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第1866堀:お姉ちゃんの説得

お姉ちゃんの説得



Side:カヤ



なんか畑仕事中に呼び出されたと思ったら……。


「アスリンとフィーリアを調査の前線に出す!?」


そう叫んだのはセラリアだ。

内容はそのまま。

停滞している新大陸南部の調査をアスリンとフィーリアを中心とした少数精鋭メンバーで行うという話。

まあ、叫びたくなる気持ちはわかる。

流石に人手がないとはいえ、才能があるとはいえ、私たちのかわいい妹たちをそういう場所へ送り込むというのは気が引ける。

だけど……。


「セラリア落ち着いて」

「そうだよ。落ち着いて。私やリエルも同じ年の頃には冒険者やっていたし、別に遅くはないよ」


うん。

リエルやトーリの言う通り、会った時のアスリンたちならともかく、もうあれから随分と時は経って、なにより彼女たちの経験は並みどころではない。

戦闘についても別に問題はない。

一人なら油断を気にするところだけど、アスリン、フィーリアにくわえてハヴィアたちも加わる予定だ。

これでだめなら、私たちですら、どこにも行けないだろう。


「ぬぐぐ……」


とはいえ、セラリアにとっては小さいかわいい妹分であり、娘と同じくらいには大事にしている。

まあ、私も心配と言えば心配だけど……。


「すでに、軍部で部隊を率いて敵対勢力との戦いは経験している。今更小隊での行動で文句を言うのは違う」

「そ、それは……」


私の言葉にさらにセラリアが口を開けなくなる。

そう、今まで何も軍事行動経験がないなら、私も心配といえるけど、すでにフィーリアは軍部の物資関連、アスリンは魔物軍の指揮官として動いている。

ああ、フィーリアも魔物部隊の指揮官として普通に仕事はできる。

それで今更小隊行動が認められないっていうのは、矛盾している。

さて、これでというか、計画書を出された時点で勝敗、いや計画の成否はほぼ決まっていた。

なにせ、エリスやラッツ、そしてチャエア、さらにはユキも目を通しているんだ。

これでセラリアが否定する材料はないだろう。

そう思っていると、不意にデリーユが口を開く。


「ま、セラリアの気持ちはわかる。確かにアスリンやフィーリアは妾たちが鍛えておるから、単体や多少の数的不利は覆せると確実に言える。じゃが、ことは南部全体のことじゃ。アスリンたちが魔物の群れに襲われた場合、即時広域の状況を確認せねばならぬ。そういう全体指揮のことは不慣れじゃろう」


確かに。

その手の対応は現場の指揮官ではなく、俯瞰している将軍とかそういうのがやるべきこと。

現場での応戦をしつつ、全体の把握とかできるわけがない。


「じゃから、全体の指示が飛んできたときに即座に動ける余裕があるように、妾がついて行こう。それならば問題あるまい。保護者というとあれじゃが、護衛戦力としては相応に力はあるからのう」

「確かに、デリーユが行くなら安全ね。それに、魔王やそれに連なる存在もほのめかされている。あ、そういえばホーリーのほうは?」

「ホーリーはタイキ君と台地の方で調査だな。まあ、合流はできないことはない。別にさほど脅威になる者はいないみたいだしな」

「状況を聞いてみましょう。護衛としては問題はないでしょう」


確かに、ホーリーは戦えるし、デリーユと同じように現在時間を持て余しているというと違うけど、手助けができないわけじゃない。


「そう言われるとそうだな。ホーリーも魔物を指揮していた立場だし、相応の知識もあるだろうな」


確かにアスリンと同じような能力を持っているとは思える。

それに総指揮官としての立場でもあったから、そこら辺の判断もできる……と思う。


「あの、旦那様。ホーリーさんが候補に挙がるのはわかりますが、彼女自身の状態はどうなのですが?」


ルルアが申し訳なさそうにそう聞いてくる。

それも当然、私だって悩んだんだし、なにせ彼女は元魔王であり、今は大人しくしてはいるけど、そこら辺が心配になって当然だろう。


「それなら、タイキ君とか一緒に行ってもらうか?」

「流石にランクスの王を調査に……」

「いやいや、ルルア。もうすでに台地の調査に行ってもらっているし、元々、魔王の気配を感じないかって話だったじゃない」

「むう」


ミリーの指摘通り、すでに勇者であるタイキは台地の調査に投入している。

今更使うなっていうのはあれね。


「ま、ホーリーとコンビをするなら安心かもな。今までの実績もあるし」

「戦力としてはわかるけど、台地の方はいいわけ?」

「うん、確かに気になるよ?」


そこでカグラとミコスが疑問を口にする。

どこもかしこも人手が足りない状態で、戦力として高い二人を現場から外すというのはいいのかとは思う。


「あ~、まあ、心配がゼロとは言わないが。今のところ台地に強力な魔物は確認されていないし、ウィードの部隊で対応は可能だ。それとは別でもないが、台地ではいま特殊な植生があり、それをカヤに頼んでいる状態だ。話は逸れるがそこらへんはどうなっている?」


おっと、ここで話が私に来るとは思っていなかった。

……ああ、台地が安全かって話につながるのか。


「頼まれている台地薬草に関しては、種を採取することに成功して、台地での育成を始めている。とはいえ、まだ成長中で何とも言えない。まあ、それからわかると思うけど、ほかの植物、つまり作物も育ててみている。って感じで確保している台地に関しては安定していると言っていい」


そう、農作業ができるぐらいには台地は落ち着いているということ。

つまり安全。


「それじゃ、台地にタイキとホーリーを置いている意味はないわね」

「そうだな。あ、発言ついでにエノラ、北の町の方はどうなっている? スタシアは北の町から動いていないだろう? 何かあったのか?」


ああ、そういえば、この場にはスタシア、フィオラ、エージルと言った将軍を務められる人物が集まっていない。

何かあったかと思うのは当然。


「いえ、何もないわよ。まあ、いざという時の為に現場にいるだけ、トーリとか私とか現場に詰めているメンバーもこっちに来ているからね。ああ、アスリン、フィーリアの調査については、3人とも同一の見解で問題ないって話よ。どうせ状況が動かないことには何もできないしって」

「確かにね~。このままだと相手の動きを待つだけだし、北部はヴィリアたちが動いているけど、南部は現状維持状態だし。そこを打破するならってことか」


エノラの言葉にミコスはそういって頷く。

確かに、北部はヴィリアたち、そしてシアナ男爵たちがギアダナ王都で色々動いてくれている。

状況把握に努めているといっていいが、南部に関しては国らしい国もなく、情報を集めるには土地を自分たちで調べるしかない。

そのおかげで調べる場所を絞るのもままならず、南下してとりあえず地形のデータだけでも取ってくることになった。

そのおかげで、南部の調査はとん挫というか、広域に展開しすぎて、これ以上進むことが出来なくなった。

防衛も兼ねているからね。

大氾濫による大規模侵攻が予想される中、これ以上防衛戦力を分散させるわけにはいかないという判断。

私としても全然間違っているとは思えない。

でも、それでは広大な土地をもつ新大陸の調査は進まないわけだ。


「……計画の妥当性、有用性は認めるわ。でも、そこまで急ぐことかしら? 北部でヴィリアやシアナ男爵たちが動いているいま、そちらに注力して、南部の魔物や資源問題はあとで取り組んでもいいはずよね?」

「まあな。今のとこ落ち着いてはいるから、急ぐ必要性は今のところないが、北部で噂、いやクリアストリーム教会が流布している魔王が魔物を北上させているという話は無視はできない。それに俺たちが知る大氾濫に比べてかなり不可解だというのはわかっていると思う。そこら辺を考えて、打開策というか、相手が南部で何かを仕掛けていた場合、それを阻害する、あるいは事前に察知できるように調査を進めておきたい」

「むむむ……」


ユキの尤もな返答にセラリアは口ごもる。

南部では本当に魔物が北上していたってのはあるから、放っておけないというのは事実。

とはいえ、北上も一旦止まっているのも事実。

だからこそ、発生源がさっぱりわからない。

南から来たとしか分かっていない。

もっと早くオーエに行けていたら、魔物がやってきている痕跡を辿れただろうけど、随分経っていたのかさっぱりわからない状態。

敵がどこかやってくるのかぐらいは調べておきたいというのは、防衛をする側として当然のこと。


「セラリア、気持ちはわかりますが、南部の調査を進めれば、問題の解決をできる、あるいは正体、原因が分かれば、それに応じて防衛ラインも変更でき、その分無駄がなくなります。つまり全体の負担も減るの」

「ですねぇ。お金はもちろん物資も削減できるので、調査を進めるのは私たちも賛成ですよ~」


というか、最初からエリスとラッツは賛成側だったし。

まあ、今の言葉も事実ではある。

無駄に南部を維持しているよりは、原因を突き止めれば、その分資金や物資の消費も抑えられる。

ウィードは確かに潤沢な資金と物資がある。

でも、それを無駄に消費するようなことはしない。

貯えがあるのは良いことだし、それがあったからこそ、こうして広大な土地の新大陸で無事に対応が出来ている。

普通なら、どっちか放置ぐらいにはなると思う。


で、そのウィードのお財布事情を知らないわけがないセラリアは……。


「陛下。もうあきらめてください。アスリン様、フィーリア様、そしてハヴィア殿たちも十分戦えますし、研究者としての実力もあります。こちらの命令を遵守します。さらにデリーユ様、タイキ様、ホーリー殿が行くのであれば、これは万全でしょう。しかもゲートの展開許可もあると。これで不満があるというのは無理があります」


クアルがそういうと、セラリアはがっくりと肩を落として。


「……許可するわ。アスリンたちを呼んで。ちゃんと私から注意事項を伝えるわ」

「時間は10分で」

「はぁ!?」


ということで、私たちは会議が終わったのでさっさとでた。

セラリアとクアルのバトルは結果は見えているから。


さ、畑仕事の方に行こう。



セラリアのシスコンは治ってはいません。

ちなみに娘は大好きではありますが、意外と母としての教育はしております。

まあ、まだ子供扱いということでしょうね。

エルジュの方は随分と独り立ちして長いですし。

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― 新着の感想 ―
私感で感想 若手にも経験と実績を積ませないといけないんだがなぁ…… 若い内は何かしくじっても取り返しも容易だが、歳食うほど世間が見る目も厳しいし取り返せる時間が残って無いんだよね…… セラリア達だ…
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