第383堀:知るということはいいことだけではない
知るということはいいことだけではない
Side:ユキ
俺が珍しく、というわけでもないが、執務室で資料を真剣に読んでいる。
大体片手間で、他所に回すのが俺のウィードでの役どころだ。
そもそも、面倒事を自分で処理したくないから、奴隷を引き取って、後はてめえらで好きにしろよ。と、したぐらいだ。
俺にとってウィードはDP回収場所でしかない。
それを楽にする方法として、ダンジョンに人を呼び込んだわけだ。
特に国や街を作りたかったというわけではない。
俺が望む答えの過程にそれが存在しただけだ。
まあ、人々が幸せに暮らすということに否定もないから、手伝いぐらいはする。
だが、主導権を握るほど手は空いていない。所詮、俺は1人の人だ。
だから、嫁さんたちとか、大勢の人に頼ってというか、丸投げしている。
さて、その中で俺が資料を読んでいるということは、ウィードの関係ではないということ。
つまり、俺が主体で行わなくてはいけない話なのだ。
「……で、スティーブ。しっかりこの現場はみてきたんだな?」
「そうっすよ。しっかり写真も、証拠品も見たっしょ?」
とりあえず、資料に間違いがないかを、当の本人に確認する。
で、お約束の、目の前の現物みろやというセリフが返ってくる。
「はぁ。世の中は物事がスムーズに行き過ぎても駄目だなーって思うわ」
「それはおいらも同感っす」
さて、スティーブと無事に話しているということは、あの潜入作戦は無事に成功したのだ。
多大な戦果を引っ提げて。
スティーブの細かい経過報告は後にするとして、他の皆の動きがどうだったか? ということを整理しよう。
・ポープリ、ララ
ノーブルに誘われて、魔道具の検品に付き合い、陽動役をちゃんとこなす。
ノーブルは途中で退席するが、のちに合流した際の反応は悪くなく、良い関係を築けそうとのこと。
・エリス、デリーユ、タイキ、アマンダ、エオイド
同じく、陽動役その二。
ポープリたちと別行動で、城内やアーネの情報に探りを入れる。
その結果、恐らくアーネはドレッサの言うアーネである確率が非常に高いと思われる。
なお、外で昼食をとった場所は、モーブたちが良い肉を出してくれると言われた店だったのが確認されている。
陽動役としても、しっかりこなしている。
・モーブ、ライヤ、カース、ドッペルドレッサ
城下街、監視役。
朝、霧華と話をした以外は、特に変わった動きはない。
いつものように、ロゼッタ傭兵団と訓練後、飯食って、寝る。
血戦傭兵団からの接触はあの日以降、モーブたちに知りうる限りはない。
このように、陽動役が十分に機能してくれたおかげで潜入役は予定通りに、作戦行動ができ、目的を達成することができた。
余りにも上手く行き過ぎて、作戦司令部が状況に対して不安になったぐらいだ。
で、潜入役の多大な戦果というのが……。
・霧華
王城単独潜入。
大まかな、城内の地図を制作し、執務室へ潜入し、一部の資料の記録に成功する。
その後、執務室にネズミの魔物を残して、陽動役としての役も果たす。
手に入れた資料の内容は現在精査中である。
・スティーブ
通称、野生のゴブリンにしか見えないぜ作戦。
それを引き継ぎつつ、遺跡、ダンジョン内への調査を敢行。
4つの遺跡に部隊を向かわせ潜入調査の結果、スティーブが潜入した遺跡がダンジョンとして機能していた。中にウィードと同じような生活基盤があり、DP回収の拠点と思われる。住人の生活は詳しくは調べられていないが、特に奴隷などといったひどい扱いは受けていない模様。総数にしては、家屋からの予測では1万から2万ぐらい。この近隣の文明レベルから推測して、中規模な街ぐらいの人数がいると思われる。
そして、中の大きい建物で、魔剣のパーツの生産を確認。
勿論、その核となるコアも確認された。
全体の結果としては、珍しいぐらいの完勝といっていい。
しかし、その結果、面倒なことが浮上したというか、判明したというか……。
「……コアの生成に、魔物の魔石を使っていて、その残り、遺体をゾンビ化して兵力として再利用している施設を発見したと」
「そうっすよ。よかったっすねー。もう、使えないところなどない。どっかの食材の謳い文句っすね」
「食えねえけどな」
「そうっすね」
「「はぁーーー」」
2人してため息をつく。
「あのー。お茶飲みます?」
「リーア、甘やかさないでください。2人とも、何を疲れた様子をしているんですか」
「……結構どころか、凄く大問題な報告」
「そうですわね。なぜ、2人はそんなにやる気がなくなっているのか不思議なのですが。これは由々しき事態だと思えるのですが……」
俺の護衛として一緒にいつも仕事している4人も、無論、この報告書に目を通している。
そして、彼女たちの言っていることは正しい、これは結構な問題だ。
俺としては、魔物のゾンビ、アンデッド、と魔剣のコアは繋がりが無いものと思っていた。
この事実は、魔剣が増えることと、アンデッドが増えることが連動している、どっちも満遍なく増えているということだ。
まさか、魔物の魔石をそのまま、物々交換してコアにできるとは思っていなかった。
いや、たしかに魔石とコアの違いはその大きさである。
しかし、溶かして合体させれば機能が向上するという代物でもない。
ダンジョンの機能を使って、魔石をかき集めて生成することが可能なのがようやくわかったのだ。
DPが潤沢にあった故の見落としといっていいだろう。
向こうはDPがカツカツだった分、色々模索した結果ということだ。
この事実は、エクス兵士の魔剣所持が広まり、なお、内部といっていいのか知らないが秘密戦力としてのアンデッド兵力がかなりいるということになる。
この事実だけならば、確かに大問題だが、俺たちのやる気が下がっているのはまた別だ。
「別にこの戦力はどうでもいいんだよ。地形でも変えればいいし。最悪、近代兵器群で殲滅すればいい」
そう、俺たち相手の戦いには、こういう手合いの数を揃えようが意味がない。
同じ文明レベルでようやく対等なのだ。
都合のいい練習的である。
「それでは、エクスの人々が……」
「ジェシカ。そうなるなら既にそうなっている。ノーブルの奴が何を考えているかは知らないけど、自国に手を出すようなことは、今はないみたいだぞ。追い詰めればどうなるか……わからないけどな」
「……理屈はわかる。ノーブルが効率よくやろうと思うのであれば、人々のことを慮る必要はない。だが、知った以上、私たちの身の安全のためでもあるから行動を起こさないわけにはいかないはず」
「そうだな。クリーナの言う通りだ。これで動かざるを得ない」
「それになにか問題があるのでしょうか?」
「サマンサ。この事態の解決、対応の為に作戦や戦力を捻出しないといけない。さて、この労力を誰が負うことになるのか? という極めて現実的な話になる」
俺がそこまで言って、4人とも納得がいったようで、視線が俺とスティーブに集まる。
「と、とりあえず、お茶をどうぞ」
リーアがお茶を差し出してくれる。
俺とスティーブでそのお茶を飲む。
はぁ、緑茶が体に染みるねー。
さて、俺とスティーブは湯のみを置いたあと、向き合って……。
「何、見つけてくれてんの、お前!! 何、主人公特有のトラブル体質か!?」
「誰が望んで、仕事増やす真似するっすか!! 文句なら、あんなところでわいわいやってるノーブルに文句言えっす!!」
「わかってるわ!! こんな面倒起こしてくれたんだからな、のしつけて倍返しにしてやるわ!! でもな、スルーとかしろよ!! これで、お前どう考えても、あのダンジョン監視常駐だぞ!! 喜べよ!!」
「誰が喜ぶか!! ジョンとかまわすっすよ!! あれ、ベータンのダンジョンでのんびりやってるだけっしょ!! アンデッド生産所もオークが多いし、紛れ込むのに最適!!」
「あほ!! 結局はお前がフォローしないといけないんだよ!! あと、そのアンデッドを操っている術士も見つけないといけないんだからな!!」
「わかってるっすよ!! ばーか!!」
「あ、馬鹿っていったな。でもな、馬鹿って言ったやつが馬鹿なんだよ。ばーか、ばーか!!」
「子供か!! ばーか!! ばーか!!」
と、アホなののしり合いを少しして、すぐやめる。
「たく。何でこっちの胃が痛くなるような事実ばっかりわかるかね」
「しらないっすよ。世の中そうは上手く行かないってことっしょ」
その変わり身の早さに、4人が驚いている。
「……え、えーと? 喧嘩はおわった?」
「……恐らく」
「……多分、お約束みたいなもの」
「……ですわね。ののしり合いが子供のそれでしたし」
クリーナ、正解。
こういうことでもしなけりゃやってられねえ。
「さて、4人とも、この話をポープリ、ララ、コメット、ヒフィーに言うのは禁止な」
「なぜです?」
俺がそう言うと、真っ先にジェシカが疑問を返す。
「俺たちはともかく、この4人は個人的な事情があって動いている。民に被害が出ないようにってな。いや、コメットは面白さ優先だろうが。で、更に軍隊として扱えるアンデッドを大量に抱えていますよーって伝えて、正常にノーブルと話すことができると思うか?」
「……それは無理」
「……ポープリ学長は表面上ばれるようなことはないでしょうけど、心理的に、人質を取られているという感覚になりますわね。きっと、その辺りで色々と言動が制限される可能性があるかと」
「サマンサの言う通り。知っているからこそ、出来る対応もあるだろうけど、この場合、秘密にしているアンデッドの件をつつけば、ノーブルがどう動くかわからない。なら、知らない方がいいだろう。最悪、ポープリたちが独断で動く場合もある」
「……それは避けるべきですね」
「ですねー」
ジェシカとリーアも説明で納得できたのか、難しい顔をしている。
「というわけで、知らなかった方が、俺たちも仲間に嘘をつくこともなかったわけだ。なにか起きても、仕方なかったで済ませられるからなー」
「知った以上は行動を起こさないといけないし、被害が出れば、責められる可能性もあるのですね……」
「そういうこと。いつものように完封できる状態じゃないからな。こんな胃の痛い作業をする当人は更につらいだろうよ。な、スティーブ」
「そろそろ、胃薬が常備薬になりそうっすよ」
「だよなー。アルフィンにも話すわけにはいかないし、いつも信頼してくれている分つらいよな」
「がふっ!!」
スティーブが膝をつく。
ああ、アルフィンのことは忘れてたわけか。
これでこいつは家でも嘘をつかなくてはいけないという辛い立場になったわけだ。
俺はこっちにポープリやヒフィーたちいないし、多少は気軽。
「と、今までの説明でわかったかと思うが、エクスが恐怖のゾンビタウンとなるか否かは、このスティーブ君の手腕にかかっている。みんなからのコメントどうぞ」
「……その。スティーブ、頑張ってね」
「先鋒は戦の誉れです。多分、これもそれに含まれます」
「……スティーブ、頼んだ」
「状況を知った上でこれしか言えないのが、不憫ですが、スティーブならできると思いますわ」
うん。
なんという、気休めなお言葉。
「プレッシャーしかないんっすけど!!」
「ま、頑張って作戦練るしかないだろ」
あーあー、裏に引っ込んでのんびりできるかと思ったらこれだよ。
マジでノーブル、この件はのしつけて倍返ししてやる。
はい、更に厄介な事実が分かりました。
魔剣のコアの生成を魔物の魔石で行い、その残飯を利用してアンデッドを作るという、無駄のないことを相手方はしていたことが判明。
で、知ったからには対策を立てないといけない。
めんどうですよね。
聞かなかった方がよかったというやつです。
ということで、エクスでは、表でのポープリやヒフィーたちのノーブルへの対話がある中。
スティーブたちが、アンブ○ラ社の奥に侵入して戦うことになるのです。
そして、次回、久々にあいつが戻ってくるぜ。スティーブの同僚にして、野菜好きのあいつが!!
あと、もう6月になりました。
皆さまはどうお過ごしでしょうか? もう福岡は暑いです。
暑中見舞いを送っても感覚的には間違いないと思うんだ。
熱中症などにならないように、無理はせず、水分補給などはこまめに。
あと、ゲーム欠乏症にも気を付けて。




