第407堀:公園でのお仕事
公園でのお仕事
Side: ユキ
「……暑い」
「クリーナ、言わないでよ」
「それでも、ユキから離れないお二人には、感心いたします」
「……言わないでくださいませ。愛があるから耐えられるのですわ」
ウィードは只今、午後1時過ぎ、お昼時。
普通なら、仕事も休憩時間でこの公園まで足を延ばして休みにくる人もいるのだが。
じーわじーわじわわわわ……。
と蝉が大合唱をしていて、公園に大時計と一緒につけた気温計は……。
34度。
くそ暑い。
公園のコンクリートの道は揺らいでいて、陽炎がすでにできている。
……こんな蒸し暑さまで日本に似なくていいだろう。
そのおかげで、公園にいる人はまばら、というかほとんど見ない。
流石にここまで暑いと室内でクーラーをかけていた方が楽だろう。
俺も絶対に公園に出てきたりしねえ。
嫁さんだからくっついている暑さにも我慢できるが、他人ならお互い暑くならないように距離をとっているだろう。
……しかし、人がいないとなると、無駄足か?
でも、いったん来たし、このまま回れ右だと、ここまで来た意味がない。
はぁ、ぐるっと見て回るだけ見て回ってみるか。
というわけで、嫁さんたちと一緒に、この煉獄の公園に踏み入った。
予想通りというか、公園の入り口のベンチにおばあさんがのんびり、座っていたぐらいで、中では人を見ない。
この公園、それなりに大きい公園で、周り一周8キロぐらいかかる公園である。
まあ、そのままぐるっと8キロというわけではなく、曲がりくねった散歩道が4キロぐらいというだけで、実際の大きさはそこまでもない。2キロ四方ぐらいだ。
その中に、林や、泉、芝生、滑り台などの遊び場、休憩場を配置してそれが半分を占めて、よい子供の遊び場、大人にとってはいい散歩道コースというわけだ。
もちろん、こういう場所で人を襲う不届きな者がいないとは限らないので、警察が夜の巡回は厳重にして、昼も軽い巡回をしている。
それを考えると、演説しているやつは、そういう警察の巡回を掻い潜っているってことか。
それとも、警察のほうに報告がいっているのか?
ま、それは後日、警察に行って確かめてみるか。
今は、公園の様子を見るだけ見よう。
俺たちの今日の行動を無駄にしないためにも。
幸いというか、不幸というか、何にも騒動もなく、のんびりと公園を回ることになる。
その道中、ごみ箱が見えたので、クリーナが食べ終わったアイスのごみを捨てにいく。
ごみ箱は回収した後だったのか、特ににおいとかは漂ってこない。
これは、今日の炎天下に感謝なのかもしれない。
お昼休みで、弁当を食べた人たちが大量に捨てていたら、ごみ箱のにおいがとんでもないことになっていただろう。
「……この公園は不思議」
戻ってきたクリーナは唐突にそんなことを言い出した。
「なにが不思議なの?」
「……この公園は整いすぎている。ごみも落ちていないのはともかく、木々や芝生が生えすぎていない」
「ああ、それはそうです。この公園はちゃんと清掃と剪定といった専門の人を雇っていますから」
「公園にわざわざですの? 特に観光名所でもないのにですか?」
クリーナとサマンサはなんでそんなことをするのか、と不思議そうな顔をしている。
まあ、公園の規模とかによるが、その町内で清掃とかをすることもあるだろう。
あと、収入源も乏しい場所にお金をかける理由はないという話だ。
「ここまで大きい公園だからな。住民の好意だけじゃ清掃や剪定が追い付かないのは、二人が想像した通りだ。だから、ちゃんとそういう清掃要員を雇って綺麗にしている。あと収支の関係で言ったら、マイナスではあるけど、今日はこの暑さで人は少ないが、普段はお昼には弁当とか、お散歩とかでそれなりに住民が集まってくるからな。そういう人に気持ちよく利用してもらってリフレッシュしてもらうのは、最終的にはプラスになると思う。汚い公園があるのと、綺麗な公園があるのと、どちらがいいかみたいな話だ」
「……ん。理解した」
「確かに、わざわざ作った公園が清掃されなくて、汚くなり、悪いことの温床になるようなことがあれば、何のために作ったのかわかりませんわね。治安維持のための一環みたいなものですか」
「ま、そういうことだな」
ウィードにはこういった、公共機関の清掃や剪定を行う組織ができている。
所謂、清掃業者である。
これも、ウィードの政府が運営している公務員という役柄だが、トイレの清掃などや、回収も含まれているので、結構キツイ職種であり、それなりに給与もいい。
文字通り、ウィードの清潔、つまりは衛生を良く保つ仕事なので、力を入れているところだ。
間違っても、後ろ指をさされるようなことがないように、住人にはしっかりと説明している。
だが、なんというか、もと農家の関係の人が多かったせいか、糞尿臭くてもそこまで気にしなかったりする。
家畜にはつきものの香りだからな。
あとは、体や服はしっかり洗うことを、作業が終わった後、仕事中の最後の義務としているので、本人たちの衛生管理もばっちりであり、ほかの住人に臭いといわれること自体少ない。
ま、だからと言って、ウィードという場所で、しっかりとした衛生観念を教えられた今、わざわざ、ひどく汚れる仕事をしたいという人はそこまで多くない。
仕事を選ぶのは自由なので、だいたいほかの職種に行ってしまうことが多く、この職場には訓練所を出たばかりの人が来ることはまれらしい。
最後にくるような施設だ。
人手不足の陳情はよく上がってくると、セラリアやエリスが頭を悩ませてたっけ。
まあ、今のところ、ウィード住人の働き手たちの手が余ることはない。
驚きの就職率100%である。
まだまだ、ダンジョン内でも未開墾地域はあるし、俺が作った海のリゾート地域の管理とかいろいろ人手がほしいところだったりして、全体的に手はまだまだ足りていない。
が、それはよその国も同じだ。
連合内での平和が確定したいま、前も話したように戦うべきは自国の土地。
つまり、開墾できる人手がいくらでもほしいわけだ。
この状況は、ウィードのDP機能を使って、国々にあった作物を探しては育ててみて、良さそうだったら特産品にするみたいなことをやったのが原因。
ということで、小国が経済破綻をしないように、大国を含めて多くの国々が協力して調整している。
国が無くなることの方が、今の状況では面倒でしかないからな。
いずれ、原因がはっきりしていない貿易摩擦なんかも起こるだろうが、それは各国の頑張り次第だし、俺には関係ねー。
ウィードは基本、技術提供と、貿易の橋渡しなので、その関係でお金を手に入れているだけなので、その関係で恨まれるようなことはない。
基本的に観光産業や飲食業、あとはダンジョン産業でお金を得ているだけである。
ま、量が量だし、連合に入らなかった国としては、それを作り上げた起因として恨みつらつら。で、その連中を今探しているわけだが……。
「ま、そう簡単に見つかるわけないよな」
「そうですねー。こんなに暑いですし」
「……ん。こればっかりは仕方がない」
「ウィードの政策がうまく行き過ぎているせいですね。問題を起こしたい国々としては、ここまで巡回やら治安維持がしっかりしているとやりづらいでしょう」
「ですわね。居住区の活動は、まず前提に潜入できる人が限られますし、怪しい人物というのであればだれでも出入りできる冒険者区画のほうが良かったのでは?」
「そっちは後だな。あっちは怪しいやつでいっぱいだろうから」
「あー、確かに」
「……変な人は確かに多かった」
「まあ、開放している地区ですからね」
「まずは、住人の安全を図ってからというわけですね」
「そうそう。まずは足元を固めてから、ほかの……」
俺が言葉をつづけようとしていた時、公園の隅で袋を持った数人の人が見えた。
「お、今日はここの清掃か。ほら、ああやって清掃や剪定を毎日、公園の箇所を絞ってしているわけだ」
「あ、本当だ」
「……あの服装よく見る」
「あれが清掃の服装ですか」
「この暑い中。大変ですわね」
うん。サマンサの言う通り、この炎天下の中、草取りに、ゴミ拾いとかどこかの罰ゲームみたいに見える。
お仕事って、ご飯を食べるって大変なんや。
そんなことを、異世界に来て何度も思う。
どこにもファンタジーなんてなかったんや。
ただ、魔術があるだけで、生活に四苦八苦してるのは一般人では同じこと。
働けど働けど我が暮らし楽にならず。
いや、なるべく楽になるように、手は回しているけどね。
「……? あの人。なにか見覚えがある」
その人たちを眺めていると、クリーナがそんなことを言い出した。
んー?
クリーナが知っている人となると、俺が知っている可能性は高い。
だれだろうと、しっかりと一人、一人、顔を確認してみる。
同じ作業服だと、知り合いがそこで働いているとしらない限り、顔なんて意識しないからな。
で、その作業服の中で、肌が小麦色の子を発見。
この近辺では珍しい肌色で、体つきは小柄な女性。
となると……。
「ドレッサか?」
「はい、なんですか?」
俺がそうつぶやくと、ドレッサに声が聞こえたみたいで、すぐに立ち上がって、こちらを振り返る。
なぜか、ドレッサは清掃員の作業服を着て、清掃の仕事をしていた。
「って、なんだ。ユキたちじゃない」
俺たちの顔を確認するやいなや、すぐに砕けた話し方をする。
というか、あんなしゃべり方できたのな。
お姫様のツンツン娘で、ああいうのはできないと思っていたのに。
「こら、バイト!! この人になんて口の利き方するんだ!? すいません。ユキの旦那」
「……班長だって、あんまり変わらないじゃないですか。旦那なんて呼んで」
「俺はいいんだよ。ユキの旦那とは仲良くしてもらってるんだから、ラーメン屋台でいつもな」
……ああ、いつもラーメン屋に顔だしているドワーフのおっさんか。
最近は忙しいから、自宅待機の嫁さんたちに代わってもらったりしていて、あまり俺がラーメン屋台を営む回数は減っている。
「あ、別に構いませんよ。これ、俺が連れてきたんで」
「え!? 旦那の客人なんですか!?」
「ああ、特別扱いとかしなくていいですから。しっかりこき使ってください。それを望んでこの仕事手伝ってるんだろう?」
「ええ。だから班長、気にしないでください」
「おう。そういうことなら任せときな。で、なんで旦那は公園に? 今日は暑いから、散歩には日が悪いですぜ?」
「みたいですね。いい加減、日がきついから戻ろうと思ってたんですよ」
「だらしないわねー。海の近くなんてこんな日差しじゃないわよ?」
「海育ちじゃないんでね。で、ドレッサは清掃員の仕事始めたのか?」
「違うわよ。臨時のバイト。午後からの自由学習で冒険者ギルドからの依頼。ウィード住民票を持っていて手伝いができる人って条件だったからきたの。アスリンたちは学校でほかの子供たちの勉強教えているわ」
「なるほどな。しかし、やっぱり人が足りませんか?」
「そうですなー。やっぱりちと少なくは感じますな。何せ冒険者区のほうからも、国の依頼じゃなくて、個人の依頼もありますから」
「ああ、冒険者区は個人商店とかも多くありますし、他所の人が多いせいか」
「ですな。まったく、トイレ以外で粗相をする奴が多くてかなわんですよ。冒険者ギルドのほうも最初は清掃という仕事をクエストで出していたのですが、全然人が集まらなくて、私たちのほうにって感じですな」
ああ、ミリーが怒り狂うからな。
最初の頃なんて、ギルドで緊急クエストだして、トイレ以外での粗相の取り締まりをやってたっけ。
「なるほど。俺の方からも、ちょっと話してみますよ。人が集まるかわかりませんが」
「頼みます。あと、ラーメン屋台またいきますぜ」
「ええ、その時はよろしく」
で、話が終わるころを見計らって、ドレッサが話しかけてくる。
「あ、そうだ。ユキってこの後は用事あるの?」
「ん? いや、家に戻ってご飯の用意ぐらいだけど」
「ならさ、少し相談に乗ってよ。もうすぐこのバイト終わるし」
「相談?」
「んー、ちょっとね。あ、場所はアスリンたちがよく行く喫茶店で。じゃ」
そう言うだけ言って、ドレッサは作業に戻ってしまう。
「どうする?」
「特に時間も押してませんし、いいんじゃないですか?」
「……ん。喫茶店で休憩は賛成」
「ドレッサからの話も珍しいですし、聞いてもいいのでは?」
「時間が押せば、帰ればいいだけの話ですし、問題はないと思いますわ」
「なら、喫茶店に向かうか」
ということで、公園の探索を打ち切って、喫茶店に向かうのだった。
夏の公園で散歩してる人とかタフだよなーって思うよな。
こうランニングしてる人とかすげーって思う。
俺は家でのんびりゲームとか執筆に限る。
さて、気が付けばもう7月も後半。
前期後期で別れている学校は既に休みかな?
そうでないところも、もう夏休みに入ってる?
ま、なんにせよ。
これから夏休みだ!!
あと、活動報告を明日27日あげます。
いつもの質問コーナーですのでお楽しみに。




