第307堀:国を守護する者
国を守護する者
Side:ミリー
さて、本当に厄介ね。
メンバーの選出に入ったユキさん。
その間、私たちは色々準備に取り掛かる。
敵地のど真ん中に突入するのだから、脱出方法や連絡手段の確立などなど、やることはたんまりある。
ま、役割分担しているから、そこはさほど問題は無いのだけれど……。
「あの……ミリーさん。具合悪いんですか?」
そう言って、お水を差しだしてくるのは、ハウゼン食堂の看板娘、テレスちゃん。
そう、私は今、アグウストの王都に戻って再び情報収集をすることになった。
今回、霧華は別行動で情報を集めている。
と、いけない、いけない。
どうやら、気にされるような顔をしていたようだ。
「あ、大丈夫よ。具合は悪くないわ」
「そうですか? なら、なにか悩み事ですか?」
「そうね。ほら、今回、戦争になりそうじゃない」
「はい。今も兵士さんが慌ただしく走り回っていますし……」
そう言って、テレスちゃんは、門の入り口に視線をやる。
そこには、えっさほいさと、大量の兵士が出たり入ったりしている。
結局、ヒフィー神聖国が攻めてきたと告知されたのは、ユキさんたちが偵察に出たあとすぐだ。
イニスのお姫様は、そこら辺はしっかりしているようで、巡回を増やし、街では目立った騒動は起きてはいない。
だけど、こうやって、兵士が動いて物資を運搬していると、皆落ち着かないのだろう。
誰もが、時折、兵士の動きを目で追っている。
「このおかげで、夫との観光が遅れそうなのよ」
「ああ、そう言うことですか」
運命は、何としてでも、アグウスト王都での新婚旅行をさせたくないらしい。
全く、なんでこんな時に敵に前任者とかでるの?
ただの、偵察で終わってくれればよかったのに!!
いや、銃とかあったから、そう上手くはいかないと思っていたわよ?
でも、でも……。
そのまま押し倒して、ペロッといただいちゃおう作戦がー!!
「って、大丈夫なんですか!? 旦那さんと合流できていないってことは、未だに外を旅しているんでしょう!?」
「ああ。それは大丈夫よ。方向は反対だから」
「そうなんですか。でも、大丈夫ですか? 今回のことで治安は悪くなっているっていいますし」
「そこら辺は心配無用ね。私の夫は強いんだから。盗賊が10人程度で囲んだって、どうとでもなるわ」
「ふぇー。凄いんですね」
本当にどうとでもなるのよね。
全員にブレイクダンスとかさせそうよね。
「お、なんだ。ミリーはのんびりしているんだな」
「あ、モメントさん。って、お姉ちゃんも!?」
私とテレスちゃんが話していると、完全武装で身を固めたモメントがこちらに向かってきていた。
そして、その横にはテレスの姉で、この国の魔剣使いの1人、ラライナが立っている。
私は面と向かって会うのは初めてだけど……。
「知っているでしょう。私はここで旦那待ちなの。外に出てる場合じゃないのよ。で、そっちはお小遣い稼ぎかしら?」
「お小遣いって、ミリー、今回の給金見てないのか? 破格だぜ?」
今回のヒフィー神聖国への侵攻を前提と考えた、傭兵の招集、雇用は始まっており、その給金は通常の倍以上だ。
ま、傭兵たちにはいい稼ぎよね。
私にとってはどうでもいいけど。
「いいのよ。お金は稼いでるし、そこのラライナさんが守りで精一杯な相手と戦うなんて、死に行くようなものよ?」
「は? どういうことだ?」
「え? お姉ちゃんが?」
今回のヒフィー神聖国の侵攻は食い止めたことになっている。
竜騎士アマンダの活躍は一旦伏せられて、そこのラライナが魔剣で押しとどめたというのが、表向きの報告だ。
「貴様。何を知っている」
ラライナは私の言葉に対して、否定も肯定もせずに、鋭い眼光を向けてくる。
ふむ。ここら辺はまあいいでしょう。
私がなぜこのようなことを言っているのかといえば、ユキさんからの指示で、挨拶にくるラライナに会って、力量の見極めをして来いって言われたのよね。
使者として、一緒に向かうのだから、力量把握をしておくのは当然だけど、ユキさんたちがラライナと一戦交えるのは、相手にダンジョンマスターがいる状況で、どこに監視の目があるかわからないのでやめておいた方がいいという話になって、単独で動いている私がこうして挑発して、見定めをしているのだ。
「あら、否定ぐらいしなさいよ。自分たちより少数の敵相手に防戦一方だったんでしょ? 魔剣使いが聞いてあきれるわ。モメント、命が惜しかったら今回の従軍やめときなさい。テレスちゃんには悪いけど、こんなへっぽこに付き合っていると、死ぬわよ?」
「やめてミリーさん!! お姉ちゃんにひどいこと言わないでよ!! 嘘だよね? お姉ちゃんが苦戦なんてしてないよね?」
テレスちゃんは姉に悪口を言い始めた私に対して、姉を庇うように、そして否定してほしいように言葉を紡ぐ。
「……。テレス、モメント殿、ここだけの話にしてほしい。士気にかかわる」
「え、お姉ちゃん、本当に……」
「ミリーの言ったように防戦一方だったのか?」
「ああ。相手は新型の武器を持って私たちを攻め立てた。だが、その対策は既に立てている。だから、心配はない」
ふむふむ、冷静に対処はできるようね。
彼女を使者にしても問題ないぐらい、煽り耐性はあるみたい。
「もう一度聞こう。貴様は何者だ。……これ以上、その話をするのであれば、治安を脅かすものとして、捕縛させてもらう」
じゃ、次は実力を見せてもらいましょうか。
「答える義務はないわ。話についても、自分たちの無様を晒すのがいやなのがバレバレ。国民の安全を守りたいというのであれば、正直に言うべきね」
なんてね。
情報封鎖は治安悪化の可能性があるから、イニス姫様の判断は問題ないと思うわ。
でも、こう言えば……。
「そうか、残念だ。ここで力づくで捕縛させてもらう」
「できるかしら?」
私は椅子から立ち上がることもしないで、ラライナを見る。
向こうも、私を様子見しているようで、腰に下げている二つの剣の内、魔剣には手を出さず、ただの剣の方に手を伸ばして……。
「お姉ちゃんだめぇ!!」
「ふっ」
テレスちゃんの静止の言葉を合図に、鞘に納めたままの剣を、私に打ち付けてくる。
「うんうん。魔剣の力だよりではなさそうね。いい剣筋だわ」
でも、私にとっては脅威でも何でもないので、あっさり剣を手で掴んで止める。
「なっ!?」
「ええ!?」
「!?」
モメントとテレスは声をあげて驚いているが、ラライナの方は、すぐに剣を手放して、後方に飛び引く。
瞬間判断もOKね。
掴まれた剣を引き抜こうとするなら、そのまま引き寄せて叩き伏せていたから。
掴まれたという状況をちゃんと判断したということね。
圧倒的に、スピードも力も負けているから、椅子に座ったままでもこんな芸当ができるってことに。
私の力量を見極められなかったのは減点だけど、これはしょうがないか。
これを見極められたら、使者として向かったときに、相手の強さにどうしようも無くなるだろう。
ユキさんたちと一緒にいて無反応だったから、分かっていたことだけど。
「どうして、向かってこない」
「なぜかしら? 私は武器を振るわれたから、それを止めただけよ?」
「……そうか。ならこの場で話を聞くとしよう」
そう言ってラライナは私の向かいの椅子に座る。
「私を捕まえるんじゃなかったのかしら?」
「私では捕縛は不可能だ。テレスの様子から悪人ではないとわかっていたが、ここまでとは思わなかった」
「そう? その魔剣を抜けばわからないわよ?」
「そう思いたいな。だが、父さんの店を壊したくもない。ミリー殿だったか、改めてなぜその情報を知っているか教えてほしい。私が来て初めて口にした様子だから、誰からか見極めでも頼まれたのか?」
思ったより鋭いわね。
うん、マーリィやオリーヴよりミストやエージル寄りってわけね。
使者としてはいいんじゃないかしら?
「はっ、なんで普通に座って話してるんだよ!?」
「そ、そうだよ!! お姉ちゃんに、ミリーさん、いったい何があったんですか!?」
観客の2人の方が状況について行けず混乱しているわね。
「いや、ただのお遊びだ」
「そうね」
「お遊びって……」
「うそだよ。お姉ちゃん本気で剣振ってた」
「それはそうだろう。一緒に訓練していた顔なじみだ。前にも言っていただろう?」
「ああ。それってミリーさんのことだったの? でも、容姿が違うようだけど……」
「それはそうだろう。女性は美しさを求めて、変わるものだ」
「……お姉ちゃんがそれを言うかな」
うん。
アドリブもいけるようね。
こちらに目配せもしているから、合わせてあげましょう。
「そうよ。ごめんね、テレスちゃん。このお店も実はラライナからの紹介だったんだ」
「なんだー。それならそうと言ってくださいよ」
「そうもいかないわよ。ラライナの名前を借りた悪党も多いでしょう?」
「そりゃな。そんなことすればテレスの嬢ちゃんや、親父さんが出てくる」
「あ、うん。そうだね。はぁ、驚いて損したよ」
そうやって2人が安堵の息を吐いていると、店の奥から店主がやってくる。
「ふん。帰ってきたと思えば、いきなりお客様相手に乱闘寸前だ。普通ならげんこつ1つでも入れるところだが、この慌ただしい状況の中、顔を出したからにはそれなりの用事だろう。ほら、奥に入んな。テレス、店は任せたぞ」
「はーい」
「モメント。俺の娘にちょっかい出すアホがいたら……」
「分かってますって。ぶちのめします」
「もー。私1人で何とかできるってば」
そう言って、店主はラライナを連れて店の奥へと……。
「何、座ってるんだ? 嬢ちゃんも一緒にくるんだよ」
「私も?」
「ああ。どうやら、あんたも当事者らしいからな。話はまとめて聞いた方がいい。あと、2人がかりなら、助けを呼ぶことはできるだろうよ」
「へぇ」
この店主さん、実力差を理解しているのね。
伊達にテレスちゃんやラライナのお父さんってわけじゃないのね。
これは傭兵たちからも一目置かれるわけだ。
「そうね。積もる話もあるし、奥の方が話しやすいわね」
ということで、私も席から立って、店の奥へ足を進める。
「すまないな。店奥は普通に家でな」
そう言って、店主さんはお水を出してくれる。
でも、ちゃんと飲食店をしているだけあって、しっかり掃除がされていて、年季が入って古くみえるけど、綺麗な印象がある。
真剣に、お店をやっているんだなーって感想。
「いえいえ。ちゃんと掃除がいき届いていて気持ちがいいですよ」
「そう言ってもらえるとうれしい。で、いきなり本題に入って悪いが、ラライナの話から聞こうか」
「わかりました。ミリー殿は全部知っているようですし、実は……」
そして、ラライナは、先の戦いの事実を話し、自分がヒフィー神聖国の使者に立候補したことを伝える。
完全に簡潔に、無駄なく話した。
なんというか、父子というより、上司と部下と言った感じだ。
厳格な育てられ方されたんだろうなー。
「話は分かった。そして、そちらのミリー殿の立場もな」
「どういうことでしょうか、父さん」
何が分かったのかしら?
私は小首をかしげていたのだが、店主さんは何かを悟ったような顔をしている。
「恐らく、お前が、使者としてちゃんと使命を果たせるかどうかを見極めるために、あのような挑発をしたのだろう。陛下も人が悪い。が、納得はできる。今回の件は慎重にやらねばならない。どうかね?」
ああ、そう言う解釈か。
寧ろ当然かな。
ユキさんの指示というより、よっぽど納得できる。
「私も事情がありますので、詳細は言えませんよ」
「うむ。承知している。あとは陛下しだいだな」
「そう言うことですか……。私はお眼鏡にかなったのでしょうか?」
心配そうに言っているが、私はユキさんの指示なので、何とも言えない。
個人的にはOK。
丁度いい能力値だ。
使者としては合格点、万が一敵に回ってもどうにでもなる戦闘力。
総合的に都合がいい。
「しかし、ミリー殿のような手練れがいるとは思わなかったな」
「はい。剣を素手で止められるとは思いませんでした。でも、ミリー殿の噂は聞いたことがない。一体どこから……」
「そうねー。明言は避けておくけど、一緒に使者としていく人達に頼っておけば、そうそう悪いことにはならないと思うわ」
「ほかにだれか候補がいたのか?」
「いえ。私は知りません。一緒にくるのは、竜騎士アマンダ殿ぐらいですが、彼女はまだ学生ですし……」
「ふむ。まあ、陛下も何かしら手を打っているのであろう。ラライナ、同行者とは協力していけ。ミリー殿のお墨付きもある。頼って問題はあるまい」
「はい。では、許していただけるのですね?」
「うむ。今更、可愛い娘が危険な場所に行かせられるかと言って止まるわけでもあるまい?」
「その通りです」
「ならば、使命を果たし、生きて戻ってこい。死が潔いとは思うな。それが騎士、お前がなりたいといった、国と主を守護する者だ」
「はいっ。では、魔剣使いラライナ、只今より、職務に復帰いたします!!」
「行って来い」
そう言って、店奥から出ていくラライナを見送る店主。
「あ、お姉ちゃん。どこ行くの?」
「仕事だ」
「えー、もう?」
「ああ。今は忙しいからな。今度帰ってきたときはゆっくりできると思うから、その時一緒に色々遊ぼう」
「うん。約束だよ」
そんな会話が聞こえる。
仲の良い姉妹のようだ。
「家にいるときはああなのですが、私の背中を追ったのか、小さい時から騎士になると言ってましてな。結局あんな堅物に育ってしまいました。なまじ、運が良かったのか、魔剣まで使えるようになってしまって……」
そう呟く店主は少し寂しそうで……。
「娘をどうかよろしくお願いします」
「はい。できうる限り、彼女もつれて帰りますよ」
餌にするから、多少贔屓してもユキさんは文句なんていうことはないだろう。
あの人は、甘いから。
……でも、前任者に異世界人が相手。どんな戦いになるか想像がつかないわね。
どうやら、使者としてラライナが赴くことになりそう。
さあ、敵はどう出るのか!!
ユキはこの話し合いにどう横やりを入れるのか!!
お楽しみに。




