第156掘:村の決断と対策
村の決断と対策
side:ユキ
俺たちは今、長老の家に集まっている。
どうやら、村の答えが出たようだ。
まあ、どっちに転ぶにしろ、俺たちはここを守る選択しかないのだが。
だって、ウィードとの連絡口だし、手放すわけにはいかない。
寧ろ、村の人たちがここを捨てて、他所の土地に逃げてくれる判断が一番いいんだが。
そうすれば、自由にこの拠点を改造できるしな。情報漏洩も身内だけだから、普通より固いセキュリティ、なんて現代の言い方には遠いが、それなりに守れるだろう。
「済まぬな、お主ら。結局、丸一日かかってしまったわい」
「いえいえ、村を移動するか、残るかの一大事ですから、むしろ早いかと思いますよ」
「まあのう。平時ならそれも当然じゃが、戦の足音が迫っている今、長々と会議をしているわけにはいかんからな。本来であれば、お主らがしている防壁作りは、わしらがやらなくてはいけないのじゃがの。感謝するわい」
そうそう、俺がスティーブ率いるゴブリン部隊に防衛関連を任せて作らせているが、本来であるなら、ここの村の人たちが真っ先にしなければいけないのだ。
これから、敵の後続や援軍がすぐに来ないとも限らない。
だから、村を守るにしても、村から逃げるにしても、時間を稼ぐ機能が必要なわけだ。
ただ、逃げるだけでは芸が無い。村に侵入しづらくして、逃げる時間を稼いだり、守りを固めるのだ。
まあ、場合によりけりだけどな。逃げる時間が無くなってしまえば、元の木阿弥でもある。
何事もバランスが大事ってことだよな。
「で、皆さんの答えは?」
俺は辺りを見回して、会議に参加したと思われる面々の顔を見る。
「ふむ、結論から言おうか。わしらは、この村を守ると決めた」
うわー、めんどくさいわ。
今後、この人たちと折り合いをつけていかないといけないなんて……。
なにか村に作るだけでも交渉事が必要か……もう、なんで面倒な方向ばかりに傾くかね。
「じゃが、この村を守るには、絶対にお主らの協力が必要不可欠じゃと、会議でもそういう結論に至った」
それは当然だろうよ。
俺らが要らねーって言うなら村が滅びるまで、ウィードの方に引きこもることにするわ。いい理由になるしな。
「そうですか。ですが俺たちは俺たちの目的があります。そっちの都合に合わせるわけにはいきませんよ?」
これを言っておかなくてはいけない。
俺たちは正義や義憤でこの村を助けた……のはリエルたちを含めて結構いそうだが、本来の目的はそうではない。
ここに縛られる理由はないのだ。というか、この村の一員になったつもりはない。
「わかっておるわい。お主らに庇護を求める様な話じゃ。この村を捨てろ、女を差し出せ、などと無茶を言わなければ、そちらの方針には従うことを約束するわい。お主らも遺跡を守らなくてはいけないのじゃろう? お主らがいない間は責任をもって遺跡を守ると約束する」
いや、防衛部隊ぐらい残して行くけどな。
長老さんの約束よりよっぽど確実だ。
でも、向こうもなるべく、こっちに無茶を通されないための交渉のつもりなんだろうな。
そんなパワーバランスは最初からこっちにしか傾いていないのだが。
片や村、こっちはウィードと言う小国ではあるが、それをダンジョンのスキルを駆使して運営し、大国を舌先三寸で動かせる権力を持つ。無論、個人の実力もとびぬけている。
本人たちは村を村の物として守っているつもりなんだろうが、俺たちの庇護を得たと言う事は、ウィードの支配下と言っても間違いじゃないんだよな。
問題は、俺たちがいつウィードの重鎮だと話すか、か……。
長老を含めて、村の人たちは唯の旅人ぐらいとしか見てないだろうな。
ゴブリンを50程連れて来たとはいえ、それに対してあまり不思議がってもいなかった。
こっちではゴブリンでもそれなりの値段で売れるらしいから、換金用に捕まえたとでも思ったのだろう。
まあ、お忍びでどっかの偉い人が来ているのでは? と考えたりもしただろうが、この新大陸の人間は人間至上主義が普通らしいからな、リエルたちと普通にいる俺たちをどこかのお偉いさんとは思えなかったのか。
「そこら辺の協力を貰えるならありがたいですね。お互いに足を引っ張っても意味がないですし。とりあえず、今、ゴブリンたちにやらせている村の防衛計画なんですが、詳細を決めたいので、村の大きさとか教えてもらってよろしいですか?」
「ああ、そう言えば何時のまにか、ゴブリンを捕らえてきた様じゃな、見た感じ立派な武具をつけておる。さぞや高く売れると思いきや、お主ら傭兵か何かか?」
ああ、そっち方面か。
なるほど、群雄割拠なら傭兵ってのは稼げるだろうし、ゴブリンと言う替えが効くであろう兵士は戦争にはもって来いってことか……。
「いえ、まあ……似たようなもんです」
「それにしては女を宛がっていないのじゃな。増やさなければいずれはいなくなるぞ?」
「そう言う方針にはしていませんので」
「なるほどな。傭兵にしてもそこら辺の義理を通しているというわけか。風に聞いた噂ではお主らの様にゴブリンを連れて、戦で女を捕らえては、ゴブリンの繁殖道具に使っている傭兵団もいるらしいからのう」
うん、戦術的には正しいだろう。人手の補充がきかないならな。人道的には別だが。
というか、スティーブを筆頭にこのゴブリンたちはレベル100超えで単体で初期のブラッドミノタウロスのミノちゃんを越える性能を有している。
なので、一々補充を考えるだけ無駄なんだよな。
あ、武装は現代兵器は勿論持たせていません。
わざわざ、剣と鎧にしております。まあ、ナールジアさんと妖精族、ドワーフ族のお手製だから性能は段違いなんだが。
ちなみに、ゴブリンたちは前時代的な、隊伍を組んで突撃ー!! なんて戦い方はしない。
そんなのすれば、銃撃や砲撃の的になるって散々教えたからな。
だから、この50人。ウィードの人たちはウィードに住んでいるゴブリンを匹ではなく、人と数えている。
で、この50人が、大勢の敵相手に戦うなら徹底的にゲリラ戦をすることになる。
馬鹿みたいに真っ向から向かうなら、確実な囮である。
そもレベルが馬鹿みたいに高いので、個人個人の身体能力がオカシイ。
スティーブに至ってはセラリアや、クラック、デストと言った、現在の連合軍将軍を鍛え上げたぐらいである。まあ、セラリアに関しては絡まれただけだが。あの嫁さんバトルジャンキーだから。
囲まれてもジャンプで離脱はお手の物だし、そも、ジャンプで簡単に離脱できるぐらいなら、そのまま敵を相手にしてすり潰せる。
ウィードのゴブリンはゴブリンにあらず、と言われているゆえんである。
しかし、傭兵団ねー。
どうしたものか。これからそう振る舞うか?
「ま、お主らが傭兵団でなくても関係ないわい。ジルバ帝国の兵たちを捕縛してしまったのじゃ、ここら一体の地域では敵と言われるじゃろうな」
「じゃ、全員処刑してしまえばいいじゃないですか。村としても安全ですよ?」
「その件もあるのじゃよ、防衛計画と言ったじゃろう? 我らとしては、お主らがいる間にジルバ帝国の恐怖から解放されたいと思っておる。じゃから、あの生き残りは、半分を人質、半分を解放してジルバ帝国と本格的にことを構えようと思っておるのじゃ」
おいおい。
「お主らも、なにか理由があって旅をしている様じゃが、あのジルバ帝国をどうにかしない限りは、この大陸を自由に歩き回ることもできん。わしらの方も、他の獣人たちの生き残りに声をかけて戦力を集める。どうか、わしらに力を貸してはくれんかのう」
「……と言いつつ。既に何人か逃がしてるな?」
「おや、ばれてしまったかい。許しておくれ、このままお主らを手放せば、わしらはもう逃げ続けるしかない。これがわしらが大陸で生き残る最後のチャンスじゃと思っておる」
くそ、結局こうなるか。
「はぁ、まあこの遺跡は守りきらないといけないしな……。いいか、みんな?」
俺はそう言って後ろを振り返る。
「おう」
「いいよー」
などなど、全員が乗り気だ。
こうなっては後には引けないので、長老の脅しとも言えるけど、実際には脅しになっていないが承諾し、居残り組に説明したのだが……。
『あら、おめでとう。これで一国の王ね。妻として私も嬉しいわ。無論お腹の子もね』
『いやー、お兄さんにしては行動が早いですが、ようやく頑張る気になったんですね』
『どうか、同族である、エルフたちの地位向上や、安全の確保をお願いします』
『うー、戦争か……。妾も手伝いたいぞー!! 最近家でじっとしてばかりだからつまらぬ!!』
『まあまあ、お腹の子に触るわよデリーユ。ルルアもついて行きたかっただろうに我慢してるんだから……』
『ぬぐぐぐっ!!』
『旦那様。私は旦那様や仲間が無事ならどうでもいいです。どうかドッペルであれ、お体を大事に。なにかあれば、すぐに私が回復魔術を使いますから、帰ってきてください!!』
『私も皆様の無事を祈っております。そして旦那様は栄光をお掴みください。それだけの功績は既に持っていらっしゃる。家で寝ている旦那様たちの本体はちゃんと面倒を見ていますので、存分に暴れてくださいませ』
と、全員が賛成のご様子。
「よし、スティーブ。一か月中にジルバ帝国が攻めてくるだろうから、防衛の対策任せた。これ資料な。ちゃんと修正してこいよ」
「はぁーーー!?」
あきらめろ。
俺は俺で、ウィードから輸送の手続きしたり、長老との交渉事もあるんだからな。
お前は本職の様なものだから大丈夫だろう。
「あー、情報の収集もしないといけないんだが……、これは人族だけで行く必要がありそうだな……めんどくせえ」
さあ、否応なしに戦いに巻き込まれようとしています。
そして、不利な事にダンジョンによる、現代技術を上回る索敵、検索機能が使えません。
いかにチートとはいえど苦戦は必至!! かも?
がんばれスティーブ!! お前は多分ユキよりはましだ。




