第1920堀:さあ時が来た
さあ時が来た
Side:ユキ
『緊急報告。イオア王国へ向けて移動中、予定の町で宿泊の最中、魔物の群れが接近と報告あり。町は混乱している。そっちから確認できる?』
「了解。近くに展開しているドローンの一機を偵察に回す」
いきなり夕飯前に連絡が来たかと思えば大騒動だな。
「どうするの? 会議室に移動する?」
セラリアがそう聞いてくる。
近くにはエリスやラッツ、カヤなどが控えていていつでも動けるようにしている。
「いや、このまま宴会場で待機だ。ほかのメンバーも帰ってくるし、このまま集まってから、食事をしつつ状況を確認した方がいいだろう」
「子供たちも一緒に?」
「あ~、そこは避けた方がいいな。仕事で分けた方がいいか」
「そうね。それがいいと思うわ」
こういう緊急で旅館の自宅で話し合いっていうのは、まああることなので、そういう時は子供たちは別の宴会場で食事をすることになる。
「頼むわね。キルエ、サーサリ」
「はい。お任せください」
「大丈夫ですよ~。お嬢様たちは良い子ですから~」
「ちゃんと埋め合わせ、遊ぶからって言ってくれ」
「かしこまりました」
「あまあまですね~」
そんなことを言いつつ、キルエとサーサリは宴会場を出ていく。
それを見届けたあと、エリスが口を開く。
「子供たちには悪いと思いますが、埋め合わせなんてしていたらきりがないですよ?」
「ですね~。大人しいシャンスやエリアですら、お兄さんとならどこかに行きたいっていうぐらいですし~」
苦笑いをしながらラッツも同意する。
まあな、仕事なんて山ほどあるし、その度に子供たちを我慢させることはあるだろう。
とはいえ、それを当たり前として我慢をさせるのも大人になった俺は違うと思うんだよな。
「ま、仕事なんだから、子供だから我慢しろって大人によく言われてたからな。俺はそういう大人にはならないって思ってるだけさ。ちゃんと頭を下げてごめんなって言って遊んであげられる大人になるんだ」
「あなた……」
「ユキさん」
「お兄さん……」
なんか痛ましい物を見るような目で見るのやめてくれない?
別に俺の両親は普通の親で、虐待もくそもなかったぞ?
「そう深刻にとらなくていい。子供たちと遊ぶっていう約束の大義名分が出来たわけだからな」
「なるほど。それはいいわね」
「ええ。そういう理由で時間を取るなら、誰も文句は言わないでしょう」
「その時は一緒にしたいですね~」
「だな。家族みんなでお出かけも悪くないだろう」
あまり仕事ばかりにかまけているとまずいというのは、みんな同じ意見だったようで、俺の提案には賛成のようだ。
まあ、どこに出かけるかっていうのはちょっと悩むけどな。
と、そこはいいとして、今はヴィリアたちのことだ。
「霧華、聞いていたな?」
「はい。すでに監視用のドローンを一機周辺偵察に回しています。映像はモニターに回しても?」
「ああ、頼む」
宴会場には、臨時の会議室にもなるし、何か映画や娯楽を見るためにモニターを壇上の方に設置している。
すぐに霧華はモニターを起動して、ドローンの映像を回す。
すると、モニターに映るのは雄大な景色。
草原が広がっていて、そこに道が延びているのが見える。
「今の映像は現在ヴィリア様たちが逗留している、イオア王国の二つ前の国、ドナ王国のウエサの町の主要道です」
そう言いつつ、ルナが撮影した自力衛星写真を使い位置関係を記す。
中央のファイアナ王国の東南の位置にする場所だ。
北部と称される場所の一歩手前ではあるんだけどな、いや、ニーナたちからの報告だともう北部になるんだっけか?
ギアダナ王国が南と北の境だったわけだ。
いや、北部って分け方は俺たちがしているだけで、ギアダナ王やダエダ宰相が言ったわけじゃなかったな。
つまり、今ヴィリアたちがいる国も間違いなく、魔物の攻勢が激しい北部に含まれるわけだ。
まあ、その頻度はギアダナよりは多いだろうが。
ん? まて、そうなると北部へクリアストリーム教会の所業が伝わっていないのは不思議だよな?
いや、ドナ王国はもちろん、ギアダナ王国内部で情報封鎖が行われていれば北部には伝わらないとは思う。
とはいえ、一つ国をまたぐだけで扱いが違うとなると、一般の伝手で伝わりそうなものだが……。
考え始めたらきりがないか?
まあ、そういうことも含めて調べてもらうか。
今は、迫っている魔物の群れの確認だ。
「いました。およそ20キロ先ですね」
霧華の言葉でモニターに注目すると、合わせるように拡大していき、道の奥に砂煙が確認できる。
そこにはオークを中心として、オーガなども含めた魔物の集団が映っている。
「ニーナ。ドローンで映像に捉えた。そっちも確認しているか?」
『してる。およそ2時間、いえ3時間ってところかしら?』
「はい。今は走っているようですが、途中で休憩を挟むはずです。3時間で到着すれば早い方ですね』
「時間はあると思うべきか?」
「いえ、向こうの町には伝達をするのに非常に時間がかかります。防衛準備を整えるのに2時間から3時間ではギリギリでしょう。住人にも伝え、避難のことを考えると、かなり厳しいでしょう」
確かになぁ。
防衛準備も倉庫から持ち場へ運ぶとか、兵士の配置変更とか、避難誘導とかを考えると現代でも時間がないと同然だよな。
「というか、なんでそんなに発見が遅れたんだ? 20キロ先って目と鼻の先って言っていいくらいだろ?」
『しらない。その情報は無い。それよりもどう動く? その手の情報を集めるために動く? 冒険者としてギルドに合流する? 数はパッと見て500近い。兵士の能力次第では迎撃は可能かと思うけど?』
「500か……。多いか少ないかというのは町の常備兵の数で違うしな。冒険者ギルドに待機している冒険者の質にもよるしな」
何とも言えないでいると、霧華が口を開く。
「ウエサの町の大きさを確認しました。およそ半径2キロの町で、形は平地に町を作り壁で囲むという一般的なものです。そして、人口ですが、今までのデータをもとに考えるのであれば、およそ1万から3万と言ったところです。そこから算出される兵士となれば、せいぜい1千から3千と言ったところですね」
「総人口の10%が兵士とか破綻しているな。平時は1%未満だからな」
そうでもないと兵士の生活を支えられない。
まあ、それは現代地球の話だ。
この異世界であり、魔物の脅威がある世界だと一般人の徴兵もあり、負担率は違うだろうが……。
「霧華。正直に言ってどれだけだと思っているのかしら?」
「……1000いればよい方かと。冒険者が200ほど。かき集めるにしても、正規兵でもない人たちを前線に出すわけにはいきません。城壁で防衛をするのがせいぜいかと」
「だな」
素人を隊伍を組んで魔物の前に出して戦えるわけがない。
死体の山を築くだけだろう。
「しかも、魔物の集団はオークが中心でオーガが部隊長のように20体はいますからね~」
「一般人でもゴブリンならともかくオークは無理があります。何せ冒険者の間ではオーク討伐が一人前の証であり、一人ではなく、パーティーで倒すのが基本ですよ」
「だよなぁ……」
そのオークが群れを成してきている時点でかなり厳しいと言える。
とはいえ、まだまだ把握していないことがある。
それは……。
「オーガもいることを考えると、よほどの実力者がいない限りはウエサの町は絶望的ってわけね。ニーナ、事前偵察でウエサの町の実力者はどれだけいるか把握できている?」
そう、ウエサの町が保有している戦力である。
ここでレベルが100以上で装備も潤沢の人がいれば、それだけでオークの群れを薙ぎ払えたりする。
これは地球とは違う所だよな。
人並みを超えた力を発揮して動き敵を倒すことができる。
『全部を調べたわけじゃない。確認した限りはレベル50台が2人。領主の騎士隊の隊長と、冒険者ギルドのギルド長。あとは40台が3、4人。30台はそれなり。10台から20台が大半』
「う~ん、微妙ね。それだとオーガ複数体の相手は無理でしょう」
「はい。余程奮戦をしなければ20体の討伐は難しいかと。それに先兵としてのオークもいます。詳細を確認できましたが、オークの上位個体も存在していますので、かなり戦況は厳しいかと」
レベル50っていうと、ロガリやイフ大陸では各国の将軍を務められるほどの実力者だ。
それが町に存在しているとなると、この北部の平均レベルは高いと言えるだろう。
とはいえ、敵の集団を防げるかというと正直微妙だな。
『無理ね。町は放棄になるんじゃないかしら?』
「いや、放棄はするだろうが、防衛部隊は残るはずだ。全員の避難が間に合う時間じゃない」
1万人規模の町で避難を完了させるにはせめて2日はいる。最低。
下手をすれば混乱でもっと時間がかかるだろう。
そうなると、逃がす時間を作るはずだ。
『まてよ。私たちなら迎撃できるだろ?』
『それをすると私たちに注目が集まる。いまはどこに敵がいるかわからないじょうきょ……う』
『あ~……あれがありましたわね』
俺が言う前に自分たちの正体がばれず、それでいて魔物を迎撃することができる方法が思いついたようだ。
『え~っとお兄さま? まさか……』
ヴィリアも顔を引き攣らせながらそう口にする、
うん、想像していることは間違っていない。
「そうだ。ヒーロースーツがある。まあ、わかりやすい敵がいる方がそっちとしてもやりやすいだろう」
『……本気?』
「本気だ。そうでもないと現状は打破できないしな。下手なウィードの増援よりも、現場にいるニーナたちが変身して助けた方が敵の目を欺くのにもちょうどいいだろう」
『ニーナ、あきらめろよ。変に侵入とか衛兵を蹴散らさなくてよかったって思えばいいさ』
『そう、ですわね。このままでは多くの犠牲がでます。それは私たちにとっても良いことではないでしょう』
『はい。人々を守れるのならやるべきです!』
ヴィリアも覚悟が出来たようでそう宣言する。
『はぁ、わかった。なら私たちは参加の方法はこっちに任せてもらうけどいい?』
「ああ、まあ、言わなくてもわかると思うが、わざと目立つようにやれよ?」
『わかってる』
そういって連絡が切れる。
「大丈夫なの? 判断に任せて?」
「ニーナは自分たちの立場はわかっているから大丈夫だろう。あとは、どう登場するのかだが、楽しみに見せてもらうとしよう」
劇的なヒーロー登場になるのか、不審人物とされるのか。
こればかりは、やってみないとわからないしな。
ついに出番がやってきた。
正義の味方はやってくるのか。
兵士たちの運命やいかに!
次回、正義のヒーロー登場!




