第245掘:将を射んと欲すれば先ず馬を射よ ではなく、将の首を取ればいい
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ
【読み】 しょうをいんとほっすればまずうまをいよ
【意味】 将を射んと欲すれば先ず馬を射よとは、相手を屈服させる、または意に従わせるようにするためには、まずその人が頼みとしているものから攻め落としていくのが良いというたとえ。
※故事ことわざ辞典より
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ ではなく、将の首を取ればいい
side:ユキ
結局、あの門前払い&私と勝負しろイベントをへし折ったのだが、対応は早く、その日の内に俺たちを訪ねて宿へ訪れた人がいた。
なんだよー。数日は宿屋で引きこもりできると思ってたのにさ。
とりあえず、俺とタイキ君で対応することにする。
まあ、他のメンバーが対応しても揚げ足とられかねないし、俺たちが当事者だしな。
で、訪れたというか、晩飯を食べてる時に、宿屋へあの時のお嬢様とちびっこが入って来たんだがな。
未だ、俺たちをみつけられない。
その隙に、嫁さんやタイキ君の連れを部屋へ逃がして、そのまま宿屋のおっちゃんとの話を遠目から見守る。
「このから揚げ美味いですね。地鶏ですかね?」
「どうだろうな? 案外魔物の肉かもしれないぞ?」
「そりゃないでしょ。この大陸は魔物少ないんですから」
「あ、そうか。地鶏なら少し分けてもらうか」
「いいですね。でも餌とか世話で肉質変わりますからね。そこら辺もちゃんと調べとかないと」
「あー、そうだな。結構詳しいな。そっち関係か?」
「んー、あー、じいちゃん家が養鶏所やってるんすよ。それでですね。俺自身はさっぱりな素人ですよ。じいちゃんからの受け売りってやつです」
「それでも大したもんだ。俺なんて、交渉でネットとかを持ってきてこの状態だぜ? タイキ君みたいに、学んだことだけでやってきたわけじゃない」
「いや、俺をほめてくれるのは嬉しいですけど、ユキさんみたいな状況になっても、俺はユキさんと同じようにできそうにないですよ」
「そりゃ、俺と同じなんて無理だろ。思考とかも違うんだから」
「ああ、そこじゃなくて、成果ですよ。たった数年で目標達成で次の課題とか、規模を考えれば普通ありえないですよ。お偉方の相手も山ほどでしょ? 俺には無理ですね」
「あー、それは俺が社会人だからかもな。自分より立場が上の人相手の交渉とか普通にあるしな……」
「うへー、俺はこっちの世界でのんびりしてるほうがいいですね。もう、いまさら日本に戻るの怖いですよ」
まあ、気が付かれても、気が付かなくてもどっちでもいいから、こうやって飯を食いながらのんびり話してるんだけどな。
しかし、おっちゃんは俺たちのことだってわかってるのに、俺たちのことを喋らないのな。
うん、信用できるいいおっさんだ。
「お願いしますわ。お礼ならいい値を支払いますから、どうか教えてくださいませ」
公爵令嬢があそこまで頭を下げても微動だにしないおっさん。
かっこいいぜ。
「ねえ、ユキさん。あのおっちゃんが困ったことがあれば、俺は助けますよ」
「俺もだ、あの人を見捨てたら人としてだめだろう」
「ですよね」
こういう人は大事にしないといけない。
そう思わせてくれる、凄いおっさんだ。
で、頭を下げ続けるお嬢様をちびっこがなにかを言って下げさせる。
んー、あのちびっこって何だろうな。
「お、あの小さい子がおっちゃんと話はじめましたよ」
「だな。案外大物なのかもな」
「あれですか? ロリ婆でここの学長だとか?」
「そうそう。まあ、あそこまで幼いと違うと思うけどな」
「あー、デリーユさんぐらいなら、ロリ婆ですけど、あの小さい子、アスリンちゃんたちぐらいしかないですからね。幼女婆?」
「なにその新ジャンル? 普通にロリ婆でよくないか?」
「いやー、まあ同じなんですけどね。なんというか、あそこまで小さいと……」
「ああ、そう言いたくなるのはわかる。でも、あれが学長だからなー、タイキ君の予想は当たり」
「ありゃ、鑑定しちゃったんですか? しかし便利ですよねユキさんの鑑定。俺の鑑定スキルは結構近づかないと見れないですよ」
「まあ、こっちは神様仕込みだしな、あとでコールに情報は送っておくから把握しとけよ」
「どうも、っと、おっちゃん、あの小さい学長には教えたみたいですよ」
「まあ、学長だしな。おっちゃんも色々借りがあるんだろうよ。あ、とりあえず、あの小さい学長への対応は普通にいくぞ」
「へーい、ちゃんと小さい子として扱うんですね」
「そうそう、わざわざこっちの手札を見せる理由もないし、相手も自分の正体がばれていないから、変な小細工するかもしれないしな」
「……たとえば?」
「そうだな……、俺たちが学長に対して横暴な態度を取れば学長と言う名前を出して、無礼返しだろうな。それで、お互い様って持っていく。で、次は俺たちが学長に優しく接したら、子供の皮を被ったままでお嬢様を許してーって言ってきて、俺たちが許せば、この件はそれまでになる。後で正体ばらして、学長が聞き届けましたって言ってな。」
「うん、詐欺ですね。で、任せますよ?」
「おう、じゃ、普通に飯でも食べてよう。おっちゃんが学長とお嬢様を連れてきてるみたいだし」
「ういっす」
おっちゃんは渋々と言った感じで、2人を連れて、食堂にいる俺たちを捜しに入ってくる。
宿屋入口と食堂は繋がっていて、大抵おっちゃんとは挨拶するから、今日も普通にあいさつして食堂に来たし、俺たちが食堂にいるって知ってるんだよな。
というか、今日はわざとだけどな。
他のメンバーと学長たちを合わせるわけにもいかないから、部屋も分けてたし。
そんなことを考えつつ、タイキ君とのんびり飯を食べてると、俺たちを発見したおっちゃんが申し訳なさそうな顔でくる。
「すまない、2人とも」
「ん、どうしたんですか?」
「おっちゃん、今日の飯も美味いな。で、なに?」
俺たちはおっちゃんと普通に会話をする。
後ろの2人は紹介されるまで、大人しくしているつもりらしい。
「いや、知り合いに、2人のことを聞かれてな。客の情報を話すのはご法度なんだが、ちょっと世話になったことがあってな……」
まあ、そんな所だろうな。
「いいよ。おっちゃんが世話になった人なら悪い人じゃないんだろ?」
「それはもちろんだ」
「なら、いいですよ。そのかわり、このから揚げ追加もらえます?」
俺がそうやって、残り少ないから揚げの皿を指さす。
おっちゃんはそれを見て、いい笑顔になって頷く。
「おう、今日は好きなだけ食ってくれ。俺から母ちゃんに言っておく」
話が分かるおっちゃんだ。
あとで、鶏のことも聞いておこう、
美味いから、ウィードで育てて、食う。
「で、俺たちのことを聞いていたのはおっちゃんの後ろの人かい?」
「ああ」
そう言って、おっちゃんが横にずれて、お嬢様を先頭、後ろにちびっこ学長が出てくる。
さて、どう出てくるかな?
流石に、ここに来たってことは手紙の内容を知ったってことだろうし、お嬢様はすごく気まずそうだ。
「ああ、あの時のご令嬢ですね。お手紙は届けていただけたでしょうか?」
とりあえず、俺は普通にそんな言葉をかける。
俺が声をかけた瞬間、ビクッと震えたが、まあ自業自得だしな。
俺のこの言葉も嫌味に聞こえただろう。至って普通に声をかけたつもりではあるが。
「あ、あの……」
「ん? どうしましたか? 手紙を失くしたとかでしょうか?」
「い、いえ、そんな事はありませんわ。ちゃんと学長にお届けいたしましたわ」
「そうですか、どうもありがとうございます。で、ここまで来られたのは何用でしょうか?」
俺がそう聞くと口をパクパクさせる。
まあ、何用って俺たちに謝罪しかないよな。
実際に編入の話はあったんだし、独断で帰したんだから。
「た、大変申し訳ございませんでした!! あの時の非礼をお詫びいたします!!」
思い切って頭を下げるご令嬢。
その後ろで観察してくるちびっこ学長。
ふむふむ、様子見ですか……。
性質が悪いな、俺たちの対応次第で名乗り出て、話をイーブンに持っていこうって魂胆か。
「はて? 何を謝っているんですか? あの時の対応は少し強引かもしれませんが、学院を守るという意味もありましたし、特に謝ることはありませんよ」
「え?」
不思議そうな顔をするお嬢様。
そして、許してもらえたと確信して笑顔を浮かべるちびっこ学長。
その足が前に出る前に俺は更に続ける。
「謝るべきは、今回の編入の件を伝えず、ほったらかしにして、学生に謝らせて、その様子をみて出てこようとする、そこの失礼なガキ学長でしょう?」
俺がそう言うと、足が止まるちびっこ学長。
「あ、え? こ、この方を学長とご存じで?」
「ええ、勿論、シルバ陛下、エナーリア猊下から伺っていますよ。なんですか、手紙に学長の容姿は秘密にしてある。なんて書いてありましたか?」
そう、わざとそう書かせた。
そうすれば、この失態を誤魔化そうと動き、そこを指摘して更なるいい条件が付けられるわけだ。
まあ、誠実であれば、そんな事にはならないのだが、この学長は小細工をしてしまったからな。
「で、何か弁明があれば聞きますよ? 許可を出したのにも関わらず、私共の受け入れ準備を怠り、追い返して、責務を全うした誠実な生徒に頭を下げさせ、様子見をしていた学長殿?」
俺はわざわざ今食堂で飯を食べている人たち全員に聞こえるような大声でそれを告げる。
無論、視線が俺と、学長たちに集まる。
「あ、ぐ……」
流石に何を口にしたらいいのかわからないのか、固まってしまうちびっこ学長。
だが、顔を見ればやっちゃったって顔してるから、周りの人はこのちびっこが学長だって理解したし、生徒に頭を下げさせることで、この問題を有耶無耶にしようとしていたというのが分かる。
「ふう、まさか謝罪の言葉すらでないのですか。ねえおっちゃん、いい?」
「あ、ああ、なんだ?」
「たとえば、宿屋の従業員が上客に大失態をやらかしたとして、この宿の主であるおっちゃんはなにも言わず、部下に頭を下げさせるかい?」
俺は分かりやすい例え話を、また大きな声でする。
そして、人のいいおっちゃんは即座に答えを返してくれる。
「いや、それはない。従業員の失態は俺の指導不足だ。まずは、宿の主である俺が頭を下げるのが筋だろう。……なるほどな、ポープリさん、いや、ポープリ・ランサー学長。あんたは、沢山の部下をもつ人として、この場ですることは1つしかない。流石に、今の話を聞いてポープリさんの肩を持つわけにはいかねえ。政治云々があるかもしれんが、これはそれ以前の問題だと思う」
おっちゃん、かっこよすぎ!!
そして、ポープリと呼ばれたちびっこ学長は、泣きそうな顔をして、頭を下げる。
「……この度は、私の落ち度で大変ご迷惑をおかけしました。今回の件は全て、私に責任がありますので、この生徒は許していただけないでしょうか」
幼い可愛らしい声だが、そこにはハッキリとした意志がある。
伊達にロリ婆ではない。
で、自分に責任があり、悪かったと認め大勢の中で謝罪してくれた。
よし、これで大勢は決した。これで、後でなかった事にはできない。
「謝罪はお受けします。しかし、そこのサマンサお嬢様の件は最初から怒ってもいません。彼女は少し好戦的ではありますが、素晴らしい生徒だとおもいました。私たちに対しても、ちゃんと対応してくれましたし」
「あ、ありがとうございます!!」
サマンサお嬢はそう言って、目を潤ませ頭を下げる。
で、俺の謝罪を受ける宣言で、カバッと頭を上げる学長。
だが、甘い甘い。
「では……」
「ですが、それは個人としての謝罪を受け取るのであって、今回の許可を出した代表を追い返した件は、個人ではなく、国と国の交渉での出来事です。それを私個人で許すことはできません。後日、改めてそのことは話すことになります。よろしいですか?」
「……はい」
上げて落とす。
まあ、そっちの怠慢と対応が原因だ。
しっかり反省してくれ。
「では、明日学園でお話ししましょう。流石にこれ以上は外交上聞かせられませんからね」
「っ!? ……はい」
そして、ちびっこ学長は自分が有利に使おうと思っていた観客を、逆に使われていることに気が付いたようだ。
周りを見て更に泣きそうにしている。
で、トボトボとサマンサお嬢の手を握って、外へ歩いて行く。
「ああ、明日明朝、そうですね。そちらには時計はありますか?」
俺が帰る2人に声をかける。
「ふぇ?」
「え、ええありますわ」
おいおい、学長もう涙ボロボロ流してるんじゃん。
なぜか俺が悪いことしてるみたい。
「なら朝8時に伺います。そして、サマンサ様が迎えに来てくれると嬉しいです。貴女は信用できますし、またこんな事があっては面倒ですからね。いいでしょうか?」
「ふぁい。わかり、ひぐっ、ました。さ、まんしゃちゃん、おね、がい、ひっぐ、します」
「はい、分かりました。ですから、学長、泣き止んでください。かわいいお顔が台無しですわ」
「ふ、ふえぇえっぇぇぇーーん!」
で、ちびっこ学長は豊満なルルアといい勝負しそうな胸に顔を埋めて、抱きかかえられて連れていかれるのであった。
「……なあ、おっちゃん、俺やりすぎたか?」
流石に、中身がロリ婆とはいえ、外身がロリなだけに、俺がイジメたって感じになってるから心配になった。
「いや、あれは君達が正しい。いつもあのぶりっ子で押し通してきたから、いいクスリだろう。しかし、君達すごいな、あのポープリさんとの交渉をあそこまで有利に運ぶとは、普通ならあの泣き顔を出されて強気にでれなくなるのが多いんだが、あの泣き顔をする前に止めを刺したからな。ああやって、泣いてももう手遅れだ」
「え、あの泣き演技?」
「恐らくな。最後に泣いたのはせめてものお返しだろ。罪悪感が芽生えたろ?」
「ああ」
「それが狙いだ。次の交渉も考えてるな。俺が言えるのは、そのままの姿勢を貫きとおせってことだ。ポープリさんに完全敗北を教えてやれ」
ええー、あのロリ婆どれだけ無茶やってんだよ。
応援受けるとか、余程悪辣な交渉ばかりしてやがったな。
というか、あの泣き顔もウソかよ。
「女って怖いですね、ユキさん」
「ああ、恐るべしだ。だが、今のところはこっちの圧勝だな」
「ですね。これで明日の話し合いはいい感じでいけそうですよ」
「そうだな。でもおっちゃんの言う通り油断しないで一気にいくぞ」
「分かってますよ。と、おっちゃんから揚げまだ?」
「おおう。ちょっとまってな。母ちゃん!! から揚げ山盛りで、ポープリさんを言い負かした男前がいるんだ!!」
そう言って、調理場の奥へおっちゃんは消えていく。
大声を上げて、俺たちは悪くないとアピールしながら。
「「おっちゃん、かっこよすぎ」」
そして、極上の勝利のから揚げをたらふく食べて、明日に備えるはずだったが……。
「お兄ちゃん、アスリンは悲しいよ!!」
「そうなのです!! ちっちゃい子を虐めるなんて、フィーリアはそんな酷い兄様を見たくはありません!!」
部屋に戻ってから、ちびっこ2人に散々に怒られた。
他の皆はとりあえず事情は理解しているから、何も言わなかったが、やっぱり視線は厳しかった。
「タイキ様、あなたは勇者なんですよ? なのに、あんな小さい子相手に……」
「いや、アイリ聞いてくれ、あれは学長の……」
「いいえ、聞きません。あんなことをしては勇者の名折れ、私は悲しいです!! いいですか……」
横ではタイキ君も怒られていた。
くそ、あの学長め、これが狙いか!!
って、違うよな。
「うんうん、やっぱりユキは悪魔だよ。これは間違いないね」
うっせー、エージル、お前がもっと交渉事できてれば、お前がここに座ってるんだよ!!
はぁ、明日8時に学府いけるかな……。
お説教は深夜1時まで続いた。
はい、ここまで読んだ方は
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ ではなく、将の首を取ればいい
の意味はわかったと思います。
うん、首取れば簡単だよね。
いや、一応将を射んと欲すれば先ず馬を射よ でもあってるんだけど、これは直接首を狙ったと思うんだ。
そして、ユキたちは悪くない。
学長のミス。はっきりわかんだね。
あと、こんな更新速度が続くと思うなよ!!




