第391堀:神と洞窟が目指したモノ そして 血の団長
神と洞窟が目指したモノ そして 血の団長
Side:ノーブル
「なるほど。そこで陛下たちは死んだのですね?」
「その通りだ。まあ、文字通り死んでいたかもしれないがな。先ほど言った通り、あの戦いで我が軍は全滅。斬っても斬っても、相手は後から湧いてくる。部下たちも勇戦したが、限界が訪れ、1人また1人と倒れていく」
「……」
「私も、サクリも、部下たちと変わらなかった。剣矢折れ力尽きというやつだ。気が付けば、血の海で寝ていた。だが私は生きていた。恐らく、返り血を浴びすぎて、死体と勘違いされたんだろう。いや、致命傷に近い傷もあったがな。幸いというか、あの乱戦でポーションを飲んでいる暇はなかった。だから、まだ持っていてな。それを飲んで傷を癒したあと、生きている仲間がいないか探して回った。それで、サクリを見つけた。まあ、私よりひどい傷でな。今のサクリになったという感じだ」
「そうでしたか。いや、大きな戦いでの致命傷をコアで補っていると聞きましたが、確かにその時ぐらいしか大きな戦に出ることはありませんな。陛下もサクリ様も」
「なんだ、聞いておったのか。まあ、その通りだ。サクリの体は一応繋がってはいたが、いたるところが食われていてな。胸にもぽっかりと穴が開いていて、既に死体と変わらなかった。だがな、生きていた。あんな状態でも我が友は生きていた。だから、とっさにコアを体に埋め込んだ。ダンジョンを維持するという能力があるのならば、体にコアを埋め込めば体をダンジョンと認識して再生、治療をするのではないのか? とな」
「そうでしたか。まあ結果としては良かったのでしょう。両足と片腕は無くなりましたが、生きておられます」
「宰相もサクリと同じことを言う、奴の手足を探しておけば、無くすことはなかっただろうと我は悩んだのだがな」
「それは贅沢というものですな。生きているだけでも良かったのです」
「本当に同じことをいう。まあ、そこはいくら話しても平行線だからやめておこう。というわけで、私たちは文字通り戦死扱いを受け、私もサクリもその状態で戻るようなことはなかった。……力のなさを思い知ったからな。さて、これからが、我やサクリが今の王に至るまでの話だ」
そう、力の無さを思い知った。
確かに、軍神などと言われたが、それだけだ。
戦が上手いだけではどうにもならなかった。
物資はサクリに頼り切り、兵に至っては国から下賜されただけ。
あの時もっと上の立場なら、いくらでもやりようがあっただろう。
目先のことだけにこだわりすぎて、結局、都合の良い駒で終わってしまった。
いや、それはいい。
大局としては、私やサクリなどを重宝するより、勇者に力をかけたのは間違いではない。
ただ、私は、自分の甘さが許せなかった。
このままで何とかなると思っていた。
自分の力でここまで来たのだから、きっとこの先もなんとかなる。
それだけで、現状の将軍という立場で甘んじていた。
元々が、農民の生まれだからというのもあるかもしれないがな。
まあ、あの戦いのおかげで、皮肉ながらこれでは世界を救う事などできないと痛感したのだ。
だから、それから数十年は体を癒しつつ、DPを細々と溜めて、策を練り、どうやって目的を達成するか。
それを必死に考えた。
「サクリ。私は思うのだ。結局のところ、王となるのが一番いいのではないか?」
「そうだね。人材、資源、権限と色々な意味で、王に成れればノーブルの目的に近づきやすい。でも、僕はこんな体だ。どうあがいても表舞台に立てるわけがない。だから、ノーブルがやるしかない。君が嫌った権力闘争にもきっと巻き込まれる」
「分かっている。だが、好き嫌いをしていては、きっとあの時の二の舞になるだろう。同じ愚を犯すわけにはいかない。あの時死んでいった部下たちの為にも、この世界を残さなくてはいけないのだ」
「……分かった。じゃあ、まずは王になることを目標に動いて行こう。しかし、ノーブルが王になるのはずーっと後だ、数年、数十年後ではなく、数百年は後かもしれない。それでもいいかい?」
「なぜだ? あれから数十年たったとはいえ。表に出れば大国になったエクスにも知り合いもまだ存命しているはずだ。そこから成り上がればいいのではないか? 私やサクリは不老なのだから」
「……だめだよ。不老の将軍なんて魔物の嫌疑がかけられかねない。たとえ、王に成れたとしても、そこからどうするんだい?」
「世界を救うのだろう? 魔力の枯渇をどうにかするのだ」
「……どうやって? なにをすればいいかわかるかい?」
「……いや、分からぬ」
「……最低でも、各国に協力を仰ぐことになると思う。情報を集めないといけないからね」
「それは、そうだな」
「だけど、今のままじゃ、協力なんて仰げない。見返りもないのに、目に見えていない世界の危機を救うためにといって頷いてくれるわけがない」
「……」
「むしろ、そんなことを言えば、無益な争いの火種になるかもしれない」
「どうすればいい?」
「……理想は、王になった時点で他国からの追従を許さないほどの圧倒的な力を手に入れていて、その力、技術力かはしらないけど、それを利用して、屈服させるなり、協力を仰げる体制を作ればいい」
「しかし、その力を手に入れるために王になるのではないのか?」
「うん。でも、予定が真っ白よりも、先が見えている方がいいんだ。例えば、聖剣を解析して使用制限を排除するとかできれば、それだけで戦力はグンと上がるだろう?」
「確かにな」
「あとは、僕たちだけじゃどう考えても手が足りない。信頼できる仲間が必要だ。そうじゃないと、王にもなれないだろう」
「……もっともだな」
「時間はかかるけど確実にやっていこう。情報も集めていけば、色々な案も増えるし、今すぐにやる必要はないんだ」
そうして、私は世界を駈けてまわった。
来るべき時に備えて。
「と、このような感じだったのだ」
「なるほど。その人材集めの結果が私ですか」
「うむ。当時、権力の中枢からつまはじきにされ、暗殺されそうになっていたお前を助けたわけだ」
「……感謝しておりますよ。正論を言うだけで暗殺されそうになるとは思いませんでしたからね」
「相手の欲を知らな過ぎたのが原因だな」
「ですな。しかし、そのあと当然のようにあの国は自滅しましたが」
「放っておいても沈む船に律儀に最後まで同乗する必要はなかったからな。お前の才覚は失うには惜しかった。そして、事実、今現在、宰相無しなど考えられん」
「過分なお言葉感謝いたします。しかし、今思えば、ヒフィー殿に対して静観していたのはなぜですか? 陛下が王となるよりも前に、ヒフィー殿は神聖国を立ち上げました。その時に向こう側に協力してもよかったのでは?」
「分かっていて聞いているな? 最近は冷静になったみたいだが、少し前までは、ヒフィーは憎しみの塊だった。私とは違い、人を救うために必死に駆けずりまわっていたのだ。恐らく、魔王戦役でコメットを失い、天才コメットが残した聖剣を勇者たちに託し、文字通り、あの時、ヒフィーは世界を救った。だが、彼女に残った物はなんだった?」
「……勇者への弾圧、幽閉でしたな。しかし、あれは、勇者側の無理な要求があったと聞きますが?」
「政治の世界だ、そう言うのはあって当然だとは思う。しかし、ヒフィーには絶望にしか映らないだろう。利権だけを求めたと。ヒフィーは文字通り身を粉にして、魔王戦役の時も傷ついた民の為に治療行為を必死に行っていた。そのお返しがあれだった」
「……報われませんな」
「私も、ヒフィーが建国したときは、そのまま協力しようと思ったのだが、その時既に、ヒフィーは壊れていた。生き残った勇者たちにコアを埋め込んで永遠の駒とし、今まで逝った遺体を集め、それを兵としていた。背筋が凍った。私がここで斬り捨てるべきかとも思った」
「なるほど。魔物のゾンビ兵の発案元はヒフィー殿だったのですね」
「そうだ。私は人の遺体を利用するというのは、どうにも踏み出せなかった。そこは恐らく、ずっと治療という場所で人の死を看取って来た者と、戦場で名誉の為に散っていったのを見た者の違いなのだろうがな。良い悪いではなく、ただの好き嫌いだ。遺体を使うということには何も変わりないからな」
「で、ヒフィー殿を斬らなかった理由は、そういう色々な案がほかにもということですかな?」
「ああ。流石、天才コメットと組んでいただけのことはある。色々見張るべき点もあったので、特に害がない内は様子を見ることにしたのだ。……壊れていても、人々を救うという信念は変わらなかったからな」
「でしょうな。神聖国の評判でついぞ悪いことは聞いたことはありません。ヒフィー殿は心の中で血涙を流していたかもしれませぬが……」
「だろうな。我もサクリもそこら辺を察して、ヒフィーが世界を滅ぼすというなら、協力体制を取って手伝うつもりもあった。なにせ、友のコメットまで、アンデッド化して利用し始めたからな。技術力という点で、私たちが敵う術がなかったし、世界もそれだけヒフィーに負担を強いていたのだからな。今後のことも考えると、我としては都合がよかった」
「確かに、ヒフィー殿を盾に我が国は安泰。そして世界を救うという共通の目標がある以上敵になりえないし、コメット殿が作った遺産も利用もできますな」
「ああ、その一つが魔剣の量産化などだが、それを利用しつつ私も王になり、聖剣の解析などをして、実験で使用者を限定してみたりもした、エナーリアのライト・リヴァイブなどだな。このように、いつでもヒフィーを支援できるように待機していたが……」
「ヒフィー殿が正気にもどった。ですか?」
「アグウストへの宣戦布告が撤回されたからな。……何がきっかけかはわからぬが。もとより、心の優しいヒフィーのことだ。これから起こる悲劇を民に強いるのは、などと思ったのだろう」
「世界を相手にするのならば、文字通り血の海になるでしょうからな」
「まあ、予測していなかったわけでもない。魔剣の劣化品ではあるが、それを水増しして各国に送り付け、ヒフィーが実行しなくてもそれが動かせるように手配はした。ただ、ヒフィーがトップか我がトップかの違いにすぎん」
「そして、今が大詰めですか」
「ああ。明日ヒフィーとコメットが来れば、私たちの勝ちは揺るぎのない物となる。ヒフィーは顔を顰めるのであろうが、神聖国とエクス王国では、地力が違いすぎる。それを理解すれば、必ず協力してくれるだろう」
「……だといいですな。最初の相手がヒフィー殿にならないことを祈ります」
「私もそれは避けたい。総合戦力としては、こっちが上ではあるが、ヒフィーの所は彼女を筆頭に、天才コメット、生き残りの勇者たち、今までの歴戦のアンデッドと単体戦力として強力なのが多い。負けないにしても手痛い被害を受けるだろう。だから、ポープリ殿たちも引き込んだ」
「感動の再会という演出も用意済みでしたな。フム、ならば敵になる公算は低いですな。悪くても傍観といったところでしょうか」
「恐らくな。とりあえず、明日の迎えはポープリ殿たちの時のように、後手に回ることが無いように」
「はっ。お任せください。というか、ワイバーンで飛んでくるのがおかしいのですが」
「だな。そういう意味でも、ヒフィーとの繋がりのある勢力と敵対するのは避けたい。と、そろそろ晩餐の時間だな」
「そうですな。今日はいいお話を聞かせてくださり感謝いたします」
「気にするな。いままで話してなかったのを許してくれといいたかったのだが。宰相に先手を打たれてしまったではないか」
そう言って笑いあっていると、執務室の警備兵から声が届く。
「陛下、宰相、血戦傭兵団団長がお見えです」
「通せ」
我がそう言うと、扉が開かれ、使い込まれた武具を着込んだ優男が部屋に入ってくる。
髪はブロンドではあるが、短くしていて、体つきはバランスが取れている。
よくよく見れば体中は傷だらけ。
その体から発せられるオーラは我が国の将軍と遜色ない。
「何ようだ。シュミット」
「例の開発が成功した。資料を置いて行く」
そう言って無造作に手に持っていた資料が我のテーブルへと放られる。
「シュミット!! 貴様、陛下への態度を改めろとあれほど言っただろうが!!」
宰相がそう言って、シュミットに近寄ろうとするが……。
ガキン!!
シュミットが振るったナイフと我の剣が交差する。
「ちっ、邪魔をするな。ノーブル」
「そう言うわけにはいかん。彼は我が右腕。宰相としての立場もあって言わざるを得んのだ」
「……そうかい。俺の用事は終わったから帰る」
「警備は任せたぞ」
「分かっている」
何事もなかったかのように部屋を出るシュミット。
それを見つめる宰相はどことなく寂しそうだ。
「……あのような誤解をされることをしなければ、称賛や名誉はいくらでも手に入ったでしょうに」
「……そう言うわけにもいかんさ。奴は、シュミットは、仲間を生かす為なら、自分への称賛や名誉など不要というやつだ」
「女子を仕入れてはゴブリンを孕ませているなどという、非常に不快極まりない噂があってもでしょうか?」
「不快だからといって、ゴブリンを身代わりにするのをやめれば、犠牲になるのはシュミットの仲間だからな」
「……不器用ですな」
「ああ。奴や、血戦傭兵団の為にも、成功させなくてはな」
シュミットは安寧の地を求めて、ここまで流れてきたのだ。
あの不器用で優しい一角の男を、汚名を被ったまま終わらせるのは惜しい。
我とは別の道を選び、泥水をすすっても、仲間を生かし、最後の一線は越えず、今も戦っているあの男は、ある意味、我より凄いのかもしれん。
そして今に至る。
世の中、真っすぐだけではだめって話。
色々な考え方があって、色々な思いがある。
物語のような分かりやすい、善悪なんてのはそうそうない。
あるのは互いの正義のみ。
そして、普通なら王道ストーリーで、今在る命を守ろうとする、ヒフィーたちと、未来の為に剣を振り下ろすノーブルとの盛大な大戦記になるのだが……。
この物語にはイレギュラーが存在している。
王道とか、願いとか、思いとか、どうでもいい奴が存在している。
いろいろ押し付けられた苦労人が。
そうそう、今日、「貞子 vs 伽椰子」やね。
機会があれば見たいと思う。
あ、あと活動報告に6月の質問コーナー載せてるから。
じゃーねー。




