第311堀:話し合い 裏 後編
話し合い 裏 後編
Side:タイゾウ・モトメ
「よかった。本当によかった!!」
私は若者たちの前に、情けなく涙を流していた。
まさか、自分が死ぬ瞬間でも涙を流さなかったのに、こんなことで流すことになるとは。
……ああ、男は苦しいときこそ涙を見せず。嬉しいときに泣けと兄から言われたか。
そう、私は今、嬉しくて泣いている。
使者の中にいた、私と同じ日本人の少年たち。
その少年たちはあろうことか、60年以上も先の日本から来たという。
疑う要素はないので、私はあることを聞いたのだ。
私たちの研究は、いや、師たちの作り上げたものは残っているのかと。
期待はしていなかった。
世界には、アルベルド・アインシュタイン殿などという雲の上のような天才も存在する。
だから、私たちの研究成果も、その中ではたいしたことではないのでは?と思ってしまう。
それだけ世界は広いのだ。
だが、彼らから返ってきた言葉は予想に反して、遥か斜め上だった。
八木・宇田アンテナ。
彼らの未来では日本どころか、世界中にその名が残っているという。
通信、アンテナ、レーダーの基盤を作った、偉人として。
そして私は、その話を聞いて嬉しすぎて泣いてしまったのだ。
よかった。
本当によかった。
我が師の研究は、日本どころか、世界中で評価され、記録に残ったのだ。
これは、研究者にとって最高の名誉だろう。
「あ、あの、モトメさん。大丈夫ですか?」
話について行けないエオイド君が心配そうにこちらを見ている。
いかん、いかん。
大の大人が年下の若者たちの前で泣くとはな。
心配させてしまった。
「すまない。大丈夫だ。聞いていたならわかると思うが、私の師、先生たちが、ちゃんとした評価をされていたことが嬉しくてね。つい年も忘れて、泣いてしまったよ」
「それほど素晴らしい人たちだったんですね」
「ああ。我が師たちは私の誇りだ。あの人たちの元で学べたことは私にとって何事にも代えがたい宝だ」
そう、そして、私をその舞台へ送り出してくれた兄に感謝だな。
……ん?
何か引っかかる。
「……」
「どうかしましたか?」
沈黙する私に、タイキ君が声をかけてくる。
……そのタイキ君の顔に何やらおぼろげに見覚えがある気がするのだ。
「まさかな……。すまないがタイキ君に聞きたいことがある」
「はい。何でしょうか?」
「本目泰一という名前に聞き覚えはあるか?」
「……いいえ。覚えはないですね」
「ふむ。どことなく、兄の若い頃に似ていた気がするのだが、他人の空似か」
「そうじゃないですかね?」
2人でそんな見解に達したのだが、そこでユキ君が口をはさんできた。
「別に本目さんのお兄さんだけとは限らないでしょう。兄弟の子供が親でなく、親の兄弟の誰かに似るなんて話はよく聞きますし」
「ああ、先祖返りみたいなものだな。私には妹もいた。名前は本目誠子。嫁いで苗字を東になったな」
「あ、東なら聞き覚えがありますよ!!」
「本当か!!」
「母さん、母親の旧姓です。でも、誠子さんって名前に聞き覚えはありません。うちの母親の名前は智子ですから」
「ちょっと待ってくれ。確か60年近く後だったな。なら、世代的には妹の子供が祖母か曾祖母の可能性があるな。母方の祖母の名前は分かるか?」
「えーっと、ちょっと待ってください」
少し考え込むタイキ君。
仕方ないか、私も祖母の名前はうろ覚えだ。
子供にとっては、父方でも母方でもおじいちゃん、おばあちゃんなのだ。
お偉いさんの所は違うのだろうが、私たちは一般の生まれだからな。
名前にこだわらなくても、じいちゃん、ばあちゃんで通じるのだ。
「思い出しまた。確かばあちゃんの名前は良子です」
「よしこ……、良子か!! その名前は私も聞き覚えがあるぞ。妹が東家に嫁いでから、産んだ長女の名前だ!!」
「そ、それじゃ……」
「いや、少し落ち着こう。これだけでは偶然があるかもしれない。だから、出身地を確認だ」
そうだ、ここまでやっておいて、実は違いました。偶然で名前が一緒でしたと言うのは恥ずかしい。
だから、ちゃんと理詰めで行くのだ。
「えっと、母さんの生まれは熊本です」
「熊本か!! よし、次が最後の質問だ。その祖母の兄弟の方が剣術道場を開いていなかったか?」
「はい。開いていました。薩摩示現流、東宗家とか……」
「間違いない。タイキ君は私の遠縁だ!! 私も、妹の嫁いだ先の東家で示現流を教わっていたのだ」
「ということは爺さん?」
「いや、それはどうだろう? 果てしなく遠縁だからな。そして私自身の年齢は未だ38だ。爺さんと呼ばれるのには抵抗があるな」
お互い妙な感じになる。
確かに血縁者がいたのは嬉しい。
しかし、お互いに親戚のおじさんと従妹の息子みたいな感じな年齢差なのだ。
なんと呼ぶのが正しいのだろうか?
「別に無理に事実に沿った呼び方を決めなくてもいいでしょう。お互い納得のいく呼び方でもいいんじゃないですか?」
考え込んでいた私たちにユキ君がそう言う提案をしてくる。
「確かにな。なら、私は普通にタイキ君と」
「じゃ、俺は泰三さんでいいですか?」
「そうだな。本目さんでは他人行儀すぎる気がするな。しかし、ユキ君もだが、よくこの世界に来て無事だったな。私の場合はこのヒフィー神聖国のトップ、ヒフィー神聖女殿に直接呼び出されたので対して問題は無かったが。外には魔物とかいう、魑魅魍魎、人食い妖怪の類いが山ほどいる。君たちもどこかのお偉い方にでも呼び出されたのか?」
「俺は勇者として、傾きかけた国に呼び出されましたね」
「俺も似たようなものです」
「そうか。どこも似たような感じか。しかし、それ以外で荒野に置き去りにされた地球の人がいない。なんてのは甘い考えだな」
「そうですね。神隠しなんて言葉も日本にはありますし。実際、異世界に呼び出された人もいたんじゃないでしょうか?」
ユキ君の言う通り、神隠しはこちらの世界とは限らないが、別の世界に呼ばれたと思うのがある意味自然だな。
私たち3人が初めての転移者などと思うのは都合がいいというか、夢を見ているだけだろう。
「さて、色々興奮してしまったが、そろそろ本題に入ろうか。積もる話は、この話が終わってからだ」
「はい」
「そうですね」
色々脱線してしまったが、私の目的は故郷の話に花を咲かせることではない。
今から起こるであろう、戦争に、同郷の人間、しかも若者で、1人はなんと遠縁だが血縁者が敵方にいるという事態をなんとかしたいと思っている。
「まず、君たちを私が招いたのは、最初言った通り同郷の、地球、日本人か確認をとりたかったからだ。それは確認できた。間違いなく、君たち2人は日本人だ。そして、使者として来ているのならばわかると思うが、これからヒフィー神聖国は各国に対して宣戦を布告する。ありていに言えば、規模は小さいが、この大陸すべてを巻き込んだ、大戦が起こることになるだろう」
「あの、なんでこんな戦争を起こそうなんて話になったんですか?」
「さあな。私が呼ばれたのがきっかけだとは思うが。真意はよくわからない。と言っておこう。私から話すことではないからな」
「わかりました。真意の方は直接ヒフィーさんに聞いておきます。で、本目さんがきっかけだというのは?」
ユキ君とタイキ君は鋭い目でこちらを見てくる。
簡単に聞いたが、日本はあの二次大戦から無条件降伏、非武装中立宣言を掲げる者もいるという。
そして、60年もの間戦争をしていないらしい。
きっと、よほどな負け方をしたのだろう。
例えば、あの後広範囲高火力爆弾が完成して落とされたとか……。
そんな彼らにとっては、戦争とは忌むべきものだろう。
私も戦争は起こらないに限ると思う。
だが、今は違うのだ。
「私が提供した、銃器開発が軌道に乗った。それが……ヒフィー殿が大国を相手に戦いをする切っ掛けになったのだろう」
実際は、コメット殿が作る聖剣もあるだろうが、流石にそこまで話すわけにはいかないし、理解できないだろう。
ダンジョンマスターはおろか、ダンジョンですらこの大陸では遺跡と呼ばれているのだから。
「なぜ? と聞いていいですか?」
「ああ。私は死ぬ寸前に呼びだされ、事なきを得た。最初は恩返しのつもりだった。知っているだろう? この世界の文明レベルの低さを」
「はい」
「だから、私は少しでも、人々の暮らしがよくなるように、安全に過ごせるように、私が知りうる限り、提供していいと思った知識を拡散していった。都合よく、お国のトップと繋がりがあって、資金繰りなどは問題なく、知識に関しても師たちからお遊びで叩きこまれたものが生きた」
「それじゃ、今の状況は本目さんの望んだものとは違うのではないですか?」
「……それがそうでもない」
「どういうことですか?」
「時代には転換期というが存在する。私は今がそうだと思った。この世界の文明レベルは王権、つまりは封権制、絶対王政といった状況だ。しかし、それらに反旗を翻そうとしているのがヒフィー殿だ。彼女は恐らく、私が起こした擬似的な産業革命を足掛かりに、市民革命を起こそうとしている」
「泰三さんはこれで、時代が次を迎えるって思うんだな」
「ああ。確かにこの戦争で多くの血が流れるが、これを乗り越え、ようやく次の段階へ進めると私は思う。いくら、私たちの故郷の民主主義、まあ大戦中はどう見ても軍国主義に見えるが、一応、民主主義だったわけだが。立憲君主制だったからな。だが、それをただ言っても誰も聞いてくれないし、今の地盤がある王侯貴族たちは納得しないだろう。彼らにとっては、日本風にいえば江戸幕府が崩壊するようなものだ。こういう時代の変わり目に起こる争いが話し合いで済むことはない。それは時代が証明している」
「だから、銃などと言った、兵器の開発をして提供したと?」
「そうだ。確かに私たちの世界では多くの血を流したが。こちらでは、私が持ち込んだ近代兵器群が存在する。それを用いれば、一気に敵を制圧できる」
「泰三さんはいずれ来るだろう、この世界の市民革命を待つよりも、今起こした方が流血は少なくなると思うんだな?」
「その通りだ。だが、素直に上手くいくとは思っていない。王政、封権制も上が優秀であれば、国民は健やかに過ごせるからな。今の国々を率いている王が、全部が全部愚鈍だとは思っていない。そして、次が問題だ」
「次? 時代を進めるのが目的じゃないんですか?」
そう、これはあくまでも次の問題に対するものだ。
「私たちが考えなくてはいけないのは、まかり間違って地球と半永久的な繋がりができてしまった場合だ。その場合。文明レベルが低く、それでいて魔物や魔術と言った特異な生物や、資源、技術がある場所を見てどうするだろうか?」
「それは、日本なら普通に友好を結ぶんじゃないですか?」
「……タイキ君。それは楽観しすぎだな」
ユキ君はこの話の重大さに気が付いているようだ。
「ユキ君の言う通り、タイキ君は少し楽観が過ぎるな。まあ、運よく日本と繋がればいいだろう。しかし、ほかの国、軍国主義などの国と繋がった場合。この大陸、いやこの世界は瞬く間に制圧されるだろう」
「……」
「確かに、強力な魔物、魔術は存在するが、それは一握りだ。残念ながら、この異世界の文明に地球の技術を上回る総合的な知識と力は未だ存在しない。そして、日本でもおそらくは繋がりができれば、なんとか言いくるめて、資源や生物研究をしようとするはずだ。この世界は私たちの世界から見れば宝の山だ。そして、話し合いというのはお互いの力が拮抗している状態じゃないと成立はしない。最悪、この世界の資源をめぐって第三次世界大戦も起こりうるだろう」
「……そのために大陸の文明を少しでも前に進めようとしたというわけですね」
「ああ。このままでは私がいるヒフィー神聖国ですら、建前上友好国といっても、内情は属国、植民地という扱いを受けるだろう。君たちが呼び出されたという国々もだ。もう攻め込むのに大義名分は与えてしまっているからな。私たちは誘拐、拉致された。それだけで敵国として攻め込むには十分だ。祖国である日本でなくてもいい。ほかの国々が私たち日本人、地球人を保護するという名目で蹂躙するだろう。なにせ相手は文明レベルが低い。情報記録もできない。都合よく使いやすい相手だけ残してあとは殺してしまえばいいわけだしな」
少し間が空く、ユキ君は理解していたが、タイキ君は、理解はできたものの納得はいかないみたいだな。
若いな。だが、それが世界の現実だ。
「誰かに任せていいわけでもない。いつか起こるのならば、可能性がわずかにでもあるのなら、今、私の手で推し進めよう。汚名も、何もかも私が被る覚悟はある。後の人たちが穏やかに過ごせるようにな。まあ、最大の敵が地球の人々。我らが同胞だというのは皮肉だが」
皮肉ではあるが、それがあって私たち地球の人々は、この特異な世界に対しても十分戦えるどころか、圧倒する力を持っている。
「というわけで、私は残念ながら戦争を止めるつもりはない。そこで、使者としてきた同郷の君達と敵対するのは、こちらとしても損失だ。血縁者もいることだしな。だから1つ提案をしよう。私の元へ、ヒフィー神聖国に来てはくれないだろうか? なに、君たちの家族同然の相手も当然受け入れる。どうかな?」
そう、少しでも、最悪の未来を避けるために、あちらを知っている仲間がいるのだ。
今のままでは、私の時代の技術力でも羽虫の如く蹴散らされる。
更に進んだ未来の、地球の軍事力にこの世界が対抗できるとは到底思えない。
私は誇りある大和男であり、薩摩隼人、恩を仇で返すわけにはいかないのだ。
さて、本目さんの考えがわかりました。
彼は、彼なりの理由を元に動いています。
個人的には、本目さんの意見を否定できません。
まあ、ユキというイレギュラーが無ければな!!!
でも、これはお互い探り合いの最中なので、今相互理解をするわけにはいきません。
というわけで、ヒフィー神の考え、本目さんの思想、そして前任者コメット。
この3人を知る、知りうる人がユキの知り合いに一人います。
次はその人との話です。
いでよ、駄目神で駄女神!!!
最後に、ちょっと感想欄で二次大戦のことで悩ましい意見が出ていますが、まあ本目さんの意見と思ってください。
正直、この手合いは次々に事実がかわるので、自分としてはどれを支持するということはありません。
というわけで、どっちが正しいとかの言い争いは無しでお願いします。
また、火種みたいなのを作って申し訳ない。
みんな、仲良くね!!




