第378堀:キャッスルアタックと忙しい裏方
キャッスルアタックと忙しい裏方
Side:霧華
さて、本日の晴れは私たちにとって吉と出るか凶と出るか……。
いえ、天候の良し悪しで、私たちの任務の成否に関わるなど思ってはいけませんね。
何事も成し得るのは、最後まであきらめず行動した者のみ。
無論、神頼みが悪いわけではありませんが、努力もしないで運任せなど、ぞっとします。
というか、神様はウィードでジャージ姿という無体な格好ですので、祈るのはちょっと……。
しかし、今日は王城で学長と竜騎士を迎える式典があるというのに、特にエクスの王都は騒がしくもなく、いつもの通りの朝を迎えているという感じでしょう。
ここ数日、私はエクス王都をモーブさんたちとは別の旅人という形で歩き回り、王都の調査をしていました。
忍び姿でもなく、普通の……というのはあれですね。新大陸で通用する旅人の服装です。
普通というのはウィードでの服のことを言うのであって、こういうボロの服が普通の私服と思われるのは心外です。
アンデッドとはいえちゃんとした自我がある女性ですから、無論、死臭など魔術で消していますとも。臭いで気が付かれますからね。アサシンの名を冠するのですから、そう言うところも気を配っています。
とりあえず、本日は色々忙しいことになりそうなので、その前の打ち合わせをしっかりしておきましょう。
「お、霧華」
「どうも、勝手に上がらせてもらっています」
ということで、同じようにエクス王都に潜入しているモーブさんたちとコンタクトを取ります。
無論、表立って、宿屋の正面から入って、ドアを叩いて入るなどということはしていません。
私たちはこの場所ではお互いの存在すら知らないという形なので。
「外の見張りの連中はどうだった?」
「いつもと変わらずですね。3名が同じような場所から見張っています。増員はないですから、ドレッサ姫の動きには特に関心が無いようですね」
「そいつはいい話だ。俺たちはいつものように訓練して、飯食ってという予定で問題ないわけだ」
「はい。そのようにお願いします。ご主人からもそのように連絡が……」
そんな話をしていると、そのご主人から連絡が来ました。
『よう。おはよう。揃ってるな』
「おう。おはようさん」
「はい。おはようございます」
特にご主人の表情は変わらず、朝の挨拶をしましたし、今のところは問題はなさそうですね。
『さーて、そっちがどこまで話してるかは知らないが、こっちにも情報提供を頼むわ』
「いいぜ。って言っても特に変わりなしだな。霧華が外の監視を見てくれて報告してくれたが、増員もなし、特に張り詰めた様子もなしって感じだから、こっちのことはばれてないみたいだな」
「私の方も、昨日、竜が来たことで騒がれはしましたが、本日は特に騒がしくもありません。式典の話もほぼ出てきません。城勤めの兵士が酒場で少し喋ってたくらいです」
「あ、俺の方もワイちゃんの話はそんなに出てなかったな。ロゼッタ傭兵団の方から少し情報が流れたくらいで、特に慌てた様子もなかったな」
『そうか。予定に変更なしでいいな。スティーブたちも配置は終わっているし、モーブたちはいつもの通りで』
「おう」
『だが、モーブ以外は潜入捜査しているから、何かあれば陽動として動いてもらうからな。その覚悟はしておいてくれ』
「へいよ。具体的には?」
『場合によりけりだ。その時になったら連絡する』
「その時がないことを祈りたいね」
確かに、そんな状態は潜入している私たちの誰かがピンチもしくは全員のピンチです。
そんな状態は嫌ですね。
『そして霧華はスティーブと同じく、ポープリたちが気を引いている間に、できうる限り内部の情報を集めてくれ』
「はい」
「ん? ちょっと待ってくれ。今回はそれだけなのか? 思いっきり動くってのはないのか?」
『今回はあくまでも、情報収集が目的だ。思い切り動くのはヒフィーたちが到着してからだな。まあ、集めた情報が即時処理を求められるものならそう言った方向もあり得なくはない。今までと違って相手にダンジョンマスターがいる可能性が非常に高いし、ルナという仲介役を挟んでいるわけでもない。だから足で情報を稼ぐしかないんだよ』
「あー、そうだったな。だから俺たちも潜入してるんだった。最近訓練ばかりで忘れてたわ」
『もうボケたか、おっさん』
「ボケてねえよ」
『ま、そこはどうでもいい。霧華は予定通りに城に潜入。怪しい所や武器庫、資料などの情報を頼む』
「了解です」
『じゃ、俺はスティーブたちとの連絡もあるから、あとは頼む』
そう言って、話は終わり、私はモーブさんたちの部屋を離れ、いつでも潜入できるように待機します。
既に潜入ルートは決まっており、何度か検証も行いましたが、相手方に反応は有りませんでした。
反応がないことを喜べばいいのか、警戒すればいいのか、判断に困るところですね。
出来ればこちらの技術が相手を上回っていて反応できないという答えが一番好ましいのですが……。
まあ、そういうことも確認するための、情報収集作戦なのです。
ちゃんと陽動のモーブさんたちもいますし、何かあれば援護はそれなりにあります。
あとは私次第ということでしょう。
『スティーブたちは潜入を開始。霧華、そちらも作戦を開始してくれ』
そして、いよいよその時が来ました。
「了解。潜入を開始します」
私の装備もスティーブ隊と同じで、光学迷彩を使い、門から堂々と潜入します。
今日はポープリさんたちの式典などがあるので、謁見などの人は来ていないようですが、それでも城の出入りがゼロになるということはありません。
物資の搬入や、お城勤めの人の出入りがあります。
まあ、そんな感じで特に誰にも気が付かれることなく、潜入に成功したわけですが。さて、どこから情報を集めるのか、という話になるのですが、リスクの低い所から順に調べることになっています。
マッピングをしながら、まずはお城の内部構造を調べます。
どこに何があるのかを知らないので、そこを知るところからです。
王の部屋や宝物庫など、重要な場所には兵が立っているので、そう言うところは目印をつけて、後回しにする感じです。
……しかし、張り合いがない。
廊下で兵士とすれ違いはしますが、まったく反応されません。
緊急連絡も来ないですし、ポープリさんたちもスティーブたちも上手くやっているのでしょう。
さて、ある程度全体は調べましたし、次は怪しい所ですね。
王の部屋や執務室は警備がいますし、後回しで、武器庫や地下の牢屋ですかね?
私がそう考えていると、窓から何かが地上から飛び立つ姿が見え、歓声も同時に聞こえてきます。
バッサバッサと羽を振って空を飛んでいるのは、ワイちゃんですね。
上にはアマンダさんの姿も見えます。
どうやら、十分に役を果たしているようです。
「おお、凄いな。アレが竜騎士か」
「すさまじいものですね」
不意にそんな声が聞こえて振り返ると、執務室を警備していた兵士がこちらに向かってきています。
いえ、正しくは窓から見えるワイちゃんを見に来ているのでしょう。
チャンスですね。
私は兵士たちと入れ替わるように、執務室へと向かい、周りに誰もいないことを確認し、開錠して執務室へ忍び込みます。
これがウィードみたいな電子、魔力セキュリティがあるとどうにもならなかったでしょうが、そう言うところはまだまだのようです。
その場合は、どこかで兵士を絞め落として、カードキーなどを奪わないといけませんから、難易度が跳ね上がっていたことでしょう。
何はともあれ、本当にワイちゃんとアマンダさんには感謝ですね。
文字通りいい囮です。
後回しにするしかなかった執務室へ先に潜入できる機会が来るとは思いませんでした。
ギィ……。
そんな音を立てて扉が開かれます。
これは鳴き砂、鴬張りのようなものでしょう。
音が立つ材質を使って、来訪者を知らせる知恵。
まあ、誰もいないのであれば意味がないのですが。
そして素早く扉を閉め、内側から扉の確認をします。
こういう大事な場所には、誰かが侵入していないかを確かめるために、扉に紙片などを挟むことがあります。
原始的ですが、きわめて効果的です。
そう言うトラップが無いかを確認すると……、予想通り、床に紙片が落ちています。
さて、これでは侵入者がいるのがばれてしまいますね。
対応策は色々ありますが、今は情報を集めましょう。
ササッと、執務室の机に近寄り、罠が無いか確認しつつ、慎重に引き出しを開けては確認していきます。
内容を詳しく見ることはしません。
片っ端から、写真に収めて、即座に送るのです。
色々重要な情報があった気はしますが、それをじっくり読んで解析するのは私の仕事ではありません。
ちゃんと書類の順番も同じにして引き出しに戻します。
鍵が付いている引き出しもありますが、高度なカギでもないのですぐにピッキングして開け、中身を確認していきます。
無論、戻す時にはちゃんと鍵もかけ直します。
後は、棚の本もあるのですが、流石にそれを調べるのは時間がかかりすぎます。
次があるのなら、というやつですね。
さて、予定通り、処理待ち、確認待ちの資料は既に写真に収めましたし、ここを出ますか。
私は腰に下げた袋から、ネズミを取り出します。
無論、ただのネズミではありません。
ただのネズミに見えて、高レベルの魔物であり、言葉を理解する利口な子です。
紙片などの侵入者を知らせるトラップを欺くための相棒です。
「では、私は窓から出ますので、あとは任せました。合流は予定通りの場所で」
「チュウ」
私はネズミを残して、窓から外へでます。
ネズミはこちらが出たのを確認したあと、鍵を閉めて、ある程度時間が経ったら、執務室の物を倒して、兵士にドアを開けさせる予定です。
兵士がカギを持っていなくても、誰かがカギを開けるまではネズミはいる予定なので、犯人はネズミということになるのです。
私は引き続き、状況が許す限り情報の収集にあたることにしましょう。
次は武器庫ですかね。
しかし、こうやってお城とか潜入していると、アサシンク○ードを思い出しますね。
スティーブたちはメタルギ○派なんですが、私達デュラハン・アサシンはアサシンク○ード派なんですよね。
いえ、暗殺とかはしませんけど。
Side:ユキ
最初は暇なのだが、情報が送られてくるとそうも言っていられなくなる。
「ゴブリン隊、スティーブ部隊以外はハズレのようです」
「スティーブ隊、部隊を二つに分けてダンジョン内の街の情報収集を開始」
「霧華から、執務室の書類データが送られてきています」
次々に経過報告や、情報が集まり忙しくなる。
「ハズレのゴブリン隊は引上げさせろ。スティーブ隊の支援要員に回せ」
「了解」
「スティーブ隊からの報告をまとめて地図の制作急げ」
「了解」
「霧華から送られた書類データは即座に印刷してこっちに回してくれ。確認する。城内の図面もポープリたちの証言を合わせて作ってくれ」
「了解」
はぁ、ゲームとかでは現場の主人公がクソ忙しく見えるんだけど、裏方も情報分析とかで非常に忙しいんだよな。
知りたくも、味わいたくもない現実だったよ。
「どうかしたかね?」
「いえ、裏方も裏方で大変だなーと、改めて思い知っただけですよ」
「楽な部署はないということだ。ま、私も手伝うから頑張ってくれ」
「タイゾウさんが手伝ってくれるだけ助かりますよ。嫁さんたちは手伝ってくれますけど、まだまだ初心者ですからね」
「だろうな。だからこそ私を引き留めたんだろう? 本来であれば私もエクスに向かっていたはずだからね」
そう、タイゾウさんが付いて行かなかったのは、情報処理のためだ。
こっちに残ってもらった方が有利だと判断したから。
「で、情報は何か出ると思いますか?」
「普通ならないな。一度の情報収集で完璧なものがそろうなら誰も苦労はしない。何事も積み重ねだ」
ですよねー。
ラノベとか漫画、映画なら、「な、なんだってー!?」っていうベタな情報が出るけど、世の中そんなに簡単じゃないよなー。
ああ、平社員の頃が懐かしい。
世の中、裏方のさらにそれをフォローする裏方もいるのです。
とまあ、今のところ、相手に怪しい動きはなし。
アーネの正体を探るためにデリーユたちの番。
さて、本編とは別でなんか気温差が激しいせいか、風邪気味。
皆もきをつけてねー。
その関係で、今日の執筆は集中できてなかったから、結構書き直すかも。
その時は連絡するから、ごめんよー。




