第1919堀:北部は穏やかでっす
北部は穏やかでっす
Side:ヴィリア
「なんというか、妙に情報操作されているよな」
「ですわね。ここまで北部は穏やかなのに、中央部はハチの巣をつついたような騒ぎです」
キシュアさんとスィーアさんの言う通り、当初聞いていた北部の状況とは違っていて、私たちは意外と平和な道中を過ごしています。
おかげで、お兄さまがエナさんから聞いた情報をのんびりと宿でお話しする暇が出来ているのです。
「スィーア違う。具体的には、まだ大人しくしているぐらい。騒ぎは起きているけど、まだ水面下」
「ああ、まあ、大きな騒ぎにはギリギリなっていないか」
「そうでしたわね。とはいえ、時間の問題だとは思いますが、おかげで、私たちの準備はほとんど無駄におわりましたわね」
「だな。まあ、胸糞悪いことが起こっていなかったってのは良かったけどな」
そう、スィーアさんやキシュアさんの言うように、北部では亜人を捕縛して拷問するようなことは今のところ発見できず。
魔物を退治する上での貴重な同胞という扱いになっているのです。
なので、私たちが変身ヒーローとなって助けることもなく、ちょっと教会や領主の館を調べるぐらいで済んでいるのです。
「でも、油断はできない。北部と中央部の情報が食い違いすぎる。どこかで情報をせき止めている連中がいる。それはどう考えても北部に敵がいるという証拠」
「確かに、オーエへの進軍を知らないというのもおかしい話です。噂程度でも伝わってもいいはずですが、そういうのはありません」
私たちが北部に踏み込んで既に10日以上。
町は2つ目へと移動していますが、中部はもちろん南部の話は全くありません。
流石に不自然と言えるでしょう。
「まあ、疑問は残るが、北部の人たちは魔物との戦いだしな。そっちに集中していてもおかしくはないと思うけどな」
「可能性はゼロではありませんわね。わかっていて放置というのもあるでしょう。今、北部にいる亜人達が中央部へ向かっても北部は戦線を持たせられないと思っていれば情報は規制するでしょう」
なるほど、そういう考えもあるんですね。
確かに、中央部の亜人への措置が明らかになれば、北部の亜人たちは不満を抱くはずです。
そして、行動に移す人も少なからず出てくるでしょう。
そうなれば、魔物の攻勢が強くなっている現状では、かなり厳しい戦いになるのは当然です。
そういうのを避けるために情報を封鎖しているというのは理にかなっています。
「とはいえ、放置はできない。クリアストリーム教会が発端というのはほぼ確定だし、ドドーナ大司教の伝手で、北部の総本山って所に向かうべき」
「確かにな。イオア王国へ冒険者として向かって、そこでクリアストリーム教会の情報を洗いつつ仕事をこなせば堂々といけるか?」
「どうでしょう? ここまでのことをした連中が総本山に何か仕掛けをしていても不思議ではありませんが」
「慎重に情報を集めつつがいい。下手にドドーナ大司教の紹介と触れ回れば、敵の目に留まる可能性がある。あと、魔王の存在も否定されたわけじゃない」
「魔王って……」
「それはかなり確率は低いのでは?」
ニーナさんの言葉に、キシュアさんやスィーアさんはちょっと呆れた感じで言葉を返します。
私も魔王の仕業というのはちょっと無理があるかなと思っていますから。
「確率が低かろうが、魔王とささやかれた理由が存在する。あるいは、北部には本当に魔王の一派が攻め寄せていて、中央部の連中とは無関係で、別の勢力の可能性もある」
「ちょっとまて、いや、確かに可能性はあるが、ニーナの話が本当だとすれば、二正面作戦にならないか? 中央のクリアストリーム教会で好き勝手やっている連中と、北部に攻め寄せているのは魔王の連中ってことだろ?」
「何というか、頭痛の種が増えたとしか言えませんわね」
「はい。お兄さまが頭を抱えそうです」
今でも新大陸のことで手一杯なのに、原因が二つもあるとか。
いえ……。
「南部の魔物北上も別だったりするのでしょうか?」
「「……」」
私の疑問にキシュアさんとスィーアさんは沈黙します。
そして、ニーナは無表情で口を開く。
「むしろ、一番無関係の可能性が高いのが南からくる魔物たちの大氾濫。いまだに原因は発見できないけれど、組織的に攻撃を続けていないところを見ると、無関係ととれる」
「それはどういうことでしょうか?」
「組織的に、北部や中央が絡んで南の魔物を動かしているというなら、今のように魔物が枯渇するなんてありえない。ユキたちがいかに強力だからと言って全戦力を投入するわけがない。余剰戦力が存在するはず」
「確かにな。指揮官というか、そういうのがいるならここまで南の土地が静かなわけないよな」
「全力投入してどうにかなると思っていた……。というには静かになりすぎですわね」
「お兄さまたちウィードが現れたから、事態を傍観しているというのは?」
そう、オーエはウィードの介入がなければ崩壊していてもおかしくはなかったのです。
それならば、敵の思惑が外れて情報を集めることに腐心しているのではと思ったのですが……。
「……ゼロではない。でも、オーエに攻め寄せたのは北上してきた魔物のごく一部に過ぎない。ほとんどは森に入ってしまっている。指揮官がいるのであれば……」
「あ~、そこは不自然すぎるな。せめてオーエに戦力集中するべきだ。まあ、とはいえ、邪魔とは言える状況にはなっているが」
「ですわね。オーエや森に隣接している国々は荒野から入り込んだ魔物の影響で森が騒がしくなり、狩りや採取はもちろん、道中の危険も増えていますので、人々が暮らしにくくはなっていますが……」
「……直接的に邪魔をしない方がおかしいということですか」
「そう。戦力の集中は指揮官がいるのであれば当然の選択。何より、オーエさえ落とせばそのまま南部の国々へと襲い掛かるルートが開ける。森を抜けるよりよっぽど簡単に。それに、敵が言うことを聞かないというのなら、なおのこと戦力としては数えられないし」
確かにそうです。
南部の国々へダメージを与えたいのであれば、森へ浸透するよりもオーエを総力で落とした方が効率的です。
あと、言うことを聞かない連中だとすれば、ニーナさんの言う通り戦力には数えられない。
「と、これぐらいはユキも考えているだろうし、こういう判断をするのは私たちじゃなくて上のユキたちの仕事。その判断をするためにも、この北部でしっかり情報を集める必要がある。とはいえ、今のところ真っ白でびっくりなんだけど」
「だよな~。亜人たちは大切に、貴重な戦力に扱われていて、ユキが用意してくれたパワードスーツを使うこともないしな」
「ヒーロースーツって言わないと、フィーリアちゃんたちがうるさいわよ」
「あはは、それに関しては被害者がいないということで良いと思います。でも、北部の領主館に忍び込んで情報を集めてきたニーナさんのアレは……」
私はそのことを思い出して微妙な顔をするしかない。
「真っ白なんだけど、真っ赤。面白い」
ニーナさんは私の話を聞いてそんなジョークを言うのですが……。
「全然笑えないからな」
「本当に笑えませんわ」
「そう? 財政状況悪化しすぎて、近い未来破綻するってジョーク」
ニーナさんがそう説明するのですが、本当に笑えません。
つまり、身の潔白は証明されたのですが、代わりに見つかったのは北部の魔物との戦いが激化しすぎで財政状況がかなり悪化しているということです。
「別にそう焦ることじゃない。まだ二つ目の町。どっちも経済状況が悪化しているだけかもしれないし、北部中央のファイアナ王国がサポートしている可能性もある」
「ああ、そういう関係でしたっけ? 穴を埋めるとか」
お兄さまからもたらされた北部の情勢というか、政治体系といいますか、北部はいざという時の為の相互補助ができるようにしているのです。
各戦線は魔物と隣接している国が担い、そこから得られる物資などを中央のファイアナ王国が取り引きし、利益を得るという形になっています。
もちろん、どこかが崩れそうな場合は補助もするという話ですが……。
「それにも限度があるだろ。町二つはそこまで前線ってわけじゃない。そこが赤字って、ほかはどうなっているか」
「いや、それもまだ二つの町の経営が下手なだけかもしれない」
「まあ、ニーナさんの言う通り、今決めつけるのはどうかとは思いますが」
とはいえ、二つの町が経営状況が火の車というのは、個人的には笑えませんね。
二つの町に住む人が下手をすれば重税に苦しむことになります。
もちろん、魔物から生きるためとなれば仕方がありませんが、それが適切に使われている確証はないのです。
そういうことを調べる時間は無かったのですが……。
「そうですね。領地経営には波があるのは当たり前のことです。ウィードが常に安泰というのがおかしいだけです」
あはは、ウィードはDPを人がいるだけで生産されますからね。
ダンジョンのシステムが使えなくなることがない限り、物資は安定供給できますし、万が一ダンジョンが使えなくなっても、それを補うための施設をダンジョンの外で常に作っていますので、そうそうは崩れません。
お兄さまはそういう所もちゃんとしているんです。
「だな。とはいえ、目に見えて町の人の生活が荒れているわけじゃないし、まだ何かをする必要はないだろう」
キシュアさんは宿の窓から外を見ながらそう言います。
そこには、人々の生活が目に入ります。
既に夕暮れが近く、買い物を済ませて家に帰る母や遊び終えて帰る子供たちの姿が目に入ります。
その表情には魔物や重税に苦しむような顔はなく、今日も穏やかに過ごせたという感じの顔で、町はいまだ穏やかです。
そう思っていたのですが……。
「た、大変だ! 魔物の群れがこの町に迫っている! 住民は屋内に避難を! 兵士は集まれ、冒険者諸君もギルドへ集まってくれ!」
その言葉に時が止まったかのように辺りが静まり返ったかと思うと……。
怒号が辺りに響き、町は混乱の渦中に叩き込まれるのでした。
穏やかだとタイトルで言ったな。
アレは嘘だ。
というのが世界のお約束。




