第1880堀:堂々と殴り込む
堂々と殴り込む
Side:セラリア
「……どういうことかしら?」
私はモニター越しに拳を振るい殺到するクリアストリーム教会の騎士たちをなぎ倒しているシーンが映っているのを見て、そう聞くしかできなかった。
「どうなっているんでしょうねぇ……。確かドドーナ大司教はクリアストリーム教会の方と話をして、ギアダナ王やダエダ宰相の騎士たちが証拠を押さえるって話でしたよねぇ?」
ラッツも困惑しつつ、隣でモニターを見つつ目を揉んでいる夫にそう聞いている。
「俺もよくわからん。とはいえ、流れはラッツが説明したとおりだ。まあ、音声から察するに……」
そう夫が言いかけた時、不意にヴィリアから連絡が届く。
『お兄様、申し訳ございません。ドドーナ大司教が亜人たちがとらわれている場所で話し合いをしようとしまして、押しとどめた教会の人たちと交戦状態になりまし……きゃっ! 邪魔です!』
なるほど。
ドドーナ大司教は超武闘派だったってわけね。
ちなみに、ヴィリアの声は襲い掛かった馬鹿がいたようで、あっという間に制圧されているわね。
まあ、制圧と言っても拳を思いっきり食らっているから、暴力による昏倒だろうけど。
エノラたちもいることだし、死ぬことは無いでしょう。
「お兄さん。こうなると亜人たちの安全が……」
ラッツの言う通り、ここまで騒ぎを大きくすれば、証拠隠滅で囚われている亜人たちを処分してもおかしくはない。
そうなれば、何のために踏み込んだのかわからなくなる。
下手をするとギアダナ王たちの立場が悪くなる。
なにより、亜人を助けると伝えたオーエの人々に対して顔向けできない。
「あなた!」
流石に語気を強めて自分の夫に指示をと思って声を上げると……。
『心配は無用よ。すでに亜人たちは確保しているわ。証拠も映像音声、そして書類も確保済み。馬鹿をやっていた連中も既に制圧済み。とはいえ……、あまり良い状態とはいえないわね。回復魔術でとりあえずの傷は治したけれど、反応が薄い人たちが多いわ。後方、せめてオーエの北砦に移送できないかしら?』
エノラが答えて映像が回ってくる。
モニター監視をしている部下たちが思わずうめき声を上げるぐらいには、映像の8割は血に塗れていた。
幸い、エノラが治療したおかげか、救出した人々に目立つ傷はないが……目がうつろな者がほとんどだ。
「わかった。予定通り、ギアダナ王都の大通りを通って、南門に移動。そこから諜報部隊が待機しているから、案内に従って移動してくれ。宣伝に関しては、ギアダナ王の護衛の騎士たちが付く予定だ」
『了解。せいぜい、盛大に同情を誘ってクリアストリーム教会のことを堕としてやるわ』
返事をしたエノラの声は冷え切っていつつも怒りをはらませている。
まあ、あんな状況を目の前で見たこともあるし、何より、あのような立場にいた側だ。
それがどれだけ辛いことか理解しているからこそね。
「というか、思ったよりも簡単に落ちましたね。もっともめるかと思っていましたが」
エリスの言葉に私も同意する。
「そうね。クリアストリーム教会としてはギアダナ王国を完全に反亜人派に加えたかったのでしょう? それでこの状態っていうのはね」
乗り込んですぐに陥落とか、普通はない。
いや、エノラたちはもちろん、諜報員たちも潜り込んでいるとはいえ、早すぎる。
何せ、ほぼ踏み込んだと同時にクリアストリーム教会側は敗北したような状態だ。
いかに、ドドーナ大司教やエノラたちがいたとはいえ、あまりにも脆すぎる。
何かほかに見落としていることがあるんじゃ……。
「ああ、それは大丈夫だ。別に裏があるわけじゃない」
私たちの心配を察したのかユキが説明を始める。
「詳しくお話を聞いても?」
「別に難しい話じゃない。ついこの間から、クリアストリーム教会の連中は出払ってたんだよ」
「出払っていた?」
「ほら、シアナ男爵たちがオーエに向けて出て行っただろう? それにクリアストリーム教会の連中はついて行った。それでギアダナ王国のクリアストリーム教会の連中は手薄だったわけだ」
「「「ああ」」」
その説明で私たちは納得の声を上げる。
「そういえばそうだったわね。表向きの占領軍の援軍として、ギアダナ王国からクリアストリーム教会の連中も含めて、3日前に向かっていたわね。その人員をギアダナ王国の王都から出していたってこと?」
「そういうこと。本来ならもっと時間をかけたかったようだが、こっちとしても万全に準備を整えられるとオーエ側で身柄を抑えるのも大変になるからな。数も同様だ。大挙されるとそれも面倒だからな。とはいえ、クリアストリーム教会の連中としても何か亜人らに見出しているようだしな、無理に人を集めるとなると……」
「近々の王都の教会から出したってわけね」
「そういうこと。そしてなにより向こうには、クリアストリーム教会の偉い人がついているようだしな」
「それは向こうに人を割くのは当然か」
どちらがクリアストリーム教会にとって大事かとなると、押さえたオーエが重要とみられたんでしょうね。
まあ、自分たちから侵攻を焚きつけて、そして成功したのだから、そっちが優先よね。
まさか、足元が揺るがされるとは思っていないと。
「でも、そういう備えがないというのもおかしいと思いますね~」
「そうね。クリアストリーム教会はギアダナ王国の切り崩しにかかっているのなら、油断をしないと思いますけど?」
うん、ラッツやエリスの言う通り、確かにオーエを落としたことで注意が引かれたとはいっても、ギアダナ王国が全部クリアストリーム教会の傘下になったわけじゃない。
「そこに関しては、速攻だったからってやつだろうな。本部になにか連絡はしているだろうが、増援を送るにしても、相談して人を送るっていうのは意外と時間がかかるからな」
「ああ、何かあるにしても今後ってことね。今回は上手く隙をついたってことか」
冷静に考えればそうね。
ウィードのように移動距離はもちろん、連絡を一瞬で済ませられるような道具は無いし、連絡を取って、余剰というと変だけど、部隊を移動させるための手続きはもちろん、誰を移動させるのかって話し合いから始まるわけだし、簡単に決まるわけがない。
「そういうことですか。ですがそうなると……」
「今後に備えておく必要があるというわけですね~」
「そこに関しては俺たちというかギアダナ王国の問題だしな。応援を頼まれない限りは傍観だな」
確かに、ギアダナ王国内でのクリアストリーム教会の活動について、ウィードの私たちがとやかく言うことはもちろん、活動をする事なんてできはしない。
「もちろん、エマと諜報員が数名常駐しているし、何かあれば対応するようにはしているから、そこまで心配はしていないがな」
「そう、ね。それができる精一杯のことね」
どうしても他国のこととなると、私たちの動きは鈍くなるのは仕方がない。
「お話はわかりました。それで、今の現場はいいとして、ヴィリアたちがイアナ王国という所に送られる話はどうなったのですが?」
「ああ、そうでした。それで会談を設けたのですよね?」
ん? ああ、確かにそれが会談の目的だった。
まあ、色々あれこれ画策していたから、現在起こっているクリアストリーム教会への醜聞を広げる作戦へとつながったんだけど……。
「結局イアナ王国にヴィリアたちが向かうというのは問題はないわけ?」
「ああ、そっちは特にな。ある程度実力というか、経験を積んだ冒険者は基本的に北部を目指すようだ。目的は魔物の排除」
「それなら、南部も視野にはいるんじゃ?」
「いるにはいるらしいが、基本的に南部は亜人が多い。その関係で中央から北部の連中はあまり近寄らない」
「「「ああ」」」
そこで亜人の排斥思想がくるわけね。
「そもそもな疑問なんだけど、なぜ亜人排斥思想がはびこっているわけ? いえ、エルフとか長寿とか亜人特有の身体能力の高さとか文化の違いがあったというのは聞いているけど、それだけでって疑問になるのよね。総数に関しては、イフ大陸のようにかなり減っているわけではなく、町どころか国を形成するほどには数がいるのに」
ギアダナ王も同じことを言っていた。
そもそも税収の元とも。
それを無くしてまで排斥する理由とは何だろうか?
「さあ、そこは詳しくはわかっていない。それを調べるためにヴィリアたちを送り込んだわけだしな。で、イアナ王国の詳細としては、北部の国で魔物被害が多い国ということだな。つまり、ドドーナ大司教の教え子として名を広めるにはちょうどいいって場所だ」
「ふむふむ。状況的には何も不思議ではないということですね?」
「ああ。とはいえ、冒険者としての昇進が早すぎるのはその通りだが」
「当然ですね。いきなり新人が役職付きになるようなものですし。普通の職場だとありえません」
エリスの言う通り、軍でもまずありえない差配よね。
とはいえ……。
「まあ、そこは冒険者というのがあるのでしょうね。損耗率は高いでしょうし」
「だな。普通の会社とかと違って、送られるのは常に命の危険がある場所だし、高ランクの冒険者だといって、確実に戻ってくるわけもない。しかも軍とちがってパーティー単位だしな」
人数がいない分、危険も増すわね。
とはいえ、少数だからこそ、軽快に動けるわけでもあるけれど。
「そういえばミリーはまだ仕事か?」
「はい。ミリーはウーサノとアーエの方での後始末というか、ごまかしで動いていますね~。ほら、魔物をあつめていた村が無くなった件も含めて、冒険者ギルドも一緒になって魔物を捕獲していた件があったでしょう? 情報提供者の確保もありましたし、情報封鎖をしていたのは事実ですからね」
そういえば、ウーサノのスアナの町から連絡をくれた職員がいたわね。
調べれば、領土争いに踏み込むような話だったし、迂闊には動けないって感じだったのよね。
だから冒険者ギルドがメインで動いているのよね。
「そっか。いや、そうだよな。規模で言えば大したことはないが、冒険者ギルドも含めた疑似的な大氾濫を起こそうとしていたんだからな」
「そこまでの数は揃っていなかったけどね」
と、ウーサノとアーエの話をしつつ、クリアストリーム教会の占拠を見守るのであった。
意外と思うかもしれませんが、下手に会話を重ねるよりも踏み込むほうが有効なこともあります。
まあ、こういうことは時と場合によりけりではあるんですけどね。
とはいえ、踏み込むさいは、ちゃんと権力と物理的な力がないとできないんですが。




