第1927堀:ちょっとした悩みとその解決
ちょっとした悩みとその解決
Side:ホービス
駄目ね~。
ユキ様に気を遣わせちゃったわ~。
元々、食事屋をやっていたのはまちがいないんですけど、別にそのお店の一人娘ってわけでもなくて、お手伝いだったんですよ~。
それも野盗の襲撃でお店が潰され、その損失補填で孤児で働いていた私が売られたわけです。
別にそこに関しては恨みも何もありません。
孤児だった私を雇ってくれましたし、大事にしてくれました。
その恩返しと思えば、奴隷として売られるのは特に何もありませんでした~。
それにユキ様はもちろんオレリアたちと出会えましたし、悪いことではないとはっきり言えますからね~。
でも、何を作ればいいのかしら~。
「ねぇ、オレリア~。ユキ様に何を作ればよいと思うかしら~?」
素直に、横で一緒に歩いているオレリアに聞いてみる。
ちなみに、リーア様は既にお弁当屋お花で別れているわ~。
「そうね。それに関してはユキ様の好みじゃなくてあなたの好きな、あるいは得意料理を作ればいいんじゃない?」
「あはは~。実のところ、当時は私はお手伝いぐらいで料理は作ったことがないのよ~」
「別にそれは関係ないわよ。ホービスの腕前が良いってユキ様が思ってくれたんだし、これを食べさせたいっていうのがあればいいわよ。ユキ様がそれを気にすると思う?」
「そうね~、ユキ様なら何でもおいしく食べてくれると思うわ~。でも~、だからこそ私の一番を食べてほしいのよね~」
「まあ、それはわかるわ。でも、そこは今話してないってなったし……堂々巡りよ?」
「そうよね~。ごめんなさいね~」
オレリアのアドバイスを無為にしてしまうような返事をしてしまったわ~。
「別に構わないわ。私たちにとってユキ様はそれだけ大事なことだし。しかし、ホービスはユキ様が喜びそうな料理っていうと思い浮かばないわけね?」
「そうなのよ~。色々食べてくれるし、美味しいって言ってくれるでしょう?」
「まあ確かに。でも、なんか聞いたことがあるのよね。ユキ様の好物のこと……」
あ~、なんだっけ?
私も聞き覚えがあるような~と思っていると。
「ユキ様の好物ですね。それは存じていますよ」
別の方向から思いもよらぬ声をかけられてそちらを向くと、そこにはエプロン姿の女性が立っている。
でも、どこかで見たことがあるような?
「ああ、お花で従業員を務めているモノです。霧華様の部下ですね」
「「ああ」」
お花、つまりキャサリンさんの所のお弁当屋さんですね~。
「それで、ユキ様の好物ですよね?」
「あ、はい。料理を期待されていまして~。私の好物よりも~、ユキ様の好物を作ろうかな~って」
「ユキ様に聞くと遠慮しそうなので、悩んでいました」
「確かに、ユキ様はその傾向がありますね。まあ、普通に聞けば答えてくれるとも思いますが、今の会話をしているとなると気を遣われますね」
そうですね~。
そういうことから聞くに聞けませんでした~。
「では、私が霧華様たちから聞いたユキ様の好物ですが、基本的にはご飯ものです」
「「ご飯もの?」」
「はい。ご飯をメインとした食事ですね」
う~ん、それはジャンルが色々あるような?
「それは範囲が広すぎませんか?」
「ああ、失礼いたしました。確かにその通りですね。ご飯はなんにでもあいますから」
ですよね~。
ご飯ってなんにでもあいますから~、なんでも料理は出来ちゃいますよね~。
「そうですね。まず日本食の朝食です。ごはんにお味噌汁、焼き鮭、卵焼き、お新香かお漬物の鉄板です。シンプルがゆえに、一品一品の腕が試されます」
「むむ、それは……ホービスどう?」
「難しいけど~、作ってはいるわね~」
作っているからこそわかる難易度。
人によって味加減も違うし~、私がつくったのを食べるのは日本食をずっと食べていたユキ様。
生半可なことで美味しいとは思ってもらえないわね~。
「あとは、オムライスやチャーハンなどですね。あれはお米を調理したものです。あちらはアレンジが多彩で初めての味付けを試すのもありですし、定番のモノを攻めるのも良いかと」
「なるほど。ありがとうございます」
「いえいえ。正直腕に自信がなければ、難易度的にはオムライスかチャーハン、焼き飯がおすすめですね。味は千差万別なので、それで誤魔化せますというか、調理する人によって味が違って当たり前なので」
「あ~、なるほど~」
「確かに、オムライスやチャーハンは何の味を目指すかで変わってくるものね。日本食の朝食は一品一品の調整を試されるし、そういう意味では楽ね。でも、疑問なんですが、チャーハンと焼き飯は同じでは?」
確かに、どちらもお米を炒める料理よね~。
見た目もほぼ同じだし~。
「あ~、定義は色々あるんですが、有力なのがご飯がパラパラであるのがチャーハンで、べっとりとしているのが焼き飯と言いう人もいれば、焼き飯はご飯を先に炒める、チャーハンは具材を先に炒めるかという違いもあるようです」
「なるほど、そういう違いもあるのですね」
「はい。なので、どちらがホービス様の性に合うかを調べてみるのもいいかもしれません」
「あ~、そういうことですね~」
焼き飯、チャーハンは作ったことがあるかというと、あるわ~。
でも、その時はその二つの違いを意識していなかったのよね~。
「ひとまず、最初からこれと決めずに、先ほど言った料理も含めて色々作ってみるのはどうでしょう?」
「そうですね。確かに、ホービスとしても思わぬ発見があるかもしれませんし」
「そうですね~。色々アドバイスありがとうございます~」
「いえいえ、ユキ様に美味しいモノをというのは、良いことですし、活力につながるでしょう。よろしくお願いいたします」
そういって、霧華さんの部下とは別れたわ~。
どうやらお使いの途中だったようね~。
「いい情報を得られたわね。ユキ様の好物が分かったのはいいことね」
「そうね~。家に帰ったらさっそく作ってみましょ~。あ、でも……」
そこで大きな問題に気が付いてしまった。
「どうしたの? キッチンなら使わせてもらえるし、最悪部屋の備え付けのキッチンでもできるでしょ?」
うん、オレリアの言う通り、旅館の各部屋は改造されていて、その部屋でも料理は作れるようになっているのよね~。
冷蔵庫とかも完備だし~。
と、そこは問題じゃないのよ~。
「料理を作る場所は問題ないわ~。でも、食べる人がいないのよ~。オレリアは何杯もご飯食べられるかしら~?」
「あ~、確かに。私も食べられて2杯分ぐらいね。しかも、晩御飯とかも別にあるんでしょう?」
「そうよ~。旅館のご飯を食べないとかはあれだし~」
そう、味見をする人がいなければ、料理をする意味がないのよね~。
美味しい美味しくないの判断ができないと意味がないのよ~。
まあ、私が食べてもいいけど、それでも限界があるの~。
「手伝いを頼むとなるとヤユイとリュシぐらいだけれど~」
「そう? アスリン様たちとかも協力してくれると思うけれど?」
「してくれるでしょうけど、仕事場が違うし、時間を合わせられないでしょ~?」
「ああ、そうか。旅館にいるときはもう晩御飯前だものね」
そうなのよね~。
奥様たちが旅館にいる頃はもうすぐ晩御飯だし~、そんなに食べられらないのよね~。
「なかなか難しいわね。と、まずは仕事をこなしてからにしましょうか」
「そうね~。お仕事はちゃんとしないと~」
今はまだお仕事の途中。
今日は外回りが終わればそのまま帰っていいことになっているし~。
「グラスのお店の方は上手く回っているみたいだし、経営状態も悪くはないわ」
「意外と売れているのが驚きよね~」
あくまでも情報収集の場所として用意しているから、あまり儲けは考えていないのよね~。
まあとはいえ、儲けがないとどうやって運営しているのか怪しまれるし、相応に考えてはいるんだけど~。
「そこに関しては私がちゃんとしたからよ。宣伝とかも含めてね。元商家の娘だから」
「あ~、張り切っていたものね~。でも、よかったわ~。儲けがないっていうのもあれだったし~」
「ええ。ユキ様のお店でもあるんだし、そういうのは不味いわよ。って、私の心配はいらないみたいね」
なぜか脈絡のないことを言い出すオレリア。
一体何があったのかしら~?
「心配? どうしたの~?」
「さっきお茶をいれるときぼーっとしていたでしょ? あれ、貴族の相手が嫌だな~ってことじゃないでしょ?」
「あ、わかった~?」
「もう付き合いは長いしね」
そっか~。
まあ、当然か~。
「でも、今は晴れている気がするんだけど? どう?」
「そうね~。悩むと言えば悩むけど、今は目的ができたから~」
「目的?」
「そうよ~。オレリアは今話した商業関連でラッツ様に引けを取らないし~、ヤユイは運転の才能がすごいでしょ~? そういうのを見ると、私は役に立っているのかな~って」
私は海の方を見つめてそう言う。
そう、この3人の中で一番劣っているのは私じゃないかって。
いや、二人とも頑張っているから、劣っているも何もないんだけど、なんというか、ね。
そんな本音をこぼすと、意外なことにオレリアもふうっと息をはきつつ……。
「わかるわ。正直な話、3人の中じゃ私が一番ユキ様の役に立つって思っていたもの」
「あら~。正直に話すわね~」
「だって、経歴を聞いてそう思ったんだもの。ヤユイは農家、ホービスは食堂手伝い。それで私は商家を継ぐかどうか。別にどちらが人として優れているとかじゃなくて、純粋に人を動かせることや金銭管理とか、そういう観点で見ればって話よ?」
確かに~、そう考えるとオレリアは上よね~。
「まあ、私の話はいいとして、役に立たないって悩みは解決したのね?」
「そうね~。ユキ様が私の手料理を食べてみたいって言ってくれたし~」
「ああ、なるほど。それはうらやましいと思うわ」
「別にオレリアも作ってあげればいいじゃない~?」
「私が勝手に作って食べてもらうのと、食べてみたいっていうのは違うでしょ? というかわかっているでしょ?」
「あはは~。そうね~。こうなったらユキ様専属料理人とかいいかもね~」
「そうね。そうなれば私たちもうれしいわ。で、誰に味見してもらうかよ?」
「あ、忘れてたわ~」
そんなことを話して笑い合う。
こんな環境が私はとても好きなんだと思うわ~。
ホービスはちょっと埋もれがちですが、特殊能力をつけるか悩んでいる状態ですね。
料理の道なのか、それとも別の方向を示すのか。
まだまだ色々な成長の余地があるという点では、方向性が定まっているオレリアやヤユイよりもすごいのかもしれません。
あ、ちなみに3人の中では一番スタイルは良いというのも特徴です。




