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第1812堀:表向きは意外と賑やかな町

表向きは意外と賑やかな町



Side:ニーナ



私たちはグラス港町でわいわいパーティー準備をしている中、ウーサノ王国にあるスアナの町にやってきている。

行方不明事件が起きていた最果てと呼ばれたほぼ捨てられた村を管理下に置く町。

アルカという冒険者ギルドの職員が助けを求めてきた町でもある。


「ふーん、改めて見ると意外と賑やかじゃないか」

「ですね。周りの村の様子と比べると景気がいいみたいですね」


キシュアとスィーアが言うようにスアナの町では人が行きかっており、出店はもちろん、店舗もそれなりに賑わっていて、町の大きさに比べて意外ともいえるほど景気が良いように窺える。

まあ、発展する時なんてそういうモノなんだけど。

人が集まって村や町ができるように、町がさらに大きくなる段階の途中と言えばそういう感じ?


「当初は気にしていなかったけど、気になると言えば気になる」


この賑わいに反して、理由がないのだ。

なにかのお祭りとか、目玉の商品、産物が出来たとかそういう話はないのに、人が集まって盛り上がっている。

まあ、これもそういう流れがあったと言えばそれまでなんだけど……。


「ウィードの賑わいを当たり前にしていたから、気が付かなかったな」

「ええ、アレに慣れすぎましたね」

「それは同意」


こんなことを気が付かなかったというのはあるが、この町以上に賑わっているウィードにいるから特に気にしたことはなかった。

改めて見ると、この町の規模に対して、こんな賑わいは普通はありえない。

何かしら原因はあるとは思うけれど……。


「ま、そんなのを迂闊に聞きまわるわけにもいかないだろ。普通に冒険者ギルドに行ってアルカって職員から話を聞くってことでいいだろ」

「そうですね。とはいえ、グランドマスターがいない状態でどこまで話を聞き出せるか……」

「とりあえず、仕事を終えたのは間違いないから、報告に行けばいい」


そう、ただ単に町を訪れているわけではなく、仕事を終えて報告に向かうところ。

流石に何もしないでスアナの町を歩いていては怪しまれるから。


「恒常のゴブリン退治だけどな」

「近所ではこれぐらいですからね」

「……スティーブたちとの差が激しい」

「それは仕方ないだろ。スティーブたちは頭おかしいから」

「というか、ウィードの魔物たちがおかしいのです」


うん、ウィードの魔物たちの実力は頭一つどころか、私たちでも苦戦する。

兵器や戦術を使われれば勝ち目はほぼない。

こっちの方が数が少ないし、地の利とかもあるし。

そんなことを話していると、スアナの冒険者ギルド支部へとたどり着く。

前も訪れているけど、そこまで立派というわけじゃない。

まあ、どこにでもある冒険者ギルドの家屋。


「とはいえ、お昼時で閑散としているな」

「この時間に残っている冒険者はただの休日でしょ」

「うん、仕事に出るのは遅すぎる」


中はキシュアの言う通り、閑散としていて人は多くない。

いや、ほとんどいない。

テーブルやクエスト掲示板にいるのが数人程度だ。

よくある日中の冒険者ギルドの風景だ。

とはいえウィードでは、子供たちや戦闘ではない人たちもいるから、もっと人は多いけど。

そんなことを考えつつカウンターへと向かう。


「あら、お帰りなさい。意外と時間がかかっていたので心配しましたよ」


そう言ってカウンターで控えていた受付嬢が出迎えてくれる。


「ん? 時間って、別に何か依頼を受けたわけじゃないけど?」


確かに、キシュアの言う通り、私たちは依頼を受けたわけじゃない。

なので受付嬢が心配するようなことはないと思う。


「ああ、失礼いたしました。私が勝手に心配していただけです。女性だけのパーティーですからね。何より皆さん美人ですから」

「「「ああ」」」


そう言われて納得。

いないわけではないけれど、女性だけのパーティーっていうのは色々な意味でトラブルに巻き込まれやすい。

美人ともなればなおの事。

もっとましな職業があるだろうと言われたことは山ほどある。

バカな男に絡まれたことも数え切れず。


「幸い、こっちの町に来てからはそう言うのはないわね」

「ええ、というか、この町にとどまっていたわけではないですから」

「そうなのですか?」

「近くの村とかに行って魔物退治してた。元々レベルを上げるため。はい」


私は説明しつつ、討伐証明であるゴブリンの耳が入った袋と魔石を差し出す。

それを確認した受付嬢は納得した様子で。


「はい。確認いたしました。報酬をお持ちしますのでお待ちください」


そう言って奥へと歩いていく。

報酬を取りに行ったのだろう。


「さて、どうやって話を切りだすかな」

「難しいですわね。えーっと、アルカさんの容姿はウィードでの訓練で記録されてわかるのですが、どうやって呼び出したものか」

「ウィードから来たとかいうのは露骨だし、このギルドの人たちに警戒されるかもしれない」


この場に来ておいて、そこら辺の考えはまとまっていなかった。

とりあえず、私たちを怪しんでいる人はいなかったようだけど。


「……とりあえず、私たちを心配してくれたあの受付の人と話してみるか」

「そうね。同じ女友だちってことで紹介してもらいましょう」

「異議なし」


良い方法を思いつかないから、こうするしかない。

そう結論を出すと、受付嬢が戻ってくる。


「お待たせいたしました。こちらが報酬となります。合計で……」


ちゃんと受付嬢の仕事をしていて、金額を確認して私たちも書類にサインをする。


「しかし、皆さん冒険者ランクは高いんですね。なのにゴブリンというのはなぜ?」

「ここに来たのは知り合いを探しに来たのもあるんだよ。まあ、レベル上げは次いでだけど」


お、意外とキシュアは踏み込む気かな。


「お知り合いですか? お聞きしても?」

「ああ、こっちの冒険者ギルドに行ったっていうアルカなんだけど」

「アルカさんですか? いま奥にいますけど、お呼びいたしましょうか?」

「お願いするよ」


キシュアはためらいなくそう言うと、受付嬢は再び奥へと引っ込んでいく。


「えーと、キシュア。さっきの予定はどこに行ったのよ?」

「すまん。あの受付嬢がここに来た理由を聞いてきたから、素直に言ってみた。別に問題があったわけじゃないからいいだろう?」

「まあ、いいけど。危険もあるんだから気を付けて」

「わかってるって」


キシュアってこういう所は大雑把なんだよね。

ローデイのブレードとそっくり。

いや、血は繋がってないんだけど、性格は似ている。

逆か、ブレードがキシュアそっくりなのか。

そんなことを話している内に受付嬢がもう一人の女性を連れて戻ってくる。


「お待たせいたしました。こちらがアルカさんです」

「ありがとうございます」

「いいえ、ごゆっくり」


スィーアがお礼を言うと、受付嬢は奥へと引っ込んでいく。

特に私たちを疑っている様子はない。


「えーと、キシュアさまたちとはどちらで?」


とりあえず、アルカは困惑しつつも受付の席についてくれて、私たちと話をしてくれる。

どうやら私たちを疑うというより、思い出せないという感じだ。


「やだな~、一緒に訓練したじゃないか」


キシュアがそう笑いかける。


「ええ、女性は少なかったからですね」


スィーアも同意しつつ、あははと、周りに聞こえる声で明るく話しつつ、小さな紙の切れ端に素早く文字を書いて見せる。


『反応はしないように雑談をして、グランドマスターから依頼で来た。手紙を送ったのは貴女でまちがいない?』


すると、アルカは目を大きく見開いて驚いているが、声を上げることはない。


「ああ、あの時の。随分と腕を上げられたのですね」

「そうそう」

「近くの町で依頼を受けていたらアルカがこっちに来てるって話を聞いてな」

「会えればと思ってきてみた」


そんなことを話しつつ、続きを書く。


『ここで話し込むのは難しい、どこか場所はある?』

「なるほど、わざわざありがとうございます。色々話したいですが、今は仕事中なので、夕方仕事が終わったあとでいかがですか? おすすめの酒場があるんですよ」

「へぇ、いいね。ここに来てから間もないからありがたい」

「はい。では、夕方にまた来ますね」

「うん。仕事頑張って」


ということで、話を終え、紙をパッと燃やして証拠を消してから席を立って冒険者ギルドを後にする。


しばらく町中を歩いてから、尾行者がいないことを確認してから、適当に店に入って軽食を注文して話を始める。


「思ったより接触は簡単にできたな」

「相変わらず思い切りが良すぎます」

「びっくりした。まあ、結果としては良い」

「だろ。そして別に私たちを疑っている連中も今はいないようだし」


キシュアはそう言いつつ、店の外に視線を向ける。

追跡者はもちろん、聞き耳を立てているような人はいない。


「お待たせしました~。こちらご注文のハムとサラダのパン包みで~す」


可愛い店員がそう言って軽食を運んでくる。

所謂サンドウィッチだ。

まあ、パン包みで間違いない。

ユキから聞いたけど、開発者がサンドウィッチ伯爵という人だったのが語源だそう。

びっくりだけど、こういうのはよくあるもんね。


「お、意外と美味いな」

「ええ、ハムの塩が効いているのがちょうどいいですね」

「他が薄味だからバランスがいい」


珍しい美味しいと言えるものだ。

ウィード以外は基本的に調味料が多くないから薄味になりがち。

塩とかもある種の高級品だし。

まあ、それだけウィードの物資が回ってきているってことだ。


「さて、夕方までは町を見て回るか?」

「そうね。あ、でも宿の方が先じゃないかしら? 意外と人が多いし」

「そういえばそう。ここにしばらくはとどまるんだし、後でグランドマスターも来るから場所はいる」


少し遠いがゲートは設置しているから、グランドマスターは此方からの呼び出しでいつでも来る。

距離があるけれど、グランドマスターが本気を出せば私たちとそん色ないし、あのお爺ちゃん化け物。


「ま、町の人たちは賑やかそうで穏やかなのは幸いか」

「不安を感じていないのは間違いないわね」

「……だからこそ、不思議」


アルカは何を知ってあんな連絡をよこしたのか。

ユキやグランドマスターが言うようにとんでもない厄介事が眠っているのか。

この町を覆うような厄介事が。


そんなことを考えながら、出されたサンドウィッチを食べるのであった。



町としては平穏を保っているようです。

では、どこで問題が起こっているのか。

そこを調べるのが一番大変ですよね。

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私感で感想 「お待たせいたしました。こちらがアルカさんです」 家はうち他所はよそ、で良いんだが、日本のビジネスマナーだと外部の人間に対して内部の人間は上司でも呼び捨て? 「こちらがアルカです」にな…
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