第1936堀:陸上戦艦の開発が急がれるということは
陸上戦艦の開発が急がれるということは
Side:ドレッサ
陸上戦艦開発速度を早めることは承認となったわ。
まあ、現状の混迷を極める新大陸のことを考えると、移動できる要塞というのはどこでも使えるわよね。
海に関しては、今すぐ出る必要はないのだし、陸上戦艦より緊急性は低いのよね。
とはいえ、こんな風に作ることになるとは思わなかったのだけれど。
それに……。
「……ねぇ、ラッツ。さっきの装甲の話だけど大丈夫なの?」
条件があるとはいえ、それをクリアできそうなのよね。
……ウィードに限りだけど。
「そのダイジョウブの意味はどこに向かってでしょうか?」
ラッツは笑顔でそう問い返してくる。
あ、そうくるか。
「そうね。世間にばれるのはどうかしら?」
「絶対不味いですね。資料を見る限り、装甲に使われている素材はどれも、高純度の鋼材、そして珍しい素材です。これを10メートル四方で厚さも各2ミリで再利用もできるとなると、装甲をはがして色々使おうとする連中が増えるでしょう。こちらの負担は知ったこっちゃないという感じで。実際、ウィードの損耗を回復すると考えれば無限に取れると思うでしょうし。下手すると戦争案件ですね」
「そうよね」
素直に頷く。
やばいという感覚はあったけれど、ラッツに言われてそのやばさに改めて気が付いた。
何せ条件が整えば無限にとれる鋼材。
しかもそれは軍事転用が可能。
実際に陸上戦艦やら軍艦を作るための装甲になっているのだから。
つまり、軍需に使えるのは既に証明されているということ。
それに、陸上戦艦という前代未聞の兵器の一部だと伝われば、それだけで欲しがる馬鹿が出てくるのは間違いないわ。
そういうことを考えると、ラッツが言うように無茶をしてでも欲しがる馬鹿は出てくるわね。
「ナールジアさんたちはそのことわかっているのかしら?」
「……わかってはいると思うのですが、DP無しで鋼材や素材を手に入れる方法を見つけたということでもありますので、はっちゃけている可能性もありますね~」
「あ~、あるわね。というか、魔力はともかく、薬草から精製できる特殊なポーションってどういうのなの? それがそこまで採れないのであれば、あまり気にする必要はないとおもうんだけど?」
先ほどの話で気になったのは、魔力ではなく、特殊精製した薬草のポーションという話。
そこの生産体制が整わないなら、あまり価値は無いはず。
ウィードでも少量しか取れないなら、陸上戦艦が万が一にも破損すれば、簡単には直せないってことになるのだけれど……。
「それに関しては、私も気になってナールジアさんたちに聞きました。それによるとどうやら、エージルが台地で特殊な薬草を確認したっていう話は知っていますか?」
「なんか、どういう効果があるかわからない成分を含む薬草があるって言ってたわね? それを利用したってこと? でも、台地の薬草っていまだにどうやって栽培するか模索中じゃなかったっけ?」
そうなると安定した薬草の供出はできないはずだけど?
「いえ、台地の薬草は使いません。その特殊な成分の抽出というのを利用して、ロガリやイフ、ハイデン、ズラブルで流通している薬草にも試してみたわけです」
「ああ、なるほど」
台地での経験を利用して、一般の薬草にも同じことを試してみたと。
「そこで同じように成分の抽出ができたようで、ああ、台地の成分とは違いますよ? 報告書によると、回復力を高めるモノです。物質にも影響を及ぼすタイプ。聞いたことがありませんか? 鎧は無理でも服程度なら破損が直ったとかいう話」
「……なんか聞き覚えがあるわね。でも眉唾ものって話じゃなかったかしら?」
そんなことが可能なら、服の修繕にもポーションを使ってもいいって話になるし。
「私もそう思っていたんですけど、エージルやコメットが興味を持っていたようで、仕事の合間に研究していたようです。本人たち曰く服の手入れとか無頓着らしいですから」
「それは間違いないわね。とはいえ、ポーションをかけただけでアイロンをしたようなピシッとした感じにはならないでしょう? というか濡れない?」
「濡れますね。それにどうやっても、せいぜい服をちょっと修繕するぐらいの性能なので、ポーションを使うと逆に赤字って話だったようです。普通に裁縫した方が安上がりだと」
「それはそうね」
ポーションは怪我を治すためのもので、軍の兵士や冒険者など戦う場所に身を置く人たちにとってはまさに生命線。
安いというには安いが、裁縫道具ほどには安くない。
ランクにもよるが、最低でも宿屋一泊分ぐらいはするからね。
それで服を直すというのは割に合わないというわけ。
「ですが、その物質を直すという性質がある部分を抽出することに成功したわけです」
「お~、それは流石というべきね」
ウィードが誇る研究者チーム。
「とはいえ、です。それだけでは、物を直す薬剤でしかないわけです。そしてできて鉄ぐらいの修復のみで、あまり有効でもなかったようです」
「んん? でも、それだと複合装甲を再生させるとか無理じゃない?」
鉄の再生がやっととか、特殊素材をふんだんに使った装甲を復元できるわけがない。
「そこで、大量の魔力というわけですよ。その薬剤、復元液とでも言いましょうか。それは魔力量に応じて性能が上がるようなんですよね」
「つまり、魔力があることが大事ってわけか」
「そう。今のところレアなものになればなるほど、必要魔力量が多くという感じですね」
「だからこそ、ウィードの魔術師……というかコメットさんたちのようなけた違いがいるわけか。でも、そうなると幹部並みの魔術師がいないと運用できないってことじゃないのかしら?」
それは致命的な気がするのだけれど?
「あ~、いえ。本来装甲が損傷した場合は、応急処置をしてから、造船所などで修理を行うんですよ? その場で再生とかがおかしいんですから」
「あ、そうだった」
ナールジアさんたちの話がさも当然のように言っていたから、そこの認識がおかしかったわ。
普通は装甲が損傷したら、応急処置をした後にドック入りが当然よね。
「とはいえです。その場で即時再生が可能というのは便利なのです。今回運用予定の陸上戦艦はなおのこと」
「実戦も想定しているものね。その場で即時撤退もできないし、すぐに修理可能っていうのはありがたいわよね」
「ええ。そこはかなり利点です。しかも試作機ですからね。そこで喪失する可能性を少しでも減らせるというのは良いことです。とはいえ、この装甲再生システムを誰でも使えるようにというのは大げさですが、もっと簡易にして、どこの軍艦でも使えるようになれば……」
「それはとても便利よね。それをどう扱うかは……まあ、そこらへんはユキたちの判断ね」
その場でドック入りなく修理できるとか、軍どころか、誰でも欲しがるものだし。
さっきも話した、無限に物資を回収できるという点に気が付く可能性もゼロじゃない。
下手をしなくても戦争の火種になりかねないものね。
「あの場にいた全員、ナールジアさんたちの復元システムのやばさには気が付いていましたからね。本人たちもやばいとわかっているから、あの場で発表したのもあるでしょう。元々、変な機能を入れては後で発表することが多いですし」
「あ~、確かにそうね」
ナールジアさんたちが作る武具に関しては、ヘンテコな機能が隠されていることが多い。
それに関しては、害があるのは使う本人と周りの敵ぐらいだけど、今回のはそういうレベルではないのよね。
だから、ナールジアさんたちも報告をしてくれたってところかしら?
「と、そこはお兄さんたちのお仕事として、ドレッサのこれからの予定は?」
「私の予定?」
「そうです予定。少し話しておきたいことがありまして」
「急ね。いつもなら予定を合わせるのに」
「まあ、ついでというやつですね。おそらく陸上戦艦の運用に関してはドレッサたちの誰かが関わることになるでしょうし」
「ああ。そっちか」
陸上戦艦の運用がほぼ確定しているってことは、それを運用する人員、つまり乗員がいるってこと。
それをどこから選出するのかっていわれると、第一候補は海軍である私たちよね。
「それで、話から察するに、陸上戦艦の物資関連ってところかしら?」
「そうですね~。準備をするにも、事前に知っておけば別に用意もできますし~。それにナールジアさんたちから内装の図面とかはもらっているのでは?」
「そうね、ラッツの言う通り、内装に関しては既に話と図面をもらっているわ。でも、まだ実際の中身を見てもないしね。というか、できてないし」
「あはは、それはそうですね~。とはいえ、冗談抜きで即座に出撃になりそうな予感があるんですよね~」
「……そういうこと。その信憑性は?」
ラッツが話しかけてきた理由がわかって、目を細めて確認を取る。
即座に出撃とか、まあ、なくもないけれど。
初めての陸上戦艦。
物資の積み込みも急ぐとなれば、かなりやばい状況になっているはず。
私だって、部下の命を預かっているのだから、無駄に散らせるようなことはしたくない。
「信憑性っていうと微妙なんですが、荒野はともかく、ヴィリアとニーナたちが調べている北部が怪しいんですよね~。あっちの情報は聞いているでしょう?」
「ええ。ヴィリアがヒーローになってたとか、ヒイロがげらげら笑って報告していたもの」
「あはは、あれは中身を知っている私たちからすれば、良い喜劇のショーですからね。とはいえ、です。ヴィリアたちからの続報で、領主たちはもちろん冒険者たちも、ナイトマンの捜索に力を入れているとか」
「……当然と言いたいけれど、ラッツとしては違うのよね?」
戦況をひっくり返せる戦力を確保したいと思うのは当然の話だけれど、ラッツは違う所で引っ掛かっている感じだ。
「ですねぇ。あの時の一戦の報告は聞いているでしょう?」
「ええ。間違いなく統率された一部隊ってところよね」
オークを主力に、攻城兵器用にオーガ、そしてびっくり騎兵としてゴブリンのウルフライダーと、小規模ながら軍隊として機能する編成だったものね。
「とはいえ、使い捨てにしたってのが不思議だけど。補給部隊もいなかったんでしょう?」
「それはドローンでも確認されていますよ~。補給部隊がいないのに、あの部隊を使い捨てってなると、後方かく乱ってところでしょ~?」
「まあ、そうね。あとは実験とか」
「実験としても成果がある程度見込めるってことで送り出していると思うんですよ~」
「それは、そうね」
失敗するとわかる戦力を投入するなんて馬鹿はいない。
何かを調べるためっていうのが妥当でしょう。
つまり……。
「近いうちに本格侵攻があるってことかしら?」
「まあ、予想ですけどね~。セラリアたちはもちろん、お兄さんも理解しているからこそ陸上戦艦の開発を許可したんだと思うんですよ~。下手にどこかの勢力に入り込むよりは独自の戦力を有して動いた方が、北部では立場を確立しやすいと思っているようですね~。私も同意です」
「そっちの方が、国とは交渉しやすいわよね。とりあえず、話は分かったわ。物資に関しては早急にまとめてそっちに書類を送るってことでいいのかしら?」
「ええ。予算については今のところ度外視は困りますが、一般的な軍事予算内ならエリスも出すはずですし。そこら辺の交渉も任せてください」
「わかったわ。じゃあさっそく動くわよ」
「お願いします」
うん、これはかなりやばいとみていいわね。
ウィードやシーサイフォの指揮は当分ヒイロに任せるしかないわね。
私が現場に赴いて、データと陸上戦艦運用の基礎などのドクトリンを作らないといけないわね。
……うーん、大忙しね。
陸上戦艦はできるということは、それを運用するための人、物資などもいるわけです。
それは急に用意できるものではなく、準備がいります。
ということで、ドレッサが初代ビックト〇ーの艦長になりそうですね。




