第1925堀:襲撃後の町
襲撃後の町
Side:ニーナ
「聞いたかよ。このウエサの町を襲った魔物の群れの話」
「聞いた聞いた。何せ、町を放棄して逃げろなんて伝達が来たぐらいだぜ? それに魔物の残骸、素材を持ち運んできた領主軍がちゃんと討伐されたオーガの首を10体以上も並べてただろう」
「見た見た。アレはすごかったな。しかも通常のオーガよりも大きかったとか」
「らしいな。まあ、町が無事でよかったよ。俺は逃げ遅れた口でさ」
「俺もだよ。女子供優先で馬車が動いていたしさ、俺は一応町を守るための義勇兵に参加していたし」
「お前戦う気だったのか?」
「そりゃ、ほかの伝手とかないからな。ここを失っちゃ生きちゃいけねぇ。なら戦うしかないだろう」
なんて会話が耳に届く。
というか、あちこちで同じ話がされている。
無事にウエサの町は守られたと。
とはいえ、それに乗じて……。
「聞いたか? その戦いで妙な騎士が現れたとか」
「聞いた聞いた。冒険者たちはもちろん、領主軍ですら同じことを口にしていたし、領主さまから、看板が立てられたぐらいじゃないか」
「名前はなんだったか、人類の剣である白銀の騎士ナイトマンだったか?」
「大げさなって思ったが、話じゃあのオーガを中心とした魔物の群れの半数を一人で倒したとか言っているし、間違っていないかもな」
そう、我らがナイトマンの話も出てきている。
十分に話題を集めている。
なので……。
「あう~……」
目の前ではヴィリアが机に突っ伏している。
食事にも手をつけていない。
「ヴィリア、気持ちはわかるが、飯は食え。ドッペルも栄養補給は必要だし、私たちが家に帰ってから食わせるのもあれだろ?」
キシュアは気遣いをしつつ、昼食を食べろと言ってくる。
確かに間違ったことは言っていない。
ドッペルも栄養補給を必要とする。
まあ、魔力だけでも生きることは不可能ではないが、人をまねている以上、食事からの栄養補給がドッペルにとっても精神的に安定するし、魔力だけでは空腹は治まらない。
だからこそ、人のドッペルがダンジョンに存在しないのだけれど。
その場で冒険者パーティーを真似るのが精一杯なのだ。
そのままの状態ではすぐに死んでしまうという理由があったりする。
と、魔物の生態はいいとして、ヴィリアは昨日の戦いのことを単純に恥ずかしがっている。
いや、まあ、キシュアと同じで気持ちはわかる。
ヒーローになりたいならともかく、ヴィリアは仕事として、ヒーローというか正体不明の人物を演じている。
しかも女性ではなく、男性を。
慣れないどころではないだろう。
それに……。
「聞きましたか奥さん」
「ええ、聞きました。私たちを守って何も求めずに去っていた白銀の騎士様。いいわぁ、奥さんとかいるのかしら?」
「気になるわよね。今の時代力が強い方がいいもの。とはいえ、私たちは旦那がいるけれど」
「もっと強ければいいのにねぇ。あと結婚してなければね」
「「あははは」」
そんな笑い声も聞こえてくるし……。
「私は白銀の騎士と結婚するわ」
「できればいいけど、まずどこにいるかもわからないでしょう?」
「だから探すのよ。このプロポーションならいちころよ」
「そう? まあ、体には自信があるし、私も探そうかしら?」
なんて若い女性たちの話し声も聞こえる。
これが女性大好きの男性であれば喜ぶべきことだけれど……。
「……私はお兄さまの奥さんなんです。女性にモテたってしかたがないんですぅ……」
ああ、どんどんしおれていく。
これも仕方がない。
何せヴィリアは女性であり、ユキという夫がいる。
女性が好きならまだよかっただろうけど、そういう趣味もない。
そうなると、その手の好意は居心地が悪いだろう。
しかも同性からアピールされるかもしれないということは、自分がユキに行っていたかもしれない行為を間接的に見ることになる。
客観的に自分を見るとなると胃が痛いだろう。
「まあ、上手く誘導できているというのは間違いないのですから、ヴィリアさんは誇っていいでしょう。ユキさんからも連絡が来ていましたよね?」
「はい。お兄さまやお姉さまたちからはよくやったって言われました。それだけは嬉しいです」
スィーアの言葉にすぐ顔を上げて笑顔で返事をするヴィリア。
うん、こういうのは素直というか単純というか、ユキやセラリアたちもわかっていてフォローをしているんだろうけど。
「じゃ、ヴィリアはご飯を食べつつ話を聞いて。改めてウエサの町の状況を改めて整理するわ」
今、私たちはウエサの町の宿にいる。
魔物の襲撃前から借りている宿にそのまま。
つまり、結果は先ほどの町の人たちの会話からもわかるかと思うが、ウエサの町の防衛は成功し、日常生活に戻っている。
とはいえ、かなりの大騒動で、やはり火事場泥棒のようなことも起こっていて、色々大変なこともあるけど、それだけで済んでよかったという反応が大きい。
元々は町を放棄して身一つでどうにかしなければいけなかったし、そこから考えるとマシなのだろう。
「ウエサの町は無事に防衛出来た。魔物による被害はゼロ。まあ、為政者、領主とかは今回の騒動で相当の資金や物資を消費しただろうけど、一般生活に関しては数日もあれば落ち着くはず」
「だな。あれだけの人員を動員したんだ。領主軍だけじゃなくて、冒険者も動かしたんだから、そこら辺の資金は結構かかるよな」
「そうですね。人を動かすというのはそれだけ大変ですし。とはいえ、物的、そして人的被害はほぼなし。魔物が攻めてきた、しかも絶望的な戦いだったことを考えると最上と言っていい結果でしょう」
スィーアの言う通り、敵の戦力とこちらのウエサの戦力を考えれば、この結果は最上と言っていい。
「はい。町の皆さんが無事だったのは良かったです。そういえばスィーアさんたちはあの場に残って治療と誘導を続けたんですよね?」
「ああ、まあ、誘導というか護衛だったけど、結局そのまま戻ったしな」
「そう、私たちが治療したり避難民の誘導をしている間に戦いは終わって町に引き返すことになった。スィーアは教会の方に声をかけられていたけれど。手加減しないから」
「仕方無いです。死人が出そうだったのですから」
スィーアはあの避難誘導の際に、ちょっとした転倒事故で荷物に押しつぶされて死にそうになっていた人たちを回復魔術で復活させたのを、それなりの人に見られて教会の人に知られた。
つまり、クリアストリーム教会に。
「まあ、けが人を助けること自体は仕方がないにしてもさ。クリアストリーム教会との付き合いはどうするんだよ? まだ距離はおいておくのか? それとも予定よりは早いけど接触するのか?」
「そうですね。予定ではイオア王国で活動する予定でしたよね? 冒険者としても教会の方とも」
「ユキとは話したけど、その件については、イオア王国についてから進展した方がいいと判断している。まあ、私も同じ判断。ここで足を止められると、上に進めない。ドドーナ大司教の紹介もあるから、そこを押し通せば教会も無理に止めない」
「ああ、そういう設定でしたね。私たちはドドーナ大司教の秘蔵っ子でしたっけ?」
「そう。私たちはドドーナ大司教に手ほどきを受けた、魔物退治のエリートの卵」
「あっはっは、なんか微妙だな」
「その微妙な評価を覆すためにイオア王国に向かうのですから、それで断るのは十分な理由でしょう」
うん、結論としては、私たちはあと1日後には出発するということになった。
ここで初めてナイトマンというヒーローを活用できたのは良いことだ。
「そういえば、ナイトマンを活用したってことは、一応領主館とかをあさったんだろう?」
「そっちもありましたわね。ですが、あの避難誘導の時には席を外していたようには見えませんでしたが?」
「当然、あの時はその場にいて治療行為をしていた。動いたのは夜。戦闘が終わって、町には人が戻ってきていて、治安維持とかで忙しかった夜」
「そういえば、ニーナさんを見ていなかったような……」
「まあ、夜に動くのは基本だよな」
「それで、何か情報は得られたんですか?」
期待のまなざしでこちらを見るキシュアたちだが……。
「残念ながら、何か教会と組んでいるような話はなかった。まあ色々と数字の書類は見つけたから参考にはなるでしょうけど」
「そっか~。まあ、たった一日での捜査で何かわかるわけもないか」
「そうね。期待をしてもらってわるいけど、何もわからなかったことが分かったってこと」
「それも大事ですね。何もないと、ニーナが判断したということは被害者がいないとはっきり分かったのですから」
「そうですね。それが分かっただけでも本当によかったです。って、教会の方も調べたんですか?」
「もちろん、教会の方は特にけが人とかが押し寄せていたし、調べるために侵入するには絶好の機会だった。とはいえ、ここの教会は完全に魔物を倒すことと、人の救済をしているだけだったから、資料も何もない。むしろ、神父の部屋にまで開放してけが人を休ませているぐらいだったし。侵入も何もなかった」
「「「あ~……」」」
3人とも私の答えに納得の声を上げるしかない。
隠し事が無さ過ぎたというわけだ。
もちろん、興味深いほかの教会支部との手紙はいくつもあったけれど、別に隠してもおらず、神父の部屋の棚に鍵もかけずにおいてあっただけ。
多少、気を遣って契約書の関係は金庫に入れていたけれど、それでも簡単に開錠出来たし、中身も金貨がわずかで、話を聞けば今回の騒動で大半を寄付や物資の購入に充てており、資金の追加をほかの教会に頼むという手紙を用意してあったぐらい。
この話をすると……。
「えーと、北部の教会は白だろ?」
「お馬鹿と言いたいくらいですね」
「それでよく生活、というか教会の運営ができますよね?」
「不思議だけどやっていけるんだと思う。それだけつながりが強いともいえるし、支持をされているということでもあると思う」
まだ、北部の教会を調べて間もないことと、例が数件のみなので、何とも言えないけど。
それでも、今までのとこでは亜人の差別は行われていない。
というか、亜人のシスターもいるぐらいだ。
ちなみに男は教会騎士になることが多いので教会は基本的に女性が多いのもわかってきた。
当然と言えば当然。
「あ、最後にナイトマンのことだけど、領主や冒険者ギルド、教会は捜索し始めた。戦力として有効なのはわかっているし」
ゴンッ。
そんな音を立ててヴィリアは再びテーブルに突っ伏している。
気持ちはわかるけど……。
「ヒーロー。正体不明の私たちとは関係ない人物を作ることは出来たから、こっちも作戦は成功。これからは、かく乱のためにある程度ヴィリアには動いてもらうことになる」
「露骨に私たちの旅路に現れていたら怪しまれるしな」
「ですが移動はともかく、敵に関しては都合よく捕捉できますか?」
「それは冒険者ギルドで情報を集める」
「ああなるほど。そこなら苦戦している場所の情報は事欠かないだろうな」
ということで、私は今後の行動を決めるのだった。
意外なことに亜人に関しては平和であり、クリアストリーム教会も白にちかい。
なので、移動を開始する予定。
そしてヴィリアはダメージ甚大。




