第1951堀:最前線の町の中
最前線の町の中
Side:ヴィリア
「……思った以上にお兄様は現状を重く見ているようですね」
「いや、ヴィリア普通にやばい。このアンドの町の雰囲気が逆に凄い」
「だな。毎日300前後襲撃が続いていて、物資もカツカツ。いつ破綻してもおかしくはないんだよなぁ……」
「とはいえ、保っているからこその活気でしょう。ギリギリではあるが破綻はしていません」
ニーナさんたちの言う通りかもしれません。
毎日かなりの規模の襲撃が行われ、兵士はもちろん冒険者たちは疲弊しています。
もちろん、魔物を倒すだけでは国としては収入がないので、魔物を持ち帰り解体する必要があるので、回収作業、そして冒険者ギルドなども含めての解体作業、そして消耗品の補充もいります。
それはもちろん、投石や矢などはもちろん、剣や鎧なども使えば損耗していきます。
そして、兵士や冒険者は食事をします。
なので人が集まりアンドの町は活気であふれているわけです。
パッと見て、戦いに負けるとは思っていないようなのですが、これが続けばいずれということですね。
「まあな~。もう持たないとなれば、町に活気なんてあるわけないしな」
「そうそう。私たちはそういう国は何度も見てきたしわかる」
「ええ。それだけはありがたいです。負けると思ってしまえば、そこから持ち直すのはなかなかに難しいですから」
「やはり、一度傾けば持ち直すのは難しいですか?」
私は気になったので聞いてみます。
一応、この手の勉強もしているので理解してはいますが、負けている、いえ負けてしまうという雰囲気が蔓延するというのを感じたことは無いのです。
ですが、この3人はイフ大陸で多くの戦いを潜り抜けてきたのです。
そこで言葉にもあるように、そういう状態を何度も見てきたのは間違いありません。
その3人からの意見、感想を聞きたかった。
「ヴィリアはそういうことは経験ないだろうからな。本音を言うとかなり難しい」
「ですね。負けることが誰の目にも見えているからこそ、諦めているのです。つまり、逃げることを優先します。誰も勝てない戦いに挑もうとは思いません。それをするのが、軍の仕事ですが……」
「ヴィリアも演習で経験があるはず。決定的な戦況になり、もう負けだと決まったとき。味方も仕方がないという感じなったことがあるはず」
「あ、はい。それはあります」
何せ、私が率いていたのです。
相手は私よりも経験が豊富なお姉さまたちばかり。
私がどうあがいても……。
「……なるほど。みんなこんな気持ちになるのですね。しかも演習とは違う……」
「ああ、命がかかっている。そこで、一か八かの攻撃よりも、逃げて安全な所に行く方を選ぶ人が多い」
「というか、選びようがない。普通の人は戦えない。かえって邪魔にもなりかねない。そうなると町に人がいなくなる。つまり、活気がなくなる。そして活気がなくなるってことは」
「物資が無くなりますわ。商人などもいなくなりますので、補給もままなりません。戦う以前の問題となるわけです。負の連鎖ということですね」
軍が負けるとわかってしまえば、そこに住んでいる住人たちは安全でないというのはわかるでしょう。
そして逃げるのも当然のこと、そして商売もする人も同じですね。
その結果人がいなくなり、活気がなくなるわけですか。
確かにこれはスィーアさんの言う通り負の連鎖というべきですね。
「もちろん、何とか戦って勝つという連中もいるだろうが、それは少数だしな。それが勝つ可能性も……」
「極端に低くなる。もちろんゼロではない。そこで勝てるのが英雄とかそういうのになる」
「まあ、普通の感性の持ち主であれば逃げるのが普通です」
「なるほど。確かにそんな状況下で戦い勝利を得られるなら、英雄、勇者ですね」
心が折れかけている中で、それでも立ち上がり結果を出すというのは簡単なことではありません。
「まあ、私たちの上には、負けているというのも利用しまくるのがいるけどな」
「そもそも、負けているというのも間違いでしょう。偽装です偽装」
「ユキならそういう手も使うけど、そもそもそんな状況にならないように差配する」
「あはは、そうですね」
お兄さまがそこまで追い詰められるような事態は思いつきません。
まあ、個人的に誘拐モドキはありましたが、それでもあっという間に状況をひっくり返しましたからね。
大事なのは……。
「お兄さまがいつも言っています。どんな時でも考えることをやめないこと。今の条件、味方と敵の情報、地形、目的、勝利条件、敗北条件、それを変えてもいい。余裕を持てって」
「それって何でもありじゃね?」
「ユキに何を言っても無駄。ルールに則ったゲームでもなければ敗北は無い。負けと認めなければいいだけ」
「そうですね。あの人は負けを勝ちに変えてしまうタイプですからね」
酷い言われようだけど、否定できない。
お兄さまの凄いところはそこなんだから。
失敗を失敗で終わらせない。
失敗を成功にひっくり返す。
お兄さまが最も得意とすることですね。
「つまり、だ。今の状況は悪いと思えば悪い。だが、ユキからすれば良いってわけだ」
「まあ、その通りですね。何せここにはまだ活気もあるし、人もいる」
「そう、まだユキは現状を重く見てはいるが、取り返しがつかないとは思っていない。だから、私たちの動きも大事」
「わかりました。お話ありがとうございます。それで、これからどう動くべきでしょうか?」
私に対する活気の説明が終わったところで、これからどうするのかというのも大事になってくる。
何せ、ここで会議をしていても何も変わらない。
アンドの町も砦も徐々に体力を削られているのは間違いないからだ。
「まず今の私たちの状況を確認するぞ。ユキから頼まれている町の様子は報告している。さっきも話したが活気があってイオア本国からはもちろん、ファイアナからの物資も届いている」
「人の動きもありますね。商人などではなく、冒険者はもちろん、移住に関してです」
「こんな最前線に来るというのは不思議だったけど、確かにここは可能性を感じる」
「一山当てようというやつですね?」
「ああ、戦いが激化しているから、戦いで名を上げることはもちろん、商売、ほかでも色々夢を見ているんだろうな。移住に関しては政策みたいだが」
「人が来なければ活気がなくなる。砦の防衛を安定させるためにも人を集める政策は間違いではない」
そう、このアンドの町はただの人も移住している人がそれなりにいる。
こんな危険な場所にと思いますが、国が推し進めている上に、多くの戦力が集まっているというと、下手な所よりも安全だと思うのは不思議ではありません。
そして、それを狙っての政策でもあるようです。
まあ、先ほども話していましたが、人がいなければ防衛も何もありませんからね。
「次に戦力に関してだが、領主というか、国軍、つまり私兵じゃなくて国の正規兵を突っ込んでいるし、後方の治療もしっかりしているから、思ったよりも人的損失はないみたいだな」
「そうね。もっとけが人であふれているかと思ったけど、クリアストリーム教会がしっかり動いて治療しているみたいだし」
「そして、戦力も出している。ここでのクリアストリーム教会の支持は絶大。私も今のところ信用できる」
意外と言うべきか、北部に来てからのことを考えれば当然というべきか、イオアのアンドの町に構えているクリアストリーム教会の人たちは文字通り善良で、そして勇敢に戦っています。
何せ、回復術師の人たちも武器を持って戦っていますから。
もっとも、前に出るなと毎回止められているようですが……。
うーん、どこかの大司教を思い出します。
「冒険者たちもしっかり協力している。というか、こっちはメインは町の周りの討伐だな。細かい魔物は少なくない」
「私たちは相手になりませんでしたが、ゴブリンやオークがそこそこうろついていますからね。おそらく大物というか、数と強力な魔物は砦の部隊が、残りを冒険者などが対応しているようですね。あ、もちろん腕自慢は砦の防衛に向かっているようですが」
冒険者はあくまでも補佐に近い動きをしているんですよね。
まあ、北部では冒険者は軍やクリアストリーム教会よりは能力が下だという認識があるので、それが適材適所ではあるのですが。
「当然。多くの魔物は砦にいるが、それでも周りに魔物がいないわけじゃない。というか、あそこに集中しているというのも不思議。一応ほかにも、穴らしきところはある」
「あれだろ? 見る限り、あの砦の所が最大流入場所ってことだろう? ほかの場所は森の中だったり、ここよりも狭い谷だったりするから、大きな数は展開できない。ちゃんと警戒の兵はいるみたいだしな」
ニーナさんの疑問もわかりますが、戦略的に考えればキシュアさんの言う通りだと思います。
あれ? なんか引っ掛かります。
「キシュア。その発言の先には敵の向こうにはやっぱり指揮官がいるってことよね?」
そうです。
スィーアさんのいうとおり、指揮官がいるはずです。
「あん? ああ、だろうな。とはいえ、逆もありえるっちゃあり得るぞ? 狭いところに大多数を突っ込めば防げないだろう? 馬鹿の一つ覚えで砦に向かわせているっていうのもある」
「馬鹿の方が楽ですね。下手をすると砦の方は陽動の可能性もあるわけですか」
その場合意表をつかれて、ほかの狭いところから魔物が流入し防衛が間に合わなくなる可能性も否定はできません。
「というわけで、楽観はできないのは間違いない。が、そこらへんは既にユキがドローンや使い魔を置いて監視体制を取っている」
「襲撃に関しては、私たちが後手に回ることは無い。まあ、表立って活動できはしないけど」
「そこですね。表立って動ければ、北部での活動はさらにしやすくなります。もちろん防衛に関しても」
「では、当面の目標は、当初の予定通りに冒険者ギルドとクリアストリーム教会の上に話を通すということでいいんですね?」
私は確認のためそう言うと、3人とも頷いて。
「ああ、これ以上様子見する意味合いはないと思う。もう冒険者ギルドに出て、話してクリアストリーム教会とのわたりもつけてもらおう」
「ドドーナ大司教の名前があればうまくいくはずです。手紙も預かっていますし」
「でも、ドドーナ大司教と同じように中央部に怒りを向けてもらっても困る。そこは注意がいる」
「あはは、確かに全員揃って中央部に行くとか言えば大問題ですね」
「「「……」」」
私の言葉に全員が沈黙します。
「……とりあえず、ユキに指示を仰ぐ」
「そうだな」
「最悪は、私たちが止めなければいけませんね」
え~、手加減できるかな?
多分……だ、大丈夫。




