第1921堀:アリバイを作る
アリバイを作る
Side:ニーナ
まったく、面倒な。
そんなことを思いながら、私たちは冒険者ギルドへとやってきている。
「おい、いいのか? こんなところにいて」
「いい。私たちは冒険者としての招集を受けた。それが大事」
「ありばいってことですわね」
「私たちの姿を見せるというのが大事なんですね」
ヴィリアの言う通り、こうして私たちが冒険者ギルドへ来ることによって、私たちがヒーローとは関係ないと印象付ける。
何せ体格が違うから。
それに、この冒険者ギルドでは実績のない私たちであれば……。
「良しよく集まってくれた。私はウエサの町のギルド長だ。集まってもらった理由は皆知っていると思うが、改めて伝える。防衛網を抜けてこの町に一直線に魔物の群れが迫っている! これを撃退するのが我々の目的だ! 無論、領主さまたちも兵を出す。我々は遊撃を担当し、できる限り魔物の群れを削る!」
まあ、妥当な作戦。
兵士は集団戦、つまり戦争などの隊伍を組んで戦うことが得意で、冒険者はあくまでもパーティー単位で動くので、集団戦とはやはり違う。
かといって、その場で集団戦をやれと言っても付け焼刃で被害が広がるし、かえって邪魔にもなりかねない。
だから、別々で動くというのは間違いではない。
「とはいえ、冒険者全員が参加というわけではない。避難する人たちもいるので、そちらの護衛にも人手が必要であり、そちらにも実力者が必要不可欠だ。なので、独断ではあるが、こちらで分けさせてもらう」
ま、予想通りではある。
実力のない者を戦場に駆り出しても死ぬだけだし、最悪は足を引っ張って周りを巻き込んで死ぬ可能性もある。
だから、自尊心を傷つけないように、護衛も大事だと言っている。
「主に、この町での活動が長くオークを討伐ができる者たちは遊撃へ。まずいときは逃げるルートも頭に入っているだろう。それ以外は避難民の護衛だ。道すがら魔物に襲われる可能性がゼロではない。諸君らの働きいかんで避難民の被害有無が違ってくる。よし、では、遊撃と避難支援に分かれてくれ」
こうして返事を待たずに指示を出すギルド長。
一々文句を受け付けていれば話は進まないから当然の判断。
で、この場で私たちはどちらになったのかというと……。
「なるほど。私たちはこれで避難組になるわけか」
「これなら向こうに行っても疑われませんわね」
「距離がありますからね」
そう、私たちはどうせ避難支援に回されると思っていた。
何せ多少実力はあれど、見た目は華奢だし、実力をその目で見たわけでもない。
そして、ここの冒険者ギルドでの活動記録もない。
なら、避難支援に回した方がいいと考えるのが当然だ。
下手に混ぜて混乱して被害が出れば目も当てられない。
判断は間違ってはいない。
ということで、私たちは堂々と、アリバイが作れるわけ。
現場から離れているという、決定的な。
まあ、高レベルということで追いつけると思う人ともいるでしょうが、わざわざ姿を隠して変身ヒーローになる理由もないから、疑いは向かわない。
普通冒険者は名誉を求めるモノだから、正体を隠すなんてありえないから。
「さっそく仕事の受付を開始する。そしてさっそく動いてくれ! 時間は無いぞ! 冒険者カードを出して受付をしてくれ、時間が切れたら後でだ!」
そうして受付に冒険者が殺到する。
逃げる者はいない。
誰もが自分のできることをやるのだという意思にあふれている。
やはりこの北部で、中央部のようなことは起こっていないと確信が持てる。
何せ、亜人と呼ばれる人たちとそうでない人たちがパーティーを組んでことに当たっているのだ。
「よし、我々群狼団は受付を済ませた! 東門へと出るぞ!」
「「「おおっ!」」」
「牙猫団も郡狼団に負けるな!」
「「「はっ!」」」
何と言うか、わかりやすいチーム名なのに、亜人だけのパーティーではない。
色々な種族がまじりあっている。
確かにパーティーリーダーは狼人族や猫人族みたいだが、その下には好戦的な多くの種族の者たちが多くいる。
あえて言うなら男女で分かれている感じ。
まあ、それでも群狼団にも女はいるし、逆に牙猫団にも男はいる。
「死ぬなよ。臆病女。喧嘩吹っ掛ける相手がいなくなるからな」
「こっちのセリフだ。突撃馬鹿。後方からの支援は任せて、けが人はさっさと下げなよ」
なるほど、犬猿の仲ではあるけど、お互い一定の信頼はあるわけか。
「俺たち2人は一足先に出て足を少しでも止める」
「できるだけやってやりますよ」
そういうのはいかにもガタイの良い戦士で大盾とメイスを持っているのと、優男ではあるが、高そうな杖とマントを装備した二人組の言葉に誰も止めることなく見送る。
「あいつらなら適度にやってくれるだろうさ」
「だね」
リーダー二人もそうつぶやきつつ、移動をする。
あれが40台の3人か4人いるうちの2人か。
まあ、全滅は無理でも、いやがらせなら十分にできるだろう。
そんなことを考えていると、次に聞こえたのは涼やかな声。
「私も魔物の侵攻を少しでも止めてきます。兵や冒険者たちの迎撃態勢が整うまでは時間を引き延ばします」
静かではあるが、確かに冒険者ギルド内全体に広がる声。
全員がシンとなるが、そこで唯一。
「バカ娘! お前が一人で行ってもなにもできはしねぇ。オークを精々数匹殺して終わりだ! 大人しく待て!」
どうやらあの冒険者はギルド長の娘のようだ。
まあ、オークを単独で数匹やれると言えるだけでも十分強いと言えるんだけど。
しかも軍勢の中で。
一対一ならもっとやれるってこと。
「大丈夫。私は父さんを超えるんだから」
そういって駆けだす。
ブラウンのストーレートの髪がなびいて手入れをしているんだなぁ~と思った。
「ばか! お前は集団戦の経験は……! ああくそっ!」
「まあまあ、ギルド長。彼女はあれでもギルド長に次ぐレベルですし、相応に経験を積んでいるのですから」
「レベルでどうにかなるなら、誰も困っていない。ちっ、まあ、先に行った連中が止めるか。あとで説教だ」
うん、ギルド長の言うことは正しい。
たかがレベルで46であの群れを撃破できるならだれも困っていない。
「騒いで申し訳ない。引き続き仕事を受けて持ち場へ行ってくれ。時間は無いぞ!」
そういって、慌ただしく動き出す冒険者たち。
私たちもそのまま仕事の受付を済ませて避難用の出口西口へと向かう。
どうやら、東側から魔物が迫っているので、一番距離がある西口から脱出させて、そのまま近隣の町へと向かおうという話のようだ。
とはいえ……。
「避難される方はこちらに! 馬車には女子供を優先で!」
「こっちの馬車が一杯になったぞ出せ! まだまだ人はいるんだ!」
脱出口はごった返していた。それも前に進めないと思う程度には。
「うわぁ、混乱しているなぁ」
「時間もありませんから仕方ありませんわ」
確かに、たった3時間後には町を破壊するであろう魔物の群れが迫っているとなると、民間人は逃げ一手だろう。
領主も素直に伝えたことは正直驚いた。
いや、混乱が酷いから完全に正解とは言い切れない。
とはいえ……。
「どうにかならないのでしょうか?」
ヴィリアの言う通り、このままでは前に進まない。
でも、もう始まっている混乱を押さえるのは簡単ことではない。
「私たちが魔術で威嚇して注目を集めるのも難しい、目立つし。何より混乱を助長しかねない」
「だよな~。こういう時やるのは大人しく混乱が収まるのを待つぐらいだな。あとは馬鹿をする連中を止めること。基本的なことは誘導をしている兵士がするしな」
「ですわね。あくまでも冒険者の私たちは魔物などからの襲撃を止めることですわ。まあ……」
スィーアはそう言葉を切って、視線を別の方向へ向け、私たちもそれを追うとそこには……。
「いだいよ~」
「ああ、こんなに血が。でも、我慢して。もう少しでも遠くに行かないと」
膝から思ったよりも血を流して泣いている子供と、それをなだめる母親がいる。
よくある光景というには、少々怪我がひどい気もするけど、ないわけでもない。
何せこんな混乱の中だ。
思わないことも起こるのは当然。
そして、これから起こることも当然。
「見せてくださいませ。これでも多少なりと回復魔術が使えます」
「え、あ、いえ。お礼が……」
「このような事態でお金など取りません。あなたたちの護衛が私たちの仕事。治療もその一環です」
スィーアは母親の困惑をよそに、さっさと回復魔術を発動する。
こういう時は問答は時間の無駄だ。
とはいえ、事前に通達しないのはトラブルを呼ぶ。
なので、通告をした後はさっさと行う。
それが良いというのは、スィーアの聖女として活動していた経験則から。
「どう? 痛くないでしょ?」
淡い緑の光が収まったあとに、スィーアはタオルで血を拭う。
そこには子供の膝には怪我のない姿があったよ。
「うん。治った。痛くないよ!」
「そう、よかったわ。さあ、避難をしましょう。あっちの馬車に行ってね」
「ありがとうございます! このお礼は……」
「いいのよ。早く行って。お礼は冒険者ギルドから出るから」
そういうと、母子は改めて頭をさげて、すぐに馬車が待つ場所へと向かいつつ。
「おばちゃ~ん、ありがとう!」
そういって手を振る子供のセリフに思わず私とキシュアは吹き出しそうになる。
間違いなく、外見年齢はスィーアが私たちの中で一番上だ。
母親と同じぐらいに見えるのも子供ならしかたがない。
横にいた母親は慌ててペコペコしだすが、スィーアは笑顔のまま手を振る。
うん、大人の対応だ。
まさしくおばさん!
「そこの馬鹿ども二人はさっさとけが人の補助にいきなさい。私よりは回復魔術の腕は無いにせよ。使えるようにはなっているでしょう?」
おっと、笑顔のまま怒るとか器用な。
ま、何もしないよりは当然いいし、何より手伝っていたというアリバイ作りにもなる。
「じゃ、ヴィリアは私たちのお手伝いをお願い。近くに川があったはずだから、何度か汲んできてくれない? ほかの人も連れて。ほら、タオルとか汚れるし」
「あ、はい。わかりました」
こうして、ヴィリアはいついなくなっても問題がないようになった。
さ~て、準備は整った。
ま、最初は私たちがヒーローをやるより、誰よりもヒーローを知っているヴィリアの方がいい。
見本にしよう。
前もあったのですが、子供から見れば年上はすべからく、おじさん、おばさんである。
それをスィーアはわかっている。
そして、ニーナとキシュアは耐えられなかった。
で、ヴィリアはついに単独ヒーローデビュー。
彼女が選んだヒーローとは!




