第404堀:ゲートの経済説明と溜まる悪感情
ゲートの経済説明と溜まる悪感情
Side:ユキ
「はぁー……、お茶が美味い」
俺は執務室でのんびりお茶をしばいていた。
「美味しいですねー。最近はずっと栄養ドリンクだった気がしますし」
「そうですね。まあ、あれはあれでいいと思うのですが」
リーアとジェシカものんびりとお茶を飲みながら返事をしてくれる。
そうそう、報告書制作時はもう、お茶ではなく、栄養ドリンクの缶と瓶が散乱する状態だった。
「ん。簡単な栄養補給としては最適。あの修羅場には適切だった」
そう、クリーナの言う通り、3徹という修羅場には適切なアイテムである。
色々な理由が重なって、あんな無理な作戦をしたのだから、報告書のまとめを遅らせるのは不味いし、今後の展開に躓く可能性があるので、急いで終わらせたのだ。
俗に言う、漫画家や同人作家が命を燃やして原稿を仕上げる、修羅場モードというやつだ。
俺は基本、読む方だったので、手伝いは少々しかしたことが無い。
それでも、修羅場モードの中でのベタ塗りヘルプだったこともあって、凄惨な有様だったのをよく覚えている。
まさか、異世界にきて、自分が体験することになるとは思わなかったけどな。
ここに来て、夜も明るくお仕事ができるように、電灯とか光源を用意したことを後悔した。
「まあ、それは同意しますが。今後はやめていただきたいですわ。私たちの為にも、ユキ様自身の為にもです。ミリーさんが慌てて泣いていたじゃありませんか。お腹の子に負担が行っていないか心配です」
「それは以後気を付けます」
サマンサの苦言には素直に謝っておく。
流石に、ミリーの為のとはいえ、頑張り過ぎ、やり過ぎたとは、今になって思う。
俺がちょっと無理しただけでも、心配する嫁さんたちだ、3徹した後なんてなおさらだろう。
あの時は、ミリーが安心してゆっくり出産を迎えられるようにするために必死だったのだ。
それが叶って、ミリーが隠していた妊娠のことをようやく面と向かって祝ってやれるという気持ちが先行したのだ。
だって、俺のことを心配して妊娠していることを黙っていたとか、夫失格じゃね? と思ったのだ。
ま、今はミリーも普通に自宅で妊娠休暇をとっているし、万々歳である。
新大陸の方は新大陸の方で、細かい調整とか後始末をしているから、当分手出しはしなくていい。
つまり、現状、久々にのんびりできるのだ。
いや、ウィードも新大陸のことがあって結構ほったらかしにしていた部分もあるから、その処理はしないといけないけどね。
まあ、最初から政治とか経済部分は分担していたし、既に代表は殆ど変わっているし、嫁さんたちの負担も減っていて、俺が決裁する書類も、魔力枯渇関連や、各国の動向といった感じだ。
緊急を要するものは基本的に処理しているから、残っているのは、そこまで重要ではないもので、ゆっくりとこなしていけばいい。
「しかし、こうやってウィードの報告書をみていきますと、信じられないぐらいの経済状況ですね。軍人の私でも理解できるほどです……」
ジェシカは思い出したように、お茶を置いて、ウィードの年間収支報告書に目を通す。
そう言われて、クリーナもその書類に目を通すが、首を傾げるばかり。
「……私はよくわからない。そうなの? サマンサ?」
まあ、普通ならわからんよな。
国家の年間収支とか桁が違い過ぎて、どう判断していいのかわからないのが普通だ。
「そうですわねー。正直に言って、ありえないぐらいの額ですわね。基本的にウィードは1つの街だけの国家です。ダンジョンの階層で上下の土地を持って広いようにみえますが、見えるだけで、精々大国の少し大きい街と穀倉地帯という感じです。それなのに、ウィードに入ってくる、お金の額は、我が祖国ローデイや、クリーナさんの祖国アグウストの王都の収支を遥かに上回っています」
「……それはすごい」
「貨幣の価値の違いがあるので、正確には言えませんが、凡そ3倍近く違います」
「ええ、軍事費とかも、ジルバと比べて5倍は予算が違いますから。流石にわかりますよ」
「そうなんだ。お金のことは、私はクリーナと同じで分からないからねー。ユキさんの護衛だし。でも、なんでそんなに違いがあるんですか? ユキさん?」
リーアは不思議そうに聞いていくる。
……うーん。リーアに分かるようにするにはどう説明したものか。
ま、考えるより、普通に説明してみるか。
「簡単に言うと、ダンジョンのゲートを設置したおかげだな」
「ああ、それで商人さんとか沢山来るようになって、税金とか多いんですね」
「……なるほど。納得」
うん。理解は得られたが、そんな簡単な話でもない。
……深く教えるべきか?
俺がどうしたものかと考えていると、サマンサが口を開く。
「確かに、お2人の言うように、商人などの人の出入りが活発化してというのも1つの理由でしょう。でも、それだけではないから、ユキ様はゲートを設置したおかげといったのです」
「……どういうこと、ジェシカ?」
「……よくわからない」
「はぁ。まあ、2人は元々村人に、魔道の探求者ですから、こういったことには興味がないのでしょうね」
ジェシカの言う通り、リーアは村人から勇者にジョブチェンジ、クリーナは生粋の魔術師で、政治などには興味が無いタイプだ。クリーナの爺さんはアグウストの宮廷魔術師顧問だから、それなりに政治はできるだろうが、クリーナは人見知りがすさまじくて、改善するために学府へ来てたぐらいだからな……。そう言うのは知らなくて当然。
なるほど、本当に村人とか一部の事に優秀な人ほど、使いやすいことこの上ない。
考えられる駒は不適切ということだ。使い捨ての勇者などは特にな。
そう言う意味ではリーアやクリーナは物語などでは国の命で忠実に魔王退治に向かいそうだよな。
はぁ、保護できてよかった。いや、リーアについてはリリーシュが何となく勇者認定したようなものだったけどな。
「ですが、今や私たちは、ユキの妻です。全部を知れと言うのは私でも無理ですから、そんなことは言いませんが、ある程度は把握していることが、ユキの助けになったりします。いい機会ですから、なぜゲートを使ったことで、新大陸の大国を越える収支があるか説明いたしましょう。いいですね、ユキ?」
「2人が嫌がらないならな。無理に詰め込んでも仕方ない。どうする?」
「はい。頑張ります!!」
「……ん。私としてもこういう分野は今まで手を付けていなかったから興味深い」
実のところ、リーアは俺の護衛が主な仕事だったから、わざと教えていなかった。
嫁さんたちの方針だ。俺の説明することは常識という箱をひっくり返して、新しい常識の入れ物を作るところから始まるから、リーアがパンクして護衛にならなくなる可能性があるといわれたのだ。
いや、そう言われても、日本というか地球の常識感覚だからね?
クリーナの方は嫁さんになって日が浅いから仕方がない。
というか、ジェシカとサマンサが理解出来ているのが異常なのだ。
まあ、元々お金に困る立場だったからなんだろうが。軍人に公爵令嬢と、きっと頭の痛いことがあったんだろうなー。
リエルとか、難しいことはトーリに任せてると言って胸張って、トーリは泣いてたし。
アスリンとフィーリアは言わずもがな。そんなことを理解するにはまだ早い。
と、そんなことを考えている内に、ジェシカとサマンサがホワイトボードを引っ張ってきて、本格的に説明を開始しようとしている。
ホワイトボードの中央にはゲートの絵が描かれていて「ゲートがもたらすモノ」と上に書かれている。
「さて、まずは、リーアが言ったように、商人などの人の行き来が簡単になり、経済が活発化するというのがありましたね」
そう言いつつ、人の流通が増えて経済が活発化。と、書き込む。
「ですが、サマンサの言う通り、これだけが原因ではありません」
「というより、これは最終的な結果というべきですわね」
「……最終的な結果? リーア、わかる?」
「うーん……。あ、そうか。元々は戦争抑制の為に設置したんだっけ?」
「はい」
「新大陸までとはいかないまでも、ウィードの大陸でも戦争は起こっていますわ。しかし、それはあまりよろしくないというのは、コメットさんの報告などで分かっていると思います。なるべく、戦争という魔力が集まることを抑制し、ダンジョンでDPを稼ぐためにゲートを設置したというのが本来の目的ですわ。流石、ユキ様。既にこういうことを行っているとはすばらしい先見性ですわ」
いや、魔力云々は考えてなかったよ。
戦争抑制と経済流通の名目でDP集めようってのが当時の目的ですよ?
持ち上げすぎても困るわ。サマンサさんや。
「……それじゃ、お金が増える説明になっていない」
「そうですね。まあ、これはユキの本来の目的。という話です。では、なぜ、お金が増えたのかというと……、戦争抑制、経済流通の効果があったせいです」
「どういうこと?」
「……簡単に説明して」
いや、ある意味すごく簡単に説明しているんだけどな。
ま、分からないのが普通か。
「戦争の抑制、経済の流通が活発化するということが、いまいち分かっていないようですわね。戦争が抑制されて、今では迂闊に戦争を吹っかけると、自国が滅びかねない状況に陥っているのは、分かると思いますわ。さて、そうなると、国としては力を入れるべきはどこでしょうか?」
「あ、それが経済ってこと?」
「……なるほど。戦争で分かりやすい領土を増やすのではなく、物を売ることで、国力を上げるしかない」
「はい。正確には違いますが、クリーナさんの言うように、国力を上げるためというのは間違いではありません。が、正直な話、需要が圧倒的に増えたのです」
「増えた?」
「あ、そうか。ゲートで色々な国と行き来が簡単になったから、売る場所が増えたんだ」
「はい。リーアの言う通りです。売る場所が増えた。なら、もっと生産しようということになって、今や各国では特産品の生産に力を入れまくっています。戦争なんかしなくても、畑を耕すだけでいいのですから。殺し合いをするよりも、楽なものです。戦争を抑制して、こういうふうに、他国に輸出するための農地開拓などの事業ができたので、盗賊は激減。雇用の拡大。ということで、全体的にお金の行き来が激しくなっているわけです」
「その結果。その戦争抑制、経済流通を一手に担っているウィードの年間収支はぶっ飛んでいるというわけですわ。この結果が、リーアさんの言ったように人々が安心して行き来できる。という一番わかりやすい話になったのです」
「「なるほど」」
2人とも理解したようだ。
まあ、簡単に言えば経済戦争に突入したって感じだな。
「そっかー。みんな頑張ってるんだ。戦争が無くなってよかったね」
「ん。殺し合いよりずっと健全」
「はい。と、いいたいところですが、そうもいきません」
「え?」
「……なぜ?」
「世の中が平和になって、地面相手に戦いを挑んでいるのを好ましく思わないところもあるのですわ。それが主に、このゲートを使った戦争抑制、流通の活性化の流れに乗っていない国々ですわ」
「えーと……意味がわからない」
「……同じく」
「簡単にいいますと。戦争していれば、簡単に他国を征服して、武勲を得て、領土を広げられたのに。と思っていた国々ですね。私たちウィードがゲートを作った連合体制を構築したので、小国であってもこの連合に入っていれば迂闊に手を出せなくなったのです。無論、そんな野心を持つ国が、この連合に入るわけもありません。私たちウィードに煮え湯を飲まされているのですから」
そう、これからの俺たちのお仕事は主に、そういう国が相手になるのだ。
「キルエさんからの話では、既にそういった国々の工作員が入り込んでいるみたいですわ」
「え!? それって大変じゃない!?」
「……即刻捕まえて、首を斬る」
「そう言うわけにもいかないのです。しっかりと裏が取れたわけではありませんから。そういうことを調べる私たちが新大陸で忙しかったですし」
「ま、そんな感じで、今後のお仕事は警察と連携を取って、相手の国がどこか? 何を仕掛けているのかを調べるのが主になってくる。まずは、キルエとかサーサリが集めてくれた情報の精査だな」
そう言って、俺はドンッと、積まれた報告書を棚から取り出す。
「え? それってまさか……」
「そうだ。これをまず読むのがお仕事」
「……私、図書館に行ってくる」
「わ、わたしも、図書館にいくよ」
そう言って逃げ出そうとする2人だが、ジェシカとサマンサに捕まってそのまま報告書の山に目を通すことになる。
さて、俺も目を通すかね。
まあ、その中で厄介なのはルナが言っていた、神が王として君臨している国だろうがな。
……すごくめんどい気がするけど、一応使者を送って対話しないといけないだろうな。
えーと、確かノーブルの時にルナから貰った資料に、こっちの大陸で現存している神様とダンジョンマスターが……。
愛の女神 リリーシュ 健在だけど、殆どやくにたたねー奴ら。以下同文
剣神 ノゴーシュ
魔術神 ノノア
農耕神 ファイデ
獣神 ゴータ
ダンマス ライエ 引き籠りすぎて望み薄
ダンマス ジョルジュ 同じくヒッキー
以下複数
うん。
厄介ごとになるとしか思えねーわ。
これが、これからの問題となります。
ゲート連合国に参加しなかった国々の暗躍に対する対処。
そして、残してきたフラグも回収していきます。
タイキの所の馬鹿姫とか……。
しかーし、これから数話は落とし穴。
だって夏だもん!!




