第1906堀:北の国々の在り方
北の国々の在り方
Side:ユキ
北部中央ファイアナ王国。
北部の各戦線を支える国を支援するための国。
最初はなんじゃそらと思ったが、別に不思議なことではない。
指揮系統が別だというのは確かに面倒ではあるが、メリットもあるわけだ。
統一のための時間はいらないということと、各方面に任せておけるというわけだ。
いや、何がメリットなんだよと思うが、嘘の報告がまずないわけだ。
何を言っているのかと思うが……。
『その独自な構築のおかげで中央のファイアナ王国はもちろん、各国は魔物との戦いにおいて誇張を絶対にしない。何せ負ければ国民が魔物に殺されるわけで、そんなことは国としては絶対避けたい。だから、中央との繋がりは絶対に維持しておくわけだ』
『ファイアナ王国がいざという時は動いて、穴を埋めてくれる役というわけです』
「なるほど。統一されていると降格などの話が関わってくる分、穴になりかねないわけですか」
『そういうことだ。各国であるからこそ、情報が正確になっていると判断している』
そう、一国でこの戦線を支えるとなると、人材の確保とかそういうのが大事になってくる。
いや、今までのままでいいだろうと思うかもしれないが、よりよい戦力があれば配置を変えるのは当然。
そうなれば降格というか、そういう立場の入れ替えが行われるわけだ。
それを避けるための誤報はもちろん、内輪もめも解決しなくてはいけなくなる。
それで戦線が崩壊すれば、立て直しができないと判断しているわけだ。
「それほど、北部の状況は厳しいと?」
『そうだな。とはいえ各国の戦線が崩壊したという話は聞かないが』
『ですな。ギリギリとは聞いていますが、かといって防衛を担っている国が崩れたという話も聞きません』
「そのファイアナ王国が情報封鎖している可能性は?」
『ないとは言えないが、する意味がな……』
『下手をしなくても自国で崩れた国を支えることになります。収益がプラスになるかというと……』
「常に戦線を支えているような国を手中に収めて、混乱なく治められるかとなると微妙ですね。それに収支は間違いなくマイナス」
自分で手段を話してみて、無茶だなとよくわかる。
最後に収支をプラスにするとかありえない。
戦争というと違うだろうが、人を積極的に殺しに来るのが魔物だ。
まあ、生息区域からは出てこないが、意外と北部は南下してきて人里とぶつかっているってことだから、その損耗もまとめて受け入れることになる。
収支がプラスになることなんてありえないのだ。
だが、そこで疑問が湧く。
「気になったのですが、各国は今話した収支はプラスになっているのですよね? そうでもないと国は保てないはずですが?」
そう、苦戦していると話は出ているが、それでも国を保てるレベルということだ。
それは戦力にしても、収支にしてもだ。
どちらも必要分がなければじり貧になり、どうにもできない。
『ああ、それはその通りだ。魔物の素材を卸して、ファイアナ王国を通じて収支を得ている。もちろん、それ以外にも各国には多少なりとも産業はあるからな』
『ですな。とはいえ、戦力に関しては、ここ数年北から下ってくる魔物の圧力が増し、けが人はもちろん死者が増えてきたという話は聞きます。その戦力補填をどうするのかという問題が上がっていたような話はありましたな』
「待ってください。ここ数年ですか? クリアストリーム教会が魔王の存在を宣言して、各国への亜人排斥を始めたのは、近年なのでしょうか?」
『む。そういえばそこのタイミングを考えてことなかったな。ダエダ?』
『はっ、時期的には一致しておりますな。魔王の為にそして亜人は魔王の手先と言い出したのはここ5年のことです』
『なるほどな。まあ、理屈は通っているな。魔王が人に対して攻勢を仕掛けている。その一因は亜人にありと。言いがかりも甚だしいがな。それなら前から、というか防衛を担っている国が落ちているわ』
『ええ。そちらの方が魔王という輩にしても簡単でしょう。わざわざ成功するかもわからない亜人を……』
そこでダエダ宰相の顔から色が抜けるように表情が止まる。
気が付いたようだ。
「そう、おかしいのです。まるで亜人排斥が成功して、内紛を引き起こせると確信しているような動き。とはいえ、北の国々は被害なし。いまだに崩れる様子はない。そうなると……」
『あ、それどう見ても魔王って内部に入り込んでいるか、それともどこかの連中が黒幕で国力を削っているってことか?』
「ええ。ほかにも色々可能性はありますが、ギアダナ王国は文字通り、亜人を庇う側として、立場を無くしかけています。南部との衝突をして、戦力を減らすのは中央の連中だったでしょう?」
『……その通りだな。何かを起こすなら北部の方がいい。なのに俺のギアダナを中心にトラブルが起きていると考えると身内というと変だが、人同士の問題だ。何かの思惑が動いているな。魔王なんかというよりよっぽどそれらしい』
『ですな。これはあきらかですな』
そう、元より魔王というのが原因ではない感じなんだよな。
南も北も魔王の名は出れど、結局の所その正体は不明。
なのに魔王の存在だけはほのめかされている。
と、そこは一旦おいて。
「すみません。話が脱線しました。今の話はあとあと詰めるとして、イオア王国の話です。つまり冒険者をよそから集めるというのは別におかしくはないと?」
『ん? ああ、そうだったな。イオア王国はというか、北部の国は腕の良い冒険者を日ごろから集めている。冒険者ギルドも北部が崩れることは、国の崩壊というか、人類の崩壊と認識しているからな。だから国をどうこうするという話は無いはずだ。今話したように、一国が崩れるだけでもフォローがしにくいからな』
「なるほど。冒険者ギルドやクリアストリーム教会が国を落とすようなことをするわけがないと」
『それは私の方から無いと言えます。王も言っているようにフォローができないですし、後釜がいません。混乱を助長するだけでしょう』
二人して、冒険者ギルドやクリアストリーム教会が国を手中に収めているとは思っていないようだ。
まあ、二人の話が事実なら、俺も冒険者ギルドやクリアストリーム教会が牛耳るメリットは無いと思う。
ほかに違うメリットがないとも限らないから、断定はしないが可能性が低いというのは分かった。
「わかりました。ならば冒険者として動いているメンバーはこのまま進めていいわけですね。下手な陰謀に巻き込まれることはなさそうだ」
一番の懸念点はヴィリアたちが都合よく使われて国を敵に回すようなことにならないかってことだった。
まあ、国を敵に回してもどうにかできるが、その分被害は甚大になる。
こういう時に一番の犠牲となるのは、何も関係のない人々だしな。
『ああ、確かにそんなことに関われば大ごとだな。注意はいるか。権力争いが起きてないとは言えないしな』
『そうですね。そういう内紛は否定できません』
あり得るのかよ。
いや、まあ国だからそういうことはあってもおかしくはないが、この二人がそういうことを考えるのを忘れるぐらいには北部は魔物との戦いが厳しいということだろう。
一応ヴィリアたちには伝えておくとしよう。
『しかし、問題なのは魔王を騙るものの話だ』
『ええ。ユキ様がお話してくれて本当によかった。クリアストリーム教会の暴走と言えばよいのですが、魔王の話はもちろん、亜人排斥の流れがここ5年で進んでいたというのを認識できました。今まで起こることに対応していて全体の把握を怠っていたようです』
「いえ、関連付けるのは難しいことでしょう。何せ実際魔王がいたということはあったのでしょう?」
ここで大事なのは魔王という存在だ。
各国が信用するぐらいには魔王という名前は知られている。
つまり、魔王という脅威があったのは知られているわけだ。
『魔王な……。確かに大昔にその話はあったと聞いてはいるが』
『まあ、おとぎ話ではありますからな。北部の魔物が強力になっていることから魔王と無意識に結び付けていたのでしょう。もちろん、クリアストリーム教会が亜人と魔王が繋がっているという布告もあったのでしょうが』
『そうなるとやはり怪しいのはクリアストリーム教会か』
『ドドーナ大司教にはとても伝えられませんね。亜人の排斥はもちろん、魔王の出現に関してもクリアストリーム教会が原因かもしれないと』
ペトラ正司教を育てたと言っていたドドーナ大司教は間違いなく殴り込みに行きかねない。
というか……。
「北部がそれほど激戦となっているなら、こちらのクリアストリーム教会が勝手に動いているという可能性もありますね。理由は分かりませんが」
『なるほどな。いや、そういう考え方もあるか。確かに、魔物を殲滅すると考えているクリアストリーム教会が北部をほっといて、こんなことをするというのは考えにくい』
だよな。
だから、北部のクリアストリーム教会がというか、クリアストリーム教会の総意ではなく、中央部に残っているクリアストリーム教会が勝手に動いているってことになるよな。
『そうなると、クリアストリーム教会が内部が割れたと思うべきでしょうが……情報が足りませんね。とはいえ、やっていることは亜人の排斥とそれを利用した妙な魔石づくり。そこになにか……』
ダエダ宰相の言う通り、その魔石に何かヒントはあると思うが、ギアダナ王国にあるのは支部だ。
押さえた場所からは何も情報はないし、クリアストリーム教会がギアダナ王国に何かを仕掛けていたのは間違いない。
そんな支部に大事な情報を置いているとは思えないよな。
いつでも放棄してかまわないと思っているに違いない。
実際、情報はさっぱりなかったしな。
「そうですね。あの魔石は集める必要があったからこそやっていたのでしょう。そして、今までの話を総合すると、北部の調査次第ではありますが、敵はこの中部にいる可能性が高い」
『『……』』
俺の指摘に沈黙する2人。
そりゃそうだ。
今回の大騒動が遠く離れた北部ではなく、近隣にいるかもと言われると心底嫌な気持ちだろう。
姿の見えない魔王を餌に、亜人の排斥、連合を使って南部の国、オーエを強襲。
やっていることは簡単に出来ることじゃない。
相応の組織力はもちろん、資金やコネも持ち合わせている。
国を動かすことが出来るレベルとなると、一国だけじゃマジでキツイ。
「お気持ちはわかりますが、大々的に動く必要はありません。まずは敵を見極めるべきです。ギアダナ王国内のクリアストリーム教会を押さえたのは間違いではありません。これで、まずは間違いなく関係しているクリアストリーム教会の動きを止めることはできるのですから」
『確かに、もう動き出したことはかわらない。アドバンテージは此方にあるということだな』
『そうですな。この時を利用して、どこに敵がいるのかを探るべきです。このまま放っておいてもギアダナへの圧力を強めていたのは間違いありませんし』
「ええ。こちら、オーエに輸送……ではなく統治するために移動しているクリアストリーム教会の人からは情報を集めましょう」
『そうだったな』
『ありましたな。いや、是非ともお願いしたい』
「ええ。お任せください」
そう、俺たちにとっては今の状況はありがたいというべきだ。
さあ、面白くなってきた。
そのぶん、忙しくなってくるんだけど。
北の国の状況が少しわかりました。
各国分担して、魔物と戦うことで戦線を維持しているような感じです。
共通の敵がいるからこそ、戦争が起こっていないような状況ですね。
そうなると、今回の騒動はどこで始まったのかという話ですが……。




