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第1868堀:あの時に似ているかも

あの時に似ているかも



Side:エノラ



「そう……」


私はユキからクリアストリーム教会の醜聞、その内容を聞いて、言葉を続けることが出来なかった。

何せ、自分がそういう状況下にあったからね。


「悪いな。普通なら気を遣って話すことはないんだが……」

「いえ、話してくれてうれしいわ。黙っていれば怒るわね」


私は自分の意思をはっきりと伝える。

これは、私が一生忘れない出来事だ。

あの時の絶望を、悔しさを、恥ずかしさを、生をあきらめた時の感情を……。

命が零れ落ちていく瞬間を。


でも、だからこそ、私はこの場に立っている。

より一層、人を治すと。

拙い治療魔術でなく、さらにどんな大けがでも治せるようにと。

冒涜と言われようと、いつか失った命を合法的に取り戻せるような研究を。


まあ、蘇生に関しては、ユキも慎重だけどね。

魂のあり所とか、同じ人物なのかとか色々あるから、私もそこらへんはちゃんと気を遣っているし、注意も払っている。

何せ、死者の蘇生話はバッドエンドがつきものだからね。


と、そこはいいとして。


「それで、私は何をすればいいのかしら? ただ、この情報を聞かせたわけでもないでしょう?」


ユキは基本的に優しい。

とはいえ、無駄なことはしない。

私にあの嫌な時を思い出させて、それで終わりというわけがない。


「ああ、とはいえ。エノラの気持ちが優先だというのは忘れないでくれ。俺が提案するのは治療だ」

「なるほど。それで亜人に対する評価を少しでも変えようというわけね?」

「そうだ。簡単には変わらないとは思うが、それでもやる意味はある。ギアダナ王国内でもその評価が変われば、それだけ亜人たちの安全につながる。そして、俺たちが口を出すというか、出す大義名分ができる」

「ああ、オーエから出向できるわけね?」

「そういうことだ」


なるほど、確かにギアダナ王国内に限っても亜人の評価が変われば、私たちはオーエ、ウィードから向かって迎え入れられるわけだ。

いえ、今でもギアダナ王国は基本的には亜人は普通の国民扱いではあるから、亜人の出入りは良いけれど、戦争中であるオーエとウィードからは色々問題がある。

でも、今回のことで亜人を保護というか、手助けをしたとなれば、ギアダナ王国はオーエとの敵対に疑問を提示できる。

醜聞の件と合わせて。


「でも、それだけじゃ、周りの国が攻めてくるんじゃないの? 元々は北部統一のためにオーエとの戦争をもくろんでいたのでしょう? そして亜人をかくまっているギアダナ王国を潰すため。そこにオーエが入れば……」


それって、確実に開戦になるんじゃないかしら?

そう口にする前に、ユキが笑顔になって。


「エノラの考えている通り、ギアダナ王国が戦場になるだろうな」

「それって良いわけ?」

「良い悪いでいうと、戦争は良くないが、オーエの南部でやられるよりはって話になるな。それにギアダナ王国としてもクリアストリーム教会の脅威を払いたいわけだ。今回の醜聞を表ざたにするということは、結局の所、クリアストリーム教会の勢力とことを構えるつもりなわけだ」

「ああ、そうとも取れるのか。勝算はあるわけ?」

「さあな。そこまでは言わなかったが、俺たちオーエの方にクリアストリーム教会の重鎮が行っている間に醜聞を広めるって言っているから、足止めはかなりの時間を稼げるだろうってさ」

「……まあ、醜聞なのは間違いないし。即座に戦争ってわけにはいかないわね」


今回の醜聞を広めることによって、各国でも調査が少なからず行われるでしょう。

それで亜人に限らず、人が拷問とかそういうのにあっていれば、クリアストリーム教会に疑問を持つのは間違いないわ。

そこを説得しない限り、ギアダナ王国への報復というのは違うけれど、侵攻は無理ね。

下手をすると、逆に立場を失う可能性もある。


「ああ、だからこそか」

「そういうこと。クリアストリーム教会の亜人排斥思想にひびを入れる絶好のチャンスってわけだ。それに南側で戦争をされるより、北側の方が国土の安全的にはいいだろう」


確かに、戦争をするって簡単に言うけれど、北部の戦い方を見ると、田畑を焼き払って民衆を傷つけるという、どこでもあるようなやり方。

つまり敵に攻め込まれてしまえばそれだけでかなりの被害がでてしまうわけ。

ならば、敵地で戦うメリットは大きい。

ギアダナ王国が主戦場になってしまうだろうけど、それでもオーエや南部の協力してくれる国々で戦争を起こされるよりはマシよね。


「でも、敵が南下しないとも限らないわよ?」


オーエを落とすという目標はあるわけだし。


「ゼロではないが、限りなくゼロに近い。何せ、オーエ侵攻は北部をまとめるための作戦だったわけだぞ? そこから考えると……」

「そうか、北部を安定させる方が先決ってわけね。ん~、他の可能性があるかもしれないけど……」

「それを言い出したら何もできないしな。まあ、警戒はするし。こちらからちょっかい出してみて動きを見るというのもある」

「そうね。たらればを言い出してもしかたがないわね。それにヴィリアたちも調べているのでしょう?」

「ああ、ついでに今回の醜聞と合わせて、オーエに来るクリアストリーム教会の連中を捕らえて情報を聞きだす予定ではあるしな」


ここまですれば何かしら情報が出てくるってわけね。


「……わかったわ。その醜聞の時には治療役として向かいましょう。それで、具体的なことは?」

「そこはまだ決まっていない。向こうがどういう風に突入するとかわかっていないしな。俺がこっちで執務中に思いついただけで、向こうにも相談はしていない」

「それなら話してもって言いたいところだけど、ユキなら確実に押し込むわね。それならこちらの要望はまだ入れられるわよね?」

「ああ、要望なら聞くことはできる。叶えることは考えることになるが」

「それでいいわ。簡単に言うけど、亜人の感情を少しでも良くするのであれば、私だけじゃなくて多くの亜人が手助けをすれば相応に評価が上がるとは思わない?」


その場に限れば醜聞から人々を助け治療するのは私だけでもきっと事足りる。

でも、各地で、あるいは多くの人を助けるには、私だけじゃなくて多くの手がいるのは、今までの経験からわかっている。

ならば、その手を増やせば良い。

まあ、いうほど簡単ではないけれど。


「上がるな。とはいえ、エノラがいる現場ならともかく、他の教会への救助となると、バラバラになる可能性がある。その場合は単独で自衛可能じゃないとな……」


そう、問題は私がいない時の場合。

クリアストリーム教会とかその影響を受けた人たちが行動を起こせば、被害は派遣している人たちにも及ぶ。

その場合、自分でその相手の行動を上手くかわす必要があるわけだけど。


「そこに関しては、多少なりとも、複数のチームを作って動くしかないわ。流石に単独で全部の教会調査に同行しようっていうのは無理だし」

「だな。そこまでやるとやらせだと思う連中も出てくるだろうし、現場は絞った方がいいだろう。そこはギアダナ王と話してみるか。亜人への感情を好転させる良い機会だしな」

「そうね」


まあ、流石にギアダナ王国内に複数ある教会すべてにウィードからの部隊を派遣するなんて言うのは無理がある。

他国のことだしね。

まったく、こういう馬鹿なことをやるのは海をまたいでも存在するわけか……。


「ん? ユキ、要望とは別に聞きたいことがあるんだけど」

「なんだ?」

「その醜聞の件。裏でカミとかいうのが関わっていたりしないわよね?」


ハイデンで私たちがあんな目にあった裏には、アクエノキ復活の為というのがあった。

こっちが同じとは思いたくはないけれど、その可能性が頭をかすめてしまうのは仕方がない。


「さあ、そこは調べてみないことにはさっぱり。とはいえ、亜人を始末するだけなら、わざわざ教会に連れて行って醜聞になるようなことをする必要もないってのが事実なんだよな」

「……普通に否定してほしかったわ」


それって、裏に何かあるって言っているモノじゃない。

でも、ユキの言う通りよね。

本当に亜人を排除するだけなら、ギアダナ王国内の反感を買うような処刑よりも追放の方がまだいい。

恨みを買うような処刑をするなんて誰も得をしないだろう。

下手をすれば、クリアストリーム教会に亜人たちからの襲撃があってもおかしくないだし、こうして、醜聞という弱点としてギアダナ王国が動こうとしている。

全体から見ればマイナスでしかない行動だ。


「まあ、一種の脅しともとれるかもしれないが……」

「それならもっと表向きに処刑した方が脅しとしては有効よ」


亜人だとひどい目に合わせるっていうつもりならね。

……つまり別の狙いがあって教会内部で秘密裏にそんなことをやっているというわけ。


「……だから、ユキは参加しろって私に言ったわけか」

「亜人の印象を好転させたいってのも事実だぞ?」

「そうね。ユキならそうでしょうね。でも、その手のことを考えていなかったわけはないわよね?」

「そりゃな。状況が似通りすぎているからな。疑うなって言うのは無理だろ。エノラが思い出したようにな」

「むう」


その通りだ。

私が思い出したのだから、ユキが思い出さないわけがない。

カミとかいうのには、散々迷惑をかけられているのだから。

ユキにとっては天敵と言ってもいい。

問題をたくさん持ってくる災害みたいなものだし。

だが、私にとってはユキは救いだった。

間違いなく、ユキがいなければ死体をさらしていた。

……だから、今度は私が誰かを。


「そうか」

「どうかしたか? 何かわかったか?」

「いえ、ただ覚悟が決まっただけ。裏に何があろうと、理不尽は許しはしないし。ハイレン様を信仰するものとして、救いを求める人を助けるのは当然……」


そうかっこいいことを言って、私はあることに気が付いてしまう。

ユキもそこは忘れていたようで、目を見開く。


「ユキ、この話は?」

「幸い、誰にも言っていない。だが、あれは助けを求める声をどこからともなく受信するタイプだからな」

「……私が行った方がいいかしら?」

「逆に怪しまれそうだな。一緒に北の町で業務に当たっているのはリリーシュか……」

「一応私も北の町には顔を出しているわよ? 南の砦と南の町のほうがメインにはなっているけど」


私は亜人ということで、南の町ではウィードの顔代わりになっている。

ああ、もちろんトップはトーリなんだけど、医療部門としてって話。

北の町のほうは、すでにリリーシュ様とハイレン様の顔が有名になっているから、私がそこまで顔を出す必要がなくなったのよね。


「ちょっと考える。とりあえず、エノラは今話した醜聞での救出のメンバー選出を頼む」

「わかったわ」


ということで、私はさっそく治療ができて、相応に腕の立つ人員の選出を始めるのだった。




秘密裏に人を集めて拷問とか、まあ、どっかの悪いことをしているとしか思えないよね。

ハイレンとかが「ぴきーん」と来てないといいんだが、その対応はどうなるのか!?

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私感で感想 胸糞悪い展開だと、亜人排斥派のお貴族様が、 亜人風情が触るな! 治る怪我でも死ぬだろう! 亜人の怪我なぞ捨て置け。手間が省けるし、そんな時間も医薬品も無駄な事より人間の、俺様を先に治療…
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