第1904堀:力を持つのは国だけではない
力を持つのは国だけではない
Side:クリーナ
「ということで、これからユキのサポートに回る」
「よろしくお願いいたしますわ」
私はサマンサと一緒にそうユキに言う。
「ああ、忙しい中悪いな」
「気にしないでいい。元の護衛に戻っただけ」
「そうですわね。それに向こうは会議ばかりですから」
そう、のんびり会議ばかりしている阿呆がわるいだけ。
私たちは本来のユキの護衛に戻る。
それだけの話。
「やっぱり、新大陸に送り込むってなると時間はかかるか」
「……ただのんびりしているだけ」
「クリーナさんの言葉は否定したいのですが、まあ、余裕が出来たとは思っているでしょう。何せ新大陸です。そちらに送り込むとなると生半可な人物では務まりませんし、下手すると戦争案件ですから」
「やっぱり新しい土地って大変なんだね」
リーアの言うように新しい土地というのは及び腰になるらしい。
いや、私も気持ちがわからないでもないけど、あまり時間をかけてもよくないし。
「一応調査は進んでいるんだけどな。荒野で100キロ範囲だと微妙なんだろう」
「確かに、それは狭い気はする」
「隣国が100キロ圏内というのは、まあ珍しいですわね。国境の管理とかもあるでしょうし、今後の展開を考えるとやはりもっと情報が欲しいですわね」
そこから進出しないのであれば100キロでもいいかもしれないが、各国そんなことは望んでいない。
そこを足掛かりに南部を占領したがるに決まっている。
あるいは、オーエを超えて北部や最南端、あるいは海側を目指す連中もいるだろう。
そうなると場所はかなり重要。
つまり、もっと情報がいる。
「それに、北部の方々が何を考えているかは気になるところですし」
「ん。ヴィリアたちを利用しようとはふてえ野郎だ」
「いやいや、別に私たちだけが利用されているわけじゃないからね? 向こうも向こうで考えがあるんだと思うよ。ねえユキさん」
「ああ、こっちを嵌めてもあまり意味がないし。クリアストリーム教会を実際に押さえたしな。昨日ロックと話したように、不確定な情報を俺たちに渡して不信感をもたらしても問題だしな」
「まあ、それもありますわね。とりあえず、昨日のお話でギアダナ王に話を聞くのですよね? それに同席させてもらいますわ」
「同じく」
そして、南部もそうだが北部もいまだによくわかっていない。
いや、まあ、ギアダナ王国と関わりが出来たことだけでも喜ぶべきことだが、それでも多くの情報を集めておくというのは悪いことではない。
特にヴィリアたちが向かう予定のイアナ王国についてだ。
「そういえば、イアナ王国の話を聞こうとして、軽く聞いたあとに、教会襲撃の話になりましたからね」
「そうなんだよな。まあ、思ったよりも予定が前倒しになったから仕方がないんだが。今回はしっかり聞いておこう。とはいえ、さわりで魔物の被害が大きいから冒険者ギルドとしては送って成果というか被害を押さえたいって話だが」
「それはやっぱりおかしな話ですわ。冒険者ギルドが冒険者を集めるというのは、ロガリやズラブルでは戦力の集中です。ハイデンやイフでいえば傭兵に招集をかけているのと変わりません。つまり、イアナ王国では対処できないと言っているようなものですわ」
「ん。国の恥をさらしているともいえる。冒険者ギルドがかってに集めていると言っても、民衆の守りを任せているのは間違いない」
政治をよく理解していない私にだって、そのあり方がおかしいというのはわかる。
国を守るのは兵士の仕事だ。
それを冒険者を集めることで補うというのは、まあ、ないわけではないけれど、常時あってはならない。
それはつまり、国の力がないということの露呈だ。
「そうだな。二人の言う通り、クリアストリーム教会も関わっているかもしれないし、それを考えると、国の名声よりも冒険者ギルドの方が力が強いみたいなことがあってもおかしくはない。あ~、そこら辺も聞かないとな」
ユキは何かに気が付いたようで、あちゃーって感じで顔に手を当てている。
「どういうこと?」
気になったので私は理由を聞いてみると、隣にいたサマンサも苦虫をかみつぶした感じで説明をしてくれる。
「ユキ様がそのまま仰ったとおりですわ。イアナ王国に限らず、魔物に対する力を持っている冒険者ギルドはもちろん、クリアストリーム教会は下手をすると国をそのまま乗っ取っている可能性もあるという話ですわ」
「……そんなことある?」
一組織が国を乗っ取る?
余りイメージがわかなくて首をかしげる。
「実際、北部でのクリアストリーム教会は大きな力をもち、ギアダナ王国へ亜人を差し出せという旨の勧告を行っていましたわ。普通ならありえません。まあ、クリーナさんが疑問を持つのはもっともですわ。別に町や村の運営をするわけではないですから。物理的な力と発言力を持って国に対して発言力を持つと言えばわかりやすいでしょうか? 大きな商会とか言えばわかりやすいでしょうか」
ああ、お金をもって各地の商人と繋がりがある商人などは領主でも気を遣うっていうのはよくわかる。
それの武力バージョンって感じ?
「なるほど。つまり、今後は国が冒険者ギルドやクリアストリーム教会の傘下であるかどうかも注意しないとってこと?」
「そういうことだな。クリーナも指摘したようにイアナ王国としては、冒険者ギルドやクリアストリーム教会を全面に出すことは避けたいはずだ。あくまでも主軍はイアナ王国主導でってしないと、国のメンツにかかわる。だが、それが違うとなると、クリーナのいう通り、冒険者ギルドやクリアストリーム教会が国の実権を握っているってわけだな。だから、気を遣うわけだ」
交渉相手が増えるっていうのはあまりよくない。
とはいえ、向こうの情勢としては仕方がないのかな?
そこまで考えて、昨日の夜にロックたちと話していたことを思い出した。
「なるほど。ユキは昨日ロックと話していたのはこのこと?」
「そうだ。冒険者ギルドとしては素直に頷くわけにはいかないけどな」
「なるほど。ミリーとかは否定したいよね~」
「飲み会の場で無ければ公式な話ととられかねませんし、あの場でなければ話せませんわね。冒険者ギルドが国をこき使っている可能性などと」
サマンサの言う通りだ。
そんなことを冒険者ギルドの執務室でうっかり話してしまえば、冒険者ギルドは国を狙っていると言われてもおかしくはない。
まあ、ロックもそういう明言は避けていたし、ミリーやキナもそれを口にするわけないよね。
「まあ、そういう事情があるわけだ。正直ミリーにも同席してほしいところはあったが、久々に大仕事終えての休みだ。映像記録だけでも十分だろう」
「……ん。ミリーは大変だったし、休ませておくべき」
「ですわね。何のための打ち上げでの飲み会かわかりませんわ」
「だね~。ミリーは今まで頑張ってきていたんだし、休ませた後で合流してもらえばいいよ」
ミリーを休ませるということは、全員一致の意見になった。
ミリーの方は冒険者ギルドとの調整っていう物凄い大仕事。
外交も大変だけど、ミリーの冒険者区代表も生半可ではない。
それに、私たちとは違い、後継というか、仕事を任せられる代わりがいないということ。
私たち外交官は国からの交渉人だから、姫である私たちより権限とか上への繋がりが薄くても、それでも代わりが務まるけど、冒険者ギルドとウィードの仲介となるとミリーの代わりになる人材がいない。
「……いい加減冒険者区の代表の後継を決めた方がいい。ミリーの仕事量がおかしい」
「そうですわねぇ。とはいえ、簡単に冒険者としての知識やギルドの運営、そして区画やダンジョンの運営ができるとなると……いるのですか?」
「私は思いつかないかな~? あ、キナ?」
「いえ、お言葉ですが、キナギルド長はグラス港町の取りまとめてで大忙しかと」
私たちの会話にプロフが珍しく口を挟んでくる。
私たちは全然気にしていないんだけど、プロフはそういう上下をしっかりしているから、全員が思わず驚いて視線を集める。
「許可のない発言失礼いたしました」
「いや、別にそういう許可がいる場でもないから気にしないでくれ。それで、プロフの意見は?」
ユキも当然口出しを気にしている様子はなく、その理由を聞く。
「はい。キナギルド長とは私も懇意にしていますが、その忙しさは私たちと同等と言っていいでしょう。ミリー様との会話では、大したことはないとは言っていますが……」
「ああ、わかっているよ。キナもシスアとソーナといった俺たちを含めたウィードの重鎮とは懇意にしているから、そこまでないかもしれないが、ほかは別だしな。グラス港町のギルド設置に関しては冒険者ギルドの邪魔が入ったようだしな。自力で集めろってさ」
「ああ~、聞いた。無茶苦茶だよね~。キナの伝手でとか……」
リーアも思い出したのか呆れたような声を出している。
私も同じ意見。
あの規模の組織で自力で人を集めろとか、無茶が過ぎる。
自力で小さなお店をつくるとはわけが違う。
「ま、冒険者ギルドも組織が大きい分、その手の内部勢力争いがあるわけだ。キナはウィードの関係で選ばれて恨みを買ったってわけだな。ということでキナを選ぶことはない。悪いなリーア」
「いえいえ、無理だなってのはわかっていましたし。でも、ミリーの後釜、本当に考えておかないと大変ですよ?」
「まあな。そこはロックが引き上げかって思っているけどな」
「ロックさんですか。そうなるとウィードの冒険者ギルドは別の方ですか?」
「それが無難かと思っているし、いい加減、完全な身内でウィードをまとめるのは無理があるしな」
その言葉に、私たちはびっくりする。
そうサマンサやプロフも含めて。
「ユキ様、それは……今までわざとやっていなかったのでは?」
サマンサが意を決してそう口を開く。
「まあな。とはいえ、飛び地は沢山あるしな。アーネスが領主のベータン、キャサリンが領主のバイデ、そしてシーサイフォのカース」
最後のカースは冒険者であることを考慮して領主に就かなかったんだとは思うけど……。
「あはは、もうカースさんというか、モーブさんたち領主ですよね?」
リーアがそれを指摘する。
「本人が嫌って言っているからな。あくまでも代行だ。ああ、グラス港町のシスアとソーナもある。それでも元々各代表は以前から次世代に代替わりしている。警察に商業、農業、鍛冶、だから冒険者区の代表が変わっても何も問題はない。どこまでかかわらせるかってなると、ロックなら信用できるしな」
「確かに。よくよく考えれば今更という感じですわね」
「そう。まあ、深く俺の目的というか魔力枯渇を探るのには、今までほぼ身内で当たっていたが、ロックなら混ぜてもいいだろうってな」
確かに。
ロックは国によらず、相応に人脈もあるだろうし、その知識も侮れない。
それを引き込めるというか、魔力枯渇云々は元々国家には伝えている程度には知らせているし、神様関連も知っている……。
あれ? ほぼ知っているから、取り込む方が良い?
「ま、そこはいいとして、ギアダナ王にイアナ王国とか冒険者ギルド、クリアストリーム教会の立ち位置を改めて聞くぞ。皆、準備を」
「「「はい」」」
こうして、ヴィリアたちの安全を図るため、改めてギアダナ王国から情報を集めるのに動きだすのだった。
力、権力とかいうと国とか政治家って思い浮かぶのですが、それを支えているモノも意外と強かったりするんですよね。
企業とか? 武力を持った何かとか?




