第304堀:情報整理と方針
情報整理と方針
Side:ユキ
只今、全員ウィードの会議室へ戻っている。
現在の時刻10時。
一通り、いつもの仕事や食事も終えて集まったが、今回はこれからが本番だ。
「まず、本題に入る前に、今のアマンダたち、俺たちの状況説明だな。エリス、いいか?」
「はい。まず、アグウスト軍の救援に行った飛龍隊ですが、無事に竜騎士アマンダの成果になりました」
うん。色々ごめん。
だけど、元々そう言うつもりでアマンダにワイちゃんを預けたからな。
なんというか、まあ我慢しろ。
エリスから個人的に王様とのやり取りは聞いたが、完全にカチンコチン理解不能状態だったみたいだ。
まあ、見たこともない、ワイちゃんの部下の飛龍隊が先に救援に行って戦果をあげて、それが全部アマンダの功績になったのだ。
本人には自覚があるわけもなく、そんな他人の功績を自分のモノとできる性格でもないから。
そのせいで、王様とのやり取りはエリスが全部やったということだ。
ある意味エリスにまかせっきりなので、下手にアマンダがやり取りするより安全だったが。
「次に、アグウスト8世、現、国王陛下の王都への護衛任務についてですが。敵を撃退して一息ついていますので、陛下をすぐ連れて行くというわけにはいかなくなりました」
そうだよな。
ピンチでの離脱ならともかく、もう終わっている所で責任者をいきなり引っ張りだすわけにはいかない。
「大まかな、事後処理や指示を終えるまで2日というところです。ですので、あと1日か2日置いてから出立する予定になります。アマンダとエオイドは既に砦内に用意された場所で休んでいます。護衛の方はドッペルの私たちが監視していますので何も問題はありません。以上が私たちの状況です」
「ありがとう。次からが本題だ。まずは、結論からだな。ミリー、頼む」
「はい」
そう言って、ミリーがホワイトボードと、大型モニターの前に歩いて行く。
「ユキさんが言った通り、結論から言います。まず、敵にユキさんの前任者。つまりダンジョンマスターだった方が、リッチ、アンデッドとしてよみがえっています」
そして、飛龍が録画した映像がモニターに映される。
そこにはロングストレート金髪の美人さんが色々な角度から映されていた。
「再度、この場で確認をとりますが、ポープリさん、スィーアさん、キシュアさん、この方が前任者のダンジョンマスター、コメット・テイルさんで間違いありませんね?」
「はい。間違いないよ」
「……間違いありません」
「……事実だ」
3人とも微妙な表情で返事をする。
「ルナさんにも確認をとりましたが、あー、こんな顔だった気がする。と……まあ、大丈夫だと思います」
……あの生物にそんなことができるわけないか。
俺たちのことなんて氷山の一角ぐらいだろうからな。
正によくあることだ。
「そして更に、敵は銃や大砲。しかもかなり洗練された武器を使っていることが確認されました」
次に画面に映るのは、鹵獲した銃や大砲だ。
分解した映像もあるし、既に発砲も試したようだな。
流石、ザーギス。仕事が早い。
映像の端でナールジアさんが喜々として映っているのは気のせいだろう。
「性能自体は、私たちウィードで正式採用している物に比べれば数段落ちますが。威力自体は、遜色有りません」
そりゃな。
対人兵器の威力は二次大戦で既に上限が見えていたからな。
威力は人を殺せるだけの火力があればいい。
わざわざ大砲の威力を少銃に持たせる必要はない。
まあ、性能はっていってるから、連射能力や、弾丸の使い分け、整備性能に違いが出ているということだろう。
「しかし、あからさまに私たちの銃とは違う点が見受けられました」
へ?
銃に違う点?
どういうことだ?
俺がどこに違いがあるのか、銃の映像を食い入るように見ていると、ナールジアさんが歩いて、ミリーの横に並ぶ。
「ぬっふっふっふ。ユキさんも分からないようですね。私たちの銃と違う点はここです」
そう言って、ナールジアさんが取り出したのは弾丸がなくなった薬きょう。
弾を撃ちだすための火薬が詰まっている入れ物。
「実は、この薬莢。火薬を入れていたわけではないのです」
そう言われてピンと来た。
「まさか、魔術か?」
「はい、その通りです。ここまで言えばわかっちゃいますか。ユキさんの言った通り、火薬の代わりに炸裂の魔術を込めているのです。使い方としては普通の弾丸と変わりません。銃に装填して雷管に衝撃を与えることで、発動するようになっています。しかし、よくやったものだと思いますよ? 火薬の方が安定して調合できて、生産体制も整います。しかし、この魔術の場合は、魔術を込める人材がいりますし、どっちが効率がいいかと問われると、ウィードでは確実に火薬ですね」
「でも、ヒフィー神聖国では違うってことか?」
「はい。私たちの場合は、ユキさんからのダンジョンマスターのスキルを通じて、火薬どころか完成品を取り寄せています。これがあるから、わざわざ生産するという手順を取っていないのです。銃を秘匿するという目的もありますけどね。で、それ以外の手法の場合は、まず火薬の材料となる硝石が早々手に入るものではありません。となると、火薬を魔術で代用するというのはいい方法だと思います。で、それらから考えて、銃や大砲を伝えた別の人物がいると思っていいでしょう。前任者であるダンジョンマスターとは別にですね」
「そうだな。前任者のコメット・テイルが銃をDPで取り寄せられるなら、そんな改良をする必要がないはずだ」
「そう言うことです。あと、ほかの火器も主に魔術を利用したものが多数あります。威力に関しては、及第点ですね。ウィードの火器に比べて精度や連射、整備などの問題はありますが、十分、実戦使用可能です。しかし、凄いですね。まさに、科学と魔術の融合と言っていいでしょう。不足している物を、魔術で補う。十分融合でしょう」
そう。
問題は、銃器だけではなく、ナールジアさんが言ったように、それを可能にした頭脳の持ち主がいるということだ。
「そういえば、前任者のダンジョンマスターのスキルはどうなっているのでしょうか? 火薬を魔術で補っているところを見ると、やはり、スキルは喪失しているとみるべきでしょうか?」
一度見せられれば、というか認識すれば、ダンジョンマスターのスキルで取り寄せることが可能だ。
まあ、ジェシカの言う通り、スキルを喪失している可能性もあるだろうが。
だって、アンデッドみたいだし。
「ジェシカの言う、スキル喪失も可能性はありますが、私としては別の可能性だと思います」
エリスがそう言う。
「それはどのような?」
「そうですね。正直、ジェシカの言う通り、前任者がアンデッドになっていることから、スキル喪失している方が、私たちとしてはありがたいです。しかし、こちらの希望を前提に考えるのはまずいでしょう」
確かに、希望通りになれば、世の中生きるのに苦労はない。
「ということで、相手がダンジョンスキルを使えるという前提で、考えるべきだと思います。それで、弾丸に関しては、DPの問題などがあったのではないでしょうか?」
「「「ああ」」」
エリスに言われて、皆、納得した。
そういえば、品物を取り寄せるにはDPがいるのだ。
しかもこの大陸は20倍という状態。
なぜ使わなかったのかと、その疑問は予想が付いた。
無駄使いできないのだ。
だから、色々、自前の技術で補うということをしていたのだろう。
弾丸なんて大量消耗品を、20倍で仕入れいていたら、あっと言う間にDP尽きるだろうな。
俺たちみたいに財源はないわけだし。
「大体、武器の話は終わった。各自今以上に注意するって感じだな。で、問題は、前任者がアンデッドとして、前線に出てきたってことは、他にトップがいるってことだ。さらに異世界からの銃の知識を持った人もだ。これは、トップが同一人物だと思うのは都合が良すぎるから、別人だと思うべきだな」
「ん。ヒフィー神聖国は昔からある。私がその異世界の人のことは知らないから、私が学院にいる間に呼ばれたとみるべき」
「秘匿していた。なんて可能性もありますけど、大々的に発表しているみたいですし、あまり意味がありませんわね」
「とりあえず、ヒフィーのトップ、前任者のコメット、そして異世界から呼び出された人。この3人が今のところ、私たちの相手ですね。倒すかどうかはともかくとしてですが」
ラッツがそういう。
確かに、話し合いで済めばそれでいいが……。
「流石に今回は無理でしょう。理由はどうであれ、もう戦争は始まっている。というか向こうから吹っかけてきたし、話し合いに応じるぐらいなら、最初から宣戦布告なんてしていないわよ」
「ですよねー」
セラリアにそう言われて、すぐに返事を返すあたり、ラッツもわかってて言ったようだ。
「問題は、敵がわざと引いたという可能性が非常に高いこと。そして、アグウスト本隊があと10日もすれば合流して、ヒフィーに攻め入るだろうということ。まずは、このことをどうにかしないと、アグウスト軍が壊滅的な被害を受けるわよ? ポープリたちには悪いけど、前任者のコメットをどうするかは、これをどうにかしてから。この間に敵として出てくるなら、容赦はしないわ。相手が、ダンジョンマスターのスキルを使える可能性がある以上。逃がすわけにはいかないから、出てくれば一気に潰すわ。自国に引き込んで有利な場所で倒す。そして、さらにDPを獲得するなんていうのは、私たちがよくやっていたことだわ。間違っても、アグウスト軍をDPにするわけにはいかないのよ」
そう、前もってセラリアと話したが、自国に引き込む理由は、おそらくDPを得るためでもあるということだ。
無論、持ち運びがきつい武器もあるだろうから、塹壕やトーチカを作って構えて、有利に戦えるようにはしているだろう。
間違ってもアグウスト軍を倒されると、さらに厄介な事になりかねない。
「セラリアの言う通り、前任者が出てきたということは、最悪、ダンジョンアタックをすることになる」
前任者のダンジョンを攻略するのだ。
全員の顔に緊張がはしる。
それだけ、他人のダンジョンに挑むというのは難しいのだ。
本来のダンジョンの機能を知っていれば知っているほど。
継続的にDPを得るためにあえて、攻略可能な構成のダンジョンとは違う、生死がかかわるダンジョンアタックになると、えげつないトラップを多数配置することになるだろう。
「まあ、いきなりそういうことにはならないだろうし、まずは、敵味方の情報を集めることだ。今話している情報も、今後変わることも十分あり得るから、そこら辺は気を付けてくれ」
「「「はい」」」
長々と話したが、今回は全然情報がない。
アルフィンとグラドの時よりも情報がない。
というか、敵の正体が未だ不明だ。
はっきりしているのが、敵は前任者をダンジョンマスターだったと知ってか知らずか、最前線に送り込むような相手であるということだ。
ヒフィーのトップが本当に黒幕とも限らないからな……。
前任者に、異世界人に、それをまとめる何者か。
ルナに前任者のことを聞いたけど、アンデッドとして利用されるなんて初めて、っていってたしな。
本人が自力で復活したって可能性もあるんだが……。
今の状態じゃどれも推測でしかないな。
とりあえず、今は姫さんの要求通りに、王様を連れて帰って、そのあと本隊がどういう行動をとるか確認だな。進軍路さえわかれば、フォローはできる。
ヒフィー神聖国は小さい国とはいえ、俺たちだけで、すべての要所を落とせないこともない。とは言え、こっちの手札を見せたくもない。
なるべく最小の労力で敵を制することが必要だ。
……しかし、いよいよ現代戦っぽくなってきたな。
あー、メンドイ。
さあ、情報が不透明なまま、争いが大きくなっていく。
今のところは、敵さんの方が上手。
まあ、敵さんもこっちのことは全く知らないからイーブンなんだが。
どう転がっていくのか!!
相手の目的は!! 前任者はなぜアンデッドに、異世界人はどこで何をしているのか!!
俺もよくわからん。
構想はまとまっているが、どうしようか悩んでいる部分もある。




