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第1864堀:停滞から動くために

停滞から動くために



Side:ワズフィ



「うーん」


私は報告書を読んでそんな言葉が漏れてくる。

それを聞いたナイルアが気になったようで……。


「どうしたの?」


そう聞いてくるので、そのまま報告書を渡しつつ口を開く。


「いつもの通りの異常なし報告。魔物がぱったりと途絶えて、なんも進展ない」

「あ~。まあ、普通はそういうモノだよ。ランサー魔術学院の大樹海ではそうだっただよね?」

「まあね~。とはいえ、あの時と比べて、理解者はいるし、出資者もいて、使える道具や人手も遥かに好条件なのに進まないっていうのは……」

「不満だよね~」


私の言葉を続けるように言うのは、いつの間にか戻ってきたハヴィアだ。


「どうだった?」


彼女はあることをお願いしに、トーリの方へと顔をだしていたのだが、まあ、この様子からある程度は察せられるけど、尋ねずにはいられなかった。


「だめ。やっぱり、調査範囲を広げるのは、人員や物資が足りないってさ」

「そっか……」


今までの環境よりは確かによくなったのだけれど、それでも状況が進まないのが現状だ。

いや、仕方がないことではあるんだけどさ……。


「防衛戦力をこれ以上捻出できないってさ」

「うーん。土地の広さが問題になるとか……」

「いや、元から土地の広さは問題だったからね? ワズフィとハヴィアの大樹海調査だって限定的だったし、防衛線の構築はポープリ学長たちに任せていたよね? というか、勝手に飛び出していただけだし」

「「うぐっ」」


ナイルアの指摘に2人で胸を押さえる。

確かにその通りではある。

何せ向こうはナイルア以外の理解者はいなかったし、現在みたいに全体を把握できるような道具や資金もなかったからね。


「というか、ハヴィアはどういう風に話をしたんだい? 限定的に進出するとかそういう方向で提案したのかい?」

「いや、普通に範囲広げようって感じで」

「それは無理だ。全方位に調査を広げるとか人員が足りなすぎる。せめて調べる場所を限定的にしないと」

「え? そうなの?」


ハヴィアは不思議そうにそう聞き返す。

流石に私もそれは駄目だっていうのは分かる。


「いや、ハヴィアって宇宙開発のトップもやっているよな? 予算にも人にも限りがあるんだし、絞ることはやっているだろう? それと同じだよ」

「あ~、言われてみれば確かに。なんというか、大樹海の感覚が抜けてなかったな~」

「それはわかる。私もそうだし」


何というか大樹海とは勝手が違って、やりにくいんだよね。

範囲が広くて、調べる箇所を集中させないといけないっていうことに、最近気が付いた。

何せ、最初は調査範囲が莫大で常に情報が集まっていた状態だったからね。

まあ、その調査も全部を終わらせたわけじゃないけど、土地が広すぎて手が足らないし、調べるべき魔物も最近は北上してこないって有様。

ここにきてようやく、自分が考えていた予定が無茶なものだと悟った。

いや、前からわかっていたような口ぶりだけど、ハヴィアが直談判に向かったあとにデータを見直してたった今気が付いたってレベルだけど。


「なら、トーリさんを説得するために計画を練るしかないね」

「トーリさんというか、後ろにいるエリスさんとラッツさんが問題なんだよな~」

「うん、あの二人がウィードでの財布の紐と蔵を握っているしね。僕も説き伏せる自信が無いかな~」


3人でそう言ってうんうん唸ってしまう。

確かに調査をしたいっていうのはあるんだけど、それを押し通すだけの計画を立て、納得させる弁舌が思いつかない。

3人とも研究者や技術者ってのがネックになっているよね~。

私たちは自分たちの興味があることを突き詰めるのは得意なんだけど、それを誰かに説明して出資とかを説くのは苦手なんだよね~。

まあ、今まではポープリ学長やユキ様が私たちのことを買ってくれて、職場はもちろん、やるべきことは向こうが依頼してくれたし、私たちが提案したことは素直に許可してくれたから、そういう交渉事はやったことが無かったんだよね。


「……とりあえず、計画書の見本を貰ってこよう。それを見本にして、計画書を作ってトーリさんたちを説得するしかない」

「ま、それしかないね」

「だね~。あ、計画書って僕のも使える?」

「そういえば、ハヴィアは宇宙開発の責任者だったね。計画書作りとかは得意だったり?」

「お、それはすごいじゃん。流石年上」

「いや、計画書関連はチャエアさんだね」


その人物の名前に一瞬わからなくて首を傾げるが、すぐに思い出す。


「あ、ハヴィアと同じ幽霊のお姉さんか」

「いたね。確か、ズラブル帝国のショーウさんの先生だっけ?」


うん、ナイルアの言う通り、ズラブル帝国でユーピア皇帝を支えるこの人ありと言われている知者、それがショーウさん。

まあ色々あってウィードとは良い付き合いをしている。

その先生がこっちも紆余曲折あって、幽霊としてハヴィアの部下としてついている。


「そうそう。だから物凄く頭が良いんだよ。いや、僕も魔物研究者として、宇宙開発者としては負けるつもりが無いけれど、書類仕事とかそういうのでは全然追い付けない」

「その手の仕事できそうだもんね」

「いや、実際できているんだろ」


ナイルアの感想にそうツッコミを入れる。

まあ、あの人はエリスさんやラッツさんみたいに仕事が出来る女って感じがバシバシするんだよな。


「じゃ、チャエアを呼んでいい?」

「それは構わないけど、彼女も忙しいんじゃ?」

「ああ、宇宙開発に関しては必要な前提知識が山ほどありすぎて、勉強中なんだよ。息抜きも必要だし、声を掛けてみるよ」


そう言ってハヴィアは連絡を取るために部屋を出ていく。


「さて、チャエアさんが上手いこと計画書をまとめてくれると思うかい?」

「いや、流石に全部丸投げはないだろう」


頼む側としてはそれが楽なんだけど、今後が続かないしな。


「これを機に計画書とかの書き方を覚えるべきだね。ああ、ユキ様に言われていた大人になるってことかなこれも」

「ああ、自分を売るためのアピールもちゃんと考えろって言ってたよな」


ただ研究したいじゃなくて、相手にとってメリットがあることを提示し、それを説明する。

それが大人になるっていうか、社会で生きるって言ってたな。

うん、非常に面倒だけど、大事なんだなーって改めて思う。


と、そんなことを考えていると、複数のドタドタと足音が聞こえてくる。

あれ、連絡を入れたにしては早い気がするけど、近くにでもいたのかな?

そんなことを考えているとドアが開いて。


「おじゃましまーす」

「お邪魔するのです」


そんなことを言って、アスリンとフィーリアが入って来た。


「え、どうしたの2人とも」


ナイルアも足音に気が付いていたようで、入って来た2人を見て驚いて声をかける。

てっきり、ハヴィアとチャエアだと思っていたもんな。


「相談に来たのです。あれ? ハヴィアちゃんは?」

「いま、用事ででているよ」

「そうなのですか。すぐに戻るのです?」

「多分、コールで呼び出しているだけだしな」


声をかけるだけだから、直接呼びに行かない限りはと思っていると、今度はハヴィアが戻って来た。


「チャエアさん来てくれるって……え? アスリンにフィーリア? どしたの?」

「あ、良かった。相談があるんだ」

「そうだん?」

「そうなのです。新大陸の調査に関してなのです」

「それは今私たちも話してたところだな」

「計画書を書く前の段階だけどね」


それを言うな。

だから、チャエアさんを呼んでいるんだろう。


「計画書? それなら私たちも書いたよ」

「事前にエリス姉様に見てもらって、問題を洗い出してもらったのです」

「「「え」」」


2人の言葉にびっくりする私たち。


「け、計画書作ったの?」

「そうだよ。お兄ちゃんたちが書いているのはよく見ていたし」

「フィーリアたちは何時までも子供ではないのです。部隊を率いるリーダーなのです」

「「「うぐっ」」」


いや、まて。

この子たちは私たちよりも立場は上。

だからこそ、出来て当然だってことだ。

まあ、私たちが出来なくていいわけではないけれど。


「え、えーと、それで私たちに相談っていうのは?」


よく言ったナイルア。

自分たちのふがいなさを流して、本題に入る。


「そうだったのです。そっちが大事なのです」

「うん。まずはこの計画書をさらっと読みながら聞いてね」


パサッと机の上に置かれる書類。

ぐっ、これがアスリンたちが作った計画書。

タイトルは「調査範囲拡大計画」と書いてある。


「あれ、これって私たちも考えていることじゃん。アスリンたちの方もやっぱり調査が進んでいないことが問題?」

「うん。情報が少なすぎるんだよね。あ、ハヴィアちゃんたちの所で魔王とか、大氾濫を主導するような魔物とか発見された?」

「いや、全然」


そんなのが見つかれば各部署に連絡して今事大騒ぎだし。


「フィーリアの所も鉱物の範囲を詳しく調べようにも、調査範囲と防衛ラインの関係で動きが止められているのですよ」

「まあ、フィーリアは魔物の素材とかも調べているし、鉱物だけってわけにもいかないよな」


フィーリアは鍛冶師だ。

つまり素材であればどんなものも使う。

今回は新大陸南部の素材を使ってってことになっているから、調査範囲を広げるって話にはあまり首を突っ込めないよな。


「だから、計画書には防衛ラインはそのままで、調査部隊だけを出して、調査だけをしようって計画なんだ。範囲も限定的にして、部隊は4小隊ですむぐらい」


パラパラと計画書の内容を見て納得する。


「なるほどなぁ。確かに4小隊なら、休みも入れられるし、監視とドローン操作も任せられる。運用するには最小だね」

「うん。理にかなっている。あと、調査する場所は崖の下。亀裂の範囲をまずは指定して調べるっていうのは分かりやすい。無作為に調べるってなっていないのはいい」


内容も、文句がないぐらいビシッとした感じだ。

動員人数も最小にしているし、それで必要になる物資や予算は削減できる。

それでいて、新しい環境の調査を行える。

私が見る限りこれで否定されるような内容ではないと思う。


「それで、ここで問題なのはどこから人員を引っ張ってくるかってところをエリスお姉ちゃんに指摘されたの」

「ああ、確かに。ここまで少数精鋭だとついていく人物は相応に知識がないとだめね」

「だから、私たちか」

「そうなのです。フィーリアたちと同じように暇をしているみたいですし、協力できないのです?」


そりゃ、私としては断る理由はないので承諾しようとしたんだけど。


「ハヴィア所長。お待たせいたしました。なにか書類でお困りごととか?」


そういいつつ、チャエアが入ってくる。

そういえば呼んでたな。

ま、悪いことじゃないし、事情を話し、計画書を見せて助言を求めることにしよう。



魔物や素材を調査していたアスリンやフィーリア、そしてハヴィアたちも停滞していたので、協力してことに当たる。

まあ、計画とかプランって本当に多変だからね。

物凄く物資や予算を使うから、生半可な物はだめだし、リターンもちゃんとないと許可が下りないのはもちろん。


社会ってたいへんなんだよ。


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