第1886堀:位置と数値が指し示すもの
位置と数値が指し示すもの
Side:コメット
「……ふーん」
私は最近新大陸などの新環境が発見されて、あれこれデータ解析に回っている。
そのおかげというべきか、現場に赴くことはめっきり減って、こうして研究室で持ち帰られたデータの解析ばかりというわけだ。
「どうだ?」
私がデータを眺めている横でユキがそう聞いてくる。
とはいえ、私だって何でもわかる天才ではない。
「どうだって言われても、こんなデータがあるんだな~って感想しかでないよ。何せ、新大陸のデータも北部、オーエ王国がある大森林の中部、そして荒野の南部のことを知ったのはここ2ヶ月前後。それですべてを知ったと思うのはおこがましいからね」
「そりゃそうだ」
ユキとしても、何かびっくり発見があるとは思っていないようで、すぐにそんな答えが返ってくる。
「とはいえ、世界は広いんだな~って思うよ。台地と崖下でここまで環境が違うっていうのは驚きだし、ユキから聞いた地下に存在する昔の川、地下貯水とか、びっくりしたよ」
うん、これは素直な感想。
世界は本当に広いんだなって思ったよ。
横に広いとかじゃなく上下にも。
海とかではなく、本当に地面の下にはダンジョン以外にも大きな謎があるようだね。
「だな。それに関しては俺も同意だ。世界は広い、上に下に横に、ナノの世界から、光年って感じでな」
「別の世界もあるしね~。おかげで私は退屈しなくて済みそうだけど、まずは問題を解決しないとね」
「そうだな。コメットには迷惑をかけるが、ランサー魔術学院の大森林、ハイデン地方とズラブル地方を隔てる大山脈、そして海路に存在しているブルーホールの監視と、その他いろいろ多忙だと思う」
「うん。改めて主要な場所を言われてとんでもない量を任されているとわかったよ。というか、なんで間に合っているんだろうね? ああ、動きがないからか」
一人で言って一人で納得している私。
変な行動ではあるけれど、すごくしっくりする。
こんな精神安定方法があった気がする。
とそこはいいとして、今のところ、先ほど挙げた監視場所については、露骨な動きはない。
何せ、基本的に人は近寄らない場所だし、私たちが何かアクションを起こさない限りは、まず何かが起こるわけがないのだ。
だから、暇というと変だけど、私が一人で何とかなっているわけ。
「そういうことだな。動きがあればそっちに人を割くが、今のところは新大陸が優先だからな」
「それは当然だね。今一番危ういのあそこだし、興味深くもある。荒野とか崖下とか台地とかね」
「コメットはその手の環境は見たことないのか」
「ないね。幸いというか不幸というべきか、生まれ育ったイフ大陸はよくも悪くも平地と山がベースでね。崖下は……探せばあるだろうけれど、そういう気は起きなかったかな」
とはいえ、新大陸のように激しい環境の変化があるようなところはないだろうとは思うけど。
「ま、そんなもんだよな。気になるまでは興味のない物なんだし」
「そうだね。君が言うと本当にそうなんだと思うよ」
「いやいや、研究者たちの方がそういう視点が多いだろうに」
「まあ、ね。でも、ユキを見ていると、あらゆることに可能性があるって気が付かされてね。プラモとかゲームも」
「気に入ってもらっているなら何よりだ」
「うん、だからプラモの持ち帰りを……」
「増やせないからな」
ちっ、ダメか。
ユキたち、ガン〇ラの所持制限が決まっているから、複数持てないんだよね~。
いや、具体的には一人同じ機体は3箱までとなっている。
そうでもないと、私たちが瞬く間に取りつくすだろうと。
否定はできないけどね。
「はぁ、俺も気持ちはわかる。とはいえ、部屋をプラモまみれにしてヒフィーから怒られてただろうに」
「……そんなことあったね~」
私の部屋は別に大きいわけじゃないから、一室、プラモ部屋というかただのプラモ置き場に代わってしまい、怒られた。
「せめて、アイテムボックスの中にしまっていればいいのに」
「何を馬鹿なことを。あのプラモの山をみるのがいいんじゃないか。それを見ながら飲むお酒が美味しい」
普段はそこまでお酒は楽しまないけれど、あのお宝の山を見ながら飲むお酒は本当に美味しい。
作ったプラモを見て飲むのもまた同じぐらいに美味しい。
研究の時とは違う、あれが芸術をめでるって感じなんだろうね。
「それがわかるようになったか」
「まあね。って、そろそろ趣味の話は終わろうか」
「そうか。で、話の続きだが、全体を見ていたコメットは何か気が付いたことはあるか?」
「全体ね……。あると言えばあるけど、確証も何もないんだよね」
何の裏付けもない。
今のところでは情報が少なすぎるので何ともというのが正しい結論だろう。
でも……。
「気になることがあるんだな?」
「まあね」
私はそう言いつつ、研究室の大型モニターに世界地図を映す。
ルナが用意してくれた単独衛星写真だ。
いや~、ルナさんだったのに、今じゃルナと呼び捨て。
本人は気にしてないからいいんだけどさ。
と、そこはいいとして、次にボタンを押すと、世界地図に点が現れて、そこに数値が表示される。
「この数字は見たことがあるな? 場所は今まで俺たちが行ったことがある土地。なんだっけ?」
「ま、あまりこの数字は意味があるとは思われていないからね。覚えていなくても無理はないさ」
私はそういって一呼吸おいて、口を開く。
「これは、各大陸の魔力濃度の数字だ」
そう、この数字は各大陸の空気中の魔力濃度を表している。
とはいえ、数値上は物凄く乱高下しているわけではない。
各大陸の魔力濃度の差は小数点以下。
コップ一杯に対して、水一滴以下の違い。
それだけ。
でも、その一滴の違いを誰よりも知っているのは、私たちにこの知識を授けたとも言っていい、ユキという男。
その言葉の意味は誰よりもわかっているはずだ。
そして、この地図の意味も。
「……南下するにつれて、魔力濃度が下がっているな」
「その通り、でも、不思議なこととしては、ほぼ同じ緯度のロガリ大陸とイフ大陸に差異が存在していること。まあ誤差やただの環境のせいだってのも言えるけどね」
「そうだな。でも俺の目を引くには十分だ。あと、新大陸南部はどうだ?」
「そこはまだまだってところさ、とはいえ、南砦やオーエ王国との違いはあるよ」
そういって、私はさらにボタンを押すと、新大陸中央から南部の拡大画像に切り替わり、数字が表示される。
「……違いはあるな。ほかと同じぐらいだが、距離を考えれば大きな差か」
「そうなんだよね。距離にしてみればびっくりだ。確かに離れてはいるけど、ほかの大陸ほどじゃない。何せ陸路で数百キロってところだ。海を隔てているところは数千キロの差があるのにさ」
「不思議……というのは馬鹿か」
「いや、不思議で済ませた方がいい。今はどちらにしろ手が出ない」
私はそう結論を口にだし、画面を世界地図にもどし、ある点を表示させる。
そこは世界地図の南端、海洋に点が表示される。
「これが私が魔力濃度の差から、割り出した中心点。ここの魔力濃度がおそらく一番低い。つまり……」
「そこに魔力枯渇の原因があるかもか……」
「まだ、誤差はかなりあるし、周辺の調査と言っても地図の点の範囲でも100キロ単位になる。もうちょっと定点の観測が欲しいところだね」
その次に赤い点とは別に青い点が表示される。
これが私が調べたい場所だ。
ざっと見ても10カ所は存在する。
「北もあるな」
「そりゃね。北に進めば魔力が濃くなるかも確かめないといけないからね」
でも、ユキは顔色を変えず、真剣に北部を見つめて。
「そうじゃない。原因が北部にあるかもって話だ」
「え? それはどういうことだい?」
「コメットの言う通り、魔力が無くなっている場所が怪しいのはわかるが、集められた結果無くなったのであれば……」
「ああ、集まっているところもまた怪しいってわけか」
盲点だった。
確かにその通りだ。
魔力を集めたら空になるから、魔力が少ない場所が原因かと思っていたけれど、集めているのなら、魔力濃度が高い場所が怪しいという推測も間違いではない。
「そういうこと。まあ、普通は集めているとなると周りは無くなるって思うが、それは規模や方法の問題だからな。とはいえ、コメットの言う通り、それが当たりとは限らないが」
「だね。どのみち情報不足だし、南にしろ、北にしろ、いまだに私たちでは到達は難しいと言わざるを得ない」
何せ、どっちも海上を指し示している。
つまり、海を進まなければいけないということ。
空母や駆逐艦などで行けないことはないだろうけど、迂闊に行くという判断はできない。
船が不慮の事故でも喪失してしまえば、大損害だし、船を動かす人員も同じぐらいに換えが効かない。
十分に準備を整えて向かうべきだ。
或いは……。
「航空機が使えれば楽かな?」
「撃墜の危険がなければな。海路よりは危険は少ないとは思うが、空もどんな脅威があるかわからないからな~。それに偵察だけならともかく、本格調査となるとやっぱり上陸ができる艦隊がいる」
「確かにね」
上空から現場を見るだけならともかく、その場所を調査するのであれば、間違いなく拠点が必要になる。
海上となるなら空母とかの艦隊戦力が一番安全だろう。
「隠された土地とかがあるかもしれないし、そっちだと楽なんだけどな」
「そうかい? ルナでも見つけられなかった土地ってなると警戒しかないんだけどね」
「それはわかる。とはいえ、船も消耗品だからな~」
「ま、どっちもどっちってわけか」
何をもって有利とするか、前提条件は色々と変わるからね。
敵の陣地か、船か。
「ふぅ、とりあえずは今は話を詰めても仕方がない。情報が足りない。幸い、アスリンとフィーリアが新大陸の崖下を通り、最南端を目指しているところだ。そこでまた見えてくるものがあるだろう」
「それは間違いない」
魔力濃度を測れるんだ。
私やユキの見解、予測が正しいのか間違っているのか、どちらにしろ答えがある程度補強されるのは間違いない。
そして、ついでというと変だけど、新大陸の問題である魔王や魔物の大氾濫の正体もつかめるといいんだけどね。
「言わなくてもわかると思うが、今の話は俺だけにしてくれよ。みんなにはまだいうべきじゃない」
「わかっているさ。新大陸のことで忙しいし、ほかも落ち着いていない。ほぼ私の予想だけの話をして混乱させるわけにはいかないさ」
まだ、あくまでも予測の段階。
確定したわけじゃないし、この世界規模の魔力枯渇を起こしているなにかが存在するのであれば、それは生半可な物じゃないだろう。
ユキもそうだが、私も今の戦力では足りないと思っている。
空でも海でも、どちらを合わせても、分散している状態で攻略できるとは思っていない。
向かう時はウィードの総力で当たらなければってね。
ついに魔力枯渇の原因のしっぽを掴んだかもしれない。
とはいえ、まだまだそこに到達するのは先の話。
まずは目の前の問題を。
そして、今までの各大陸を巡ってきた意味はちゃんとあったという話です。
遠回りで無く、確実に到着するための手法だったという話。
とはいえ、目的地に着くのはいつになることやら。




