第1907堀:敵の位置が割れてくる
敵の位置が割れてくる
Side:ニーナ
『……という話があった』
ユキからギアダナ王と宰相から北部の詳細を聞いてもらったのだが……。
「いや、それよりも中央がきな臭いって方が問題じゃないか?」
うん、キシュアの言うように、ギアダナからもたらされた情報を聞くに、北部は魔物への盾として機能をしていて、ほぼ現状のクリアストリーム教会を始まりとする問題にはノータッチっぽくて、元凶は中央のどこかということになる。
「あの、私たちはここでヒーローとして活躍してていいのでしょうか?」
ヴィリアが心配そうにそう言う。
イオア王国にもまだ到着しておらず、道中の町でヒーローの恰好で亜人の救出をしてくれと頼まれてはいたけれど、今の話を聞けばそんなにのんびりしていいのかと心配になる気持ちはわかる。
だけど……。
『ああ、そっちは予定通りにやってくれ。というか、亜人の救出とヒーロー活動、そして情報収集はきっちりしてくれ。今回魔王だけの話じゃなくて、内乱というか人の内ゲバの可能性が非常に高い』
「……ですわね。お話を聞く限り、中央のどこかの国とクリアストリーム教会が結託して、亜人排斥と魔王の噂を広めたとしか思えませんわ。つまり、私たちが情報収集でその手の情報があればという話ですわね?」
『そういうこと。スィーア正解。まあ、その分くそ忙しくなるわけだが』
だね。
私たちは亜人を助けてクリアストリーム教会の悪事を調べるだけが、中央の国々で暗躍している敵を調べることも追加されたんだから。
はぁ、やることが指折り増えていくのは面倒。
「時間の延長は?」
『まあ、一日二日が限度だろうな。イオア王国へ行くというのも変更はしてほしくないし。北部が本当に情報通りなのかも確認は必要だ』
ま、その通り。
ギアダナ王たちからの情報が正しいとは限らないし、情勢がかわっている可能性もある。
現場を私たちで見に行くことは必須。
情報だけに踊らされて、ウィードが利用されるのは避けたい。
敵の手助けをするのは絶対にしない。
私たちは私たちの為に動く。
『そういえば、コメットとエージルは帰ったんだよな?』
「何とかな。延々とヒーロースーツの説明してて、終わりが見えなかった」
「ええ、まぶしいぐらいの笑顔でずーっとご説明をしてくれていましたわ」
「あははは、コメットお姉さまやエージルお姉さまからすれば、自慢の一品ですから」
「ヴィリアは二人を庇わなくていい。アレはただの迷惑」
『おう。苦労したのはわかった。二人が帰路について、研究室にいることも確認した。次を作るとかあほなことを言っているな』
「絶対止めて。これ以上はいらない」
一人当たり10着はある。
全部が使い方が多少違うので、慣れない装備を次々と使う気にはなれない。
幸い、ユキが元々使い方は統一してくれと言っていたので、それでこの程度で済んだレベル。
二人がオリジナルでそういう要求を無視したスーツとかは、マジでどう操作すればいいのかわからないぐらい、改造をしている。
汎用性に欠ける、使い方を統一してくれといったユキの真意がわかった。
この研究者たちは、これでもかと機能を詰め込むのだ。
まあ、その分性能は頭がおかしい。
とはいえ、使いこなせればと付くが。
それが、また増えるとか面倒でしかない。
それに、今選んだものも、変身……着用して動かしているけど、慣れてはいないし。
『やっぱり動かすのは難しいか?』
「着用だけなら問題ない。リーチとか身長、体格の変化は慣れればいい。だからこそ、何個ももらうと使いこなせない。変に装飾多いし」
ヘルメットには妙に角が生えていたり、肩パッドは尖っていたりするから、感覚が微妙にずれてぶつかることがある。
これが、障害物に当たって跳ね返るぐらいならいいんだけど、私たちの素の実力と変身スーツの力が加わると、ぶつかった物質が裂けたり、砕けたりする。
つまり人が相手だと……。
『あ、そういうレベルか』
「そう。ぶつかっただけで人が死にかねない。あの強化の度合いを調整するのが難しい」
「だな。あれほどになるとか。全身凶器だぞ、あれ」
「敵を倒すというか、殺害爆散してしまいますわよ」
「おそらく、私たちを基準に作っているからだと……」
『そういうことか』
うん、ヴィリアの言う通り、あの変身ヒーロースーツの強化具合は私たち、ウィードの上層部が着て戦うことを想定している。
あれぐらいないと、強化の意味がないから。
冗句グッズの変身ヒーロースーツだけれど、性能は馬鹿ではない。
何せ、ウィードのナールジア、ザーギス、コメット、エージル、そしてフィーリアたちが共同で、あるいは自分の趣味をありったけ注ぎ込んだもの。
それは手抜きではない。
全力で、今もてるすべての技術をつぎ込む。
ある意味、現状考えうる限りに、私が考えた最強装備だ。
子供がいうなら、鉄の剣とフルプレートアーマーとかでほほえましいんだけど、あのメンバーが作るモノはエンチャントを含めて本当にたちが悪い。
常識なんて外に吹っ飛ばしているから。
「ということで、真面目に慣れがいる。そうしないと攻撃してきた相手の死体で沢山になりかねない」
マジで、自動反撃機能とか、そういうのがあるからそれをどうにかしない限り私たちに傷をつけることは出来ない。
『そりゃそうだ。亜人を助けるために町の人を虐殺して回ったなんて噂は避けたい』
「そんなこと私たちもしたくない」
うん、キシュアに同意。
というか、そういうことにならないように今慣らしているところ。
「そのおかげで、町に侵入して暴れるのを待っている。というか延期している」
『それは仕方がない』
うん、予定は遅れているが、殺人を犯したいわけではないので仕方ないのだ。
無関係の人たちはもちろん、衛兵とかも普通に不審者に対しての対応だし。
あ、教会の連中は別にどうなってもいい。
それだけのことはしているから、ちょうどいい刺激になる。
『とはいえ、全体の動きは予定通りに頼む』
「それは、この無茶なスケジュールに合わせろって?」
『ああ、本来の目的はあくまでもイオア王国で頑張って、クリアストリーム教会の内部を探ることだ。町のことはおまけだからな』
む、確かにその通り。
亜人たちを助けたいというのはヴィリアの願い。
いや、それはずるいか。
私たちも助けたいと思った。
無理やり予定を繰り上げて動いているのは私たち。
『まあ、移動時間をかなり短縮しているんだから、動く時間はまだあるだろう? それに町の方にはすでに探りは入れているんだろう?』
「ええ。ただ単に変身スーツの練習をしているだけじゃないわ。すでに町のことは探りを入れている」
主にヒーロー役はヴィリアとキシュアで決まっている。
何せ、姿がヒーロー状態に比べると小さすぎるから。
同一人物だとはまず思われないということと、戦うことがメインだから。
別に二人が不器用というわけではなく、諜報活動っていうのは簡単にできることじゃないというはなし。
そして、スィーアは旅のシスターとして治療をしつつ一般からの情報を集めるという形をとりつつ、二人のサポートをするために地形把握を進める。
私は領主とか教会の一番やばいところを調べる。
そういうのは得意だから。
『それで何か情報はあったか?』
「まず、第一の救出対象である亜人たちはこの町にはいないのが確認されている」
私がそういうと、ヴィリアがほっと息を吐くのがわかる。
まあ、ここで殴り込みをする必要はなくなったわけだ。
この確認は簡単だった。
何せ教会とか領主の館の地下を調べればいいだけだ。
魔力反応なども探っているから、見落としもない。
『それは良かったな。ヒーロースーツの出番はないわけだ』
「ええ。それは今回は必要ない」
この町で実力行使はない。
それはスーツになれていないヴィリアやキシュアにとっても良いことだ。
「次に教会の資料に関しては興味深いことがわかってきた」
『興味深いこと?』
「あとでまとめて送る予定だったけど、連絡も来たことだし送る」
そういって、私はユキに先ほど手に入れてきたデータを送る。
『これは……』
「そう。亜人を捕縛することを反対するという旨をしたためた書類。この書類が事実ならクリアストリーム教会内部でも亜人に対する扱いに関して割れていると思われる」
『みたいだな。そして送り先は北部』
「そう。ユキの話から、北部は独立しているというか、中央とは状況が違っているという話があったけど、その予想を後押しする情報」
『……マジで本格的に敵は中央部だな。一体何が起こっているんだ?』
「さぁ? 内ゲバにしては規模が大きすぎる。ギアダナ王国で連合を組んで南部で大敗とか、これ仕組んだやつは、地の果てまで追われて始末を付けさせられるレベル」
うん、その被害規模を考えると、やっていることは魔王と同じ。
下手すると新大陸での人類の生存区域が激減するだろうし、魔王よりも上かも。
ホーリー並みのやり手。
まあ、ホーリーは国が5つしかない小さな島国だったから同じは無いけど。
『だな。これだけの損害を出したんだ。ギアダナと従った小国たちはなあなあで済ますはずがない。というか、中央の国々はギアダナの国力を落として何がしたい? クリアストリーム教会に従って何がある? 全然目的が見えん』
「それを調べるのはそっちの仕事。こっちは予定通りに動くだけ。というか、場合によっては北部よりも中央部が一番の騒ぎになる」
『わかっているが、面倒だな』
「そういうもの」
陰謀を阻止する側は常に右往左往するのが当たり前。
何せ後手後手なんだから、敵の動いた後を追うしかないから。
まあ、途中で相手の動きが分かれば先回りはできるけど。
ユキなら、いや私たちウィードが動けばすぐに目的を察せられる。
実際、こうして、敵の影を捕まえつつある。
しかし、敵はこちらのことを全く知らない。
存在を知られない、知らないというのは圧倒的アドバンテージになる。
それを理解しているからこそ、ユキは秘密裏に動いている。
ウィードの戦力があれば正面から打ち破れるはずなのに。
まあ、維持とかそういう問題もあるんだけど。
向こうにとっては私たちウィードが一番怖いかもね。
お互い、姿がつかめず脅威度も判定しずらい。
とはいえ、向こうは堂々と暴れ始めて馬脚が見えている状態。
そこで、搦め手が大好きユキはどう動くのか?




