第358堀:いざ潜入
いざ潜入
Side:ライヤ
……なぜアンデッド系が存在できた?
この新大陸は魔力枯渇現象が著しく、魔力を糧に生きている生物は生きていけない。
人で言うのであれば、空気がないようなものだ。
これは、ユキたちと一緒に最初に行った亜人の村で実験してよくわかっている。
ユキとザーギスの研究のおかげで、その対策はできたが、それは俺たちの話だ。
この新大陸の国がそれらを理解して、何かの対抗手段を採れるものだろうか?
いや、相手にもダンジョンマスターがいる可能性があると言っていたし、魔力枯渇に関しては既に知っていたか?
まあ、俺が考えてもどうしようもないのだが、足元に散らばるゾンビ共を見て考えずにはいられなかった。
その時、ゾンビの散らばる腐肉の中に、なにか光る物を見つけて手に取る。
「これは……」
「旦那!! よく無事で!!」
と、後ろで逃げる準備をしていた商人がこちらに駆け寄ってきた。
逃げる必要がなくなったからか、他の逃げ遅れた人たちもゆっくりではあるが、また歩き出しているようだ。
「そっちは無事だったみたいだな」
「旦那たちのおかげさ。凄腕だったんだな。あんたたち。で、その手に持っているのは高そうな首飾りだな。なにか思い出の品か?」
「あ、いや。そこのゾンビからの戦利品だ」
そう、俺が手に取ったのは、ペンダントだ。
なんでこんな物をゾンビが持っていたのか……。
「こりゃ、見事だ。立派な宝石が付いているな。いい値段で売れるぜ。旦那、ちゃんと回収しておけ、売り払えば美味い飯も、いい宿も取れる」
「そう、だな」
ここで考えても仕方がない。
誰かに渡すのは危険な気がするから、とりあえず俺たちで集めて、ユキたちに回して調べてもらおう、幸いこれで俺たちが金持ちになったと勘違いしてくれそうだから、そう言う意味では楽に動けるな。
「カース、こんなものを見つけた。他にもあるかもしれないから、集めよう。金になる」
「……わかりました」
直ぐに察してくれるのはありがたい。
これも長年コンビを組んだおかげだな。
「おーい!! ライヤ、カース!! こいつらデカい宝石もってるぜ!! ちゃんと回収しとけよ!! 残していったらロゼッタに捕られるぞ!!」
「馬鹿言うんじゃない。私だって傭兵だ。よその戦果を奪うもんか。そんなことすれば名が廃る」
そんな会話をしながら、反対側から現れた、それなりにまだ若い女性の傭兵と和気あいあいに話ながらこちらに向かってきていた。
……あいつは本当にただの金になるぐらいしか考えてないな。
それとも気が付いていてわざと言ってるのか?
そこら辺はいまだによくわからん。
「おお、あの赤髪は粉砕のロゼッタか」
「商人……と、名乗ってなかったな。俺はライヤ、あっちのローブの魔術師がカースで、そのロゼッタという女性といるのがモーブだ」
「ああ、私はトーネコっていうんだ」
「で、トーネコはあちらのロゼッタを知っているようだが?」
「ん? ロゼッタを知らないのか? って他所の者だったな。エクス王国内で幅を利かせている傭兵だな。主に未開拓地に住む魔物退治をしていて、人と人の戦争メインじゃないから、よそ者が知らなくても無理はないか。素材とかいいのを持って帰るから、王家、商人からも信頼は厚いぞ」
「なるほど。いい駒ってわけだ」
「……旦那は鋭いな。そういうことだ。商人はともかく王家からの信頼は、普通なら変だ。兵士のお株を奪われるのだからな」
「未開拓地というのが引っかかった。兵士を送って失敗すれば、物資や人材を浪費して批判が集まるだろう。だが、傭兵なら……」
「そういうことだよ。失敗すれば残念だですむし、成功すれば開拓地が得られて万々歳。まあ、ちゃんと報酬は与えているし、それなりの自由も認めているから、良くはあるんだろうが……。いつか使い潰されると私は思うね」
……どの国も本当に色々な方法をとるな。
そんなことを考えながら、ゾンビ共の肉片を探すと、一匹につき一個という感じで宝石が出てくる。
中には戦闘で粉々になったのもあったが。
「15ってところか」
「ああ、思ったより無事だったな」
「ええ。モーブさんが力まかせにやってたからもっと少ないと思ってましたよ」
「お前等、俺をなんだと思ってる」
「こういう細かいことに関してはな」
「私もライヤさんに同意です」
「いい実入りだったな。私でよければその宝石良い値で引き取るよ。助けてもらった恩もあるしな」
「おっ、そうか。助かる。じゃ、ライヤ、トーネコに売って……」
やっぱり何も考えてなかったか。
とりあえず、モーブを俺が引きずって行き、カースにトーネコの相手を任せる。
「なんだよ?」
「なんだよじゃない。お前もアンデッドがこの新大陸にいるのはおかしいと思っただろう?」
「ああ」
「で、あんな風にアンデッド全員が宝石をつけているなんて変だろ。しかも人のアンデッドではなく、魔物だ」
「あ。やっぱり、もしかして怪しいのか?」
「そうだ。って気が付いていたのか。それなら話が早い。迂闊に売れない。ユキたちに回して調べてもらうのが先だ」
「わかった……」
俺がモーブと話している内に、カースの方は上手くトーネコと話している。
「売る前に、一旦じっくり見たいですからね。今日明日にというのは待ってもらえませんか?」
「ああ、これはすみません。売るならば私にと思っただけです」
「わかりました。その時には是非、トーネコさんの所で売らせてもらいますよ」
これで、トーネコの所に売ってお金を手に入れたという風にできるな。
奴隷を購入するにも、俺たちが大金を持っているのは不自然だから、そう言う意味でも好都合だ。
「おーい、モーブ!! さっきのデカいオークのゾンビ?だっけ、それからデカい宝石がでたぞ。ほらっ」
ロゼッタ傭兵団の方も戦利品の回収がおわったのか、律儀にオークキングの宝石をこっちに放ってくれた。
「おう、律儀にありがとよ」
「こっちは助けてもらったんだ。そんな恥知らずな真似はしないよ。と……」
ん? なぜか、ロゼッタは俺を見てくる。
「あんたが、あの時、槍を投げてくれた人かい?」
「ああ、気にするな」
本来串刺しにするつもりで投げたのだが、思ったよりオークキングの反応が良かった。
まあ、連携しているし、モーブやカースが何とかすると思ったからな。
俺がロゼッタの窮地を救ったのはたまたまだ。
「そう言うわけにはいかないよ。本当に助かった。ありがとう」
「まだ若い。いい経験だと思えばいい。ああいう腕の立つオークもいるってことだ。力任せもわるくないが、ああいう相手には分が悪い」
「ああ、忠告感謝するよ。で、あんたの槍だ」
「ありがとう。……特に問題はないな」
手に取ってみた感じはとりあえず刃こぼれも歪みもない。
あとは……。
「ふっ」
振って確かめる。
問題があればナールジアに頼めばいい。
まあ、あの人が作った作品をどうこうできるのはユキぐらいだが。
まずは回転させてバランスに問題がないか、次に連続で突いて思ったところに行くのか、歪みがないのか確かめる。
ヒュンヒュン……、ぶおおおおぉぉぉぉ……!!
「なっ、なあっ!?」
やはり、あの程度では問題にはならないようだな。
流石、ナールジア。
「問題なさそうだな」
「そうですね」
「ああ。この程度ではどうこうならないみたいだな」
「そりゃ、鍛冶馬鹿が作ってるからな」
「本人は、その高性能のわりに素朴過ぎて気に入らないみたいですが」
良い武器はそれを表す豪華絢爛が必要というのがナールジアの持論で、納得はできるが、ユキが目立つからいらないということで、普通の武器に見えるように細工してある。
ま、得物が優れて見えると要らない面倒もあるからな、その点はユキに賛成だ。
「ちょっとまってくれ、槍のあんたも物凄い使い手じゃないか!?」
ロゼッタやその部下の傭兵たちが驚いて唖然としている。
「いや、この程度、カースにもできると思うぞ。なあ、ライヤ」
「ああ、ほれ。カース」
「あ、はい」
腕に関しては特に隠す必要はないので、カースの腕も見せておこうと思う。
不必要に下手に出ることはないからな。
「え? そっちの兄ちゃんは魔術師じゃ……」
ロゼッタがそう言いかけて、カースが槍を振り始める。
ヒュンヒュン……、ぶおぉぉぉぉっっ……。
「……」
目が点になってるな。
ま、そこはいいが……。
「ちょっとずれてるな」
「だな」
「え!? あれで!?」
「ですね。しばらくは、後方支援ばかりでほぼ隠居みたいでしたから、これは後々鍛え直した方がいいですね」
軸がぶれていたし、呼吸と攻撃がずれている。
カース自身が言ったように、後方支援ばかりだったからな、前線のリズムに追いついていないんだろう。
まあ、この程度なら1日やれば元に戻るだろう。
鈍っているというより、後衛と前衛の違いの切り替えができてないだけだ。
「ああ、そうか、ランサー魔術学府の出だな。あそこの魔術師は武器を持った戦いもできると聞いたぞ」
「……ええ、まあそんな感じで」
違う大陸で鍛えましたと言っても信じないだろうからな。
その答えが自然か。
「さて、とりあえず、一通りここでやるべきことは終わったな。俺たちはこのまま王都に向かおうと思うが、トーネコやロゼッタたちはどうする?」
「ん? ああ、私も荷物を運ばないといけないからな。一緒に王都に行く。旦那たちと一緒の方が安全そうだしな」
「私たちも王都に戻るよ。今日はここら辺まで訓練に出てたんだ。人の多い通りで訓練すると、怖がられるからね。で、叫び声が聞こえてやってきたってわけだ」
なるほど。
この傭兵団は訓練でこっちにいたわけか。
……話し方は特に違和感がないから、偶然でいいのだろう。
「しかし、旦那たちが凄いのはわかったが。どうも魔物相手に慣れているように見えたが……」
「あ、それは私も思った。敵を探ることがなかった。なんでだ? というより、そこまでの腕前でなんで私たちが知らないんだ? もしかして、いま王都に来ている血戦傭兵団の仲間だったのか?」
「そうだな。血戦傭兵団がエクスに来ているのは知らなかったが、別の傭兵団に入ってたからそれで埋もれていたんだろうさ」
「なるほどな。確かに有名な傭兵団はいくつか知っているけど、傭兵個人の名前はそうそう出ないな。で、なんで、こんな王都へ? 稼げないよ?」
「見ての通りいい年だからな、トーネコには言ったが、観光だ」
「なるほどなー」
そんな風に話をしながら、トーネコやロゼッタ傭兵団と共に王都へ向かい、特に問題もなくたどり着いた。
「ロゼッタさん。聞きましたよ。魔物を追い払ったとか」
門に近づくと、1人の兵士がこちらに走り寄ってきた。
「ああ。妙な魔物だったよ。全員腐っててさ、臭いだろう?」
「……なるほど、確かに腐ったような臭いがしますね。これは辛いでしょう、すぐに入れるように話してきます」
「ありがとうな」
どうやら、兵士たちからも信頼は厚いようで、俺たちもロゼッタ公認ということで、すんなり王都に入ることができた。
「助かったぜ。さっさとこの臭いとおさらばしたいしな。で、トーネコ、どこかいい宿はあるか?」
「そうだなー……」
「ちょっとまちな。トーネコさん、モーブたちは私たちが泊まっている宿の方がいいよ」
「ああ、そうだな。ここまで臭いと拒否されかねんな。ロゼッタたちと一緒の方が宿をとりやすい。俺の商店はロゼッタが知っているし、何か聞きたいことがあったら来てくれ」
「おう。色々ありがとうな」
「そりゃこっちのセリフだって。またな」
ということで、俺たちはロゼッタ傭兵団が借りている宿に王都での拠点を構えることとなった。
「じゃ、あとで飲もう。助けてもらったし、私たちのおごりだ」
「おう。体を拭き終わったらいくぜ。俺たちが飲み過ぎて財布が空っぽになるかもな」
「あっはっはっは、いい度胸だ。やってみな」
そうモーブとロゼッタは話して、部屋の扉が閉まる。
で振り返ったモーブは真顔で……
「風呂に入りてぇ」
「気持ちは分かるが、ここにはそんな上等な物はない」
「ですね。懐かしの冒険者生活みたいでいいじゃないですか」
そう言って渋々、濡れたタオルで体を拭き始めるのだった。
こういうところも、文明の差というのは辛いな。
ま、さっさと拭いて、ユキと連絡を取ろう。
奴の名は伝説の武器商人!!
ではなく、トーネコ。
勘違いしないように。




