落とし穴66堀:ぼくらの夏休み2 昆虫王者の捜索開始
ぼくらの夏休み2 昆虫王者の捜索開始
Side:タイキ
ユキさんの案内の元、森の中へ入って行く。
「アイリ、無理してないか?」
「いえ、大丈夫です」
まさか、お嫁さんのアイリが付いてくるとは思わなかった。
カブトムシやクワガタムシは確かに、子供に人気ではある。
だが、セラリアさんのように毛嫌いする人も、普通に日本でもいる。
だから、虫にあまりいいイメージを持っていない、こっちの世界の人が付いてくるなんてのは、無理をしているというイメージがあった。
ユキさんのお嫁さんたちは、普通についてくる人とついてこない人に分かれたから、ついてくる人は無理しているようには思えないけど、アイリは色々無理して、俺について来ているような気がして気になった。
そんなことを思いながら見つめていると、観念したように苦笑いをしながら、アイリが口を開いてくれる。
「……正直な話、虫が苦手です」
「なら……」
「ですが、タイキ様が子供の頃遊んだということを是非とも知っておきたいと思いました。私の知らない、タイキ様が楽しんだことを体験してみたいのです。だから、きっとこの体験は悪いことではないと思うのです」
「アイリ……」
「大丈夫です。本当に嫌だったらすぐに帰りますので。だから、タイキ様たちが過ごしたという夏の遊びを教えてください。私も元々は宿の看板娘ですし。多少の虫ぐらいはへっちゃらですから」
「そうか。なら、俺たちの夏の遊びを存分に教えよう。まずは、このカブトムシ獲りからだ」
「はい」
無理はそこまでしてないようだし、それなら、思い切り、俺たちの夏休みを教えてやろうじゃないか。
そんな感じで、夫婦の仲を深めつつ、気が付けば、ユキさんが立ち止まっていた。
そこには立派なクヌギが立っていて、所々、幹から樹液が垂れているのがわかる。
というか、既にカブトムシやコガネムシなども見える。
昼間からここまでとは、下手すれば、夜でギリギリって思っていたけれど。
流石ユキさん、隙はなかったぜ。
「えーと、お兄さん。このボロボロの木がそうなんですか?」
ラッツさんはそんな風に、目の前の木を見て言う。
確かに、幹には結構穴が開いており、至るところ樹皮は剥けて樹液が染み出ているって様子は、今にも朽ちていきそうな木に見える。
針葉樹林とかは、こんな状態だとアウトだから、当然の感想か。
だが、広葉樹であり、虫の餌場、よりどころとしてのクヌギはこれが当然の姿だ。
「あー、結構ボロボロに見えるかもしれないが、これで正常だ。ま、近くに寄ってみてみるといい。ほら、こっちの樹液が出ている所な」
そう言われて、皆が近寄っていく。
無論、俺とタイゾウさんは、遠目で見るだけだ。
初心者ではないから、既に幹についている虫は把握している。
「アスリン!! 見るのです!! カブトムシなのです!!」
「わー、カブトムシさんがいるよ!!」
「へー、これがカブトムシかー」
「……実際見るのはやっぱり違う」
「なんか、とげとげしてるよね。脚とか」
「ふむふむ。これがカブトムシですかー。実際に農業の役に立つのなら、これを育てる商売もできるかもしれませんねー」
アイリもみんなと一緒に近寄って見に行っている。
叫ぶこともないから、ひとまずは安心だな。
最悪、台所に現れるGと同じだって言う人もいるからなー。
俺としては全然違うんだけど、向こうからすればどっちも虫でしかない。
「さて、これからちょーっと、説明をするぞ」
ユキさんはそう言って、樹液を舐めているオスとメスのカブトムシを足が取れないように、そっと引きはがす。
「見ての通り、カブトムシとかクワガタムシは足が鉤爪状になっていて、これを幹に引っ掛けているんだ。無理に引きはがそうとうすると、足がもげるから、優しくするように。で、この角が生えているのがオスで、角がないのはメスだ。今回の目標としては昆虫相撲をする予定だから、なるべくオスだな。体長コンテストについては、角は計測しないからメスでもいい」
ふむふむ。
日本と同じだな。
いや、日本以外のやり方とか言われても困るけどな。
「そして、カブトムシを見つけやすい木は、このクヌギだな。見ての通り針葉樹と違って、結構特徴的だから、探すのは難しくないと思う。カブトムシとかが付いているかはしらないけどな。本来は、カブトムシやクワガタムシは夜間に行動することが多いから、こうやって日中に樹液が出ている所を確認して、夜に捕りに来るのが一般的だ」
「お兄さん。その話だと、日中はあまりいないように聞こえますが?」
「そうだ。基本的には日中は土の下や、幹の隙間、枝の陰なんかに隠れている。だから……」
ユキさんはそう言って、足を上げて、幹を蹴る。
ボトボト……。
おお、落ちるもんだな。
ああ、ステータスとか上がってるから、効果的なのか。
下手すると木を折りかねないから調整がいるな。
が、そんなことを考えていたのは、俺やユキさん、タイゾウさんぐらいで……。
「「「きゃーーーー!?」」」
真上から、虫たちの絨毯爆撃を受けた女性陣は叫んでいた。
うん。冷静に考えれば女性としては正しい反応だよな。
そして、女性陣が落ちついたころに、ユキさんがまた説明の続きをする。
「……このように、周りに人がいると迷惑になるし、落下の衝撃で破損する虫もいるからあまりお勧めしない。それで、この虫網だ」
恨みがましい女性陣の視線を受けつつ説明をするとか、流石ユキさん。
俺には決して真似できないね。
といけない。そう、ここで便利なのが虫網だ。
「まあ、魔術を使えばできるメンバーもいるが、基本的にこの虫網をつかって……」
ユキさんは、そう言って隣の木でミンミン鳴いているセミに向かって、網を忍ばせ、一気に捕獲する。
「こんな感じだ」
「兄様凄いのです!! ハンターなのです!!」
「ぶわーって一気に捕まえたね。セミさんは飛ぶのにすごいねー」
セミも慣れると素手でバンバン取れるけどね。
「なれれば簡単だ。カブトムシもクワガタムシもいざとなったら飛ぶしな。下手に魔術で空を飛んだり、木の幹をよじ登ったりすると感づかれて逃げられる」
「……ん。理に適っている」
「ですわね。しかし、これは一種の技量もいるわけですわね。なんだが楽しくなってきましたわ」
「サマンサの言う通り、木や虫を見つける、観察眼とか注意力。そしてそれを捕獲するための手段の考案。などなど、そういうのもいるな。まあ、遊びだから気楽にやるといい」
ユキさんが言うとなんか大層なことに聞こえるけど、最後に言った通り、遊びだしなー。
「あと、幸い。さっき落ちてきた中にクワガタムシが二種類いたので、それを見せよう」
ユキさんはそう言って、虫かごの中から、ノコギリクワガタとヒラタクワガタを取り出した。
明らかに種類が違うのでアイリたちも分かりやすいだろう。
ミヤマクワガタとノコギリクワガタとかパッと見、区別つかないもんな。
ザ○F型と○クJ型みたいな感じ?
「このように、クワガタムシは結構種類が多い。カブトムシはこの一種類だけだが、クワガタムシは全部が昆虫相撲の対象。そして、体長勝負はカブトムシだけにさせてもらう。種類で体長の平均とか違うから、混ぜるわけにはいかないからな」
「え? お兄ちゃん。それだと小さいクワガタさんは勝てないよ?」
アスリンちゃんが不思議そうな感じで聞いてくる。
しかし、それは違うんだよ。
「アスリン。カブトムシやクワガタムシはとても力があって、自分より5倍ほど重くても引っ張れるんだ」
そう言って、捕まえたカブトムシの角の先をひもで結び、バナナに結び付ける。
体格的には二倍。重さは5倍って言わないだろう。
だが、カブトムシは特に問題が無いようにそれを引きずって見せる。
「「「おおー!!」」」
その実演のあと、バナナを剥いてカブトムシにあげる。
流石に子供の時のように、使うだけ使ってポイってのは気が引けるからな。
「と、カブトムシもクワガタムシも体格なんかほぼ関係ない。気合いと闘志がある奴を見つけるのが大事だな。無論、体格がいいのはそれだけ有利だけどな」
そして、虫取りの説明が終わった後、ユキさんは地図を広げ始める。
「これが、この森林の地図だ。四方が凡そ3キロ。この中で適当にクヌギとかを配置しているから、それを見つけて、この後の体長勝負と昆虫相撲用の、いいカブトムシやクワガタムシを探すってのが、まずは最初の目標。最悪、このクヌギからとってもいいけど、それじゃつまらないよな?」
ユキさんがそう言うと全員頷く。
そりゃー、自分で見つけるからいいんだから。
教えてもらったところで捕獲とか、本当に最後の手段だ。
「制限時間は2時まで。それから集合して、体長勝負、昆虫相撲をする。あと、昼食は弁当を持ってきていると思うけど、各々ちゃんと食べるように。虫取りに夢中で食べませんでしたは駄目だからな。休憩も大事。水分補給も忘れないように」
当然の注意事項をしてから、いよいよその時がやってくる。
「よし。じゃあ、10時近いし、始めようか」
「「「はい!!」」」
「あ、森で怪我したらちゃんと連絡するように。気を付けてなー」
そう言うと、皆は思い思いに森の中へ入って行く。
アイリはさっきの説明に触発されたのか、俺よりも大きくて強いカブトムシを探しに行くと、リーアさんと一緒に行ってしまった。
楽しんでくれるのはいいけど、放っておかれてちょっと寂しい。
で、そろそろ、俺もと思っていたが、2人だけその場を動いていない人たちがいた。
「で、ユキさんも、タイゾウさんもなんで動かないんですか?」
「ん? いや、なあ、タイゾウさん?」
「ん? ああ、当然だな」
「???」
俺が首を傾げていると、2人とも俺を見てため息をついた。
「駄目だな。都会っ子はこれだから」
「……タイキ君。戦いは常に非情なのだよ」
2人はそう言うと、まず、弁当を取り出してその場で食べだす。
「はい!? まだ9時ですよ!?」
「いや、動いて食うとか馬鹿らしい、時間のロス。あと日が高くなって飯とか暑くて辛い」
「だな。まずはさっさと食ってから探す。というか、こんな小さい森林で迷子や遭難はないだろうし、2時終了だ。この程度なら、私の子供の頃は昼飯なぞいらなかった」
「そりゃそうでしょうけど……」
「ま、昼飯を食うこと自体は悪いことじゃないし、森歩きに慣れていない嫁さんたちはちゃんとした方がいいと思ったしな」
「うむ。それは間違っていない。で、タイキ君は飯を食べんのか?」
「……あ、はい。食べますよ」
確かに、二人の言っていることはわかるので、そのまま一緒にご飯を食べる。
うん。用意してもらったものだけど、十分に美味い。
アイテムボックスの時間停止は大きいよな。
腐る心配もないから楽だ。
「さて、飯は食べたし、タイゾウさんはどう動くつもりですか? 俺は主催者でこの森の製作者ですからね。不公平になりますから、タイゾウさんが探す場所で一緒に取りますよ」
ああ、そうか。
ユキさんはこの場所を作ったから、いいサイズのカブトムシやクワガタがいるところを把握しているのか。
それは確かに不公平だ。
「ふむ。……ユキ君。このコール画面の地図の正確性は?」
「完璧です」
「そうか。……ならば、この朽ち木があるところだな」
タイゾウさんは地図を少し見ただけですぐ場所を決定する。
「朽ち木? ああ、そうか。そっちは寝床になるんですね」
「その通りだ。タイキ君。木があるだけで虫が寄ってくるのは少数だ。周りの環境もかんがみて、寝床になりそうな、朽ち木があるところという感じだな。ひとまずは、こういった感じでめぼしい場所をさっと見て回ろう」
……なんだか、頼もしくもあり、真剣すぎてなんか気まずい。
「ま、素人の嫁さんたちに負けるのはあれだしな。気合いれていこう」
「無論だ」
……あ、ガチだ。
遊びにこそ本気ってやつだ。
あっはっは、夏の落とし穴だから結構続く。
夏と言えばってのは山ほどあるから、ネタには困らないぜ!!
まあ、これを兼ねてウィードの発展具合も把握してもらおうって感じ。
まずは、息抜き回。




