第1922堀:説明しよう!
説明しよう!
Side:ラビリス
今、私の目の前では二つの画面が上下に分かれて映っている。
それは、ウエサの町に迫っている500を超える魔物をたった30人程度で迎撃している冒険者たちと、ヴィリアがこっそり水くみから抜け出して、こそこそと準備をしているところ。
「なんでかしら、上の戦いは英雄とも呼べる戦いのはずなんだけど、微妙に見えるのよね~……」
私は思わずそう漏らすと、横で一緒に見ていたヒイロがクスクスと笑いながら口を開く。
「だって、同じモニターの下でヴィリお姉はいそいそと着替えてるんだもん、変だよね~」
そうね。
それが変よね。
まあ、状況が状況なら映像を止めるんだけど、一応人の生き死にが関わっていることだし、ヴィリアは一時的にも無防備に近いから、ドローンで監視するのも間違いではない。
結界とかは張っているけど、それでもね。
「あれでしょ? 真面目と不真面目が混同すると笑えてくるってやつ。あ、いや、不真面目ってわけじゃないけど、アンマッチってやつ?」
今度はドレッサがジュースを飲みながらそう言ってくる。
確かに、アンマッチね。
真剣に命を懸けて戦っている人がいる横で、こちらは隠ぺいを重視として、一見して冗談に見える仮装をしてるんだもん。
これは確かにアンマッチ、状況にあっていなさ過ぎて、笑えてきてもおかしくはないわね。
それで、そんなちょっと笑えるようなシーンの中で、真剣な様子の一団がいて……。
「そんなことは無いのです。ヒーローは準備をするものなのです!」
「だね。あれこそ正しいあり方だ。人目を避け、人々の脅威を避けるために戦うモノの姿!」
「ですね。滑稽と見えるのは、その後ろに抱える使命を知らないからです。いくらスーツが強く、本人が強くても、恐怖に立ち向かう心がなければ意味がない」
「たまにはいいこと言うじゃないですか。そうです。あれがヒーローですよね~」
「その通り。そしてサポートをする私たち研究者にとっても、大きな見せ場となるわけさ!」
順にフィーリア、エージル、ザーギス、ナールジアさん、コメットと我がウィードが擁する魔力や技術の研究組が全員真剣に、大真面目にヴィリアの着替えを見ているのよね~。
いえ、ヒーローというのを一番調べていて、それでいてあのスーツを作ったのだから、見るのも大事なんだけどね……。
「ラビリスちゃん、お茶のお代わり飲む? ヒイロちゃんも」
「あ、アスお姉。飲む」
「ええ、お願いするわ。ありがとう」
気が付けば、アスリンがお茶のお代わりを用意していてくれている。
出来る子よね~。
「それで、ヴィリアちゃんはどんな変身をするのかな?」
「今それを取り出しているみたいよ? 私は見当もつかないけど。ヨロイみたいだけど……」
ヴィリアが今取り出しているのは、なんというか、貧相などこでも見る鉄の鎧に見える。
いえ、何というか装飾が少なすぎてのっぺりとしている気もするのよね。
あれを着て変身ヒーローは無いと思うのだけれど、その疑問は私が聞くまでもなく、映像を見つめていたワズフィが叫びながら答える。
「あれはっ! ナールジアさんたちが協力して作っていた全天候、全レンジ対応のナイトマン!」
「えーと、知ってるワズフィ?」
余りのテンションについていけないナイルアが隣にいるワズフィに尋ねる。
「ナイトマンかどうかはしらないけど、格闘戦ができる甲冑の開発に付き合ったことはあるなぁ。ねえ、デリーユさん?」
「うむ。あったのう。まあ、戦闘パターンを模倣するとか強度の計算とかじゃったからガントレットをつけて岩とかを殴りまくったのう。ほれヴィリアがつけているのは同じものじゃと思うぞ」
「あ、見覚えあるね。じゃ、格闘タイプ?」
なるほど、シンプルなのは格闘の為かしら?
そんなことを考えていると、開発した連中が、ばっと前に出てくる。
「お馬鹿さんというのは違うのでしょうが、邪魔ですわ。どいてください」
「ん。かわいいヴィリアの晴れの舞台を邪魔しない」
すかさずサマンサとクリーナが文句を言う。
私も同じ気持ち。
でも、研究馬鹿たちは画面を避けるように動いて、新しいモニターを出す。
一体何をしているのかと思えば……。
「「「説明しよう!」」」
あ、なるほど。
馬鹿たちの気持ちが高ぶりすぎているわけね。
まあ、悪いことでもないか。
ヴィリアに危ない武具をつけているかどうかを確認しないといけないし。
ちなみに、ヴィリアは通常の身長は150を超えたぐらいで、可愛らしいという感じが似合う美少女。
でも映像に映っているのは、身長190はあろうかという鎧を着こんでフルフェイスの兜をかぶっている人物で、ものすごい勢いで走っている。
中身が少女だとは思わないでしょう。
「そういえば、ドッペルとあの鎧、スーツとは違いってなんなの? 結局サイズが変わるからドッペルを使うのとあまり変わりはないと思うけど?」
セラリアが映像を見ながら疑問を聞く。
確かにその通りよね。
ドッペルで別の姿と、さっきの着替えをどうにかするのかって同じ速度ぐらいに感じるのよね。
手間とかそういうのが。
「ああ、それは確かにわかる疑問だ。時間的には変わらない。だが、今回はユキの注文があった」
そういってコメットが説明を始める。
「まあ、コスト面というのもある。ドッペルは新しく別の容姿をつくり、それを慣れる使う本体の人物の修練に加えて、単独活動できるようになるための教育。知識の転写、そして、一番は別の生活資金と管理体制がいることだ」
「ああ、なるほど。ドッペルを資材扱いしないのなら、生活コストは純粋に倍だもんね」
「セラリアの言う通りだ。我がウィードは魔物の自由意志を縛ることはしない。ドッペルであってもだ。とはいえ、活動後の意識の統一はしないと何をしたとかそうでないとか区別ができないから、ある程度思考は本人と似通るけどね」
確かにそうね。
ドッペルとはいえ、私のドッペルだって私の代わりをこなすだけじゃなくて、のんびり過ごすことも否定していないわ。
それが私を形作るというか、そういうのがあるからこそ人だってユキがいっていたもの。
そういう余分を省いていれば、いずれ人扱いされなくなるって。
ちなみにドッペルたちは私たちがこうして旅館で休んでいるときはどこにいるのかというと、予備というか囮にしている同じ旅館に泊まってのんびりしている。
さながら別の私たちが生活をしているような感じ。
アスリンやフィーリア、ヒイロとかはよく寄ってみんなときゃっきゃ遊んでいるみたい。
と、そこはいいとして。
「つまり、そういう手間をかけることなく、変装が出来、なおかつ性能向上ができるというのがこのスーツのメリットさ」
「なるほどね。確かに、アリバイが作れるのであれば、コストがかからないのというのは便利ではあるわね」
そっか、ドッペルはあくまでも私たちの代わり。
でも、今回は私たちが必要って場面だから、代わりを用意するのはちょっと違うわけね。
まあ、さっきも言ったコストの問題ね。
用意する時間がなかった。
ドッペル自体はともかく、その町にいる理由とか過去をどう作るのかって話になるに、その管理にも人手がいるし、資金だけのコスト以外にも山ほどかかるわね。
そっちのドッペルだってヒーローだってばれるのは避けなければいけないし、それならヴィリアたちがアリバイを作って動く方が手間ではないわね。
……本人たちは手間でしょうけど。
「さて、改めてヴィリアが装備しているナイトマンについてだ」
「そのナイトマンっていうのはなによ? いえ、名前なのはわかるけど」
ドレッサがめんどくさそうに聞く。
話が脱線しそうとは思いつつ、その名前の由来は気になるぐらいに変なのよね。
「そのままというとあれだが、騎士姿のヒーローということで、ナイトをつけ、マンとつけることで男を強調したわけだ」
「「「……」」」
なんというか、そのままだったわね。
ひねりも何もないわ。
「わかりやすい。というのはそれだけ大事だからね」
確かに、一度聞けば忘れるようなことは無いでしょうけど。
「しかし、騎士というには装備を持っているようには見えませんが?」
そう疑問を口にしたのはジェシカだ。
本物の騎士だものね。
走っている銀色の騎士は手にも背中にも何も所持していない。
「そこは問題ないのさ。あの鎧には武具を状況に応じて呼び出す機能がある。だから……」
そう説明に加わったエージルが口を閉じて、画面に視線を向けると、どうやらヴィリアが現場に到着したのか、立ち止まっている。
とはいえ、なんか多少小高い丘にいるようで、ドローンや地図の位置から映る場所を考えると相応に距離がある。
『えーと、敵と味方を確認できる位置に到着しました。フィーリアちゃん聞こえますか?』
どうやら、こちらと連絡を繋いでいるようね。
まあ、作った側と連絡を取れるようにしておくのは当然か。
「聞こえるのですよ。ヴィリア。モニターもしているのです。全部正常、距離から考えてアローモードなのです?」
『うん。アローモードで行くよ』
『了解。アローモードチェンジ!』
そうヴィリアが答えると、聞いたこともない男性の声が聞こえる。
「これはサポートAIでね。こうして鎧、ヒーロースーツの制御を手伝ってくれるわけだ。もちろん、ヴィリアのボイスチェンジもしてくれる」
なるほど。
まあ、そういうサポートぐらいはあってほしいわよね。
で、光が集まったかと思うと、のっぺりとした銀の鎧は形を変えており、弓兵を思わせる出で立ちになる。
まあ、持っている弓はバリスタなのかと勘違いしそうになる大弓だけど。
でも、矢が存在しない。
いや、あんな大きな弓の矢を持つって邪魔で仕方がないだろうけど。
「攻撃範囲に先行している冒険者30名を確認。注意を促すのです」
『わかりました。んんっ』
そう咳払いしたかと思うと……。
『その冒険者たち。今から弓による支援を行う。威力が高いから下がれ!』
おお、ヴィリアの声ではない。
立派な低くて威厳があるような声だ。
その大声は冒険者たちにも聞こえたようでヴィリアの方を見ている。
「気が付いたのです。あとは撃つのです。味方誤射はしないようになっているのです」
『わかりました』
なるほど、注意を集めてナイトマンを認識させたわけね。
そして、ヴィリアことナイトマンは大弓を引くと光の矢が現れて……。
「目標、およそ6割をロック」
『行くぞ! ナイトマンシャインアロー!』
「「「……」」」
必殺技の名前がそのままなのはいいとして、それに自分の名前を付けるのかと絶句しているのだが、目の前の映像には空に眩い光を放つ矢が放たれ、魔物の集団の上空に達したのかと思うと、光が強く弾けたかと思うと、光の雨が降り注ぐ。
ズドドドドドォォォ……!
うん、これちゃんと制御できているのよね?
敵はともかく、地面がめくれ上がっている気がするのだけれど?
本当に味方の冒険者を巻き込んでいないのよね? ね?
ここに新たなヒーローが爆誕する。
その名もナイトマン。
さてさて、それを見た冒険者たちの反応は……。




