をしていると噂がたてば移動するかもしれない。そうなると追うのが面倒だ。だが、その清掃活動をしているのが子供と直接見ればどう思う?」
「あー。子供のお小遣い稼ぎって感じですか?」
「そうだ。まあ、移動しないとは言い切れないが、わざわざこんなわかりやすいところで目撃されているバカだ。こいつは」
そういってロックさんは一枚の写真を私に見せてくる。
「ロシュールのところの外交官ですよねー。この人」
「ああ、わざわざ提供されている要人用の宿泊施設からこっちに来ているんだ。あからさまだろう」
「セラリア、ロシュール両陛下には?」
「いうわけがないだろう。まだ嫌疑の状態だ。証拠が見つかったわけでもない。セラリア様に言えば実力で排除にかかるだろうが、それではロシュール側から何かしら反発があるのは当然だ」
「でも、あからさまに何かしてるでしょう。それに、セラリア様のお父上はロシュール陛下ですよ? 問題なく排除できないんですか?」
「そう簡単にいかないのが政治の世界なんだよ。ロシュールの方にもセラリア様が一人勝ちみたいな状態で悔しがっている連中もいるんだ。親だからといって、かばうとまた国内が割れかねない」
「それなら、私たちがウィードに協力しているのはいいんですか?」
「それは、この依頼自体がウィード警察からの出資だからな。警察はほかの国なら騎士団に該当して、普通なら反目しあう組織なんだが、ここはそういう頭の固いことはない。ということで、出資者、依頼主、そして協力体制による治安の向上もしっかりと見込めるから、なにも問題ない。政治家連中が文句言って来たら、依頼ですって躱せるからな」
ああもう、面倒ですね。
「……はぁー。私を受付に戻しません?」
「駄目だな。ミリーもいないんだから。しっかり働いてもらうぞ」
うう……。私の婚期が遠のいていく……。
さてさて、既に冒険者ギルドの方は尻尾をつかんでいる様だ。
あとは、ヴィリアたちが証拠をつかんで来れるのか?
そして、その証拠をもとにユキはどう動くのか!!
さてさて、そこはいいとして、もう8月も終わりでやんす。
なにか、落とし穴の夏イベントでやり忘れていることとかある?
この話見てみたいとか?
あー花火大会はもう一度やってるから、パスで、他ね。




