第206掘:本職
本職
side:ユキ
まったく、なんてことだ!!
セラリアの出産と防衛戦が被るなんて!!
本人から連絡がないところを見ると、俺たちに余計な心配をかけたくなかったのだろう。
ミリーには感謝しないといけない。
「で、ユキさんどうするの? 僕たちだけで12万の敵は倒せないことはないけど……」
「時間がかかりすぎる。……皆殺しにする? それなら簡単」
「カヤ、怖い事いわないの!! そして、それじゃ色々な意味でだめだから!!」
カヤの言う通り、皆殺しにするなら簡単に終わる。
しかし、トーリが止めるようにそんなことをすれば、魔力枯渇の大地に一気に魔力が補充され、どんな異変が起こるかわからないし、魔剣使いの情報も欲しい。
また、エナーリア聖国は皆殺しにあった報告を聞いてどう動くか予想がつかない。
報復に山ほど軍を連れてきて、ジルバとの最終決戦になってもあれだし、委縮してもジルバが勢いづいて攻めることになると俺たちも面倒に付き合わされる。
「……ユキさんどうするおつもりですか? このまま戦えば、どうあがいても私たち傭兵団の実力が知られてしまいます。防衛戦のように、他の軍と連携して撃退ならともかく、たった50人にも満たないこの人数で撃退、皆殺し、捕縛、いずれでも私たちの普通……いえ、ウィードによる地球に倣った圧倒的な火力を知られてしまいます。その結果、この新大陸の情勢を一気に変えてしまう可能性が大きいです。それは、流石に問題があるのでは?」
シェーラも考えていたのか、この戦闘の結果を気にしている。
確かに、シェーラの言う通りこの新大陸、いや、この世界でオーバーテクノロジーと言って過言ではない、現代兵器群で12万を皆殺し、撤退をさせると、どう考えても、ジルバ、エナーリアだけでなく、新大陸の各勢力が俺たちの調査に乗り出すだろう。
そして、その結果俺たちが各国にマークされて身動きが取れなくなる可能性が非常に高い。
というか、ウィードのように各国に対して対処しなければいけない状態になる。
それでは、傭兵という立場にいる意味がない。
いや、傭兵ならこういう成り上がりは歓迎なんだろうが、俺たちの目的は新大陸の魔力枯渇原因調査である。
どこに原因があるかわからない以上、動きを制限されるような行動はするべきではない。
どこかの国が、意図的に行っているのが原因ならこういう売名行為はありなんだが、原因が他の場合、一々お国の相手をするのは時間の無駄だ。
「ええっと、お兄ちゃんよくわかんないけど、セラリアお姉ちゃんの所に早くいきたいです」
「私もセラリア姉様のところに早くいきたいのです!!」
ちびっこ2人は俺と同じようにセラリアの出産に立ち会いたいようで、あまり深く考えてはいないようだ。
だが、この姿は家族を案じてのことなので、ほっこりする。
「ユキ、2人にほっこりするのはいいけど。……本当にどうするの? 現代兵器でも、私たちのステータスに物を言わせた魔術砲撃でも、あんまり結果は変わらないけど」
ラビリスのそう言われて、ほっこりした気持ちを切り替える。
いかんいかん、さっさと片付けないとセラリアと自分の子供に合う時間が遅れる。
「そうだな、トーリ、シェーラ、ラビリスの言う通り、変なゴリ押しは今後の展開を考えてなるべくやめたい。だから……」
俺はそう言って、アイテムボックスから、アレを取り出す。
「え……ちょっと待ってくださいユキさん。それって……」
横にいるリーアも流石に驚いた顔になり、俺が持っているものを見つめている。
「……ダンジョンコアをこんなところで出してどうするつもりなんですか?」
ジェシカがようやく、俺の持ち物の名前を言ってくれた。
そう、俺がいま持っているのはダンジョンコアだ。
つまり……
「ダンジョンでの魔力循環はルナに言って止めてある。ここら一帯の土地のDPによる買い上げでの土地掌握の魔力拡散は心配ではあるが、亜人の村と違って、綺麗な平地の草原だ。観察は簡単。いい加減、他の観察場所も欲しいってザーギスたち研究班もいってたしな」
「えーっと、それでも12万の敵は止められないっていうか、ダンジョンに入るとはおもえないけど……
」
俺の意見にリエルが気まずそうに返答する。
「リエルの言う通りだな。今から街を攻める軍隊がダンジョンに入るわけがない。だが、ダンジョンしかルートが無ければどうかな?」
俺がそういうと、全員が察しがついたらしく、ジェシカがこめかみを押さえて口を開く。
「地形変更を地上まで行うつもりですか……。12万の敵を壁で囲むか、一気に昇れない穴に閉じ込める。そして、ダンジョンの入口だけをそこに配置する」
「ジェシカの言う通り、ダンジョンに入るしかない状況に追い込めばいい」
「でも、12万の数を相手に出来るダンジョンなんて……。ああ、もしかして皆で作ってたあれ?」
リエルが考えつつも、自分で答えを見つけたようだ。
そう、当然、ウィードを守るための策にダンジョンを利用する方法は考えている。
これはそれを流用するのだ。
「ああ、そう言えば言ってましたね。私とジェシカは参加、というか、まだウィードができた頃なのでいなかったですけど、皆で考えたっていう、大軍相手のためのダンジョンでしたっけ?」
「……いまの今まで忘れてたわ」
「向こうはウィードに喧嘩売る相手がいないですから。私たちが考えるだけで済んで設計図だけありましたね」
リーアは残念ながら、そのダンジョンの製作にかかわってはいないが、話は知っていたようだ。
カヤとトーリは、案のままで放置されてたのをリエルの言葉で思い出したようだ。
「……で、それは12万の大軍をちゃんと相手にでき、希望通りに観察し、戦力評価をできるのですか? そして、それをどう、ジルバ側に報告するつもりですか?」
ジェシカは問題が無いのか鋭く俺に訊いてくる。
「それは問題ないわ。ウィードが数国から攻められた時に対応できる規格外ダンジョンだから。こういえば分かりやすいかしら? ロシュール、ガルツ、リテア、魔王の国、それらを同時に相手に出来るわ。無論監視も簡単にできるし、召喚陣からの無数の魔物の配備、こちらからの有力な魔物軍の派遣、トラップも数多」
ラビリスがそう告げると、ジェシカはあからさまに顔を青くする。
ま、どうにでもできるぜ宣言だしな。
しかもジルバ帝国と互角か、それ以上の大国を4つ相手取ってだ。
「無論、ジルバ側もエナーリア側も、そしてこの戦いを覗き見している他の国も、ダンジョン出現は只の自然災害にみえるでしょうね。ダンジョンがただの遺跡なんて言われているこの新大陸ではね。ウィードがある大陸は私たちの仕業ってわかるだろうけれど、この大陸はまったくわからないわよね」
そして、ラビリスは俺の思考をつないだ手から読み取ってにこやかに言う。
「……相変わらずおっそろしいですね。なるほど、今すぐ全滅させる必要はないですから、監視状態にして私たちはホースト殿に適当に自然災害で逃げ帰ったと伝えて、ウィードに帰るわけですね」
「その通り。ダンジョン作業はむしろウィードの方がやりやすいしな」
「しかし、将軍の魔剣使いたちはどうするのですか? 相応の実力者なら単騎で逃げ出す……って、それなら分かりやすく、捕縛できますね……」
「そういうこと」
この作戦上、一番の問題は、前者はダンジョンの罠にはめる前に逃げ出す可能性と、後者はダンジョンを踏破する可能性がある実力者がいた場合だ。
だが、前者は俺たちが監視してるから、捕縛ないし、ダンジョンに実力で放り込めばいい。
後者はダンジョンに入っているのでどうとでもなる。
というか、出口にはつながっているけど、出られるダンジョンを作るわけないしな。
「うぃーす。大将、敵さん見えてきました。多分、相手もこちらを認識してますよ」
「そりゃそうだろう。マローダーでヘッドライト全開だからな。ま、さっさとやりますか」
俺は車から降りて、ダンジョンコアを地面に置き、そこ掘れワンワンを起動し、保存するだけで使用していない、大軍用ダンジョンの設置をする。
ズズズン……。
辺りに重低音が鳴り響く。
「敵一帯の地面陥没を確認!! 辺りの掌握、マップ確認できます!!」
ゴブリン隊の報告で、全員がマップを起動してマーカーを確認する。
「うわぁ、多いね」
「赤いマーカーばかり」
「うん、ユキさん予定通り陥没範囲に敵はいます」
獣人嫁組の言う通り、敵の本隊は完全にこちらの罠にはまった。
「……こちらも確認しました。敵後方、5km位置にいる敵の補給隊は状況を確認しに行くようです。こちらはどうしますか?」
そう、本隊はだ。
ジェシカの言う通り、後方に補給物資を届ける補給部隊もいるので、そっちの対処もしないといけない。
「ゴブリン隊は30名を率いて後続隊、補給隊を急襲。半数をダンジョンへ、残りを追い返せ。これで、エナーリア側も自然災害の隙を突かれたと認識するしかない。いいか、攻撃を開始するのは陥没地区に入ってからだ。わざわざダンジョンに放り込むのに運ぶのは面倒だからな。行動を開始!!」
「「「了解!!」」」
即座にゴブリン隊が移動を開始する。
「残りの20名は陥没地域を目視とマップを併用して監視。昇って来るような奴は叩き落とせ!!」
「「「了解!!」」」
そして、極少数のゴブリンを残してほとんどの手勢は俺たちからいなくなってしまう。
「さて、あとは3時間ぐらい監視すればここを撤退していいだろう」
「……ユキ。昇ってくると言う事はそこまで深くはないのですか?」
「いや、陥没は下へ20メートルはあるな」
「……ほとんどが即死していそうですが」
「下にはスキル封じのスライム軍団がいるからクッションになるだろうよ。一面にいるからな、よほど運が無い限り死にはしない」
「……3時間後にはダンジョンに逃げ込んでいるか、死体しか残らないと言うわけですか……」
「追い込み漁業と言ってほしいね」
「性質が悪いですよ」
ジェシカがそうやって睨んでくるが、どこか仕方ないと言った感じで見つめてくる。
嫁さんになってから少しは丸くなったか?
「いえ、いつまでも常識にとらわれていては疲れるだけだと認識しましたので」
「あ、そうですか」
「無論、ユキのことは夫として今も高く評価しています。これはユキというダンジョンマスター本来の戦い方なのですね」
「おう、これが本職だからな」
そう、俺はダンジョンマスターなのだ。
さあ、ダンジョンへ挑む挑戦者たちよ。
初、大軍用ダンジョンだ。
情報集めに貢献してくれ。
嫁さんたちもキャッキャッしてダンジョンの様子を見ていることだし、あまり序盤でやられないことを望む。
無論、なるべく殺さないようにはするけど、色々問題があるから、でも、死んじゃったらごめんよ。
ああ、魔剣使い2人は捕縛決定だから、しっかり抵抗することを望む。
「セラリア、大丈夫かな……」
しかし、嫁さんの方が一番心配なのだ。
まともに、砲撃や大規模魔法でやられると思いました?
残念!! そんな時間も労力もかけるのは面倒なのでダンジョンに任せます!!
久々のダンジョン戦です!!
さあさあ、よくやく本職が有効活用されることになりました!!
ユキだけでなく、リーア、ジェシカを覗く嫁さんたちとの合作大軍用ダンジョン!!
彼等は生き延びることができるのか!!




