第1501堀:町はどうでしたか?
町はどうでしたか?
Side:ユキ
無事に何事もなく俺たちはホテルに帰還し、非同盟国たちも交えた晩餐会が会議場で行われた。
この食事会だが、なんとあと3日は行われる。
なんでやねんと思うだろうが、たった1日、しかもせいぜい2、3時間しかない晩餐会だ。
そこで、顔合わせとのちの御目通りの約束はもちろん、これから行う予定の会議のこともあり、時間は全然足りないだろう。
とはいえ、俺は基本的に王配。
「ごきげんよう」
「ええ、セラリア陛下、そしてユキ様も今後とも良しなに」
そういって離れていくどこかの小国王たち。
もう、顔と名前を一致させられねーわ。
しかも相手非同盟国だと思うし、あー大変だなーと思うだろうが、結局のところウィードの顔はセラリアなのでそっちを覚えていれば問題ないわけだ。
「あのね。全部私に任せないでくれるかしら?」
相手が完全に去ってからセラリアが視線を固定したまま俺にそういってくる。
「しゃーない。俺は表向きどうしようもないお飾りだし。セラリアを俺は信じている」
「無理やりが過ぎるわね。とはいえ、露骨に私ばかりだから噂に流されてるってのはわかりやすいわね」
「いいんじゃないか。国益のことを考えるのであれば、時間が少ないなか自分たちの覚えをよくするには俺よりもセラリアだろうさ」
俺よりもセラリアの方にあいさつが多いのは単純なことだ。
効率の問題。
役に立たないやつにあいさつしても、結果に繋がらないなら話す必要はないだろう。
「そうね。でもおかげで私は夫をないがしろにされて不機嫌よ」
「普段、その手の細々した対応は俺がしているんだけどな。妙な噂が広がっているし」
「……そうだったかしら?」
普段はセラリアは大国と同盟国とのやり取りで忙しいのは間違いないが、俺の妙な噂の一人歩きで小国はもちろん大国からダイレクトに色々陳情とかが来ている。
おかげで俺も大忙しだ。
そこらへんセラリアが頑張ってくれればもっと楽だったろうにといえばこれだ。
「ま、夫婦で仲良く頑張っていこう」
「そうね。夫婦は助け合うものだものね」
「都合がいいことで」
「あなたもね」
そんな話をしていると、また一組俺たちの所へと足を運ぶ人が見える。
ああ、雑談はここまでだなと思い改めて近づいてくる人物を見ると……。
「あら、随分印象を変えてきたわね」
「もうちょっと、元を残してもいいんじゃないか?」
セラリアと俺は同意見だったようで、その人物に意見を言うと。
「そんな露骨に身内みたいなことはできないわよ」
そう返事を返す声音は変えていないようで、やはり元の姿から考えると違いが多いので違和感が多い。
「うん、やっぱりドレお姉は小麦色の肌があるのがいい」
「ちょっとこういう場で話していい物なのかは分かりませんが、私としても元のままでいいと思います」
お付きの2人であるヒイロとヴィリアも同じように言っている。
つまり、その人物というのは……。
「あのねー。私が繋がっているってわかれば色々面倒になるでしょう? なんで乗ってこないのよ」
そう、この人物は小麦色の肌をしたドレッサなのだ。
とはいえ、現在は白い肌に金髪。
ドレッサの印象からはかけ離れている。
深窓の令嬢といっていい感じになっているのだ。
「別に問題ってわけでもない」
「はい? 私が小国として色々調べるって話でしょう? そこで私がユキたち、ウィードと繋がっているってわかると得られる情報にも問題があるんじゃないのかしら?」
「ドレッサの言うことは間違いないんだが、結局のところ警戒はされているんだよ。何せロガリからじゃなくてイフ大陸からの小国出身だからな。あとはランサーぐらいだから特別感は否めない」
「そうね。もともとドレッサは町の様子を見たいってことで来たのだし、今後の展開を求めているのかしら? 独立するの?」
「しないわよ。何にもない土地で何をしろっていうのよ。私はユキやあなたたちと一緒にいるの」
「おう、だからここで何かを取り繕う理由はないだろう。シェーラたちとも一緒だったんだし、誤魔化すもくそもないだろう」
「……確かに。じゃあ、私の気合の入れようは……」
「無駄ってわけじゃないが、頑張りすぎのような気はする」
「なんで誰も何もいわないのよー」
ドレッサはようやく自分が空回りしていることに気が付いたらしい。
もちろん、今後の展開、つまりエクス王からもらった小国の主としての身分で色々やるのであれば間違ってはいないが、今の話からドレッサはその気はないようだし、まあ、ドンマイってところだろう。
そんなことを話していると、また別の人がこちらにきて……。
「ドレッサ、別に悪いことではないからですよ。ウィードで人の暮らしを見ていたからこそ、このウェアンの町の人たちを見たいと思ったのでしょう?」
「シェーラ」
「気合を入れているのは、ユキはもちろん私たちや、町の人を守るために気合を入れているんだと思っていたわよ」
「ラビリス」
「だから、何も無駄じゃないよー。お兄ちゃんはちょっと言い方を考えた方がいいよー」
「そうなのです。ドレッサは立派なのです」
「アスリン、フィーリア」
そう、シェーラたちだ。
一応彼女たちもオークションの最中は外で色々警戒をしていたが特に問題はなかったようで、この場での晩餐会ではのんびりしている。
俺やセラリアとは違い、あくまでも俺たちウィードの部下ってことで参加しているから。
あと、アスリンとフィーリアにちょっと怒られた。
うん、まあ俺が悪かったか。
「そうね。ドレッサはしっかり職務を果たしていたわ。ミコスと違ってね」
そんなことを考えていたら次はカグラとミコスがこちらに来ていた。
カグラもミコスの実家、ジャーナ男爵家の領地開発要員の確保ということでこのオークションに参加している。
つまり、ミコスがメインなわけだが……。
「えー、ミコスちゃんもちゃんと働いているってば~。しっかり奴隷さんたちは購入したし、町の情報も集めたんだから」
「何が情報よ。衣服店や宝飾店に入って物色して、無駄遣いしていただけじゃない」
「ちっちっ。そこでしか手に入らない情報っていうのもあるんだよ。ねえ、ユキ先生」
「そうだな。そっち関連の情報は集めてなかった。キルエはどうだ?」
「はい。そちらは手を出しておりません。あくまでも私たちメイドの方は一般人なので」
「ラッツは?」
「まだまだ、ウェアンの町の商人の把握はできていませんねー。今回のオークションで集まってきたのはこの町だけじゃないですし」
「うん。それを考えるとミコスの着眼点はいいところだと思うぞ」
「ほらー。わかったカグラ~?」
「むむっ」
「後で報告書に頼むぞ」
「うえっ」
とまあそんな感じで家族で固まって近況を堂々と話す。
周りでこちらの様子を窺っていた連中は納得したようで、離れていく。
警備とかその関係の話をしているんだから、邪魔はできないよな。
なら、ついでにもう一押ししておくか。
「それで、みんなはこの町を見て回ってどうだった?」
「え? ……そうね。特に問題があるとは思えなかったわ。今すぐ何か起こるような感じはないわね」
「私もドレッサのように感じました。ローエルお姉さまが頑張ったおかげもあるのでしょうが、もともとの町の人たちの気質とでも言いましょうか、あまりその手の荒事には興味がないようです」
「シェーラ様のおっしゃる通り、この町の人たちの脅威といえば魔物と盗賊ぐらいなので、そこまで悪意がある者はありませんでした」
ドレッサ、シェーラ、キルエのチームは特に違和感を感じなかったと。
ダンジョンでの調査でも露骨な悪人というのは存在しなかった。
もちろんちょっとしたコソ泥とか、スラム地区での殺人犯などはいるが、背景が大規模な組織の者でもないから、こっちとしては手を出すレベルに達していなかったのだ。
「私は町を視察したわけじゃないのでパスで~」
ラッツは今回のオークションを通じて非同盟国に物資を流すから、相手のことがわかるのは今後だ。
そうなるとあとは……。
「じゃあ、ミコスちゃんから。町の中の高級店、さっきも言った衣類や宝飾店の方ですけど、特に妙な商売相手がいるような話はなかったですね。基本的に町の裕福層に販売をしているだけって感じです。エワイ王国の王都に卸しているところもあるにはあるんですけど、そこもあまり繋がりは強くないですね。あれです。本当に地方すぎてどこも絡みづらいのではないかと」
ミコスからも総じてこの町は中途半端すぎるという結論を出した。
確かにな~、本当にこのエワイ王国の立地は中途半端なんだ。
今回のみんなからの意見でこのウェアンの町もさらに輪をかけて戦略的価値のない場所だというのもわかった。
闇ギルドが手を伸ばしていないのは、伸ばす価値がないって可能性が出てきた。
今回のオークションについてもそういう意味でも本当に中立と言える場所だから、選ばれたのかもな。
そんなことを考えていると、新しく声をかけられる。
「えーと、ユキさん。ここでそんなに話し込んでいいんですか?」
「お、タイキ君」
声の方向に視線を向けると、そこにはタイキ君たちが立っていた。
横にはアイリ、ソエル、ビッツ、ルースが立っている。
「そんな露骨に話して周りはちょっと引いているわよ?」
「まあ、予定通りだよ。俺たちが仕事をしているってわかってなによりだ。何もしていないと思われるよりはいいだろう?」
「……確かにね。でも、こういうのは秘密裏にやるべきじゃないの?」
「別に闇ギルド関連というよりも、この町でのトラブルはないかってことでもあるからな、皆さんに意見をもらった方がいいだろう」
「……ほんとにあんたってやつは」
「ふふっ、ユキ様の言うことは本当にもっともなお話ですわね」
俺の言い分にビッツはもちろん、ソエルも納得する。
「じゃ、俺も報告した方がいいですか?」
「ああ、そうだな」
「ならついでにワシらも報告するとするか」
「そうですね」
タイキ君がそういった瞬間、ユーピアとショーウがやってきたと思ったら……。
「おうおう、そうだな。この機会だエワイ王国のウェアンの町がどうだったかの感想でも言っていいだろう」
「そうだな。会話のつかみにもなるだろう」
ローデイとガルツが飯を食いながらやってきて、さらに続々と人が集まってくる。
個人個人の挨拶ではなく、輪になってみんなでウェアンの町について意見をいうこととなる。
これはこれで和気あいあいというものだろう。
幸いというべきか、残念というべきか、非同盟国も含めて目立ったトラブルがなかったというのがこの食事会でわかったことだった。
田舎過ぎることが逆に防諜に働くことがある。
とはいえ、田舎ぐるみで動かれると面倒というのはある。
ホラーとかサスペンスではよくある話だよね。




