第1905堀:北部の情勢を聞く
北部の情勢を聞く
Side:セラリア
『すまないなユキ殿。思った以上にクリアストリーム教会を押さえた結果が面倒だった』
そう言って開口一番謝罪をするのはギアダナ王国のトップである王その人だ。
普通なら外交的にもまずいので謝るなどということはしないのだけれど、これに関しては……。
『陛下、一応小言を言いますぞ。そういう謝罪は……』
『わかっているわかっている。表で言わぬ。ここだからこそだ。まったく、普通に待たせれば謝るところだろう。それすら簡単に出来ぬとか面倒だ』
『はは、それはよくわかります』
夫もギアダナ王の言葉に同意する。
夫は元々一般の出だからそっちよりなのよね。
というか、私もそういう窮屈なのは嫌い。
まあ、でも人の上に立つものとして簡単に頭を下げられないというのはわかるけど。
と、そこはいいとして、昨日の夜、ロックやキナを招いてわざわざ飲み会を開いたのはミリーも含めて冒険者ギルドの頑張りを労わる物かと思っていたけれど、思いもよらぬ、いえ、考えなければいけなかったことがあるということを思い出させた。
「まったく、力っていうのは面倒ね。どんな形でも」
「ええ。その通りです。とはいえ、ここまで深く食い込んでいる例も珍しいですが。ここまで力をつける前に、頭を抑え込むものですよ」
私の言葉にクアルがそう答える。
「確かに。商会や冒険者ギルドなんかの財力、戦力が集まるところは、国だって基本的に目を光らせているわ。過ぎれば力を削ぐように動くけれど。それができないぐらいに混乱しているとみるべきね」
「まあ、そうですね。とはいえ、確定している話ではないですが。ギアダナがどこまで情報を握っているか。陛下はどう考えて、いえ予想しておられますか?」
「正直、ギアダナ王国がクリアストリーム教会とは仲が良くないのは周りに知られていることを考えると、情報を集めるのは難しいんじゃないかしら? イアナ王国はともかく、冒険者ギルドやクリアストリーム教会はギアダナ王国内でのことは連絡が行くだろうし、情報封鎖というか都合のよい情報になるんじゃないかしら?」
「可能性は高いですね」
クアルも私の説明に頷く。
結局の所、元からギアダナ王国は孤立気味だったから、そこらへんの情報は信用できないのよね。
そういうのもあって、情報をこちらに流すのをやめてたというのが濃厚なのよね。
と、そんなことを考えていると夫とギアダナ王の話が進む。
『さて、イアナ王国の話だったか?』
『ええ。まあ、クリアストリーム教会を押さえて分かったことがあればまた教えていただいてもいいですよ?』
『そう簡単にはいかん。既にエナ殿には伝えているが、結局得られた情報は亜人たちを拷問して、そこから得られた魔力が潤沢な血を魔石にかけることにより、魔力が豊富な魔石を作り出すということだけだ。それを何に使うか。何の目的があるのかはさっぱりわかっていない』
『ですな。運がよかったというべきか、不幸というべきか、その拷問を行う場所、教会は限られているということですな。それで各教会に亜人が集められ輸送されていると』
そう、それが分かったのは僥倖だったわ。
おかげで全部の教会に踏み込んでぶっころをしなくて済んだのだから。
『ええ、聞いています。それで、その輸送を阻止したことは?』
『既にある。これも幸いというべきか、不幸というべきか悩むところだがな。ちょうど、ギアダナ王都の教会に輸送中の馬車を見つけた。護衛は少数で教会の神官が二人ほど。なのであっさり制圧できた。人数は3人』
『状態は?』
『幸い、拷問を受けた様子はない。とはいえ、無理に連れてきたのか所々ケガがあり、精神的にもよろしくはない』
『そうですか……』
うん、聞いていて全然面白くないわね。
むしろ、腹が立ってきたわ。
『保護した者たちは?』
『今は、私の隠れ家の方に匿っている。流石に王宮では目立つからな。とはいえ、クリア教会に送ることも出来ん。そんなことをすれば……』
『ドドーナ大司教が怒りそうですね』
『ああ、飛び出してクリアストリーム教会へ単独で殴り込みに行きそうだ』
そうね。
あの人なら、自分で殴り込むことぐらいは簡単にしそうね。
私も騎士団を率いる身だった時ならば突っ込んでぶっ潰しているわ。
『で、その保護した亜人たちはどうするおつもりで? そちらにいるという亜人が治める町へでも?』
『そこが悩みどころだ。護衛を露骨に出すわけにもいかないが、この王都に置いておくのは不味い。かといって、護衛が少なければまた襲撃に遭う可能性もある。それに、長距離移動に耐えられるか……』
『長距離? そういえば亜人の町というのはどちらに?』
そういえばそうね。
詳しいことは聞いたことが無かったわ。
『それに関してはあえて秘匿しておこう。亜人の協力者というかギアダナ王国に忠誠を誓っている者だからな。ユキ殿たちを信用していないというわけではないが、知らない方がお互いにいいだろう』
まあね。
知っていれば確認したくもなるし、その分人が動くということになるし、そこからバレる可能性もあるわよね。
『わかりました。確かに、お互いを信用していますし、そこを訪れるのは平和になってからでいいでしょう』
『ああ、それで頼む。と、話がそれたが、結構そっちも一杯一杯なんだ。ギアダナはもちろん、他の国から逃げてきた亜人も多くてな。物資の方も一杯一杯だ。そういう意味でも送るのは難しい』
『では、どうするのです?』
そうね色々説明してくれたけど、一番大事な被害者の身柄をどうするかというのが語られていない。
『それでだ。情報かく乱の意味も込めて、そちらに引き渡したいと思っている』
来たわね。
今までの話を聞けば当然と思えるかもしれないけど、国と国のやり取りでいえば、はいわかりましたと言えないのが難しいところなのよね。
ウィードとしてはそこまで問題はないとしても、ギアダナ王国側に便利に使えると思ってもらっては困るのよ。
こっちも国を背負っているからね。
大陸間交流同盟の国々も下手な対応は不満に思う。
『お話は分かりました。それなら引き受けましょう』
だけど夫は特に文句をいうことなく、素直に受け付ける。
『おお、それはありがたい。では、受け渡しの手段は……』
『そうですね。エナからエノラに連絡してもらえればこちらで引き受けましょう』
『わかった。この借りはいつか返す』
『ええ、今は事態を治めない限りは難しいですからね。ああ、それでお聞きしたいイアナ王国のことですが』
『おっと、そっちが本題だったな』
……うわ~。
「ユキ様。しれっと先ほどの話を流したかと思えば、相手の弱みにしましたね」
「そうね。とはいえ、そこまで悪辣な要求はしないと思うけれど、今の流れで宰相が口を挟むわけにもいかないし、苦虫を嚙み潰したような顔をしているわよ」
「力関係、上下が分かっているならやりようがあるでしょうけど、ウィード相手にはそれはないものね」
「ええ。受け渡した物資でこちらの力は多少なりとも把握しているでしょうし、何を要求されるかと冷や冷やしているでしょうね。とはいえ、それが分からないような王とは思えませんが」
「まあ、そうね。あのギアダナ王は相応にやり手だと私も思うわ。それであの言動というか、素直にこちらを頼ったというのは、色々読み切ってはいると思うわ。でも、宰相としてはっていうことでしょうね」
「ですね」
クアルと話したように確かにギアダナに舐められるのは避けたいが、かといって、ケガ人の亜人を引き受けたぐらいで何を要求できるかって話にもなるのよね。
変に要求して敵対するのは避けたいし、何かをもらうにしても面倒なものを渡される可能性がある。
例えば末端のお姫様とか。
……私たちが夫に近づくために使った手だし。
お金がない場合そういうモノになりがちなのよね。
ああ、そういうのが来そうだから、落ち着いたときに交渉をしたいわけか。
凄く納得したわ。
『それでイオア王国のことだが、基本的にギアダナ王国より北部に位置する国で、魔物の被害が大きいというのは話したな?』
『ええ。伺いました。それでクリアストリーム教会の動きも活発で、冒険者として私たちの部下もかかわりができるのではないかと』
『その通りだ。まあ、そっちに関してはドドーナ大司教の協力もあり、相応の立場があり、後は成果を上げるだけだから、向こうの頑張りに期待だ』
『ええ』
『で、聞きたいのはそっちじゃなくてイオア王国の話だよな?』
『はい。冒険者をどこまでの規模であつめているのかとか、そこまでの状態の国は内情はどうなっているのかとか』
そうなのよね。
イオア王国の情報は基本的にギアダナ王国からしかない。
その情報はエナやエノラの部下が集めてくれているが、遠くの他国のことで、魔物が強力でキツイ土地だというぐらいしかわからない。
ある程度の有力者や商人などは情報の価値と使い所を心得ていて、そこから得られるのもあまり変わらない。
つまり、魔物が強いというのは間違いない。
なので、一番イオア王国のことを知っているのはギアダナ王国しかない。
つまり貴族、国政に関わっている人物。
つまり、王や宰相が一番情報を握っているってわけ。
まあ、誤情報を送ってくる可能性もあるけど、この際仕方がないわよね。
『当然気になる話だな。そっちでも調べたとは思うが、どういう情報が出てきた?』
『こちらは全然。流石に短期間で有力者と繋がりを持つのは無理ですし、一般人からの情報で、冬が辛いことと、魔物が強力なことぐらいですね。あと、国としてはそこまで大きくないぐらいでしょうか?』
『そうだな。イオア王国というか、北部の国は全体的に小さい。理由は魔物の被害だ』
『北部の国は各北部、というか魔物が出る地域を一国で一つ持っていて、中央のファイアナ王国が支援をすることで保っているのです』
ん? どういうことかしら?
『よくわからないのですが、北部の中央に、小さい国を支援するための大きな国が存在すると思っていいのでしょうか? しかし、小国に分ける意味は?』
そうよね。
一つにまとまっていれば、命令系統は一つになるし、もっと支援も楽になるはず。
『元々魔物と戦っていた国々でな。自国は自国で守るという意思が強い。かといってお互いを攻めるかというとそうでもないのだ』
『お互いが崩れれば、そのまま戦線の崩壊につながります。誰がそこを補填するのかという話が出てくるのですから』
『なるほど。一応お互いの存続が自分たちの身を守ることになっているのは理解しているのですね』
あ~、プライドがあるわけか。
無いわけじゃないわね。
というか、あってしかるべきか。
「これ? 根が深くない?」
「もとより、戦力化していた亜人を排斥しているぐらいですから、よほどですよ」
そっか。
元々面倒なのは間違いないわね。
というか、イオア王国とは別に北部の中央国ファイアナってのが出てきたわね。
一体どう絡んでくるのかしら?
中央は落ち着いているのですが、北部は最前線という感じでしょうか。
まあ、詳しくはこれから。
一体何がどうなっているのか。




