第1902堀:冒険者の仕事は一旦一区切り
冒険者の仕事は一旦一区切り
Side:ミリー
「あ~、疲れた」
私はそんなことを言いつつ自宅である旅館へと戻っている途中。
今日も夕食ギリギリ前で、日が暮れてきている。
まあ、昔はギルドの宿舎に泊まっていたから、その時よりは遥かにマシなんだけど……。
「まあまあ、旅館でごちそうにお風呂が待ってるんだからいいじゃん」
「キナはよくそんな言葉がでてくるわね。受付をやっていたころより仕事は爆増しているでしょうに」
そう、受付も決して楽な仕事ではないけれど、長としての仕事もやっぱり馬鹿にできない。
いつも書類仕事はもちろん、偉い人たちと話し合いはあるし、交渉事もある。
その長であるギルド長に就任したキナがそういう言葉が出るのは意外だ。
「まあね。とはいえ、ミリーがウィードのダンジョン区画の代表になってから副ギルド長になってたし、ウィードほど面倒もないからね。グラス港町は」
「そうなの?」
「そりゃそうだよ。何せ、ウィードみたいに山ほどあるダンジョンの管理をしなくてもいいし、冒険者の管理とその利用施設との打ち合わせが主だしね。私にとっての権力者ってさ、ユキさんやセラリア、ミリー、直接的にはシスアとソーナだしね。気が楽だよ」
「ああ、そういうこと」
確かに、グラス港町は近場にダンジョンは存在しておらず、その手の管理の煩わしさはないし、一番面倒な権力者との話し合いなども、基本的に見知った相手で、そこまで緊張する必要はない。
一緒に町をつくるのに手を尽くしてきたも同然だしね。
とはいえ……。
「冒険者ギルドとしての動きは大変でしょうに。周りは基本的に強力な魔物がいるし、その被害が出ているっていう話は聞いているわよ?」
そう、決して冒険者ギルドとしては楽な土地ではないのよね。
海が近くというか、隣接しているので、魔物が強く、人の手も入っていない場所には、いまだに見たことのない魔物との遭遇報告というか、軍が掃討をしたときにかなりの報告が上がっている。
基本的には良く見知った魔物の亜種に近いのが多いけれど、海から上がって陸地で活動している初めて見るタイプもいる。
シーラちゃんたちよりは弱いけれど四足で地上を歩き回る魚は意外と強く、そして見慣れていない分隙をつかれやすい。
それは冒険者たちも同じだ。
というか、軍のように数で押すわけでもなく、少数パーティーでの動きがほとんどなので、被害が出やすいのよね。
「そうだね。怪我は酷いけど、そこに関してはリテア教会とウィードの病院があるからね。ウィードとしても優秀な冒険者が死傷したら評判に関わるし、支援しているでしょ?」
「そりゃね。グラス港町が危険地帯なんて評判が広がると困るし。とはいえ、別に魔物の危険性がないという話ではないのよ? ちゃんと料金はもらっているし、それは教会も同じよ?」
キナの言う通り、港町の魔物が強いから怪我を考慮して、グラス港町で活動する冒険者たちには相応の環境を用意している。
治療もその一つだ。
海に住む魔物や新種の魔物相手に怪我無しというのは難しいし、これから海の魔物と戦う経験を積んだ貴重な冒険者を増やすためという目的があるためだ。
とはいえ、今言ったけどただじゃない。
欠損とかはエクストラヒールを使わないといけなくて、ウィードでも相応に使える人が増えたとはいえ、簡単に行える回復魔術じゃないし、金額も安くしているとはいえ、簡単に払える額でもない。
「それぐらいわかっているよ。それでもってやつだよ。それに魔物が強いから冒険者は初心者じゃなくて、相応に実力があるメンバーをって言ってたでしょ?」
「そりゃね。初心者なんて連れて行けばあっという間に死んじゃうわよ。それだけ海の魔物は強力なんだから」
「だからだよ。相応に収益もあって、生き残って経験を積んだ冒険者だから、怪我をしても治せるだけの収益もあるし、収入も見込める。そんなこと言い出したら、ほかの冒険者も冒険なんてできないしね」
「確かにそれはね」
冒険者なんて、とは言い方は悪いが、すぐにコロっと死ぬ職種だ。
一攫千金とか冒険譚で夢があるように見せてはいるが、そんな例外になりえるのはほんの一握りだ。
いや、ユキさんも言ってたっけ?
どの職種でも、噂になるような人になるのは一握りで、ほかが地道に積み重ねているのが大事だって。
「だから、対応としては普通の冒険者ギルドと変わらないんだよ。ただちょっと冒険者ギルドの治療とか魔物退治のための情報開示などが良いだけなんだよ。まあ、その分別の作業があるから、ギルド職員は大変だけど」
「なるほどね」
キナからの説明で、思ったよりもグラス港町の方は安定しているのだというのが納得できた。
「そういうミリーもウーサノとアーエの後始末に動いているみたいだけどさ、結局どうなったの?」
「ああ、あれね。もう、冒険者ギルド本部預かりってことで決着ね。ごまかし作業もようやく終わったところよ。あと残るのは最果ての村の移住に関してね」
「あったね~。あの人たちは新大陸に移動していた人たちがいたんだし、放置はできないんだっけ?」
「そうよ。下手に情報を拡散されても困るし、ウィードに来ないかって話になっているんだけど、老人方がこの土地に身を埋めるって言っててね。まあ、あの土地に封じられた責任というか、そういうのがあるみたい」
「難しいね~。子供たちというかそういう人たちは移動していいって言ってるんだよね?」
「ええ。子供たちまで巻き込むつもりはないみたい。でも、見捨てる方もつらいからね……」
寂しく終わることを大人しく家族が見過ごせるわけがない。
「ま、時間の問題でしょう。とはいえ、思ったよりもしぶといって言い方は悪いけど、時間が経っているのよね」
そう、ご老人たちを説得するとは言っているが、難航しているようなのよね。
「何か問題があるのかな?」
「そりゃ、気持ちの問題でしょうね。いくら最果てのとか言われて見捨てられていた場所でも、自分たちで切り開いた家や畑があるんだし、そこを最初から関わっていた人たちならそう簡単にね……」
「まあ、それはわかるけど、ほかにないの? 説得されているんだし、何か王家からの追手があるとか?」
「ああ、そっちの方は、魔物で全滅したって偽装をする予定ね。とはいえ、もう30年も前だから、最近では年に1度あればいいぐらいみたいだけど」
もうほぼ見捨てられているのよね。
いや、あの場所で再起なんて無理でしょうけど。
「適当だね。やっぱり気持ちの問題かな?」
「多分ね。とはいえ、気になることはあるんだけど」
「それは?」
「ほら、誘拐事件は基本的に新大陸に召喚されたってことで決着はついているけど、若い子が一人行方不明のままなのは知っているわよね?」
「あ、確か唯一目の前以外で行方不明になった子供?」
「そう。森に入っていなくなったから、魔物にやられたってことにはなっているんだけど……」
「ダンジョンを改装した、研究所みたいなのがあったよね?」
「あったわね」
あのおかげで、こっちもダンジョンマスターではなく他国の侵略という線が濃厚になったのよね。
そして、行方不明の子供も攫われたという線も出てきた。
とはいえ……。
「新大陸の問題とは別に、スアナの町でギルド職員の救援要請と疑似的な大氾濫とか、本当に……面倒でしかないわよ」
「あれはね~」
本当にアレは洒落にならなかった。
おかげで、ウィードが口を出す権利を失ったし、ニーナたちを派遣することになったもの。
「そういえば、あれから動きは?」
「表向き村が魔物に襲われたって領主側は言っているわね。関係者は揃って口をつぐんでいるわ」
「そりゃそうでしょ。堂々と話せることもないし。下手すると国が出てきて隠ぺいするでしょ。ことがことだし」
「そこなのよ。おかげでこんな後始末よ」
下手するとギルド職員を巻き込んだ大氾濫が起こって、そのあと出兵をして魔の森の制圧にってのが向こうの予定だったからね。
国からすれば、領土が増えるいい機会だったわけだし、そんなことを容認したと思えば、評判も落ちる。
つまり、表ざたには絶対にできないから、隠ぺいに走る。
だからこそ、ここだけの話で、ただの失火。
裏では私たちが潰したんだけど、お互いそうするしかないってやつ。
おかげで継続監視とか敵がどう動くとか、こっちも大変になったわけ。
「それも今日で終わりだけどね」
「ああ。大まかな仕事は終わったっていってたよね。残るは移住問題か」
「そこはどうしてもね。とはいえ、だから今日はキナも連れてってわけよ。さんざん迷惑をかけたしね」
グラス港町のギルド支部立ち上げはもちろん、ウーサノでのトラブルでも手伝ってもらったし。
そういう意味もあって、キナを連れて家に帰っているというわけ。
「まあ、キナなら個人的に来ても別にいいけど」
「実際来ているしね。ユミちゃんにも覚えられたし」
「ユミも喜んでいるからありがたいけど、あまり構っていたら疲れるわよ?」
正直子供をかわいがってくれるのはありがたい。
でも、子供のパワーってすごいのよ。
こっちが疲れるのよね。
なんか仕事や訓練とは別の疲れというか……。
「あはは、子育ての苦労だね。私はたまにだからいいんだよ。それに旅館で相手するだけだし、ずっと見て回るわけじゃないし」
「そう? こっちとしては助かるんだけど」
そう、キナとかほかのお客さんが家に来るとユミはもちろん、ほかの子供たちが意外とお客さんの方に行くのよね。
まあ、甘やかしてくれるっていうのもあるからでしょうけど。
それでもすごく助かるのよ。
「いいよ。このキナお姉さんに任せておきなさい。まあ、すぐに寝ちゃうしね。そのあと美味しいお酒をいただきましょうか」
「そこはまかせて。おつまみはユキさんが作ってくれるし、あのお店スペース開けてくれる予定だし」
「うわ。ほんと? 焼き鳥とラーメンいける?」
「行けるわよ」
「やった!」
「なんか一番喜んでない?」
「喜ぶよ。普通は店員さんとか混み具合、時間、そして財布と相談しないといけないけどさ、旅館だと気にしなくていいでしょ?」
「まあね~」
あの店舗はそのまま横になれるようにカウンターだけでなく、畳が敷かれた大きいスペースがあり、酔いつぶれてもそのまま寝れるように整えてある。
普通はありえないんだけど、我が屋店舗だからできることだ。
贅沢よね。
「そのあとお風呂、そして飲みなおす。いいよね~」
「一応飲酒してお風呂は基本なしよ?」
溺れたりってあるからね。
「でも、のめるんでしょ?」
「まあ、ね」
そこらへんは穏便にしてもらっている。
ほかのメンバーも一緒に入るだろうし。
「仕事が終わったんだし、明日も休み。ぱーっといこう」
「それもそうね。パーッといきましょ」
仕事が終わって明日休みとかは本当にぱーっとやりたいですよね。
給料日の後の休み前とか。
花の金曜日っていいますもんね。




