第271堀:決闘祭り始まる
決闘祭り始まる
Side:ユキ
「あなた。準備はいいかしら?」
「ああ」
「でも、何か疲れてないかしら?」
「エリスに聞いてくれ」
「……今日は私の番だし、今日も頑張ってね」
「おい」
とりあえず、本日決闘の日。
おそらく、セラリアの言葉は序盤まで決闘への気遣いだったのだろうが、なにか違う方向の話になったような気がする。
ま、お察しの通り。エリスと昨日は頑張ったので、非常に体力、精神力を持っていかれている。
相変わらず、激しいというか、甘えてくるというか……。
「エリス、あんたまたツヤツヤしちゃって。少しは手加減しなさいよ。ユキさん今日決闘の日よ?」
「あらミリー、決闘の日の前夜だからこそ、燃え上がるものでしょう?」
「……あんたはいつも、燃え上がってるでしょうに」
「ええ、ユキさんとの夜に燃え上がらない女なんていないわ。ミリーだって、ユキさんの時には……」
「わっーー!! まった、待った!! 何言ってるのよ!!」
実はミリーもエリスほどではないが、夜はずっとべったりするタイプだ。
こう抱き着いたままで……。
って、違う違う。
決闘の話だ決闘の。
「で、セラリア、準備はできてるか?」
「ええ。みんなちゃんと扱えるわよ。ね?」
セラリアがそう言うと、嫁さん全員が頷く。
そして、全員が、さっとビデオカメラをすかさず構える。
「任せてくださいな!! お兄さんの勇姿は余すところなく、録画しますから!!」
ラッツはいい笑顔でカメラをこっちに向けてくる。
「……ん。ユキの決闘楽しみ。ラッツの言う通り、夫の勇ましい姿を残すのは妻として当然。無論、昨日のエリス師匠との夜も録画済み。勉強する」
「おい」
クリーナは本当にエリスに毒されているな。
しかし、エリスよりも体格は小さいしぺったんこだ。
無理をしないといいが、でもなぜかクリーナに迫られると断れないんだよなー。
「……ユキ、心配はいらない。次こそは私がずっと上にいてみせる。翌朝のお腹一杯は夢」
「お、お腹一杯って、クリーナさん、それって」
「ん。無論、ユキの子供の素。出されるだけでも幸せ。それがお腹一杯はきっと、とても幸せ」
「な、なるほど。あとで、エリスさんとのビデオ見せてもらっても?」
「構わない、サマンサ。妻同士協力すべき」
……ビデオの話から、なんですぐにそっちの話にいくかね。
「ルルアとか、ジェシカは大丈夫か?」
「あ、はい。何とか使えます。旦那様の決闘ですから、絶対撮って見せますとも!!」
「……なんで名指しか気になりますが、私も問題なくつかえます」
そりゃ、嫁さんたちの中で、機械に疎そうな1位、2位だからな。
実際ヘタにコールを触ろうともしないからな、この2人は。
「むっ、旦那様からバカにされた気がしました」
「ですね、ルルア。今度は一緒にユキを襲いましょう」
「そうですね。2人のおっぱいで喜ばせてあげましょう」
……だから、なんでそっちの話になるんだよ。
「でもさ、ユキさん。本当にビデオを大勢の前で堂々と使っていいの? いや、ユキさんの決闘シーンを撮るってのは大賛成だけど」
「ですね。リエルの言う通り、本当にいいんですか?」
リエルとトーリが確認を取るように聞いてくる。
まあ、一応理由は話したが、もう一度言っておくか。
「大丈夫だ。大勢の前で使うことに意味がある。昨日の夜も言ったけど、ビデオを普及させるにあたって、どこかで、大勢の人が見ている大きなイベントを撮るのが一番の宣伝になるんだ。これが、ローデイのサマンサの親父さんたちの後押しにもなる。これが本当に起こった出来事を残せる物だとね」
そう、嫁さんたちの録画の話を聞いてピーンと来たのだ。
どうせなら、大々的に使って一気にビデオカメラの知名度を上げようと思ったのだ。
都合のいいことに、決闘騒ぎが起こって、学府の関係者のほとんどは見に来る。
そして、決闘の結果は学府に成績として記録されるし、嘘偽りがないと証明するのに一番いいのだ。
ビデオカメラを普及させて、ローデイで発言力を高めようとするサマンサの親父さんたちにはいい後押しになるだろう。
「ぶー!! お兄ちゃん、私たちもビデオ撮りたい!! いじわるー!!」
「そうなのです!! なんで私たちが仲間外れなのですか!!」
「2人とも落ち着いてください」
「そうよ。ユキが意味もなくいじわるするわけないわ」
その中で、ビデオカメラを与えられていないアスリンとフィーリアが文句を言う。
ラビリスの言う通り、理由がもちろんある。
「ごめんな。2人は小さいし、可愛いから、ビデオカメラごと持っていかれる可能性があるんだよ。だから、ちょっと悩んでる」
「……納得。私なら、フィーリアを攫う」
「あ、なら。私はアスリンちゃん」
「「きゃー」」
そんな声を上げながら、フィーリアはカヤに、アスリンはリーアに攫われる。
というか、膝に座らされる。
「実力的には問題はないだろうが、騒ぎになりかねないから、ラビリスもシェーラも我慢してもらえるか?」
「ええ、納得の理由だし、決闘の最中で観客席が血に染まっても問題でしょう」
「そうですね。ユキさんにささげたこの心と体、よその下種に触られたら、相手を殺すしかないですから」
……2人はそっちの方向で心配なんだよ。
手加減がないからな、いや手加減はしているのだろうが、あれを手加減と呼んでいいのか困るレベルだ。
2人はウィードでは特殊な立場のため、それを狙った犯罪者や、スタイルが良いのを見て襲おうとする変態がいるのだが、全員が直々にボコボコにされて警察に引き渡されている。
そのくせ、2人とも、こわかったーって言って俺には抱き着いてくるから、女って怖いわーと思うのだ。
「……それでしたら、私のビデオカメラをシェーラ様たちに貸すというのはどうでしょうか?」
「ん? ああ、キルエの監視の元ならいいかもな。4人とも、キルエの言うことは聞けるか? それなら、ビデオカメラを扱っていいぞ」
「「「はい」」」
返事はしっかりしてるから、いいかな?
「……それなら、私がフィーリアと一緒にビデオカメラを撮る」
「ありがとうなのです。カヤ姉様!!」
「そうですね。私はアスリンちゃんと一緒でいいですよ」
「わーい。リーアお姉ちゃんありがとう」
「なら、ラビリスは妾と一緒に撮るか?」
「そうね。よろしく頼むわ。デリーユ」
「では、シェーラ様は私とで構いませんか?」
「はい。よろしくお願いしますね。キルエ」
うん。分担できるから負担も軽いだろう。
「と、アスリンたちが心配といったけど、ほかの皆も一応警戒してくれ。ビデオカメラ、そしてみんな全員が美人だからな。与しやすいと思ってちょっかいを出してくる可能性は十分にあるから」
そう言うと、皆、理解しているのかすぐに頷く。
「とりあえず、ちょっかいを出してきた相手は確保してくれ。どんな背後関係があるか確認したいしな」
「「「え?」」」
やっぱり、武闘派の連中は不思議な声を上げやがったな。
主に、セラリア、デリーユ、リエル、リーア、ジェシカ。
「おーい。ほかはともかく、ウィードの女王様がそんな短慮じゃ駄目だろう」
「あーら、なんのことかしら? 聞こえないわー」
たく、この嫁さんは。
「あとは、サーサリ。子供たちに問題があればすぐに呼んでくれ」
「はい。心得ております」
今回、なぜか嫁さんたちは俺の決闘を生でみると、全員が参加。
子供たちがほったらかしになってしまうので、サーサリがお守で残ることになった。
ドッペルからの移動だから、何かあればすぐに行けるから問題はないが、こういうのも珍しい。
「そういえば、決闘の相手は誰なの? 負ける心配は露ほどもしていないけど、見せ場が少ないのは、不満よ?」
セラリアが思い出したように言う。
「たぶん、アホデスだろうな。学長、ポープリが多少はましになるように訓練したんだし、元々アホデスが俺に喧嘩を吹っかけたんだから、アレが勝負相手じゃなかったら、別の意味で気が抜けるわ」
「……ん。アホデスは学府第13位。そこまで強くない。というか、ユキや私たちの足元にも及ばない。そもそも学長の訓練があったからと言って、すぐ強くなるわけがない。でも、ユキの勇姿は見たいから、多少マシになっていることを祈る」
「ですわね。ユキ様の相手に相応しいと言えるぐらい、最低限の技量はほしいところですわ。ああっ、ユキ様の決闘姿楽しみです!!」
学府の生徒さんたちは、アホデスを完全にかませ犬認定。
まあ、素の状態でクリーナ、サマンサより学府順位は低いんだから当然か。
というか、アーデスが名前なのが、既にアホデスで定着してね?
いや、言い出した俺が言うのもアレだけど。
「決闘で思い出しましたが、エオイドはどうなんですか? 昨日は訓練していないんですよね?」
エリスは、本来の決闘の目的、エオイドの様子を聞いてくる。
「ああ。昨日はのんびり、武器の本を読んでいたな。ま、急いで詰め込んでも怪我したら意味がないしな。今日は、決闘と告白もある。整理がついているといいんだが」
「「「無理ね」」」
即答する嫁さんたち。
「決闘はともかく、告白は慣れるもんじゃなかろう? ユキがそれは一番わかっておろうに」
「……そりゃな」
もう、最近クリーナやサマンサへの告白でもギリギリだったし、初めての幼馴染相手に告白しなければいけないエオイドの緊張はどれほどのものか。
「ま、そこはエオイドの男の見せ所ね」
「……ん。ユキの作戦通りなら、決闘で心身供に疲れ果てているはず。そのあとならあっさり告白もできる可能性がある」
「でも、エオイドさんですからね。……付き合いの長い学友として、アマンダさんとうまく行ってほしいのですが」
主人公特有のヘタレか。
でも、その線は潰してきたから、覚悟は決まっていると祈ろう。
そんな話をして、朝食のあとのんびりしていると、時計が7時を指す。
「さて、学府に行きますか」
そう言って、皆がそれぞれ席を立って学府に向かう。
ザワザワ、ワイワイ……
「思ったよりにぎわってるな」
「ああ。ユキ殿に言われたように、一般客も招き入れてるからね。これでビデオカメラの証人も増える。あと、屋台に関しては時間が少なかったから、そこまで集められなかったよ」
「そこは仕方がない。まあ、今度から定期的にこんな大規模な団体決闘でもやって、賑やかしでもやれば、学府に来る人も増えるし、学府の実力を公開するいい場所にもなるから、やってみたらどうだ?」
「なるほどねー。勉学の場だから見世物にするっていう発想がなかったな。ララはどう思う?」
「いい案かと。学府の評判の悪い所は、閉鎖的なところが原因と思われるモノも多々あります。ちゃんとルールを作り、催しを行うのであれば問題はないかと思います」
「ウィードで催しをやった時の資料はあるから参考にするか?」
「いいのですか?」
「エリス。ちゃんと残してるよな?」
「はい、もちろんです。ですがユキさん」
「なに?」
「決闘場に行かなくていいんですか? みんなもう場所を確保していますよ?」
そう、エリスの言う通り、護衛メンバーを残して、ほかの嫁さんたちはバラバラにいいアングルで撮影できる場所を確保しに、決闘場へ先に行っている。
「いや、俺は決闘の当事者だしなー」
「タイキさんもエオイドも既に控室ですが?」
「ん、いや。ほら、ポープリたちと最終調整を話していたし。って、なんでエリスはここに残っているんだ?」
「それは私とユキさんが学府公認の夫婦だからに決まっているじゃないですか。あれだけ決闘場で叫んで、こんな晴れ舞台の日に夫を1人で決闘場に向かわせるなんて、妻として失格です」
護衛の4人もうんうんと頷く。
「ははっ、愛されているね、ユキ殿。エリスさん。後日資料を貰えればいいから、ユキ殿のエスコート任せたよ」
「ええ、任せてください」
そう言ってエリスが左腕に絡みついてくる。
「じゃ、残りは私が……」
「ストップ。それは私が行きます」
「いえいえ、これは学府の生徒である私が……」
なんか、残った右腕を巡って護衛担当の嫁さんたちが揉めているが……。
「……ん。右腕確保。向かおう」
「「「あーーー!?」」」
軍配はクリーナに上がった。
「流石、クリーナ。いい戦術眼です」
「ん。師匠の教え通り、愛に妥協はしない。でも、今度は皆に譲る。不和は求めていない。みんな、好き」
「「「……しかたないですね」」」
クリーナのその言葉で皆あきらめる。
うん、クリーナはなんか嫁さんたちにもまれて、いい感じで仲良くなってるな。
最初に、パンツ渡してきたときはどうなるかと思ったが……。
そして、決闘場に向かっていたのだが、その途中で思いもよらない人から声をかけられる。
「お、ユキさんじゃねーか」
「え、あ、宿屋のおっちゃん」
そう、なぜか屋台を出しているのは、宿屋のおっちゃんとおばちゃんだった。
無論、内容は鳥のから揚げ。
「聞いたぜ、決闘にでるんだってな?」
「ええ。ちょっと色々ありまして」
「知ってる、男を見せるんだろ? 嬢ちゃんたちに、相応しい男だって、周りに証明すんだろ?」
「はい」
「かぁー、タイキくんも同じように嫁さんに良い所見せるって、恥ずかしがらずに言うんだぜ。カッコいいね。いや、男だ。いい旦那さんだな」
「「「自慢です!!」」」
嫁さんたちがそう答えると、おっちゃんはいい笑顔になって、すぐにから揚げを人数分包んで渡してくれる。
「ほれ、食べな。小さい嬢ちゃんたちや、ほかの嬢ちゃんたちにも渡しているから遠慮しなくていいぜ。ラッツの姉ちゃんから代金も貰ってる」
代金も払っているなら遠慮することはないか、美味い鳥のから揚げだ、存分に楽しませてもらおう。
と、更に、もう2つ。から揚げが俺に渡される。
「これは、応援に行けない、俺とかあちゃんからだ。男見せて頑張ってきな」
「応援してるよ」
「ああ。頑張るぜ!!」
やべー、やっぱ、この学府の街で一番のいい男は宿屋のおっちゃんしかいねー!!
そして、から揚げうまっーーーー!!
学生時代の小遣いをやりくりして、精肉店のから揚げを食った時の喜びだ。
「ふふっ、ユキさんのそんな姿を見られて幸せです」
「……ん。ユキの笑顔素敵」
「くっ、う、腕をつかんでいれば、あの笑顔が間近で……」
「落ち着きましょう。あのから揚げを買い込んで、食べさせてあげればいいのです」
「ジェシカさん、素晴らしい案ですわ!! さっそく買ってきますわ!!」
……いや、俺の胃袋も限度があるからな。
決闘前だし、腹一杯は勘弁。
さて、そんなことがありつつも、控室前まできてエリスとは別れることになる。
護衛の4人は無論このまま。
「さて、リーア、ジェシカ、クリーナ、サマンサ。これからは決闘になりますので、手出しは無用になります。護衛のあなたたちからすれば、容認できることではないでしょうが、我慢してください」
エリスはそう言って、4人は深くうなずく。
「……ですが、妙な横槍が入る場合はその限りではありません。その身を盾にしてユキさんを守り、敵を殲滅してください」
「「「はい」」」
「あと、控室の位置から録画できるのはあなたたちだけです。大事なアングルなので、よろしく頼みます」
「「「任せて!!」」」
……なにか間違ってね?
そんなやり取りのあと控室に入ると、タイキ君とエオイドが、から揚げを食べていた。
「よっ」
「あ、ユキさんも貰ったんですね」
「あの、おっちゃんのから揚げ美味しいですよね」
第一声がから揚げ談義になるところは、やはり育ちざかりの男の子というところか。
いや、俺も含んでるから、やっぱりおっちゃんのから揚げは最高ということだろう。
外はパリッと、中は肉汁でたっぷり。
鳥肉の旨みを殺さず、包み込み、ホカホカの出来たて。
単体でも、ご飯のおかずでも十分いける品物だ。
「あむあむ。あ、お兄ちゃんだー」
可愛らしい声がして、其方を向くとアスリンもから揚げを咥えたままこちらに走り寄ってくる。
「お、アスリン。1人で待ってたのか?」
アスリンを抱え上げてそう尋ねる。
普段は絶対4人で行動するから、こういうのは珍しい。
「今日は、お兄ちゃんをリーアお姉ちゃんとしっかり撮るんだよ。私しか控室いけないから、3人の分まで頑張るよ」
「なるほどな。俺も頑張っていい所見せないとな」
「うん。がんばって、お兄ちゃん」
アスリンを抱えたまま、はぐはぐとから揚げを食べるアスリンを見てほっこりする。
と、いけない。とりあえず、決闘メンバーの体調をうかがうべきか。
「で、どうだ2人とも。体調に問題はないか?」
「全然。いつもの通りですよ」
「……ダイジョウブです」
タイキ君はともかく、エオイドはガチガチになってるな。
決闘にというより、色々重なってるから緊張しているな。
なるべく、取り除く努力はするか。
勝った方がアマンダとはスムーズにいくだろうし。
「じゃ、リーア。アスリンをよろしく頼む」
「はい。アスリンちゃん、今日は頑張ろうねー」
「うん。リーアお姉ちゃん頑張ろうねー」
「「ねー」」
リーアとアスリンはそろって可愛い声を出す。
それを見ていた、クリーナとサマンサはアスリンを抱えるリーアに近寄り……。
「アスリン。私の所に来て一緒に撮ってもいい」
「ええ。私の所に来てもいいですわ」
一瞬きょとんと、するがすぐに理解して可愛い笑顔で。
「うん。一緒にお兄ちゃん撮ろうね」
「……ん。約束」
「はい。ああ、可愛らしいですわ」
アスリンはすげー。これが、ちびっこの魅力と言うことだろう。
しかし、アスリンは更に上を行く。
「ジェシカお姉ちゃん。お姉ちゃんの所にもいっていい?」
「え? ええ。その時は十分に気を付けるのですよ。怪我でもしたら大変ですから」
「うん。わかりました」
「はい。ではその時を楽しみにしています」
1人、騎士として勤めを全うしているジェシカにもそんな声をかけて、ジェシカに良い笑顔を浮かべさせる。
と、こっちもやることはやるかね。
「さーて、エオイドはどうしたもんか」
「ですねー」
「え? えっ!? 俺なにか不味いですか?」
「自分でもわかってるだろうに」
「緊張でガチガチになってるぞ」
「……そ、それは」
ま、仕方ないとは思う。
しかし、これでは訓練の成果を十二分に発揮するのは難しいだろう。
これは、あれだな。
「タイキ君。プランB」
「了解。緊張する余裕をなくすですね」
「ど、どういうことですか!?」
「「文字通り」」
そう、文字通り、緊張している暇をなくしてやるのだ。
決闘場には、控えの選手が体を温める場所が存在する。
「魔術って便利だよな。回復がどちらも使えるから、心置きなくやれる」
「そ、それって、まさか……」
「エオイドの試合は最後だ。それまで、第一試合の俺、第二試合のタイキ君、その間は手の空いている方が、緊張する暇なんて無くなる様にしごいてやろう」
「心配するな。エオイドの決闘には支障が出ないようにするから。ま、その時には色々吹っ切れてると思うけど」
……俗にいう、○○をしていた方がマシという状態だ。
この場合は決闘をしていた方が、良いと思えるぐらいの訓練にしてやろう。
「あ、あの、ユキさんの試合は直ぐ終わるんじゃないですか?」
タイキ君の後ろにしぶしぶついて行くエオイドは、こちらを見ながらそんなことを呟くが……。
「最初からプランBって言っただろう?」
「え?」
「心配するな。できる限り試合は引き延ばすからな!!」
俺はいい笑顔でそう言ってやった。
「ちょ、緊張なんてしません!! してませんから!!」
「まあまあ、体をほぐすのはどのみち必要だ。諦めろ」
エオイドはそんな叫び声をあげるが、時既に遅し。
ドンッ!!
「ほら、気合い入れろ!!」
「ぐうっ。ま、マジですか!?」
「マジだよ」
ドドドドン!!
で、エオイドと入れ替わりにララが控室に入ってくる。
「ユキさん、第一試合が始まりますので舞台に来てください」
「了解」
「……? あれ、タイキさんとエオイドはどちらに?」
「体を温めるために、訓練中」
「なるほど。理に適っていますね。と、ではこちらに」
そう言われて、俺は護衛の4人を連れて舞台にでる。
ワッーーーーー!!
そんな歓声とともに、扉をくぐれば、この前のエリスの決闘騒ぎとは段違いの人数が集まっていた。
前回は、学府の関係者だけだったので、決闘場の席は埋まることはなかったが、今回は一般も入れているので満員御礼だ。
見た感じ、立ち見も多いな。
そして、この決闘は俺たちの戦いだけがメインではない。
舞台を中心に東西南北の位置に巨大スクリーン。薄型テレビが設置されていて、その中にエリスとラッツが映っている。
『はい。今回、このテレビとビデオカメラはローデイのヒュージ公爵家からの提供でお送りいたします』
『なお、注意を再三警告しましたが改めて、ビデオカメラで撮影している映像を4つのテレビに映していますので、この4基のカメラ及び撮影者への妨害はしないでください。ヒュージ公爵家と学府との共同実験でもありますので、故意の妨害や邪魔は学府側から厳しく罰せられます』
ラッツがそう言うと、四方に配置されたカメラと嫁さんたちが順番に映って手を振る。
って、セラリアもカメラマンで参加してるんかい!!
因みに残りの三方はデリーユ、キルエ、トーリで残りはハンディカムだったり、サポートだったりする。
あと、わかりやすいように青いジャケットを着て撮影班って腕章をつけてやがる。
……準備は万端ですな。
『……はい、はい。第一試合の両者がそろったようなので、ここで、ゲストの紹介を行います』
『では、今日のゲストは言わずもがな。今回決闘をこのように学府の関係者だけでなく、街の人たちも楽しめるようにしてくれた、ポープリ学長です!!』
ラッツがそう言うと、学長がテレビに映り、盛大な歓声が上がる。
なんだかんだで、人気なんだな学長。
『ど、どうも。紹介に預かりました。ランサー魔術学府学長の、ポープリ・ランサーです』
うん、流石にこっちも緊張しているな。
『はい。今日はよろしくお願いします。で、さっそく質問ですが、なぜこのように決闘試合を一般に開放しようと思ったのですか? これは学業の一環と伺っていますが?』
『え、は、はい。エリスさんのおっしゃる通り、この決闘というシステムは生徒の学業の一環で、魔術をいかに戦闘で使えるかをわかりやすく判断し、生徒同士を高めあうために用意したものです。ですが、それでは足りないと思ったのです』
『足りないとは?』
『魔術を戦闘に用いるのは、相手を倒す。その一点に限りますが、そもそも魔術という特殊な技能を扱えると言う事は、ほかの人より危機に対して適切に動けるということです。敵を、障害を取り除く、つまり、人々を守るために編み出されたものです。特に、この魔術学府は魔物の森という他国とは全く違う、段違いの脅威が存在しています。そのために、多くの傭兵や学府の魔術師が討伐に赴いていますが、多くが、互いを知らないために不和が多いと報告が届きます。そして、街の人たちの中には閉鎖的な魔術学府に疑問を持っている方も少なからず存在します。その不和や疑問を取り除くために、定期的に決闘を公開し、街の人たちにも楽しんでもらい、傭兵たちにもこちらをよく知ってもらい、生徒たちも多くの人の先頭にたち、守るということを実感してもらおうと思い、この決闘公開に踏み切りました』
説明になればカンペを見ながらでも、スラスラと言葉が出てくるあたり、年の功を感じさせるな。
『なるほど。素晴らしいお考えだと思います。では、観客の皆様に決闘のルールを説明いたします。……』
そして、エリスが、魔術を使用しての攻撃手段に限る。舞台から落ちたら失格。などと簡単に決闘のルール説明を続けていく。
『……そして、この決闘には勝敗の如何にかかわらず、両学生へ総評をくださる特別審査員として、傭兵ギルド長のランバ氏。街の町長ドリッド氏、エナーリアから魔剣使いエージル将軍にお越しいただいています。無論、学府の特別審査員はポープリ学長となっております』
あ、エージル。最近はずっと研究室にこもりっぱなしかと思えば、こういう場にはでるのか。
いや、ビデオカメラに釣られたな?
そしてエリスから、ラッツにカメラが移り、ラッツはマイクを持って立ち会がる。
『さあ、前置きが長くなりましたが、これからが本番です!! 選手紹介へ参りましょう!!』
ワッーーーーー!!
お偉いさんの紹介で、静かになっていた決闘場が一気に盛り上がる。
『まずは、この決闘を申し込んできた。アーデス・ギュース選手です!!』
アホデスは手を振りながら、歓声にこたえて、舞台に上がる。
緊張はしていないようだし、貴族としてしっかり場馴れはしているようだ。
……痛々しい包帯が見えるが、まあ、ほっとこう。
『アーデス選手は家名があることから、貴族の出である事が分かると思いますが、それでもこの実力主義の学府に置いて、なんと第13位の実力者であり、学長から直々に魔物の討伐命令を貰い、それを遂行できる魔術師なのです!!』
オオッーーー!!
驚きの声が広がる。
ラッツの言う通り、確かに、やっていることは立派なことだと思う。
こういうのを公衆の面前で伝えるのは、学府の印象向上につながるだろう。
そして、テレビの画面はアーデスを映してた映像から、ラッツに戻る。
そのラッツの顔はにやけている……。
『そして、そのアーデス選手に相対するのは、学府順位不明!! 私個人としては第1位でもなにも間違いないと思います、この人、ジルバ、エナーリアからの編入生!! ユキ!!』
……どういう紹介だよ。
でも、紹介されたから舞台にしぶしぶ上がる。
歓声はアーデスほどではない。
そりゃ、学府に来てからまだ間もないしな。
『さて、ユキ選手の経歴ですが、ジルバ、エナーリアから代表として編入生になれるのですから、それ相応の実力の持ち主であり、つい先日、その実力を認められて、ヒュージ家次女のサマンサ様と婚約を交わしております』
オオーーー!!
まあ有力貴族のご息女と婚約しているから、驚かれて当然か。
『そ、し、て、何を隠そう!! 私こと、ラッツと、エリスの旦那様でもあります!! きゃー、頑張ってください。お兄さん!!』
『ユキさんの勝利を私は信じています』
えー、ちょっと待とうよ、嫁さんたち。
アホデスが怒ってるよ。
というか、決闘場の男たちから冷ややかな視線が向けられている気がする。
「……なんだって? サマンサお嬢様とかいう貴族の娘を迎え入れて、あの司会の美女2人もだって?」
「……くそう。世の中不公平だ。アーデス頑張れーー!!」
その言葉がきっかけで、会場のモテない男の心が1つになり、アーデスコールが始まる。
「「「アーデス!! アーデス!! アーデス!!」」」
そして、その歓声にこたえるように、アーデスが手を掲げ、声を張り喘げる。
「私は諸君らの声援を力に変え、女性をたぶらかすこの男を倒す!!」
オオッーーーーー!!
うわー、すっげー。
昔は俺もあっち側だったんだよな。
しかし、この歓声はエリスの一言で霧散する。
『と、これが決闘の動機ですね。モテないことには同情しますが、それで人の旦那を巻き込まないでください。というか、そのあたりが、モテない原因と知れ』
ドスの聞いた声で、モテない男たちの歓声は消え、アーデスもビクッとする。
こえーよ、エリス。
『まあまあ、その言いがかりにも等しい意味のない決闘ですがユキ選手は、妻たちに良い所を見せないとな。と出場を決めてくれました!! いやー、いい男ですよ!!』
『ですね。アーデス選手の面目も保って、その実、私たちのために戦ってくれる。ああ、素敵です』
キャッーーーーー!!
2人の説明で、今度は女性たちが歓声を上げる。
「……そんなことを言って戦いに赴いてくれる人が旦那って素敵ね」
「……私の夫も、あの時こんな感じだったわ」
なるほど、理想の男みたいに見えてるのか。
女はやっぱり未だわからん。
というか、今の説明でアーデスの面目は大崩れしたからな。
私怨の決闘なんだから。学業とか強い奴と戦いたいとか健全な理由でなく……。
『さて、今回の審判はララ副学長が勤めます』
『いよいよ、決闘が開始されます。観客の皆様静粛にお願いいたします』
エリスがそう言うと、観客は徐々に静かになり、ララが俺とアホデスの前に立つ頃には静まり返っていた。
「両者とも、決闘のルールは先ほどエリスさんが説明したので省きます」
そう言って俺たちをしっかり見つめた後……。
「最後まで全力を尽くし、魔術をつかえ!! それが最強に、多くの人を守る力に至る道である!!」
最後が少し改変された、決闘の誓いを叫び、それが決闘場に響き渡る。
俺たちの誓いは省略。既に終わっていて、スムーズに試合が始まるようにしている。
そして、ララの右腕が振り上げられ……。
「これより、アーデス・ギュース対ユキの決闘を開始します。……始め!!」
振り下ろされた。
わぁぁぁああぁぁぁぁぁーーーーー!!
同時に、観客の歓声が響きわたる。
「手加減はせん。ボコボコにして、彼女たちの目を覚まさせてやろう」
「……あー、うん。その意思はすごいと思うよ?」
勘違いの性能はトップクラスだと思うよ。
本当に。
さて、どうやって戦いますかね?
さて、始まりました。第一試合。
どう見ても大本命であとは消化試合とか言わないように。
アーデスはユキにどう挑むのか!!
ユキは、どう対抗るすのか!!
そして、MVPは宿屋の親父だーーー!!
では、次回をまて。
から揚げ、かってくるわ。




