第1520堀:妖精さん考える
妖精さん考える
Side:ナールジア
ユキさんに言われて、オレリアちゃんたちを連れてスーパー銭湯に行ったんだけど……。
「……」
なぜか、オレリアちゃんが沈黙してうなだれている。
別に怪我とかはなかったし、綺麗な肌だと思ったんだけど……。
「熱中症とかになってるの? お水飲む? 回復魔術する?」
あまりにも動かないので、私がお洋服を脱がして、体を洗ってあげて、温泉に入れてるんだけど、ここまで反応がないと心配になるわ。
一応呼吸はしているから生きているのはわかるんだけど。
「それかユキさんに連絡かしら?」
おそらくは精神的なものだし、ここは直属の上司であるユキさんに頼むのがいいかもしれないと思ってつぶやくと。
「いえっ! 大丈夫です! 大丈夫ですから、ナールジアさんありがとうございます!」
なんか一気に戻ったわね。
いえ、オレリアちゃんの普段の様子からはかけ離れているからあわてているけど。
「ならいいけど。それで何が起こったの? いえ、あったのかしら? ユーピアさんにショーウさんが迷惑をかけたようには見えなかったけど? というか、そこまで普通だったわよね?」
そう、私がオレリアちゃんたちを迎えに行ったときは普通に二人の対応をしていたと思うんだけど?
脱力状態になったのは私と合流してお風呂に入ってユーピアさん、ショーウさんと別れてからよね?
「あ、いえ、その……」
なぜかその言葉が尻すぼみになっている。
オレリアちゃんにしては珍しいこと。
つまり、状況から考えて原因はユーピアさんとショーウさんじゃなくて、私ってこと?
「えーと、私が何かしちゃった?」
そう聞いてみると、びくっとする。
「うわ。私が本当に原因なんだ。なんかちょっとショックだわ」
「いえ、ナールジア様が悪いわけではありません。その、私が、悪い……わけで」
「オレリアちゃんが悪い? どういうことかしら? ユーピアさんたちとの合流時間もあるんだしなるべく早く解決した方がいいと思うけど?」
私はオレリアちゃんのサポートとして送られたのに、そのオレリアちゃん本人の足を引っ張っちゃ元も子もない物ね。
しかもお客様もいるんだから早い解決が望ましい、私が交代することも含めて。
そう考えていると、覚悟を決めたのか深く深呼吸をして。
「あの、そのユーピア様とショーウ様の助力を得て、スウルスの一件から始まるリテアの評価を調べることになったのです」
「ええ。聞いているわよ。リテアはこの頃トラブルばかりだから小国が不安がってないかを調べるのよね」
私は普段はウィード内部の鍛冶区や商業区の運営手伝いだけど、それでも一応ウィード運営での古参だし、意見を求められることもあるから現在の情勢はもちろん、今動いている作戦についても当然知っている。
なにせ、裏というわけでもないけど、ウィードの兵器開発や魔力研究もやっているから、そっちでも現場に合わせる必要がある。
とはいえ、今日の状況はいささか不思議なのよね。
なぜ私がオレリアちゃんのサポートに送られたかってこと。
私は外交要員ではないから、ユーピアさんやショーウさんの相手をすることは基本的にはない。
まあ、紹介ぐらいはされているし、ウィードの兵器開発、魔力研究の第一人者としての認識は向こうもしているから積極的に話したいって言う姿勢があるのは分かる。
ああ、そこかしら?
「2人から兵器関連の交渉?」
私を混ぜて話すとなるとそっちしかない。
ユキさんからお願いされているし、つまりは多少レクチャーをしろってことか。
とはいえ、ズラブル国内で再現できるレベルのものっていうと……ああ、そういう意味でも話を聞けと。
向こうの技術レベルは聞きかじって、一般に出回っている物は購入して調べてはいるけど、それは最高のモノではない。
向こう、ズラブルでは供与として戦車はもちろん電波を使った即時連絡のやり取りを可能としていて、多少なりとも現代戦の体験をしている。
それで、自分たちで技術習得などはやっているでしょうけど、ウィードほどではないのはわかる。
それをある程度聞いて交渉できそうな技術について話し合うというやつかな。
と思っていると、オレリアちゃんがはっとした顔で再び話始める。
「それは、あるかもしれません。いえ、本題だったのかも。あの、私は今回ズラブルのお二人との協力を得ることができたのですが、その代わり協力の報酬を頼まれまして……」
「それが私だったわけね。ユキさんにぱっと言われてその日のうちにだから慌てたのね? もう、ユキさんはそういう所があるから」
ユキさんは即断即決で動くときは周りが追い付かない時があるのよね。
今回も私はもちろんオレリアちゃんにも詳細を言っていないから、意思疎通ができてなくて困っていたってわけか。
「それで、当初の予定、というよりご本人たちの希望ですが、スーパー銭湯の無料使用券、あるいは割引券を希望していたのです」
「は?」
予想外の言葉に私が思わず口を開けっぱなしにした。
だって、だってよ。
これからリテアが傾くかもしれないことへの調査協力に対する報酬がスーパー銭湯の無料券、あるいは割引券なんて普通ありえない。
そのぐらい私だってわかるわ。
「その交渉をユキ様と私がという話でして、その、ユキ様が先に報酬をと思っていたのですが……。それもなく……」
「ああ、先に私が来てスーパー銭湯に来ちゃったわけね。それで報酬の交渉をしないといけないと思ったのね?」
「はい」
オレリアちゃんはちょっと泣きそうな顔でそう返事をする。
確かに、私やエリスさんに話を通さずスーパー銭湯の無料券や割引券の配布が問題だけど……。
「その程度のことでとやかく言わないわよ?」
「え?」
驚きに固まるオレリアちゃん。
多分、ユーピアさんやショーウさんへの報酬を私やエリスさんからどうやって確保するか悩んでいたんでしょうけど、本当にその程度のことなんだよ。
「基本的にズラブルからの重臣たちはVIP扱いよ。だからその経費は予算に組んでいるの。もちろん、高級店で一年の食べ放題とかを大人数でされると、周りの国から不公平だって言われるからあれだけど、一ヶ月もあれば満足するわよね?」
「あ、いえ、詳しく話は聞いていませんが、ユーピア様、ショーウ様は部下たちにスーパー銭湯を私費で向かわせるのは忍びないと。かといって経費で処理できるかというと、そんなことをしてしまえばズラブルとしては……」
「ああ、確かにほかの人たちもってなるわね~。だから協力の報酬として無料券、あるいは割引券を欲したと。資金的には出せないことはないでしょうけど、うんズラブルとしては本当に末端までみたいな話になるわね。そうなると呼び寄せたり、埋め合わせの配置替え、それを実際にやろうとすると総合的な資金も馬鹿にならないと」
「おそらくは。かといって……」
「私たちがそれだけの分を負担できるかというと、無理だし……」
ここでようやくオレリアちゃんが悩んでいた理由がわかった。
どれだけ許容するできるのか、それを引き出すべきかって話になるのね。
つまり、私やエリスさんがどれだけ……。
「こちらからどれだけ受け入れられるって宣言することにもなるわけよね」
「……はい、その通りです。その、協力を申し出ておいて報酬を満足に支払えなければ……」
「ウィードは失礼極まりないわね。この状況下では避けたいことよね。それに今後のことを考えると出しすぎもよくない」
「はい。これを一例にされてしまう可能性が高いです。口止めはするでしょうが」
「まあ、この手の話は自慢話にもなるでしょうし、ズラブルの出入りも増えるし隠すのはむりよね~。となると周りからは同じ要求が来ると。とはいえ、同じように出せるかというと微妙ね~」
うんうん、改めて考えると本当に厄介よね。
あー、だからか。
そこでようやく私はオレリアちゃんたちを迎えに行かされた意味がわかった。
「なるほど。オレリアちゃんは無理だから、私が直接話せってことか。兵器に関しては私しかわからないし、チケットのバランスに関してもエリスさんよりも私の方がスーパー銭湯に関しての利益率とか詳細は知っているし」
この交渉をお風呂を通じてまずは調整してくれってことね。
「えーと、どういうことでしょうか?」
オレリアちゃんは首を傾げている。
まあ、本人は私はもちろんユーピアさんたちのことを仲介して自分で処理すると思っていたのよね。
「簡単よ。この話の決着を付けられるのは私だってこと。オレリアちゃんは私に彼女たちを引き合わせた時点で交渉事からは解放ってわけ。サポートに徹してもらえばいいわ」
「そう、なのですか?」
「そうよー。なにせスーパー銭湯の無料券に関しても、兵器に関してオレリアちゃんの一存でなにも判断できないでしょう? そしてその影響も知らない」
「はい、その通りです」
「まあ、普通ならオレリアちゃんが仲介してお互いの妥協点をすり合わせて条件をまとめてって話なんでしょうけど、今は早急な事態の把握と行動が大事。とはいえ協力してくれた人への報酬を先延ばしにするのもよくはない。だから……」
「ユキ様はその手間を省くために、ナールジア様はもちろんユーピア様とショーウ様をスーパー銭湯に集めたと?」
「たぶんね。そこは後で聞いておきましょう。今はゆっくりお風呂に入ってユーピアさんたちと美味しいご飯を食べましょう」
「そうですね」
ここまで説明してようやくオレリアちゃんの顔から緊張が消える。
まあ、下手をすると私やエリスさん、そしてユーピアさんたちズラブルの板挟みになるモノね。
そりゃ、心境としてはよろしくないわ。
後でユキさんに無茶は駄目だよって言わないとね。
オレリアちゃんは部下であって、奥さんたちみたいに自由に判断できないんだから。
とはいえ、相談ぐらいはするだろうし、私がフォローするのも予想していたんだろうけど。
「あ、そういえば5時にはフィオラさんと合流するんじゃなかったの?」
「あはは、流石にお風呂にも付き合うことになりましたので、それはなくなりました。連絡もしていますので大丈夫です。ですが、少し問題があるとすると……」
「あるとすると?」
「家族でご飯を食べる機会を無くしたのが少し残念ですね」
「あー、いつもはユキさんたち晩御飯は出来るかぎり合わせるものねー」
家族は仲良くっていうのが方針だし。
何よりあっちのご飯は美味しいからね。
でも、私としてはデザートのアイスが制限されるからちょっと辛いのよね。
ハーゲンダッ○のカップ5つだけって少ないわよね?
少なくとも20は食べるわよね?
そう聞いたオレリアちゃんは苦笑いするだけだったのは不思議だ。
ナールジアさんが出てくるとなると兵器かアイスか温泉となります。




