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第1865堀:どちらを選ぶかの話

どちらを選ぶかの話



Side:ユキ



グラス港町に確保していたオレリアたちのお店の準備がある程度整ってきたときに、彼女は現れた。


「ユキ様、失礼いたします」

「ああ、よく来たなチャエア」


恭しく礼を取るのは、ズラブル帝国のユーピア皇帝が望みし者とまで言われた、大皇望ショーウの師匠であるチャエアだ。

現在ホウプというユーピアの幼馴染と共に、ハヴィアの元で宇宙開発に力を入れている。

とはいえ、エージルたちの話で、やっぱり軍事での才能は物凄くあるらしく、軍部に入れられないかという話が上がっているぐらいの才女だ。

あ、ちなみにもう故人であり、目の前にいるのはハヴィアと同じ幽霊というやつだ。

もちろん、ルナの怪しい薬をもって実体化し、こうして協力してくれているわけだが。


「それで、訪問してくるのは珍しいな。宇宙開発で何か面白い計画でも思いついたか?」


現在ハヴィアを中心とする、宇宙開発は勉強の段階だ。

何を言っているんだって思うかもしれないが、宇宙について知っていることは現在の地球ですらあまりにも少ない。

多くの知識人を宇宙飛行士として宇宙に送り込み、多種多様な実験を行っていて、宇宙における可能性を模索している状態なのだ。

もちろん、基礎の基礎である宇宙へ飛び立つ手段についても調べている段階だ。

このアロウリトが地球と同じ大気圏離脱速度で宇宙に出られるのかっていうところからな。

同じ1Gのようだし、問題はないと思うが、かといって簡単に宇宙船が用意できるわけでもないからな。

何か別の要因で大気圏を離脱できないかもしれないし、そのために宇宙船が爆散したとか、エリスとラッツが真っ白になるのが目に見えている。


なので、事前段階で無人で宇宙に進むことぐらいか?

まあ、その無人の宇宙船を作るのも一苦労なのだが……。

そう思っていると。


「いえ、今回はハヴィア所長の手伝いで、新大陸の魔物調査に関係することですね」

「ん? ああ、ハヴィアは今そっちに行っているな。何か問題でもあったか?」


というか、問題あるなら、ハヴィアなら俺に直接話してくると思うんだが……。


「問題があったというのは間違いありませんね。とはいえ、現在は皆で集まって話し合いをしているところです」

「話し合い? 問題はどうしたんだ?」

「はい。それを事前に伝えておこうかと思いまして」


そういいつつ、チャエアは書類を取り出して俺に差し出す。

そのタイトルに目を向け納得する。


「ああ、南部の調査を進めたいってことか」

「はい。お話を聞くに、新大陸は広大であり、防衛ラインを広げるのは実質不可能とのこと。かといって、調査をしようにも無作為に部隊を広げるほど、人材も物資も予算も足りないと」

「その通りだ。それに、いつ大氾濫があるかわからない。防衛能力が不十分な調査隊だけを先行させるわけにもいかない」


俺たちが、南部の調査に手をこまねいているのはそこだ。

調査部隊だけを送るなら、すでに送っている。

だが、大氾濫があった。いや、まだ続いている可能性がある中で、調査隊を送り込むことはできない。


「確かに。危険性を考えると、調査隊を送り込むべきではないですね。損失などすればこちらにとっても大きな痛手になります」


俺の説明にチャエアも素直に頷く。

ショーウの師匠なだけあり、この手のメリットデメリットの算定は即座にできるのだろう。


「ああ。それに、現在の支配地域の調査も残っている。確かにハヴィアたちのような最前線で発見をしたいメンバーたちにとっては退屈かもしれいないが、荒地、台地の環境を調べ切ったわけでもないからな」


そう。

今ウィードが押さえている範囲の調査も完全というわけではない。

というか、どういう風に調べたというのが正しいのかはわからないが、その土地に調査隊を派遣させて詳細を調べたと設定するのなら、全体の10%もない。

精々5%に届けばいいところだろう。

そこを調べずにほかの土地へと言われてもな。


「なるほど。道理です。ですが、ユキ様としては、外、つまり南部への調査は後回しで良いとは思っていないのでは?」

「そりゃな。どう見ても大氾濫の発生源はまだ遥か南だしな。そこに誰かをやれればいいが、安全を考えるとな……」


下手すると調査部隊が全滅しかねない。

かといって、防衛、いや大氾濫が起きた際に対応できるほどの戦力を随伴させられるかっていうと、難しい。

それなら、防衛ラインで迎撃した方がいいんだよな。

とはいえ、調べれば原因がわかるかもしれないという難しいところだ。

いや、原因がわかる可能性は限りなく低いだろう。

こういうことで原因がさっさとわかることは稀だ。

長期戦を考えなければいけない。

つまり、リソースは上手く使わないと枯渇するってことだ。

何せ南部だけがウィードの戦場じゃない。

北部でも色々と動いているし、そっちも油断できないからな。


「ふむ。ユキ様も色々お考えなのはわかりました。ですが、それでも目を通していただきたいと」

「ああ、そうだったな。悪い。否定するつもりはなかったんだ」


計画書を受け取る前にこんな話をしたら、読む気はないと思われるよな。

反省しつつ、提出された計画書に目を通してみる。


「うん、悪くはない」

「悪くはないですか」

「ああ。元々考えていた内容ではある。少数を重要な場所へ調査に送り込むっていうのはな。幸い、ドローンに関しては空から単独で撮影をして、範囲は広げているんだ。怪しいところはいくつもある。そこにだけ送り込んで情報を集めようっていうのは考えた」

「ですが、行動に移していないとなると問題が?」

「色々な。まず、戦力をどう抽出するか。あと調査ができるレベルの人員をどう集めるか。そして、その調査要員をどうやってまとめるかとかな」


この計画書は調査する場所は指定してある。

発見された鉱脈が走る崖下の調査だ。

大規模な亀裂なので、南部にかけて100キロ以上の亀裂。

いや、これほどまでの長く相応に広いとなると山に挟まれてはいないが渓谷とも言っていいかもしれない。

まあ、そういうことで色々ロマンがあふれる場所なのだ。


とはいえ、今言ったように、戦力をどう集めるか、そして調査をする人員を集めて、それをどう制御するのかという話になってくる。

戦力に関しては……まあ、最悪魔物部隊でもいいかもしれないが、調査をする側は簡単に揃えられない。

相応の知識が絶対に必要だ。

現場に行ってこそわかることもあるだろうし、そういう能力も兼ね備えている人物が好ましい。

えり好みしすぎているかもしれないが、この計画だと、4小隊のみの少数精鋭になる。

一度の調査で深く調べられる方がいいわけだ。

理想ではあるが、予算はもちろん、人員も物資も有限だ。

現地に向かう隊員たちの体力だっていつまでも持つわけでもないしな。


「理想を言えば、ゲートを現場で作って調査が終われば崩して移動っていうのがいいが、それができないからな……」


ゲートを設置できるのはウィードの中でも重鎮のみだ。

まあ、外交の関係で設置できる人物はいるが、それもかなり護衛などの人員を配置している。

友好国の中であってもだ。

それを4小隊の少数の人員に持たせるっていうのはな……。

そんなことを考えていると。


「では、ゲートを持たせられる人員がいれば問題ないのですね?」

「ん? ああ、まあそうだが、そう簡単に動かせる人員はいないからな」


そんな便利な人材がいれば、俺が使っている。

だが、全員手一杯なんだよな~。


「ほう、ユキ様でも失念しているとは驚きました。今仰られた人員に心当たりがあるのです」

「マジか?」

「本当です。そうでもなければこのような計画書は提出しません。そして、これがその人員です」


そういって別の書類を俺に差し出す。

俺は受け取った書類の中を改めると……。


「ああ、そうか。盲点だったな。とはいえ、アスリン、フィーリア、ハヴィアが抜けると、調査をまとめる人がいなくならないか?」


提出された人員は確かにゲートを設置できる人員と言っていい。

とはいえ、彼女たちも新大陸において、大事な調査の大本を担っている。

そういう現地調査に送り出すような人員ではない。

まとめ役といってもいいほどだ。


「確かにその通りです。ですが、現在行き詰っているのも確かでしょう。それに、アスリン様、フィーリア様、そしてハヴィア所長をウィードと新大陸で分けている必要性はそこまでないでしょう」

「いや、詳細を調べるには設備の問題があるんだよ。向こうにも作るわけにもいかないし、精査してウィードに送るという役割なわけだ」

「それも存じています。ですが、今の状態ではほとんど開店休業中でしょう。本格的な調査はともかく、精査についてはほかの人員で回せます。なので、その人員の配置転換と、アスリン様たちの中からの選抜で調査部隊を編成することを提案します」

「……」


しばし考える。

確かにアスリンやフィーリアが行っている調査に関しては、二人しかできないことだ。

魔物からの意思疎通と、鉱石の調査は。

アスリンとフィーリアはそれぞれの分野にずば抜けた才能があるからな。

しかし、チャエアの言う通り現在はアスリンやフィーリアに上がってくる案件はない。


だから、現場に赴けば相応以上に情報が得られる可能性は高い。

とはいえ、二人が現場に行くっていうのはそれなりに危険だが、下手な部隊を送るよりは生存率は高い。

そしてチャエアの言う通り、ハヴィアたちと組ませればパフォーマンスはさらに高くなるだろう。


「いかがでしょうか?」

「……この編成に関しては、アスリンやフィーリアはもちろん、ハヴィアたちは?」

「無論、承知の上です。というか、この計画書はアスリン様、フィーリア様が用意したものです」

「そうか」

「驚かれないのですね」

「ところどころ甘いところというか、言葉が迷っている。とはいえ、内容自体は問題がない。とくれば、俺の筋道の通し方を識る者の手による物だ」

「ただ見ただけではまねできませんよ。しっかりと咀嚼して自分なりに落とし込んでいるからこそでしょう。まあ、エリス様や私にブラッシュアップを依頼して来ましたので、完成度には私たちも貢献してはいますが」

「なるほど」


いや、成果を上げるのに独力に拘らず必要なら人に教えを請うか。

人の手を借りることは惜しむなって言っているしな。

なら、心配はいらないか。


「わかった。とはいえ、セラリアたちにも説明はする。アスリンたちも集めておいてくれ」

「かしこまりました」


チャエアはそういってから部屋を出ていく。


「流石はショーウ殿のお師匠。ユキ様を説得するとは」


珍しくプロフがそんな感想を漏らす。


「別に道理を通せば普通に聞くぞ。プロフは知っているだろ?」

「それは、まあ。とはいえ、先ほどはチャエア様の成果だと思いました」

「そういう風に立ち回ることも技量の内だな。と、そこはいいとして、セラリアたちに連絡。この計画の話を詰める」

「「「かしこまりました」」」


さて、問題はセラリアたちがハヴィアたちはともかく、アスリンとフィーリアの出撃を認めるかだな。



こういう話ってどちらが正しいというわけではなく、何を重視するかの問題なんですよね。

まあ、成果というと違いますが、新しい結果を導くのは未知へと飛び出す者ではあります。

とはいえ、リスクは相応に負うのですが。


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