第191掘:魔剣姉妹の処遇
魔剣姉妹の処遇
side:ミスト・メルト 水の魔剣使い
ユキたちと別れ、王都の屋敷でひっそり過ごすこと2週間とちょっと。
王城で何かしら騒ぎがあったようですが、今私たちはこの王都には居ない事になっているので詳しく内容を調べるわけにはいけません。
精々屋敷の者を使って街の様子を調べる程度です。
王城の中へ探りを入れるには伝手がありません。
無くは無いのですが、それは私たちに味方がいればです。
今回の大失態では味方がいるとはとても思えないので、下手に外部の協力者を得ようとすれば私たちのことが露呈し、ユキたちが王への対応に失敗していたら、そのまま処刑台もあり得るのです。
「まったく、未だに音沙汰無しですか。……どう思うかしらミスト?」
お姉様も2週間家でじっとしているのは堪えるらしく、部屋の中で歩き回ってこうやって聞いてくる。
「何度も言いましたが、王城にユキたちが乗り込んだのは、噂からしてまず間違いないでしょう」
「ええ、亜人を連れた男が王城へ殴り込んだって一人しかありえませんわ」
「しかし、ユキたちの首が晒されることもなく、王城が落ちたような話もありません。詳しくは分かりませんが、なにかしら王と交渉をしているのでしょう」
「……交渉。なにをしていればこんなに時間がかかるのかしら」
「さあ、私たちのことも含めてと言っていましたし、ユキたちがジルバ帝国を倒す意思がないのであれば、色々押し通すのには時間がかかると思います」
「まったく、なにをそんなに遠回りをしているのでしょうか。彼等の実力なら王城を制圧できるでしょうに。エアと言う王の腰巾着がいますが、あれも相手にはならないでしょうし」
「ええ、お姉様の言う通りです。しかし、それではただ国が混乱するだけですし、ユキたちの本来の目的はユキ達へケンカを売ってくるなということです」
「……私たちが原因でしたわね」
お姉様はこの言葉でがっくりと頭を下げます。
「しかし、なぜ私たちを庇うようなことをするのでしょうね。私たちを切り捨ててしまえば、その分交渉事も減るでしょうに」
「ユキたちはジルバ帝国を利用するつもりなのはご存じですよね?……おそらくですが」
「ええ、その為に王城を制圧せず交渉という訳の分からない行動をとっているのでしょう?」
「そこです。実は訳の分から無い行動とはいえないのです」
「どういう事でしょうか?」
「まず、ジルバ帝国の王都を落としてもジルバ帝国の全てが屈服するわけではありません」
「それはその通りですわ」
「はい、逆に元ジルバ帝国の領土の貴族たちが各個独立したり、ユキたちに対して反旗を翻すでしょう」
「想像は容易いですわね」
「ですから、交渉と言うわけです。圧倒的な力を示して自分たちをジルバ帝国に認めさせ、ある程度の権限をもらい、敵対しないように抑えるわけです」
「……つまり、ユキたちにとっては交渉が一番都合がよいと?」
「はい。おそらく私たちの失脚についてもその一環です。私たちが失脚すれば代わりの魔剣使いの選別や、私たちの領土の分配、そして私たちがいなくなったことでの敵国の侵攻などが予想されます。これは、ジルバ王都をユキたちが落としても同様でしょう」
「なるほど、ユキたちがジルバを乱す利点はそういう観点から言えば全くありませんわね。ジルバを盾にしつつ動き回るほうが効率的ですわ」
結局、ユキたちの行動は自分たちの目的を達成するために、最短の行動をとっていると言っても間違いではありません。
詳しい目的は知りませんが、彼らはこの大陸を自由に動きたいようです。
ですので、それなりの領土と友好国の多いジルバの後ろ盾を得られればこれほど楽なことはありません。
面倒事はジルバ帝国に処理してもらえればいいのですから、彼らはあくまでもジルバ帝国の賓客扱い、これほど都合のいいことはありません。
「それでも、交渉に持ち込めているのなら私たちに連絡の1つでも入れるべきでは?」
「まあ、それはそうですが……。あの用意周到なユキが連絡しないというのはまだ状況は私たちにとってよろしくないと見るべきでしょう」
通常であれば、既に命を落としているか、慰み者か、命からがら逃げかえっても、処罰という八方塞がりの状態です。
今の状態は幸運と言うべきです。
交渉が失敗しても最悪、魔剣という強力な武器をもって逃げることも可能ではあります。
「……結局待つしかないのですね」
お姉様がそう言って窓を見つめると、ドアのノックされます。
「オリーヴ様、ミスト様、ユキと名乗られる方が面会をお求めです。例のユキ様と容姿は違いありませんが、御通ししてもよろしいでしょうか?」
ドア越しにそんな言葉が告げられ、お姉様は即座にドアを開け。
「すぐに客間へ通しなさい!!」
私も椅子から立ち上がり、すぐにお姉様についていきます。
「……そのユキの周りに帝国兵士たちはいましたか?」
「いえ、そのような姿は、付き人と思わしき女性が3名ほど。内1人が首輪なしの亜人ですので少しご注意を」
その言葉を聞いて私はユキで間違いないと思いました。
「……その亜人、狐のですか?」
「え? ええ、その通りです」
「わたくし、カヤは苦手なのですが……」
使用人の返事を聞いて少し青ざめるお姉様。
確か、カヤさんはお姉様をボコボコにしていた方です。
しかも、お姉様と同じ炎を使う戦士で、魔剣を使うお姉様を圧倒していました。
苦手意識も当然でしょう。
ある意味、お姉様の抑えとして連れてきたのとも考えられます。
そして、客間の扉を開けると……。
「いやー、すっかり忘れてたわ」
そんな風に軽い感じでにこやかに笑っているユキがいました。
……少し彼を買いかぶりすぎたのでしょうか?
しかし、彼の話を聞いて私の判断は間違いではありませんでした。
ほぼ完全な自由行動に、戦利品の裁量権、ジルバ帝国のお墨付きという、魔剣使いの私たちよりも上の権限を有した外部雇いの傭兵部隊など聞いたことがありません。
ですが傭兵部隊としての仕事はするつもりで、マーリィ様のエナーリア聖国への侵攻を援護するという仕事を受けたとの事。
「……相変わらずトンデモありませんわね。で、私たちの件はどうなりましたか?」
お姉様があきれつつも私たちにとっての一番の問題を聞きます。
「ああ、それな。一応体面があるから、公式には発表や処罰はない。損失した人員、物資についても言及はされない。オークの集団と戦闘したと言う処理になった」
「……私たちの後釜騒動と他国の行動に対しての対応と言う事でしょうか?」
「おお、当たり。と言ってもそれを考えたのはミストの方だろう?」
「……そうですわよ」
「やっぱりか。で、表向きな処罰は無いにしても、今回の失態は上層部の全員が知っている。このまま手柄なしでジルバ王都に戻れば不満を言う連中が、王様や俺たちがにらみを利かせても必ず出てくる」
「それはそうでしょうね」
「そこでだ、2人もマーリィと連携して残りの1000人の兵をつれて、エナーリア聖国の侵攻を手助けして戦果を上げよとのことだ」
なるほど、それで信頼、信用を回復せよと言う意味ですか。
私たちを甘く見ている上層部の一部に対して、再認識させるには戦場での戦果が一番です。
「これで晴れて2人は俺の捕虜ではなく、俺とマーリィを介して王の命令を受け取り、正式に軍を動かせるというわけだ。これで一々王城に失態報告へ行かなくていい。次王都へ来るのは、エナーリア侵攻での戦果報告だ」
「……勝てるつもりですか?」
「さあ、戦場はどう転ぶかわからんからな。でも其方としては頑張らないといけないよな?」
「負けるとは露とも思っていないでしょうに。……ですが私たちに取ってはありがたいですわね」
「はい、お姉様」
確かに彼らが味方になるのなら、戦力としては申し分ありません。
私たちで戦果を挙げるのは重要ですが、私たちが失脚しても困るのはユキたちも同じですので、こちらの都合のいいように手助けをしてくれるはずです。
「では、あなたたちを信頼しますわ」
「あなたたちの手を借りられるならば、負けはありません。それに私たちの良いように手助けしてくれるのでしょう?」
私がそう聞くとユキは少し微妙な顔をする。
「まあ、そっちに失脚してもらっても困るのは確かだ。それを防ぐために色々手は打つが、なんでもは出来ないぞ? 空を飛ぶとかはむりだからな」
「「「できるでしょう」」」
即座に、周りのリーア、ジェシカ、カヤから突っ込みが来ます。
飛べるのですか……って!?
「「ジェシカ!?」」
「今気が付きましたか」
なにを堂々と、この王都に戻ってきているのですか!?
「今では、ユキとの交渉役としての御役目を王からいただいておりますので」
「……ユキの人使いは荒いですね」
「……否定はしません」
「人聞き悪いな」
しかし、これで私たちの首は繋がりました。
いえ、これから頑張らなくてはいけないのですが、まずは当面の危機をどうにかできたことに安堵しました。
次はエナーリア聖国ですか……、私たちと同じ魔剣使いが複数いるはずです。
ユキの力があるとはいえ、そう簡単にいかないでしょう。
魔剣姉妹はこうやって、エナーリア聖国侵攻の援軍としてそのまま派遣されることになりました。
それでもユキはのんびりです。
まあ、どう見てもユキを知らない人達からすれば、魔剣使いの3名が脅威に映るでしょうからね!!




