落とし穴外伝:2026年 年始スペシャル2
落とし穴外伝:2026年 年始スペシャル2
Side:タイキ
「ふぁ……。ねむ」
俺は思わずそうつぶやいてしまう。
「あはは、まあ眠いよな。結局あのまま徹夜だし」
「思いのほか、ゲームオーバーにもならなかったからな」
「ランダム選択で別に強くもない大名だったのに、思いのほか戦えましたからね~」
そう、3人のセリフからわかるように、俺たちは信長の野望を協力してプレイをして、なんというか、ゲームオーバーにならずに上手く徹夜してしまったのだ。
「3分の1は制圧していますから、残りは消化試合ですけどね」
しかも、クリア目前だ。
いや、その前に天下分け目の大戦があるんですけどね。
このまま問題なく詰めれば、勝ちは間違いなしって所まで行った。
なので、やめどころを見失って、徹夜になってしまった。
「ま、良くある話だ。若い時はよくやってたんだけどな……」
「だな。今では夜は寝ないと、朝がというか、次の日は仕事にならん」
「わかります。なんというか、学生や20代の頃は凄いエネルギーでしたね。まあ、仕事も忙しくなるとそうもいかないんですが」
そうだよな。
20代の前半ってまだ新入社員で覚えることは山ほどあるけど、そのほかはまだましってことが多いんだよな。
時が経って慣れてくれば、求められる水準も上がってくるし、部下もつけられる。
つまり、仕事がさらに増えてくるってわけだ。
それをこなしていると遊ぶためのリソース、つまり体力とかも無くなってくるわけだ。
もちろん衰えとかもあるけどな。
まあ、向こうで社会人としての下積みはしてないけど、今は王様とか勇者やってたからよくわかる。
上になったら楽になるかっていうと、馬鹿ぐらいしか楽にならない。
良い環境にしようとすればするほど仕事が増えるってやつ。
要領の良い人は適度に力を抜きつつ、地位をキープする人なんだと良く理解した。
あれこそ一番難しいんだよな。
「じゃあ、まずは目を覚ましに行きますか」
俺たちが眠そうにしている状態を察したユキさんはそう提案をしてくる。
「目を覚ますってなんですか?」
「なにか、刺激的なことでも?」
「こういう時は、冷たい水で顔を洗うですね」
あ~、ソウタさんのは結構効くよな。
寝ぼけている体によく効く。
「流石に外で顔を洗う場所はそうそうないですからね。かといってスーパー銭湯に行くには時間がない」
「確かにそうですよね~。あそこに行ったら1時間じゃすみません」
「だな。あそこは最低2時間はいる。というか2時間で済ませるのはもったいない」
「そうですね~。逆にリラックスしすぎて寝てしまいそうですし」
うん、マジで寝てしまう。
起きるとは逆になる。
「そっちじゃないですよ。若い頃っていうとあれですが、目を覚ますには働くビジネスマンにとってのお供ってやつです」
ユキさんのその言葉に、俺とソウタさんは即時に理解する。
「「ああ……」」
なんというか、その答えに俺とソウタさんは苦笑いすることしかできない。
「どうしたんだ君達二人とも? 何か変なことをするのか?」
「いえ、そうじゃありませんよ。二人とも理解はしていましたが、それを飲むという意味が分かったからだと思います」
「詳しく聞いても?」
「ええ。別に隠してその場で御開帳なんて、今回の目的のプレゼント探しでもないですからね。答えは栄養ドリンクですよ」
「ああ、あれか。良いモノだと思うが? それで二人はなぜそんな顔に?」
そっか、タイゾウさんは大戦中の日本出身だから、栄養ドリンクの意味を知らないわけか。
「タイゾウさん。栄養ドリンクはどんな時に飲むと思います?」
俺が口にする前にソウタさんがそう質問をする。
まあ、そういう問いかけの方が理解しやすいか。
「ふむ。栄養が不足しているときだな」
「そうですね。栄養が不足しているときとは、どうしてそのような状態になると思いますか?」
「それは、仕事や遊びのし過ぎで食事や休息を……なるほど」
そこまで自分で言って栄養ドリンクの意味を理解したようだ。
「なるほどな。栄養ドリンクを飲むということは、自分の生活環境が良くないということを示しているわけか」
「まあ、その通りです。とはいえ、あったら便利なものですし、こういう時は特に。眠気とかも取ってくれますからね。あと、メノウには栄養ドリンクのことは言わない方がいいですね」
「む。メノウ君は栄養ドリンクと何か因縁でも?」
「メノウはそれだけ仕事が激務だったというわけですよ。連日栄養ドリンクを飲んで24時間働けますかって」
「24時間って休みなしですよね~。俺メノウさんが疲れていると思ったから、栄養ドリンク渡そうと話したら怒られましたし」
死ぬまで働けってことかって。
ものすごい顔で言われたんだよな。
メノウさんも美女なんだけど、怒ると怖いんだよな。
セナルさんは仕事ができるキリっとしたタイプだけど、メノウさんは笑顔の迫力があるタイプなんだよな。
「ああ、それは確かに栄養ドリンクにいいイメージは無いだろうな」
「ですね。私の時にも同じようなことがありましたからね」
どうやら、ソウタさんも栄養ドリンクは同じイメージがあるんだな。
まあ、24時間働けることは良いことだみたいに言われていたけど、働く当人たちにとってはたまったものじゃないだろうしな。
「で、栄養ドリンクってことは、スーパーラッツにでも行くんですか?」
栄養ドリンクを置いているところと言えば、地球の物資を扱っているスーパーラッツしかない。
それとも自作の栄養ドリンク?
どっちも信用できないな。
「それを考えていたんだけど、今の話でイメージ悪いし、喫茶店にでもいくか? コーヒーとか」
ああ、栄養ドリンク以外にも目覚ましはあるのか。
しかし、コーヒーか……。
「って、いつもの喫茶店開いているんですか? 今日年末ですよね?」
ユキさんたちが出資している店舗は個人店舗に近い。
大きい商会がついているところは開けるが、年末年始は休むところもままある。
「稼ぎ時だしな。ちゃんとそこらへんは調整している。休みを後日多めに与えているし、給与も多くしてる。マスターはゆっくりコーヒーの香りに囲まれたいってタイプだしな」
「ああ、あまり騒がしいのは苦手って感じですね」
「気持ちはわかる」
「人ごみにわざわざ行く必要はないですよね」
ということで、俺たちはプレゼント選びの前に目覚ましでコーヒーを飲むことにした。
カラン。
「いらっしゃいませ。おや、ユキ様たちではないですか。明けましておめでとうございます」
「マスター、明けましておめでとうございます」
俺たちも倣って、マスターにあいさつをする。
新年のあいさつはどこでもするものだし。
いや、こっちは異世界だし、それが建国したウィードとはいえ根付いているってすごいか。
と、そんなことを考えつつもいつも座っている位置へ。
カウンターではなくテーブル席へ。
今日は4人もいるからな。
とはいえ……。
「新年からお越しいただけるとはありがとうございます。奥様やご息女さまたちは?」
「ああ、今日は別行動なんだ。あとで来るかもしれないから、よろしく」
「なるほどご友人たちとというわけですね」
「新年からお世話になります。でも、そこまで人は入っていないんですね」
稼ぎ時とは聞いていたのに、そこまで人はいない。
俺たちのほかに3名ほどカウンターでのんびりしている客しか見えない。
「ああ、深夜はそれなりにいたのですが、皆さま日が昇ってから出かけられましたね」
「なるほど。ピークは過ぎ去ったわけですな」
「ええ、例年通りなら3時頃にもう一度という感じですね」
「休憩の時間帯ですね。と、おしゃべりばかりでは迷惑ですね。コーヒーのブラックを。目覚ましをかねていまして。みなさんは?」
「同じでお願いします」
「俺も同じで」
「私も同じでお願いします」
「はい、かしこまりました。少々お待ちください」
そういって、マスターは下がっていく。
いつものように、粛々とダンディはコーヒーの仕事を始めていく。
新しく挽いた豆の香りが部屋に充満するのがわかり……。
「いい香りだな」
「ですね~。これは目が覚める」
「ああ、こういうのが良い一杯というやつなんだろう」
「ええ、気持ちが落ち着きつつ、目が覚めてきますね」
とまあ、こんな優雅な朝の一杯を待つ、新年の朝なのだった。
コーヒーの香りってそういう場所にいくとよりわかりますよね。
「あ~、コーヒーの良い香りだ~」って。
まあ、その良さがわかるまでは随分かかりましたが。
と、新年あけましておめでとうございます。




