第315堀:真面目な奴はついて行けない
真面目な奴はついて行けない
Side:ユキ
うん。
ルナを信じた俺が馬鹿だった。
前に、嫁さんたちの前に出てきたときは、その場を和ませるギャグだと思っていた。
いや、思い込もうとしていた。
だってさ、その場のニーズに合わせて、地球ではスーツ着て、通報されない格好で、一応怪しい勧誘をしていたんだ。
だから、一発触発って感じの状態で、ぶち壊しにするようなネタはやらないと思ったんだよ。
こう、厳かな。この世界なら通じそうな、本当に神様だ。って思われる演出で出てくると思ったんだ。
「うんうん。ヒフィーの入れるお茶も久しぶりね。美味しいわ」
「お口にあいまして何よりです」
で、現在、本目さんはヒフィーの後ろで控えつつ、難しい顔で現状を眺めている。
上司、上官であるヒフィーがいいと言っている手前、何かを言うわけにもいかず、説明もないままその状態を保てる本目さんには尊敬の念しかない。
二次大戦中の軍人は我慢強くもあったわけだ。
俺なら、既にハリセンで殴ってるわ。
「あの、ユキさん。俺たちどうすれば?」
「……ルナが話を進めるまで傍観だな。一応、ヒフィー神聖女は運よく、偶然、ルナに敬意を払っているようだし、俺たちが口を挟むのはやめておこう」
「……ちゃんと話が進むといいですね」
本当にな。
まあ、今回の件は、ルナ自身も色々思うところがあるみたいだし、本当に、話がまともに進むと思いたい。
……なんで、こっちの方向で心配してるんだろうな?
「お待たせいたしました。お呼びでしょうか?」
そんなことを考えている内に、最後の役者がそろった。
前任者のダンジョンマスター、コメット・テイル。
アンデッドで、いまいち立ち位置が分からないんだよな、この人。
「お、コメット久しぶりね。って、アンデッドだったわね。この魔力の流れから察するに、ヒフィーが制御を握ってるのね?」
ああ、ヒフィーがアンデッドにしたのか。
何か、ヒフィーから変な魔力の流れがあると思ったが、これが原因か。
「申し訳ありません。色々事情がありまして……」
「分かってるわよ。でも、この場ではコメットにもちゃんと素の状態で聞いてほしいし、制御解除するわよ。……って、あら、自分で解除できそうね」
「え?」
ヒフィーが不思議そうに、コメットの方を振り返ると、同時にガラスが一欠けら割れたような音がして……。
「どもー。いやー、ルナさんお久しぶりです。死んでて申し訳ない。あっはっはっは!!」
そう言って、笑い声をあげる美女が1人。
……いや、あの無造作に綺麗な髪を含めて、頭をボリボリかくから、頭が一気にボサボサになる。
美人台無しである。
「相変わらずのテンションね。死んでもそれは変わらないみたいね」
「どうでしょう? 実際、ダンジョンの固定化で、魂が無事なのが理由かもしれないですよ? だって、ほかのアンデッドって表情に乏しいですから」
ふむ。
コメットさんの意見には賛成だ、アンデッドはよほど高位でない限り、獣並みの本能ぐらいしか残っていない。
つまり、魂と言う情報を、何らかの手段で維持しているということだ。
まあ、一欠けらでも残っていれば、時間をかけて、ただのスケルトンやゾンビも元の感情を取り戻していくのだが。
……って違う違う。
今は、これから始まる話し合いに集中しないといけない。
のだが……。
「なっ、コメット。いつから!?」
「いや、結構最初からいつでも解除できたけど、誤解でまた制御されたらたまらないしね。命令で私の意思に関係なしに動く体も便利だったし」
「貴女という人は……」
なんて、和気あいあいな会話だ。
「まあ、まあ、タイゾウ殿もこっちが私の素だからよろしくぅ!!」
「は、はぁ。どうも」
本目さんはついて行けないようだ。
俺もついていけねぇ。
何だこのテンション。
あの駄目神の人選はどうなっていやがる。
一通り、コメットは知り合いに挨拶が済んだと思ったのか、俺たちに振り向き……。
「やぁ、初めまして。私の後輩。そして、異世界から来た勇者殿」
あっさり、こっちの正体を見抜いた。
……変人だが、頭の良さはずば抜けているかもしれない。
Side:タイゾウ・モトメ
……正直に言おう。
状況がよくわからない。
ユキ君と、タイキ君、そして私と、ヒフィー殿しかいなかった状況で、いきなり現れたルナと名乗る……いや、ヒフィー殿がルナ様と敬称で呼んだ相手。
そして、今まで人形のようだった、コメット殿の変貌ぶり。
……誰か、この状況を説明してくれ。
しかし、現実は非情かな。
誰も私の問いには答えてくれず、時間だけが過ぎてゆく。
まあ、時間が過ぎてくれたのはよかったか。
勝手に状況は動いている。
ヒフィー殿はルナ殿にお茶を入れて和やかに話しているし、コメット殿はユキ君やタイキ君に話しかけている。
この推移がなく、ずっと無言や、私が時間を止められる力を持っていて、時間を止めたとしても、何か解決策を導き出せる自信はない。
見た感じ、今すぐ、この場で争いが起こるような状況には見えない。
ひとまずは、安心していいだろう。
「申し訳ありませんが、ヒフィー殿、私にも紹介してはいただけないでしょうか?」
ヒフィー殿とルナ殿のお茶が一息ついたところをみて、声をかける。
このままでは私はただの案山子になってしまうからな。
「あ、申し訳ありません。こちら、私より格が上、えーと、上官と言っていいでしょうか? 上級神のルナ様です」
「はろー。あんたも二次大戦から、こんな文明が一回りも二回りも遅れたところへ飛ばされて大変ね」
「!? ルナ殿も、地球の方でしょうか?」
「あー。うん。まあそんな感じね。その様子だと、ヒフィーが神ってことに懐疑的でしょう?」
「……」
「あ、そりゃ本人の前では言い辛いわよね。ま、私もその怪しい神って分類よ。わざわざ神である証拠を見せるのも、納得させるのもめんどくさいから、そう名乗っている生物と思っておけばいいわよ。今までのままでいいと思うわよ」
……なるほど。
本当に、人を上回る何らかの力を持っているようだ。
まあ、彼女が言うように、神という生物という認識は変わらないのだが。
「わかりました。しかし、ヒフィー殿が礼を尽くし、そして上官と言っていますし、私もそれに倣って対応させていただきます」
わざわざ反発して、ヒフィー殿に心労を与える理由もない。
そう思い、私は敬礼をする。
ルナ殿は敬礼をした私を見て、少し驚きの表情をした後、ころころ笑い始めた。
「ごめんね。本目を笑ったわけじゃないのよ。ほら、あそこの2人とは、まあ態度が違い過ぎてね」
そう言って、ルナ殿はユキ君とタイキ君を指さす。
「それは当然でしょう。彼らは軍人ではありません。無い物を求めることはできません」
「そうね。本目の言う通りだわ」
「しかし、ユキ君がもう1人と言っていましたが、ルナ殿の事だったのでしょうか?」
「ええ。私がそのもう1人で。ユキをこの異世界に送り込んだ張本人ね」
「どういうことでしょうか? ユキ君は勇者として……とは言っていませんでしたな」
彼は確か、似たような感じとしか言っていなかったな。
これは、謀られたか。
まあ、お互いの考えが分からない内に手札を見せるわけにもいかない。
……しかし、あの歳でそこまで考えが回るのか。
将来の日本は安泰と思えばいいのか、その人材をこちらに引っ張ってきたことを嘆けばいいのか……。
「そういうこと。私を呼び出したのも、ヒフィーがいることが確認できたからよ。まあ、お互い存在を知らないでやってきたということね」
「……ヒフィー殿の世界を守るという話は、ルナ殿からの命でしたか」
「そうよ。って、その様子じゃ、殆ど説明を受けていないようね」
「申し訳ありません。今の状況では、まずは大陸を平定しないといけないと思いまして……」
「ヒフィー殿の言う通りです。世界をどうこうするまえに、自分たちの住まう場所を安定させなければ、土台をしっかり作らなければ先はありません。無駄に情報を与えてもらっても、私としては混乱するだけでしょう。必要な時に、必要な情報を、というヒフィー殿の判断は妥当かと」
「ふむふむ。ちゃんと考えているよね。ま、そこら辺もまとめて、私からちゃんと説明しましょう。全体を把握しておくに越した事はないでしょう?」
そう言って彼女は、私とヒフィー殿から離れ、ユキ君、タイキ君、コメット殿が話している所に近づいて行って……。
コメット殿の頭に拳を振り下ろした。
「いっ……!?」
ゴン。と鈍い音が響いて、コメット殿がその場に頭を押さえて蹲る。
「何、痛がっているのよ。もうアンデッドなんだから、痛覚はほぼないでしょうに」
「いや、脳が揺れたからね!? もうちょっと、ルナさんは自分が神とかいう規格外生物だという認識を持った方がいいよ」
「相変わらず、ゾンビになっても、その物言いは変わらないわね。あん? 死んでも腐っても、その頭の中身は変わらないのかしら?」
「ゾンビじゃなくて、リッチ系!? というか、頭を両手でわしづかみにして、上下に振らないで!? 出ちゃう、今日の朝食がでちゃうから!? あと腐ってないからね!! ぴちぴちの死にたて新鮮!!」
「えーい、そのまま吐け!! そして、落ち着け!! というか、朝食なんざ食ってんじゃねー!! 私は朝食抜きで仕事だったつーの!!」
「そ、それは、ルナさんの、生活スタイ……。うぉぇ……」
「ちょ、こら、私が離れてから!? ぎゃーーー!?」
……頼む、本当に頼む。
何が起こっているのか説明してくれ。
見目麗しい美女と呼んでいい人たちが、吐瀉物まみれで騒いでいるとか、意味がわからん。
私は何のためにこの会談を設けたんだっけか?
「本目さん。まあ、こういうモノだと思った方がいいですよ」
気が付けば私の横には、遠い目をしたユキ君が立っていた。
なんという疲れた瞳か……。
「君は、こんなことを何度も……」
「慣れますよ……たぶん」
「……慣れてはいけないと思うのだが」
こんな会談が存在していいわけはない。
……いや、これは一応非公式だからいいのか?
私の友人と会わせるような話だったし?
「うえっぷ。あーあ、朝食が勿体ない。と、汚れちゃった。ねぇ、ヒフィー服の着替えってどこだっけ?」
「内臓もでているから!? というか、コメット、貴女は自意識があったなら服の場所ぐらい知っているでしょう!!」
会話だけなら微笑まし……くはないな。
見た目は更に見るに堪えん。
コメット殿の服は吐瀉物で汚れ、更に何か内臓みたいなものが出ている。
どういった理屈で喋っている……。
ヒフィー殿も、そんなことを言いつつ、内臓を口に押し戻して、手早く掃除をしている。
「ユキ、旅館の露天風呂借りるわよ!! 最悪!!」
「待てこら!! 個室で洗い流せ!! 嫁さんたちも入るんだぞ、病気になったらどうする!!」
「病気って、あんた神を何だと思っているのよ!! 私たちが汚いとでも言うつもりかしら!!」
「じゃ、洗い流さなくてもいいだろうが。洗うってことは汚いって認識してるんだろ」
「ぐっ、わかったわよ。家で着替えてくるわ……」
向こうも向こうで大変そうだ。
……人の頭を振ったのだから自業自得と言わないのは、これ以上、話がこじれないためだろう。
ユキ君が言わないのに、私がそこを言うわけにはいかない。
というか、更なる混迷に入る気がする。
「ふいー。いや、昼間から風呂に入るとは思わなかったわ」
「あっはっはっは。そうですねー」
のんきに笑い合う2人をよそに、私は更なる混乱の中にいた。
吐瀉物を洗い流すと言って、ユキ君にルナ殿が何やら話している内に、コメット殿がご随伴にあずかりたいと言い。それを諌めるヒフィー殿を無視して、一緒に風呂に入る流れになった。
……ここまでの流れは良くはないが、まだいいとしよう。
しかし、ここから更に訳が分からなくなった。
ユキ君が、流石に自分の拠点に連れていくわけにはいかないと、ちょっと意味の分からないことを言って、即席で、この大神聖堂の下のダンジョンを改装すると言ったのだ。
ダンジョンを知っていることについては驚いたが、コメット殿と繋がりのあるルナ殿の知り合いなのであれば、知っていてもさほど不思議ではない。
だが、ダンジョンを改装すると言って、即座に、本当に瞬く間に、大神聖堂の下に旅館ができたのだ。
嘘ではない。
地下なのに、なぜか空があり、冬の季節のはずが、中では桜が満開で、露天風呂を楽しめるようになっていた。
……いや、何を言っているのか意味不明だと思うが本当なんだ。
その状況に、ヒフィー殿もコメット殿も驚きはしつつも、普通にルナ殿に連れられて、女湯へと入って行く。
私も大混乱中とはいえ、女湯に入るなどと言う愚行は犯さない。
「ふぅ。DPの無駄遣いさせやがって。いや、ある意味、ここのダンジョンの掌握をごく自然にできたからいいのか? あの駄目神の考えることはよくわからんが、今のうちに色々小細工しとくか」
横では、恐らく、このダンジョンの改装を行ったユキ君が、透明なクリップボードみたいなものを空中に浮かべて、色々操作をしている。
……小細工?
言葉は気になるが、まずは状況の把握に努めよう。
女性たちに話が聞ける状況ではない。
女性が3人そろえば姦しいというが、あれは本当に文字通りなのだろう。
「すまない。ユキ君、とりあえず、君の知っていることを教えてもらえないだろうか?」
「いいですけど。……何を聞きたいですか?」
「……とりあえず。ダンジョンの話からでお願いする」
情報は、必要な時に必要な分だけ、とは言ったものの、今の私は知らない事が多すぎる。
「……とりあえず、お茶出します」
「……すまない」
なぜだろう。
私が今回の話し合いの責任者だった気がするのだが、一番置いて行かれている気がする。
さて、混乱を極める!!
駄目神になにか作戦あってのことか!!
普通の人はついていけないぞ!!
ある意味、期待通りだけどな!!
で、クリスマスはみんな小説読むぐらいしかやることないと信じて、飯テロかんけいを久々にやりたいと思います。




