第1950堀:本当の新大陸の状況
本当の新大陸の状況
Side:ユキ
「なるほどな。ギルドの仕事から洗ってみているわけか」
『はい。そこから妙なお金の流れや、物資の流れがないかを調べています。大丈夫でしょうか?』
コール画面の先で、シェーラが少し心配そうな顔をしている。
予定外で動いているから邪魔をしていないか心配なんだろうな。
「大丈夫。シェーラとラビリスが無理をしていないなら助かる。そういうモノの流れも大事な話だから」
『無理はしていないわよ。無理しているなら夜にベターっとしているし』
「そうだな」
ラビリスなら遠慮なく飛びついてくるだろう。
シェーラの方は遠慮するだろうが、そこらへんは……。
『大丈夫。シェーラのほうも一緒にべたべたねと~っとするから』
『あの、私の方がしつこいような表現になっていませんか?』
「うん、そうやってフォローしているなら問題ないな。何か見つかるといいな。目の付け所は悪くない」
二人が言った、いや、実際にはキナが指摘したという、現代においてこんなアホな命令を遂行するのであれば、相応の報酬がいると。
確かにその通りだ。
幾ら歴史があるとはいえ、人はプライドや歴史などでは生きていけない。
そういうメンツが大事なのは余裕がある上の人たちだけだ。
つまり、国。
貴族でも自分たちの資産ともいえる人を手放すというのは、自分の首を絞めるようなもの。
下手すれば反乱がおこりかねない。
イフ大陸のように、亜人が完全に住み分けをしているなら良いが、意外と中央部は亜人も普通に混ざって生活しているところが多いらしい。
だからこそ、ギアダナ王国は唐突な亜人の排斥に戸惑ったし、反対していたのだという。
当然だよな。意味わからんもんな。
下手すると、民衆の反乱はもちろん、亜人を抱えている領主たちもそろって反旗を翻して、大混乱になりかねない。
だが、実際はそれは起こらずギアダナ王国内でも亜人排斥派が大半を占めたという実情がある。
やっぱり何かの取り引きがあったとみていいだろう。
『ねえ、私たちが調べるのはいいのだけれど。これってギアダナ王国が調べていることとかぶったりはしていないのかしら?』
そんなことを考えていると、ラビリスから鋭い指摘が飛んでくる。
「ああ、ギアダナ王国には、国だから調べられることを調べてもらっている最中だから、内容はかぶる可能性はあるだろうな。とはいえ、今のところ情報は来ていない。何せ、下手すると国を割ることになるしな。クリアストリーム教会が働きかけているならなおのことだ」
『確かにそうですね。今まで国をまたいでこの新大陸では、信仰はもちろん勇名を馳せているクリアストリーム教会が敵となると、それだけで内部が割れるでしょう。とはいえ、クリア教会のドドーナ大司教の言葉には何も言えないというのは変な気がしますが』
「そこは同意だな。まあ、中央部にいるクリアストリーム教会の独断って意見が大半だ。とはいえ、なんというかお粗末だよな」
『そうね。告げ口するぞって言われて引くっていうのはおかしいのよね。何がしたいんだか』
ラビリスの言う通り、亜人を拷問しておいて、今更って感じなんだよな。
どう考えてもドドーナ大司教の言うように、北部のペトラってトップに知られれば、亜人と一緒に激怒しそうっていうのは誰でもわかる。
ドドーナ大司教だけじゃなく、誰かが話を持って行ってもおかしくはないわけだ。
なので、今更ってわけなんだよな。
とはいえ……。
「ま、何かしらのやり取りがあって、亜人排斥、迫害を黙認しているわけだ。そこを探るっていうのは、中央部クリアストリーム教会に揺さぶりをかけるのにつながるし、謎を解明できる。ギアダナ王国の方も追っているだろうし、そこから多角的になるだろう」
任せきりだったことにこちらから手を入れるのは、相手を信用していないとして、あと物理的に人手が足りないってことで避けていたが、北部との違いが露骨すぎてそうも言ってられなくなった。
ゆっくりと謎を解明していると後手に回りかねない。
防衛戦ってのは、本当に面倒だからな。
そのために陸上戦艦の早急な開発を始めた。
これで、敵が動いても多少は持つだろうが……。
それでも大本を押さえなければ、万の軍勢の足止めは出来てもすべてを止められない。
陸上戦艦が守れるのは一方向だけだからな。
……まあ、ヤユイならあるいは、町や砦の周りを激走しつつ、敵を殲滅するかもしれないが、そんなピーキーな使い方はしないんだよ。
陸上戦艦はあくまでも移動はするが固定砲台という扱いになるだろう。
なにせ、味方を潰しては問題だ。
助けに来たのに、味方を事故であっても殺してしまえば、今後の協力は難しいだろう。
『ユキさん。何か思う所でも?』
俺の様子にミリーがそう声をかけてきた。
最近は嫁さんたちに考えを読まれるな。
身内だけならいいが、そこらへん霧華やプロフに聞いてみるか。
と、そこはいいとして。
「今回歴史から調べ始めたのは、中央部のクリアストリーム教会、およびそれに同調した国が何をもって動いているかを調べるためだ。元々、亜人を迫害どころか、実情は生贄のように扱っていた。しかも自国の領民を使ってだ。これを知らないというのは流石にあり得ないだろう」
改めて今までの経緯を説明する。
今でも意味が分からん。
『確かにそうだよね~。いや、ギアダナも気が付かなかったんだっけ?』
「だな。気が付かなかった。それだけの亜人に対しての偏見があり、利益も無視しているとなると、よほどの何かがあると踏んだわけだが、マジで何も出てこない。狙いが見えない。つまり、後手に回っているってことだ。しかも北部は魔物攻勢が続いている。ミリー、キナには伝えたか?」
『いえ、まだです』
『え、なになに? ヴィリアたちが北部の最前線についたって話は聞いたけどさ。魔物攻勢ってなに? よくあらわれるって話じゃなくて?』
「俺の方から説明するがな。最前線のアンドの町、そこから先にある谷を利用した地形に砦と壁を築いている。それは聞いたか?」
『全然。というか、それ機密でしょう? ユキさんが話して言いわけ?』
「俺の立場を怒れるのはセラリアだけだな。まあ、いつも嫁さんたちや部下たちに無茶をするなって怒られてはいるけど」
『うん。私もそう思う。もっと自分を大事にしなよ~。私だってユキさんが倒れたらウィード大混乱ってぐらいはわかるから』
キナがそういうと、画面の向こうも、俺の後ろに控えているメンバーも深く深く何度も頷く。
なんだろうな、味方の中にいるのに味方がいないんだが。
と、そこはいいとして。
「話を戻すぞ。キナに話すのはもういまさらだ。巻き込まれてくれ。グラスも任せているんだし」
『笑顔でいうことじゃないぞ~。グラスも冒険者ギルドであって、町じゃないからね? シスアとソーナが頑張っているんだよ。で、続きは?』
「ああ、で、最近魔物の攻撃が激化しているって話があってな、到着して観測していたが、日に200から400」
『はぁ!? え? ちょっとまって、日に? 30日に一度じゃなくて?』
キナも目を白黒させて驚いている。
そうだよな。その気持ちはよくわかる。
「ああ、真面目に毎日だ。ちなみに観測と情報を集めているが徐々に増加傾向らしい。これがすでに5、6年続いているんだと」
『5、6年!? え? どうやって物資がもっているわけ? 人は? 戦う人はどうなっているわけ?』
キナの疑問はもっともだ。
戦いなんて、冒険者たちのように森に踏み込めば散発的にあるが、そんな集団が毎日攻め寄せるというのは、文字通り意味が違いすぎる。
物資の消費も半端ないし、戦う人たちはもっと補充が利かない。
それだけ戦いを重ねていれば必ず損耗していく。
それがキナにも理解できているわけだ。
「一応、それを支える仕組みがあるわけだが、最近では攻勢が激しくて追い付かなかくなってきているって感じだな。ほれデータ」
軽い説明を終えてから、今のところ集まっている情報をキナに送ると、即座に開き目を通して。
『いや、話ににはうっすら聞いていたけど、これひどすぎない? よく生きているね北部の人たち。これ、国と周りの国の構造が上手くかみ合っているというか、奇跡というか……』
「周りの構造に関しては、敵の攻勢が強くておのずとそうなったってだけだ。最適化からだ、奇跡とは違うな」
『それでもだよ。国が崩れないのが前提になっているじゃん。綱渡りって感じだ』
「その意見には同意だが、ここまで攻勢が強まったのはここ3、4か月だそうだ。元々は日に10体で、多い月で100体の日があるかないかぐらいだったらしい」
『それは、まあ、ギリギリ許容ライン? それが日に最大400とか無理でしょ?』
「だから、俺が急いでいるんだよ。この状態がいつまでもつかわからない。北部が崩壊すれば中央部だろう?」
『あ~、私も動員する時点で相当やばいと思っていたけど、真面目にやばいじゃん』
「ついでにいえば、今調べている中央部の怪しいところが同時に動けばどうなる?」
『終わりじゃん』
そ、終わりだ。
まあ、露骨に人が死に絶えるというわけではないだろうが、北部の国が崩れれば、今の動きを見れば北部から人は撤退。
中央部に北部の国々が撤退、いや進出することになる。
難民などを大人しく受け入れればいいが、下手をしなくてもそんな簡単に受け入れるわけがない。
一国分どころか、10国近くだ。
北部の要、中央のファイアナ王国なんて下手すれば大国に匹敵する。
それが滅亡とか。
「北部が崩れ、中央部が崩れ、南部になだれ込んでくる。文字通り新大陸に終わりがくる。一体何がどういう目的を持っているかは知らないが、それとも計画しているなら、まだ被害が少ないと思いたいが……」
『そこは楽観視できないでしょ。うえ~、やばいじゃん。これ、だから急ぐのか』
「まあ、早いか遅いかってだけだから、どちらにしろ俺たちはこれに関わることになるのは間違いない。というか関わっているから、解決を早めたいってだけだな。遅延策として陸上戦艦もほぼできた」
『お~、それって使える?』
「試運転は問題はないが、敵がどこにいるのかもわからないのに敵は倒せないな。せいぜい群がる連中を蹴散らすぐらいだ。ついでに今まではそれでずっと時間が稼げるかと思っていたが……」
『魔物の量を考えると際限がないよね~。というか、ダンジョンマスターが関わってない?』
「可能性が高い。敵にダンジョンマスターそれも毎日400近く、しかもほかの国にも寄せて困らない程度のDP保有となると、総力だとクソ面倒だ。計画的にやっているなら増加している今は……」
『普通に考えれば、作戦の最終段階だよねぇ~。限界が見えてるんだし。うん、マジでやばいね。がんばるよ』
「おう。任せる」
そう、現在の新大陸の状況はかなりギリギリなんだよな。
今にも崖っぷちから落ちてもおかしくない程度には。
誰だよ! こんな超爆弾を仕込んで何がしたいの!?
あれか、すべて死ねば楽になるというアホ理論家か!?
北部が瓦解し、中央が荒れてしまえば、コンボで南部も崩壊。
やったね、フルコンボだドン!
何も嬉しくないよね~。




