第313堀:彗星の考えと思い
彗星の考えと思い
Side:コメット・テイル 新大陸ダンジョンマスター前任者
「コメット。確認したわね。使者のステータスを書いて提出しなさい」
「了解しました」
私の口は勝手に開いて、返事を返し、ヒフィーから受けた命令をこなすために、自分の私室へ戻る。
うーん。全自動で疲れ知らずだから、私としてはありがたい。
アンデッドって便利だなー。
でもさ、少しは口を挟みたいものだ。
片言しか喋れなかったせいで、ヒフィーには誤解を与えちゃったし?
いや、誤解でもないのかな?
言葉って難しいね。
まあ、現状もある意味、私の自業自得ではあるんだよねー。
ほんと、どうしたものか。
かといって、今の状況をより良き方向に持っていく方法なんて思いつかない。
そもそも、言葉を発するどころか、全身ヒフィーのお人形なんだから。自分の意思で指1つ動かせない。
……ん、自分で言っててなにかエロい気がする。
ほら、だってヒフィーは美人だし、私も最近はそれなりな気がするし?
こう……ね?
部屋へ戻る途中にどこからか献上された鏡の前を通り過ぎる。
そこには、綺麗な長い金髪と、容姿にあった、魔術師スタイルの私がいる。
色が白いというか、青いのは無視してね。
……そう、最近というのはアンデッドになって、ヒフィーのお人形になってからのこと。
当時、いや生前は研究とか色々で、髪はボサボサ、服もヨレヨレだったからねー。
うん。私って思ったより素材は良かったのかとアンデッドになって気が付いた。
「おや。これはコメット殿。腕の方はもう大丈夫なのですか?」
そんなことを考えて、全自動で歩いていると、廊下の先からヒフィーによって異世界に連れてこられた、タイゾウ・モトメさんがいた。
「はい。問題はありません。今から、偵察で観察した敵のステータスを書き出すように言われました」
「そうですか。まあ、ここからが大事ですからな。ですが、あまり無理はしないように。お互い、分野の長ではあるのですから」
「お気遣いありがとうございいます。では失礼いたします」
いやー、私全自動のお人形だし? 気遣ってもらっても、働き続ける。……材料は私の遺体だけど。
しかしさ、言動制限は本当に最近悔しくおもう。
だってさ、このモトメさんの知識ものすっごいんだから。
こいつはすげーってのばかり。
科学技術っていってたっけ?
魔術とは全く違う方式、ルール。
いや、通ずるところもある気がする。
自由にやれれば、モトメさんと協力して、もっと面白いものができると思うんだよなー。
あ、もちろんルナとかいう上級神に頼まれた魔力枯渇問題にも有益だと思うよ?
まあ、今更言っても仕方ないんだけどね。
もう、ダンジョンスキル関連も全部ヒフィー管理だし。
そもそも、もうルナ的には死亡って扱いになってるんじゃないかな?
復活したのはここ50年ぐらいだし。
いやー、何か自分の知識が役に立つかと思って、ダンジョンの研究室には保存の効果をかけておいたのが幸いして、私の体は腐らず、そのままで、魂も定着したままだったから、そのままヒフィーがアンデッド化したんだよね。
まさか、自分がそのまま使われるとは思わなかったけどねー。なっはっはっは。
見かたによっては、もう一度人生できるんだから幸せだよねー。
今は、色々とややこしいけど……。
カリカリ……。
そう、ややこしいのだ。
気が付けば、既に部屋に戻っていて、ヒフィーに言われた仕事を体はこなしている。
そのペンが走る音だけが響いている。
正直、私はあのヒフィーがここまでことを起こすとは思っていなかった。
神様だって、ルナから聞かされたときは驚いたけど、当時は普通に村の教会で司祭を務めている、ただのお姉さんだったのだ。
私は変人と認識されて、いやだねー、世界の謎を解き明かそうとする人を捕まえて変人だなんて……。
と、そこはどうでもいい。
そんな関係で、私もその村の端でひっそり研究しながら過ごしていたわけだ。
で、私がダンジョンマスターとして魔力枯渇に対応するにあたって、偶然一緒の村にいたヒフィーと協力することになったんだ。
まあ、その前から、家に様子見に、掃除にと甲斐甲斐しく世話していてくれたんだけど。
当時の私とヒフィーの仲はすこぶる良好。
いや、今も実はヒフィーとは仲が悪いとは思っていない。
だって、この服や、髪の手入れは、ヒフィーが自ら欠かさずやってくれているからね。
で、自陣の強化で、私とヒフィーが合わせて開発した便利つえー剣、略してべツ剣が、ある意味、効果を発揮しすぎて、連れてきた女の子たちが、私をバッサリ。
いやさ、女の子でもバリバリ戦えるように、べツ剣で精神負担を軽くしようと思ったわけよ。
直接的な理由としては、当時、魔力枯渇の原因が大国の配置に問題があると気が付いて、中途半端に情報を伝えたのがいけなかった。
おかげで、彼女たちは、自ら大陸を守るため、私をぶった切るという選択をしてしまったわけ。
もうちょっと、話を深く聞くぐらいの度量は欲しかったな。
いや、精神制御を失敗した私の責任なんだけどさ。
でもさ、個人的に、こういう大陸全体の問題は、全員で取り組むのがいいんじゃないかなーって思ったりもしたから、私が斬られた結果自体は恨んでいなかった。
拾った彼女たちが、自ら道を切り開くなら、それでいいと思ったんだ。
世話になったほかの仲間たちに別れの言葉を言えなかったのは残念だったけどね。
で、目覚めれば350年後。
ヒフィーはあの時みたいなふわふわした優しさはなりを潜めていて、一国のトップになっていた。
目覚めた当時は、結構自由に動けていて、その時にあの後の経緯は知った。
まさか、ピース率いるダンジョンモンスターたちが大陸を制圧しようとして、それを食い止めたのがベツ剣を持った彼女たち。
私が死んだことで、私の身内たちは真っ二つになっちゃったみたいだ。
物語では英雄譚のように語られているが、私から見れば壮絶な内輪もめだ。
そして、その後の大国の殆どに、彼女たちがその祖として名前は残っているけど、殆どは幽閉だってさ。
精神制御のせいで、猪突猛進になってたみたいだ。各国の調整を振り切って、国家統一しようとして、幽閉。だから、正直、当時の各国の重鎮たちは大変だったろうなーと思う。
だからだろうね。
そんな、私の残した者の願いも淘汰されて、彼女自身、ヒフィーの願いも砕け散った。
そうでもなきゃ、自分で国を立ち上げて、私をお人形のアンデッドとして使うわけがない。
……つまり、マジなのだ。
いや、私としては、戦争も1つの手段だから、ヒフィーの考えることを、否定はしない。
というか、残ってるのはヒフィーだけなんだから、口を出すつもりもない。
前に言った「私は……もう……必要ない」は「私は邪魔するつもりはないから、もう制御する必要はない」なんだよね。
いや、制御していないと、研究室に引き籠る自信はあるけど。
そう言う意味では、ヒフィーは私を制御して正解だと思う。
彼女は別方向で勘違いしているみたいだけど。
と思考をまとめてみるが、結局のところ、ヒフィーは私たちがいなくなって、人の手による解決という選択をやめたわけだ。
まあ、あれから400年。
それ以前からこの大陸を見続けてきた時間からすれば、随分気が長かったかな。
並の人なら、何度争いを起こしても不思議じゃない時間だ。
その気の遠くなる時間を、必死に堪えてきて、方法を模索していた彼女の選択に文句を言うつもりはない。
さて、それでは何がややこしいのか?
それは、この前、私が宣戦布告のつもりで行った部隊が、飛龍に蹴散らされた件だ。
あんなレベルの魔物が30匹以上もいるのがおかしい。
しかも、きっちり連携していた。
私が生きていたころでさえ、飛龍なんて、山の奥の奥にいる珍しい魔物だった。
強さも、今来ている竜騎士さんが従える、ワイバーンを軽く超えている。
10戦して10敗は固いだろうというほど、差がある。
しかも、その飛龍を率いていたのは、オークと来たもんだ。ついでに喋る。
もうわけわかんねぇ。
いや、ダンジョンマスターとして活動していた時は、高位の魔物、デュラハンとかリッチは喋ったよ?
無論動物型の魔物も喋る。
が、オークなんて量産の使い捨てだ。
あれを喋らせるメリットが存在しない。
一瞬、私とは別の新しいダンジョンマスターが選ばれたのかと思ったが、そのオークのおかげで、その線は消えてしまった。
だって、そのオークの強さが尋常じゃなかった。
喋らせるだけでも、無駄にDPを使うか、教育という時間を費やさないといけない。
更に、研究者ではあるが、魔術師であり、ダンジョンマスターとして全体的な底上げがされまくった私の腕をあっさり斬りおとした。
つまり、知識だけではなく、能力全般が上がっているのだ。
これが、ダンジョンマスターの仕業と言う事もなくは無いが非常に低い可能性だ。
あんなオークを用意するなら、飛龍をもっと増やした方が効率がいい。
だって、この大陸のDP補充量は400年前より更に悪くなっているのだから。
つまり、アグウストとか人の国のほかに、ピースが魔王をやっていた時より、やばい本物の魔王が出現している可能性があるのだ。
場所は、恐らく、魔力の集積場所となっているランサー魔術学府の近く、魔の森だ。
ポープリが孤児を保護していた施設を、まさか魔術学府にまでにしてしまうとは思わなかったけど、恐らく、ポープリはこれを予見してその場所に魔術学府を建てたんだと思う。
彼女は頭の回りは良かったからね。外見が小さいまま、不老にしたのはちょっとはやまったかなーと思ったけど、結果的には上手くやってるみたいだ。
ん、話がずれたね。
多分、あのオークや飛龍たちは、襲うに難しいポープリの学府よりも、私たちに何も備えがない状態の所を襲ってきたということだ。
いま、飛龍対策はモトメさんがやっているけど、あんなオークが出現しているのだから、ほかももっと増強しないと不味い気がする。
なんて、進言はヒフィーにできない。
体の自由は効かないから。
まあ、あのオークたちが再び前に出てくるなら、状況次第では押し込まれるだろうし、その時に、無理に制御を解除して、この話をするとしよう。
一応、無理に制御を解除できないことはないのだ。
だが、今、ヒフィーと話し合う体制が整ってない状況で制御を解いても、あっさり強固な制御をかけられておしまいになる。
私がヒフィーの所から逃げ出すならそれもいいが、ヒフィーを置いて逃げる気も毛頭ないのだ。
ああ、私って友達思いだよね? 死人になっても心砕いているんだから。
お、気が付けば、使者のステータス書き出しが終わっているね。
どれどれ……。
ふーむ、竜騎士さんはポープリの所の学生だから、レベルは低いねー。
でも、魔術の才能はあるみたいだね。
その旦那さんも、魔力操作かー、なかなかキワモノだね。
で、アグウストの魔剣使いさんは、ほほう、レベル82か。
うむうむ、かなり強いね。これは、ヒフィーのアンデッド魔術師隊の材料かねー?
で、あとは護衛の傭兵さんたちか……。
ふむ、平均的にレベル70前後か、まあ、凄いね。
凄いけど、魔剣使い以上でもないし、特出したスキルもない。
……なんか怪しい。
特に、この2人。ユキとタイキって人、見た感じがモトメさんと似ている。
異世界から呼び出された? でも、ステータスにはそんな記述はない。
隠蔽スキル持ち?
でも、私の鑑定は隠蔽も見破るはず。
あー、直接調べに行きたいけど、体が自由に動かない!?
まあ、隠蔽していた所で、私やヒフィーを倒せるとは思えないけど……。
コメットは良くも悪くもいろいろな意味でマイペース。
彼女はこれからの騒動にどうかかわるのか?




